ソフトバンクグループは、スイスの ABB からロボット部門を53億7,500万ドルで買収する手続きを進めている。ABB は2026年後半の完了を見込み、欧州の代表的なロボットメーカーが日本企業の傘下に入ることになる。
欧州のロボット企業をまとめた2026年版の一覧が、SNS 上に英語で公開された。一覧には大手10社、注目の新興企業10社、ロボット産業が集まる5都市が並ぶ。投稿者は、欧州は市場規模で世界最大ではないものの、一部の重要な分野では他の地域では代わりが利きにくい技術を持つとみる。一覧は、並べた順の基準を示していない。各社の開示資料によると、一覧の最初の3件のうちクーカは中国企業、ユニバーサルロボットは米国企業の傘下にある。ABB のロボット事業も、売却が完了すれば日本企業の傘下に入る。ロボットの関節を動かす精密減速機では、ナブテスコが独クーカ (KUKA) と ABB を主要顧客に挙げている。
ABB、ロボット事業の上場計画を撤回しソフトバンクGに売却
ABB は2025年10月8日、ロボット事業をソフトバンクグループに売却すると発表した。同時に、分離・上場する計画を取りやめた。ABB は同事業を新設の持ち株会社に移し、ソフトバンクグループが子会社を通じてその全株式を取得する。取得価額は53億7,500万ドル (1ドル=152.31円換算で約8,187億円) で、完了日の運転資本や純有利子負債などに応じて調整する。機械の自動化を担う B&R の事業は売却の対象外で、ABB に残る。ABB は完了時に、税引き前で約24億ドルの売却益を見込む。
ABB のロボット事業の売上高は2025年に23億3,100万ドル、営業利益は2億9,400万ドルだった (非継続事業に区分した数値)。取得価額は売上高の約2.3倍に当たる。従業員は約7,000人。持ち株会社はチューリッヒに置く。ABB の2022年の発表では、主な工場はスウェーデン、中国・上海、米ミシガン州にある。
9月28日時点で、両社は買収の完了を発表していない。欧州委員会は2026年3月11日に承認した。ABB は7月に発表した4〜6月期決算でも、完了は2026年後半との見込みを保った。売却で得る手取りの約48億ドルは、英産業用機器メーカーのロトルクの買収に充てる方針だ。ソフトバンクグループは8月の決算説明会の資料で、ABB のロボット事業を「2026年に取得予定」とした。同月、買収資金の一部として、親会社に返済義務が及ばない融資17億5,000万ドル相当を確保した。中国と米国の当局の承認状況は、両社の開示資料では確認できなかった。
孫正義会長兼社長は買収の発表に寄せたコメントで、「ソフトバンクグループの次のフロンティアは『フィジカルAI』です」と述べた。フィジカルAIは、ロボットなどに組み込んだAIが、現実の空間で自ら判断して動く技術を指す。
一覧の大手10社の資本関係は次の通り。クーカとユニバーサルロボットはすでに欧州域外の企業の傘下にあり、ABB のロボット事業も売却が完了すれば日本企業の傘下に入る。
| 掲載順 | 会社 | 本社 | 資本関係・上場 | 主な事業 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | ABB ロボティクス | スイス | ソフトバンクGが買収手続き中 | 産業用ロボット、協働ロボット、自律走行搬送ロボット |
| 2 | クーカ | ドイツ | 中国・美的集団の完全子会社 (2016年に傘下入り) | 産業用ロボット、物流自動化システム |
| 3 | ユニバーサルロボット、モバイル・インダストリアル・ロボッツ | デンマーク | 米テラダイン | 協働ロボット、自律走行搬送ロボット |
| 4 | コマウ | イタリア | 米投資ファンドのワン・エクイティ・パートナーズ50.1%、ステランティス49.9% | 産業用ロボット、電池などの生産設備 |
| 5 | ストーブリ | スイス | 非上場 | 精密作業やクリーンルーム向けのロボット |
| 6 | シーメンス | ドイツ | フランクフルト上場 | 工場の自動化、産業用AI、モーター制御 |
| 7 | ボッシュ・レックスロス | ドイツ | 独ボッシュの子会社 | 駆動装置、制御機器 |
| 8 | シェフラー | ドイツ | フランクフルト上場 | 関節の駆動装置、軸受け、人型ロボットの部品 |
| 9 | オートストア | ノルウェー | オスロ上場 (2021年にソフトバンクGが約40%を取得) | 立体格納型の自動倉庫システム |
| 10 | ジック | ドイツ | 非上場 (創業家が95%超を保有) | センサー、画像認識、安全装置 |
ユニバーサルロボットは2015年に米テラダインが買収した。2024年からは、同じくテラダイン傘下のモバイル・インダストリアル・ロボッツとデンマーク・オーデンセに共同本社を構える。
EU の産業用ロボットの新規設置は11%減の6万500台、中国が世界の6割
投稿者は世界の競争を次のようにみる。中国は量産体制を素早く広げる力で、米国は豊富な資金と計算資源、最先端のAIモデルで先行する。欧州の強みは、ロボットを使う製造業が多く、自動化の技術と経験を積み、部品メーカーの層が厚いことだという。国際ロボット連盟 (IFR) が9月24日に公表した世界ロボット統計2026年版 (2025年の実績) では、規模の差が鮮明だ。
世界の産業用ロボットの新規設置台数は60万台を超え、前年比11%増えた。中国は35万4,000台で20%増え、世界の59%を占めた。中国市場での中国メーカーのシェアは55%と、前年の57%から下がった。米国は約3万8,500台で12%増え、日本を抜いて国別で2位になった。日本は3万6,219台で19%減り、3位に後退した。
EU 27か国の新規設置台数は6万500台で、11%減った。中国の約6分の1にとどまる。最大のドイツは2万4,800台で、EU 全体の41%を占める。製造業の従業員1万人当たりの稼働台数を示すロボット密度 (2024年) は、ドイツが449台で世界3位、日本が446台で4位だった。IFR によると、EU 市場では日本や韓国のメーカーがすでに地歩を固め、中国メーカーも欧州に販売拠点を設け始めた。
ロボット関節用の減速機、ナブテスコは中大型で世界シェア約6割
投稿者は、ロボット本体を支える部品や関連技術にも注目する。挙げるのはモーターなどの駆動装置、減速機、センサー、画像認識、安全装置、ロボットハンドだ。産業用AI、ソフトウエア、ロボットを生産ラインに組み込む仕事も入る。減速機は、モーターの回転を減速して回転力を高め、ロボットの関節を正確に動かす部品だ。
ナブテスコの推計では、中大型の産業用ロボットの関節に使う精密減速機で、同社の世界シェアは約6割 (約60%、基準年の記載はない) に上る。主要顧客としてファナック、安川電機、川崎重工業のほか、クーカと ABB のロボット事業を挙げる。精密減速機の売上高は2025年12月期に786億円だった。同社は7月、2026年12月期の精密減速機の売上高計画を882億円から946億円に引き上げた。ただ、欧州では需要の低迷が続くとみている。伸びているのは中国で、新興の電気自動車メーカーの設備投資が堅調だという。同社は小型の減速機も協働ロボットと人型ロボット向けに投入し、2026年7〜12月期に納入を始める計画だ。
ハーモニック・ドライブ・システムズは、独リンブルクの減速機メーカーを2017年に子会社化し、2021年に完全子会社とした。欧州事業の売上高は2026年3月期に167億7,600万円で、連結売上高の約28%に当たる。丸山顕社長は5月の決算説明会で、中国などの減速機メーカーとの競争について問われた。日欧のメーカーが主力とする、信頼性の高いロボットに使う高価格帯の減速機について、「牙城はほとんど崩れておりません」と答えた。
欧州の部品メーカーも人型ロボットに力を入れる。一覧の大手に名を連ねるシェフラーは、人型ロボットの関節を動かす駆動装置を開発し、2026年1月に米ラスベガスで開かれた世界最大級の技術見本市で初めて公開した。同月、英新興企業のヒューマノイド社 (Humanoid) と提携した。減速機は波動歯車式、遊星歯車式、サイクロイド式の3方式を持ち、主要部品を自社で開発・生産する方針だ。2030年に人型ロボット向け部品の市場で10%超のシェアを目指す。
人型ロボットなど新興10社、ソフトバンクGや川崎重工業も出資・提携
一覧は新興10社を、人型ロボット (ヒューマノイド)、ロボット向けのAI、自律走行・自律制御の技術、物をつかむ動作のAIの分野から挙げる。IFR によると、身長140センチを超える人型ロボットは2025年に世界で7,000台近く売れ、メーカー174社の半数超が中国の企業だった。
独メッツィンゲンに本社を置くニューラ・ロボティクス (NEURA Robotics) は、2026年6月に最大14億ドルの資金調達を発表した。ヒューマノイド社は7月に1億5,200万ドルを集め、調達後の企業価値は13億5,000万ドルとなった。物をつかむ動作を制御するAIの独セリアクト (Sereact、本社シュツットガルト) は、4月に1億1,000万ドルを集めた。
日本企業も出資や提携で関わる。ソフトバンク・ビジョン・ファンド2は2021年、独アジャイル・ロボッツ (Agile Robots、本社ミュンヘン) の資金調達を主導した。川崎重工業は2023年から、ニューラ・ロボティクスがドイツで開発・製造する協働ロボットを販売している。オムロンは2024年にニューラ・ロボティクスと提携した。スイスのチューリッヒには、点検ロボットを手がけるエニーボティクス (ANYbotics) がある。同社が2024年12月に実施した資金調達には、TDK の投資子会社の TDK ベンチャーズも出資した。
ポーランドのノマジック (Nomagic) は倉庫で商品を取り出すAIを手がけ、累計調達額は8,400万ドルを超えた。仏ワンダークラフト (Wandercraft) は装着型ロボット (外骨格) と人型ロボットを開発し、2025年6月に7,500万ドルを集めた。この調達には仏ルノーも出資した。ミュンヘンで2025年に創業したマイクロAGI (microagi) は、ロボットのAIに学ばせるデータを手がける。スペインのパル・ロボティクス (PAL Robotics) は、人型ロボットや案内などに使うロボットをつくる。人型ロボットを開発するワンエックス (1X) はノルウェーで創業したが、2025年7月に本拠を米カリフォルニア州パロアルトへ移した。
ミュンヘンなど5都市の集積地、投稿者は顧客や部品会社との組み合わせを重視
投稿者は、ミュンヘン、シュツットガルト、チューリッヒ、オーデンセ、パリの5都市を集積地に挙げる。ロボット技術を提供する企業、研究機関、部品メーカー、ロボットを使う製造業が集まるという。ミュンヘンにはミュンヘン工科大学のロボット研究所がある。シュツットガルトには独フラウンホーファー研究機構の生産技術・自動化研究所が拠点を置き、チューリッヒにはチューリッヒ工科大学がある。オーデンセにはユニバーサルロボットが本社を置き、市の企業誘致機関によると、ロボット関連企業は160社を超える。パリには、ソルボンヌ大学や仏国立科学研究センターなどが運営するロボット研究所がある。
投稿者は、欧州市場に参入する企業にとって、研究段階の技術や自国で実績のある製品を欧州の工場でどう実用化するかが課題になっていると指摘する。技術だけでは足りず、製造業の顧客、ロボットを生産ラインに組み込む専門業者、部品メーカー、試験導入に応じる工場、現地企業との提携が必要だという。これらをどう組み合わせるかが、欧州でのロボット事業の成否を今後数年にわたって左右するとみる。
ABB、クーカ、ソフトバンクグループの概要は、ABB の企業ページ、クーカの企業ページ、ソフトバンクグループの企業ページと銘柄ページにまとめている。減速機の仕組みはロボット技術の体系解説 (減速機の章)で解説している。ナブテスコとハーモニック・ドライブ・システムズについては、ナブテスコの銘柄ページとハーモニック・ドライブの銘柄ページに載せている。
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