ニューヨーク州の送電網を運営する機関の実績で計算すると、米国で足りない電力は約34GW。発電機器大手の米GEベルノバは生産の4.8年分の注文を抱え、変圧器の出荷価格は2019年の約2倍になった。発電所が間に合わない分の負担を誰が負うのかを追う。
米モルガン・スタンレーは、米国のデータセンターに必要な電力が「ニューヨーク市6つ分」足りないとみている。英フィナンシャル・タイムズが伝えた同社の試算で、ニューヨーク市の平均的な電力需要を5.5〜6GW (ギガワット、1GWは100万キロワット) とみたたとえである。ニューヨーク州の送電網を運営するニューヨーク独立系統運用機関が公開する1時間ごとの実績で確かめると、2025年のニューヨーク市の平均の電力需要は5,720メガワットで、6つ分は約34GWになる。不足分を補う発電所の心臓部にあたるガスタービンは、米GEベルノバ1社の受注残と生産枠の予約契約だけで116GWに達し、同社の2028年の年間生産計画の4.8年分にあたる。三菱重工も、2026年3月期のエナジー部門の受注高が前期より50.1%増えた理由を「データセンター等による電力需要の拡大」と有価証券報告書に記した。
米調査会社セージ・ロード・リサーチの筆者は、この試算を引いて、データセンターの電力問題がいかに解決しにくいかを、市場は過小評価し続けていると書く。建設に必要な人手は確保できても、電力まで確保できるとは限らない、というのが筆者の問題意識である。本稿は筆者の主張の順に、足りない電力の大きさ、ガスタービンと変圧器の供給、州の規制、電力価格の4点を一次資料で確かめる。
米国の電力はニューヨーク市6つ分、約34GW足りない
米国の電力需要は長く伸びなかった。米エネルギー情報局によると、2005〜2019年の電力需要の伸びは年0.1%にとどまった。それが2020〜2025年は年約1.7%に上がった。2025年の発電量は4兆4,300億キロワット時 で、前年より2.8%増えて過去最高を更新した。同局は2000年代半ばから2020年代初めまで発電量がほぼ横ばいだったとし、伸びの主因にデータセンターを含む業務部門と、工場を含む産業部門を挙げる。2025年の販売電力量は、家庭用が2.2%増、業務用が2.9%増、産業用が0.7%増だった。
筆者は同局の数字として、2025年の発電量の増加分の55%をデータセンターが占めたと書く。同局の公表資料では、この比率は確認できなかった。筆者は2020年代末まで年2〜3%の伸びが続くとみる。データセンターの電力需要が2025年の31GWから2027年の66GWへ2倍を超えるという予測は、米ゴールドマン・サックスのものである。同社は2027年末の設備容量を約95GW、稼働率を70%と想定し、2027年の1年間に設備が36.3GW増えると見込む。2025年に実際に増えた8.5GWの4倍を超える。
足りない電力の大きさを、同機関の実績で計算し直す。2025年のニューヨーク市の電力需要は、1年間 (8,760時間) の平均が5,720メガワット、最も少ない時間帯が3,679メガワット、最も多い時間帯が10,825メガワットで、年間の使用電力量は5万104ギガワット時だった。同機関は2026年夏のニューヨーク市の最大電力需要を10,847.4メガワットと予測しており、ピークは平均の2倍近い。5.5〜6GWという値は平均の電力需要とよく合う。6つ分は約34.3GWである。
モルガン・スタンレーの試算には、つじつまの合わない数字が1つある。フィナンシャル・タイムズによると、同社は2028年までのデータセンターの電力需要の合計を257GWとし、米国の供給力と需要見通しの差を30〜40%とみる。257GWの30〜40%は77〜103GWで、ニューヨーク市6つ分の34GWと一致しない。逆に34GWが差の30〜40%にあたるとすると、基準となる需要は約86〜114GWになる。記者の見立てでは、257GWは米国以外も含む需要を指しており、米国の不足はニューヨーク市6つ分の数字で捉えるのが妥当である。同社は2026年8月17日の報告でも、2026〜2028年の米国の不足を38GWとしていた (米フォーチュン誌の報道)。
需要の総量をどこまで見込むかは調査機関ごとに幅がある。その比較は世界のデータセンターの電力需要161GWを検証した記事で扱った。本稿が追うのは、34GWの不足を2028年までに解消できない理由である。
ガスタービンはGEベルノバだけで生産4.8年分の受注残、価格195%高は2027年末の見通し
筆者は、事業者が機器の調達先を押さえ、自家発電や蓄電池を整えようとしても、データセンターの巨大な電力需要には追いつかない可能性が高いとみる。1つ目の理由はガスタービンで、筆者は2030年まで完売と報じられ、価格は2019年から195%上がったと書く。
英調査会社ウッドマッケンジーの2026年4月1日の発表が、この数字の出どころである。世界のガスタービンの受注は2025年末に110GWあったが、世界の生産能力は年60〜70GWしかない。受注は生産能力の約1.6〜1.8年分にあたる。納期は6年、受注は2027年分まで埋まっている。米国では2026〜2030年に63GWのガス火力が加わる予定で、発注は2026年に山を迎える。ガスタービンは複合発電所の建設費の20〜30%を占めるとみられ、費用の中で最も大きい。増産を阻むのは高温にさらされる部品、とくに単結晶のタービン翼の製造で、量産できるメーカーは世界に少ないという。
メーカーの開示は、この逼迫を裏づける。GEベルノバの2026年4〜6月期決算によると、ガスタービンの受注残と生産枠の予約契約は3月末の100GWから6月末に116GWへ増え、年末には125GW以上になる見込みである。年間の生産量は2026年7〜9月期に20GW、2028年に24GW、2030年に30GWへ引き上げる。116GWを2028年の年産24GWで割ると4.8年分になる。今から発注しても、2028年までにタービンを受け取れる見込みは小さい。同社の受注残高 (契約済みでまだ売上に計上していない金額) は6月末で1,762億8,400万ドルと前年同期より37%増え、増加の理由に大型ガスタービンと、変圧器・開閉装置の需要を挙げている。
三菱重工の2026年3月期の有価証券報告書では、エナジー部門の受注高が3兆9,367億円と前期より50.1%増え、売上収益の2兆626億円 (13.6%増) の1.91倍に達した。事業利益は2,672億円で30.2%増えた。受注残高は6兆9,832億円 (42.0%増) で、売上収益の3.4年分にあたる。同社は受注増の理由を、データセンターなどによる電力需要の拡大でガスタービン複合発電設備の受注が増えたためと説明し、その生産工程を見直して生産能力を高めるとしている。ガスタービンの主な生産拠点は兵庫県高砂市の高砂製作所である。ウッドマッケンジーによれば、同社は2028年までに生産能力を2倍にする計画で、GEベルノバは1億6,000万ドル超を投じて大型タービンの生産を年約50台から2026年後半に70〜80台へ増やす。
価格の数字には注意が要る。195%高は、新たに発注するガスタービンの価格が2027年末に1キロワット当たり600ドルに達するというウッドマッケンジーの見通しで、すでに起きた値上がりではない。米労働統計局の生産者物価で見ると、タービンとタービン発電機の価格指数は2019年1月の218.9から2026年8月の289.6へ、32.3%の上昇にとどまる。生産者物価は出荷時点の価格で、何年も前に結んだ契約の分を多く含む。今から発電所を建てる事業者が払うのは見通しに近い価格である。2つの数字の差は、受注残が積み上がるほど、値上げが出荷価格に表れるまでに時間がかかることを示している。
変圧器と開閉装置の出荷価格はほぼ2倍、テキサス州は着工前に電源の開示を求める
2つ目の理由は送配電の機器である。筆者は、高圧変圧器の納期が2020年の約1年から2〜4年超に延びたと書く。価格は生産者物価で確かめられる。2019年1月から2026年8月にかけて、電力用変圧器は90.1%、開閉装置と配電盤は97.6%上がった。タービンの3倍前後の上昇率である。国際エネルギー機関も2026年4月16日の発表で、ガスタービンや変圧器の供給がこの1年で逼迫したと指摘した。
| 機器 (米国の生産者物価) | 2019年1月 | 2026年8月 | 上昇率 |
|---|---|---|---|
| タービン・タービン発電機 | 218.9 | 289.6 | 32.3% |
| 電力用変圧器 | 249.9 | 475.1 | 90.1% |
| 開閉装置・配電盤 | 208.2 | 411.5 | 97.6% |
表1 発電と送配電の機器の生産者物価 (米労働統計局、セントルイス連銀のデータベースで2026年9月23日に取得)。指数の基準年は系列ごとに異なる。
変圧器の納期とメーカーの顔ぶれは、データセンターの電力設備の上位25社を分析した記事で詳しく扱った。
機器が足りないところに、州の規制が加わる。筆者は、着工前に十分な電力の確保を求める州が増えているとし、今後も要件は厳しくなり、承認の遅れが増えるとみる。電力の供給源は既存の送電網でも自家発電でもよい。代表例がテキサス州の上院法案6号で、2025年6月20日に署名された。1か所で75メガワットを超える大口需要が送電網に接続する際、10万ドル以上の審査料を払い、需要の50%以上を賄える非常用の自家発電があればその内容を開示するよう求める。2025年12月31日より後に接続する大口需要には、計画停電の際に送電を止められる装置の設置を義務づける。ニューヨーク州のようにデータセンターの新設そのものを止める動きは、ニューヨーク州の新設停止の記事で扱った。
建てられない発電所の分は、計画の遅れか卸電力価格の上昇として表れる
発電所が間に合わないとき、不足は2つの形で表れる。データセンターの計画が遅れるか、電力の価格が上がるかである。後者を試算したのがダラス連銀の研究者の論文 (2026年3月17日) で、米国本土の卸電力市場を1時間ごと、発電所ごとに模擬計算した。既存のデータセンターは、すでに全国平均で卸電力価格を2〜6%押し上げた。影響は地域で大きく異なる。バージニア州北部の集積地を含む地域では1メガワット時当たり5ドル、率にして10%を超える上昇だった。一方、データセンターが2番目に多いテキサス州の送電網では1ドル未満にとどまった。
2028年までの試算では、計画中のデータセンターが予定どおり完成して高い稼働率で動けば卸電力価格は50%、建設が控えめなら20%上がる。論文は、新しい発電所の接続待ちが5年を超えることを前提とする。発電所が増えない中でデータセンターだけが計画どおり増えれば、価格が大きく上がるという構図である。論文はまた、2024年から2025年7〜9月にデータセンターで行われた計算処理の11.7%がテキサス、38.8%がバージニア州北部を含む地域に集まっていたのに対し、発電費用が最も安くなるように配置すればテキサスに約49%を置くべきだったと試算する。電力の余裕がある場所に建てられていないことも、価格を押し上げている。
筆者は、米国民が電気代の上昇をAI向けの建設のせいだと考え、政治に働きかけるほど、データセンター計画の遅れが増えるとみる。価格の上昇が規制を呼び、規制が計画を遅らせるという連鎖である。記者の見立てでは、この連鎖はガスタービンと変圧器の受注残を減らさない。計画が遅れても電力需要は消えずに先送りされるだけで、発電所の発注はその間も続くからである。GEベルノバと三菱重工の受注残が生産能力の数年分に積み上がっているのは、電力会社などの買い手が、不足は2028年以降も続くとみているためである。
筆者は次の報告で「世界的な電力の供給不足」を取り上げる予定で、製造業、運輸、事業所、家庭で電化が進む中、問題はデータセンターにとどまらないとみている。
米国のデータセンター向け電力の不足は、ニューヨーク市6つ分の約34GWである。不足を補うガスタービンは受注残が生産の数年分に積み上がり、変圧器と開閉装置の価格は2019年からほぼ2倍になった。2028年までに建てられない発電所の分は、データセンターの計画の遅れか卸電力価格の上昇として表れる。その一方で、発電機器を作る三菱重工やGEベルノバには、生産の数年分にあたる注文が積み上がっている。
投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談はこちら。
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました