米投資ファンド最大手のグレイ社長は、第2次産業革命が本格化した1870年ごろに現在をなぞらえ、AIへの過剰投資との見方を否定した。米IT大手5社は2026年4〜6月期、営業キャッシュフローとほぼ同額を設備投資に充てた。
米ブラックストーンのジョナサン・グレイ社長兼最高執行責任者(COO)は、100人を超える大口投資家を前に、AI投資の成果について講演した。同社は9月20日にその動画を公開した。グレイ氏は、AIへの巨額の設備投資が投資家に利益をもたらすのかという疑問に、出資先の実績を示して答えた。主張の柱は2つある。AIが1870年ごろから本格化した第2次産業革命に匹敵する変化であることと、当時の鉄道ブームのような借り入れ頼みの過剰投資とは違うことだ。講演の数字を長期統計と各社の決算資料で検証すると、1870年からの30年間についての数字は株式でほぼ一致し、GDPは講演を下回った。一方、投資の担い手である米IT大手の資金事情は、この半年で変わり始めている。
ブラックストーンのグレイ社長がAIになぞらえた1870年からの30年、米国の実質GDPは3.2倍、株式のトータルリターンは7.25倍だった
ブラックストーンは、不動産や未公開株、融資など、株式や債券以外の資産に投資する代替資産の運用会社として世界最大手だ。運用資産残高は1兆ドルを超え、2026年6月末時点で1兆3,463億ドルと前年同期比11%増えた。4〜6月期には新たに700億ドル近い資金を集めた。スティーブン・シュワルツマン会長兼最高経営責任者(CEO)は決算発表で、AI関連に積極的に投資する判断が、幅広い運用戦略の好成績につながっていると述べた。グレイ氏はシュワルツマン氏の後継の最有力候補とされ、データセンターと電力への投資を主導してきた。講演で示したデータの多くは、同社の投資先や融資先から集めたものだ。
グレイ氏は、現在の状況は1870年ごろに似ていると語った。1870年から1900年までの30年間に、米国の労働生産性は2倍、国内総生産(GDP)は4倍、製造業の実質生産は6倍、株式市場は7倍になったという。動画ではこの部分に「AIは次の産業革命」との題を付けている。
長期統計で確かめると、株式は講演の数字とほぼ一致するが、GDPは講演の4倍を下回る。オランダ・フローニンゲン大学が各国の長期の経済成長を推計する「マディソン・プロジェクト」(2020年版)によると、米国の実質GDPは1870年から1900年までに3.18倍になった。伸びの多くは人口が1.90倍に増えたことによるもので、1人あたりの実質GDPは1.67倍、年率1.7%の成長だった。エール大学のロバート・シラー教授が公表する米国株の長期データでは、1871年1月から1900年12月までに配当を再投資した場合のトータルリターン(配当込みの投資収益)が名目で7.25倍となり、講演の7倍とほぼ一致する。配当を除いた株価指数だけでは名目1.55倍にとどまる。当時は物価が下落していたため、株価指数を実質でみると2.53倍になる。当時は株式投資の収益の多くを配当が占めていた。労働生産性2倍、製造業の実質生産6倍という数字は、裏付けとなる長期統計が得られず確認できなかった。
ブラックストーンの投資先など約1,400社、アンソロピックへの支払いが1年で21倍に
グレイ氏は講演の前半で、AI需要の急増を示す数字を並べた。グーグルのAIが扱うトークン(AIが文章を処理する際の文字や単語の単位)の数は、2025年5月の月480兆から、1年後の2026年5月には月3,200兆に増えた。数年前まで売上高がわずかだったアンソロピックとオープンAIは、売上高が100倍に伸び、7月時点の年換算売上高は2社合計で1,050億ドルに達したという。グレイ氏は、歴史上例のない伸びだと語った。
ブラックストーン自身のデータも示した。同社の投資先や融資先、同社が出資する運用会社の投資先の計約1,400社がアンソロピックに支払う金額は、年換算で2025年9月の2,500万ドルから、直近では21倍の5億2,500万ドルに増えた。1社あたりでは年37万5,000ドルにとどまる。2026年4〜6月期に評価額の上昇幅が大きかった同社の投資案件の上位10件のうち9件はAI関連で、残る1件はインドの病院運営会社だった。
AIを導入した企業の成果として、グレイ氏は投資先の事例を挙げた。携帯電話基地局の鉄塔を貸し出すフェニックス・タワーは、AIの導入に400万ドルを投じ、年450万ドルの効果を上げている。年間の効果は投資額の113%にあたり、1年足らずで投資額を回収できる計算だ。賃貸契約の事務処理は5倍速くなった。エネルギー関連のデータを提供するエンベラスは、ソフトウエアの修正にAIを使い、AI開発会社に支払った利用料の18倍の効果を上げた。賃貸住宅を運営するトライコンは、入居申し込みの処理を90%速めた。グレイ氏は講演の締めくくりに、1984年に米ハンバーガーチェーンのウェンディーズがテレビ広告で使って広まった「ビーフはどこ?」(肝心の中身はどこにあるのか)という言い回しを掲げ、AIへの投資が実際に利益を生むのかという問いを立てた。そのうえで、利益はすでに投資先の数字に表れていると答えた。
データセンターへの投資も急増している。ブラックストーンが結んだデータセンターの賃貸契約は、電力容量で2024年に1ギガワット(GW)、2025年に2GW、2026年は6GW以上になる見込みだ。同社の投資額は約1,000億ドルに上り、入居企業はさらに数千億ドル分の半導体を設置する。同社はGPU(画像処理半導体)や、グーグルが開発したAI向け半導体のTPUの購入資金を融資しているほか、グーグルとの合弁事業も手がける。
米IT大手5社の2025年の設備投資は講演とほぼ一致し、2026年4〜6月期は営業キャッシュフローの99%に達した
講演で示した数字のうち最も金額が大きいのは、米IT大手の設備投資だ。グレイ氏は、大手5社の設備投資が昨年の4,150億ドルから今年は8,200億ドルとほぼ倍増する見通しで、米国のGDPの2.5%に相当すると述べた。グレイ氏は5社の社名を挙げていない。そこでアマゾン、マイクロソフト、アルファベット、メタ、オラクルの5社について、米証券取引委員会(SEC)に提出された決算資料を集計した。2025年の設備投資(有形固定資産の取得による支出)の合計は4,115億〜4,243億ドルで、講演の4,150億ドルとほぼ一致する。幅があるのは、5月期決算のオラクルについて、どの12か月を2025年とみなすかで数字が変わるためだ。各社の決算の内容は、クラウド4社の決算と設備投資の記事で詳しく扱った。米国の名目GDPは2026年4〜6月期に年率換算で32兆4,861億ドルで、8,200億ドルはその2.52%にあたる。
投資の原資が足りているかは、営業キャッシュフロー(本業で稼いだ現金)と比べると分かる。2025年の5社の営業キャッシュフローは6,040億ドルで、設備投資はその70%だった。2026年1〜6月は設備投資3,398億ドルに対して営業キャッシュフローが3,602億ドルで、比率は94%に上がった。4〜6月期だけでみると、設備投資1,935億ドルに対して営業キャッシュフローは1,949億ドルで、比率は99%に達した。講演の8,200億ドルに届くには7〜12月に4,802億ドルを投じる必要があり、4〜6月期の実績を年率換算した7,742億ドルをさらに上回るペースの投資が要る。
グレイ氏は、現在のAI投資を、過剰投資に終わった19世紀後半の鉄道ブームとも比べた。グレイ氏によると、1870年から1900年に米国では鉄道会社200社が経営破綻や債務不履行に陥った。経済学者アルバート・フィッシュロウ氏の推計(全米経済研究所、1966年)では、1909年価格で換算した鉄道への投資額は、1870年代の20億1,040万ドルから1880年代には40億9,460万ドルと2.04倍に増えた。グレイ氏は、当時の鉄道会社は多額の借り入れで需要を先取りして路線を建設したが、現在はエネルギーもデータセンターも需要が供給を大きく上回り、取引相手の大半は財務が健全な企業だと説明した。
ただ、各社の決算資料をみると、財務の健全性には会社ごとに差が出ている。
| 会社 | 設備投資の営業キャッシュフロー比 (2026年1〜6月) | 有利子負債 (2025年12月末) | 有利子負債 (2026年6月末) | 債務償還年数 |
|---|---|---|---|---|
| アマゾン | 138% | 693億ドル | 1,333億ドル (+640億ドル) | 0.83年 |
| オラクル | 119% | 1,346億ドル | 1,253億ドル (−93億ドル) | 2.67年 |
| アルファベット | 95% | 485億ドル | 1,002億ドル (+516億ドル) | 0.54年 |
| メタ | 77% | 587億ドル | 837億ドル (+249億ドル) | 0.64年 |
| マイクロソフト | 65% | 403億ドル | 403億ドル (横ばい) | 0.22年 |
有利子負債は、長期債務(1年以内に返済する分を含む)と短期借入金、コマーシャルペーパーの合計で、全社で定義をそろえた。5月期決算のオラクルは、2か月遅れの時点(2026年2月末と8月末)の数字を載せ、設備投資の比率も2026年3〜8月で計算した。債務償還年数は、有利子負債を直近12か月の営業キャッシュフローで割って求めた。
アマゾン、アルファベット、メタの3社は、2026年1〜6月だけで有利子負債を計1,406億ドル増やした。アマゾンは1〜6月の設備投資が営業キャッシュフローの138%に達し、差額を社債などの借り入れで賄った形だ。それでもアマゾンの債務償還年数は1年未満にとどまる。マイクロソフトは有利子負債を増やしていない。オラクルは設備投資が営業キャッシュフローを上回る一方、3〜8月に有利子負債を93億ドル減らした。ただ、債務償還年数は2.67年と、他の4社(1年未満)を大きく上回る。記者の見立てでは、取引相手の大半は財務が健全な企業だという講演の見方は、オラクルを除く4社になおあてはまる。一方で、設備投資の営業キャッシュフロー比は2025年通年の70%から2026年4〜6月期には99%まで上がった。グレイ氏が鉄道ブームとの違いに挙げた財務の健全性は、会社によって揺らぎ始めている。
米国の労働生産性の伸びは直近2年半で年2.1%と、その前の10年間の年1.6%を上回った
グレイ氏は、AIの効果が経済全体にも表れ始めたとして、米国の労働生産性の伸び率が過去10年の平均で年1.5%だったのに対し、直近の2年半は2.6%に高まったと述べた。AIの活用はまだ事務作業が中心で、ロボットや自動運転に広がれば、計算能力の需要はさらに増えるという。
米労働統計局が公表する非農業部門の労働生産性(1時間あたりの生産量)で確かめると、2023年10〜12月期から2026年4〜6月期までの2年半の伸び率は年2.12%で、その前の10年間の年1.64%を上回った。伸びが高まったという点は講演と一致する。ただ、2.6%という数字は期間の区切り方で変わる。2025年後半までの2年半で計算すると、2023年1〜3月期から2025年7〜9月期では年3.04%、2023年4〜6月期から2025年10〜12月期では年2.79%になる。直近の2年半では2.1%で、2023〜25年の高い伸びは鈍ってきている。
電力と発電設備が制約に、GEベルノバのガスタービンの受注残と予約は2028年の年産能力の4.8年分
グレイ氏は、成長の上限を決めるのは需要ではなく、電力や設備といった物理的な制約だと述べた。発電機器大手GEベルノバのガスタービンは、いま発注しても納入は2030年か2031年になるという。AI向けデータセンターの建設費は、電力設備、建物、半導体を合わせて1GWあたり550億ドルに上ると試算する。グレイ氏によると、米IT大手の設備投資が5年で9倍に増えたのに対し、半導体会社の設備投資は2倍にも満たない。米電力会社の設備投資は過去5年の8,000億ドルから、今後5年でほぼ倍増する見通しだという。
GEベルノバの決算資料で確かめると、ガスタービンの受注残と生産枠の予約契約は、2026年6月末時点で合計116GWに上る。同社は年間の生産能力を2028年に24GWへ引き上げる計画で、116GWはその4.8年分にあたる。いま発注すると納入が2030〜31年になるという講演の説明と合う。ガスタービンの受注残は、三菱重工とGEのガスタービンの受注残の記事で詳しく扱った。
1GWあたり550億ドルという試算を使うと、講演の数字同士の整合性も確かめられる。ブラックストーンが2026年に賃貸契約を結ぶ6GW分の建設費は約3,300億ドルとなり、同社の投資額約1,000億ドルと、入居企業が設置する数千億ドル分の半導体を合わせた金額とおおむね見合う。大手5社の今年の設備投資8,200億ドルは、約15GW分に相当する。
グレイ氏は、同社の投資を半導体、データセンター、電力というAIの計算基盤に集中させていると述べた。最も自信を持って投資できる分野だからだという。そのうえで、最後に問われるのは投資の回収だと強調した。
グレイ氏はAIの勝ち組と負け組を、アマゾンの台頭で淘汰された小売り企業と生き残った企業に重ねた
グレイ氏は、技術革新による淘汰を軽視すべきではないとも語った。約25年前からアマゾンの攻勢にさらされた米小売り大手のうち、Kマート、シアーズ、トイザらスは経営破綻し、ウォルマート、コストコ、TJマックスは生き残った。ソフトウエアでも、顧客や取引のデータを一元管理する基幹システムを手がける会社や、利用者数に応じた課金から成果に応じた課金に切り替えた会社は業績を伸ばすとみる。リスクとしては、サイバー攻撃、地上のデータセンターの価値を下げかねない宇宙データセンター構想、先端半導体の90%が台湾に集中していること、企業価値の過大評価を挙げた。
グレイ氏の主張は、今回は鉄道ブームと違って需要が供給を上回り、投資の担い手の財務も健全だというものだ。講演が示した1870年からの30年間の数字は株式でほぼ一致し、大手5社の2025年の設備投資額も講演の数字と一致した。だが米IT大手は4〜6月期、本業で稼いだ現金のほぼすべてを設備投資に回し、アマゾンなど3社は半年で有利子負債を1,406億ドル増やした。投資の成果が出るまでの間に、有利子負債が営業キャッシュフローを上回るペースで膨らむかどうかが、鉄道ブームとの違いを見極める試金石になる。
投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談は、編集部のお問い合わせ窓口までお寄せください。
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました