稼働中の施設を持たないSBエナジーの受注残高4,390億ドルは、8割の売上計上が9年目以降だ。それまでの6年間に設備投資1,780億ドルがかさむ。上場延期の背景には、この時期のずれをめぐる会社と投資家の見方の違いがある。
ソフトバンクグループが出資する米国のSBエナジーは、新規株式公開 (IPO) の時期を9月から少なくとも10月中旬〜下旬に延期した。ニューヨーク・タイムズによると、目標とした500億ドル超の評価額では十分な買い手が集まらなかった。投資家が最も懸念したのは計画の実現性で、同社はまだデータセンターを1つも稼働させていない。それでも2028年から約20年にわたる4,390億ドルの受注残高を示しており、その多くはオープンAIに貸し出し、エヌビディアが支援するオハイオ州の巨大データセンターの契約に基づく。
本稿は、同社が米証券取引委員会 (SEC) に提出した上場申請書類を2026年9月22日に入手し、受注残高がいつ売上に計上され、設備投資がいつ支出されるのかを検証した。申請書類は9月1日に公表され、延期が報じられた9月21日に2回目の修正版が提出された。
SBエナジーの上場延期は評価額500億ドル超に買い手が集まらなかったためで、会社が算定した株式価値は6月末で445億ドルだった
SECへの提出書類によると、SBエナジーは2026年5月22日に非公開で上場を申請し、9月1日に申請書類を公表した。9月4日に1回目、9月21日に2回目の修正版を提出している。2回目の修正版でも、公開価格の仮条件と募集株数の欄は空欄のままだ。上場先はナスダックとナスダック・テキサスを予定する。上場後もソフトバンクグループが議決権の過半を握り、企業統治に関する上場規則の一部が免除される「支配株主がいる会社」となる。
主幹事はJPモルガン、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーで、引受団にはみずほ、野村、三菱UFJ、SMBC日興、大和の各グループの証券会社も名を連ねる。エヌビディアは上場と同時に、議決権のない株式を公開価格で15億ドル分引き受ける。さらに公開価格の9割で株式を受け取る先渡し契約に基づき、15億ドルを前払いした。出資額は合わせて30億ドルになる。
評価額の手がかりは、申請書類の財務諸表の注記にある。SBエナジーは、オープンAIに付与した新株予約権と役員・社員向けの株式報酬の価値を計算するため、親会社の株式価値を算定している。その額は2026年1月9日時点で297億6,894万ドル、6月30日時点で445億ドルと、半年で1.495倍になった。報道された500億ドルは、会社が6月末に算定した445億ドルを12.4%上回る水準にとどまる。
オープンAIとの契約は、さらに高い評価額を前提としている。新株予約権は、あらかじめ決めた価格で株式を取得できる権利を指す。オープンAIが持つ新株予約権399万1,809個のうち184万5,000個は、株式価値が800億、1,000億、1,250億、1,500億、2,000億ドルに達するごとに段階的に行使できるようになる。報道された500億ドルは、最も低い条件の800億ドルにも届かない。新株予約権の公正価値は1月9日時点の36億4,600万ドルから6月30日時点の55億ドルに膨らみ、1〜6月期に25億7,310万ドルの評価損が生じた。この評価損が響き、同期の最終損益は32億890万ドルの赤字だった。
データセンターは1棟も稼働しておらず、受注残高4,390億ドルの81.3%は9年目以降に売上として計上される
申請書類によると、同社が計画するデータセンターの規模は、IT機器向けの電力容量で計8.8ギガワットになる。このうち着工済みはテキサス州のコスモスとミラム郡の計0.8ギガワットで、残る8.0ギガワットはオハイオ州の拠点にあたり、契約を結んだものの未着工だ。稼働中のデータセンターは1つもない。1〜6月期の売上高は1億3,870万ドルで、うち電力の販売契約などに基づく売上は5,870万ドルだった。残りは電力価格の変動に備えるデリバティブ (金融派生商品) の評価益で、売上の大半は太陽光発電と蓄電池の事業が占める。データセンター事業の売上は、ソフトバンク系が借りるコスモス (約50メガワット) で2026年10〜12月期に初めて計上する見込みだ。15年間の賃料総額は約25億ドルとなる。
受注残高は、締結済みの契約に基づいて今後計上する売上の見込みを指す。4,390億ドルの内訳はデータセンター事業が約4,300億ドル、発電事業が約100億ドルで、残存契約期間は加重平均でデータセンターが19.6年、発電が16.6年だ。申請書類は、受注残高を売上に計上する時期を、目論見書の日付からの月数で区切って示している。
| 時期 | 売上計上額 | 関連する設備投資 |
|---|---|---|
| 24か月以内 | 10億ドル | 480億ドル |
| 25〜48か月 | 120億ドル | 690億ドル |
| 49〜72か月 | 300億ドル | 610億ドル |
| 73〜96か月 | 390億ドル | 開示なし |
| 97か月以降 | 3,570億ドル | 開示なし |
8年 (96か月) 以内に売上となるのは820億ドルで、受注残高の18.7%にすぎない。残る81.3%は9年目以降の売上だ。一方、関連する設備投資は計1,780億ドル (データセンター事業が約1,740億ドル、発電事業が約40億ドル) で、6年以内に全額を支出する計画となっている。最初の6年間で比べると、売上となる受注残高430億ドルに対し、設備投資は1,780億ドルと4.14倍にのぼる。6月末の現預金は11億9,914万ドル、借入金は46億140万ドルで、24か月以内の設備投資480億ドルは現預金の40.0倍にあたる。
受注残高、設備投資、保証の上限額、8.8ギガワットといった主要な数字は、9月1日の当初版と9月21日の2回目の修正版で変わっていない。延期は事業計画を見直したためではない。記者の見立てでは、同じ計画に対して投資家が示した評価が、会社の期待する水準に届かなかった。
受注残高の大半はオハイオ州の拠点に集中し、借り手はオープンAI、エヌビディアの保証は1,050億ドルが上限となる
オハイオ州の拠点は、同州パイク郡にある米エネルギー省の旧ポーツマス用地 (かつてのウラン濃縮施設) に、17棟、計8.0ギガワットのデータセンターを建てる計画だ。2026年8月17日、SBエナジーの子会社17社がオープンAI系の会社と1棟ずつ賃貸借契約を結んだ。契約期間は各20年で、借り手は5年の延長を4回まで選べる。賃料は2028年初めから2032年にかけて、建物ごとに引き渡しの条件を満たした順に発生する。申請書類は、データセンター事業の受注残高の大半がこの拠点の契約から生じると記している。
借り手のオープンAIは投資適格の格付けを取得していない。このためエヌビディアが残価保証を提供した。借り手が経営破綻した場合や賃料の不払いが解消されない場合に、あらかじめ定めた最低価値との差額を補う仕組みだ。ただし保証の対象は最初の4.25ギガワット分に限られ、上限額は1,050億ドルとなる。8.0ギガワットのうち保証が付くのは53.1%で、残る3.78ギガワットに保証を付けるかどうかはエヌビディアの判断に委ねられている。保証額は20年間で段階的に減り、オープンAIが一定の格付けを取得すれば保証は失効する。
建設費も巨額だ。申請書類によると、この拠点の設備投資は1棟あたり80億〜90億ドルで、最大9割を借入金で賄う。17棟分では1,360億〜1,530億ドルとなり、借入金は1,224億〜1,377億ドルに達する (推定)。ニューヨーク・タイムズによると、SBエナジーは先週開いた投資家向け説明会に、オープンAIのサラ・フライヤー最高財務責任者とインフラ部門の責任者であるサチン・カッティ氏を招き、懸念の払拭に努めた。受注残高の大半を占める顧客の財務責任者が、上場を目指す会社の説明会に同席したことになる。
オハイオ州の拠点の電源9.2ギガワットは日本の対米投資333億ドルで建設する計画で、日本企業12社が参加する
データセンターを動かす電源は、日本の資金に頼る。オハイオ州の拠点の隣には、出力9.2ギガワットのガス火力発電所が計画されている。申請書類によると、開発するのはSBエナジーの子会社ではないソフトバンクの関連会社で、資金は日米両政府が打ち出した投資の枠組みから出る。米商務省と、国際協力銀行 (JBIC) が設立した法人が共同出資する投資会社から資金を受ける見込みだ。米エネルギー省は2026年3月の資料で、日米関税合意に基づく対米投資の一部として、このガス火力に日本から333億ドルが投じられると説明している。
申請書類は、この資金がSBエナジーに入るものではないことも明記している。同社も子会社も、発電所の資金や建設について政府と拘束力のある合意も、拘束力のない合意も結んでいない。発電所の許認可もまだ下りていない。発電所の完成が遅れても送電網に接続すればデータセンターは稼働できるとしつつ、新たな電力需要の大きさを考えると別の電源の確保が必要になるとリスク要因に記載している。
送電網の増強費は、資料によって金額が異なる。エネルギー省の3月の資料は、SBエナジーと米電力大手アメリカン・エレクトリック・パワー (AEP) の地元子会社が、42億ドルを投じて送電設備を建設すると説明した。9月の申請書類では、この子会社が約51億ドルを投じ、その費用を適正な利益とともに送電料金としてSBエナジーから回収し、SBエナジーはオープンAIとの契約を通じて運営費として転嫁するとしている。本稿では、新しい申請書類の数字を採用した。
ソフトバンクグループは2026年3月21日、この発電とAIインフラの事業に参加する「ポーツマス・コンソーシアム」を発足させ、自社が事務局を務めると発表した。日本からは、フジクラ、日立製作所、三菱電機、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、村田製作所、パナソニックホールディングス、ソフトバンクグループ、住友電気工業、三井住友銀行、TDK、東芝の12社が名を連ねる。各社の役割や出資額は明らかにしていない。資金や機器でこの計画に関わる日本企業にとっても、上場の行方は計画の進み具合を占う材料となる。
データセンター関連の上場は、ホルテックとアグレコも足踏みしている
ニューヨーク・タイムズによると、データセンター関連の新規株式公開への投資家の意欲は冷え込んでおり、原子力のホルテックは上場手続きを一時停止し、発電機レンタル大手のアグレコも手続きを遅らせている。SECへの提出書類では、ホルテック・ニュークリアは7月10日に上場を申請し、9月8日に修正版を提出した。申請の取り下げは届け出ていない。目論見書は、データセンターの電力需要の拡大を成長の根拠に挙げている。アグレコは8月24日に上場を申請し、9月17日に修正版を提出したが、仮条件は空欄のままだ。両社とも申請は取り下げていないが、公開価格を決める段階には進んでいない。
SBエナジーの申請書類は、データセンターの新設を禁止したり一時停止したりする州や地域の動きもリスク要因に挙げている。ニューヨーク州の動きはデータセンター新設の一時停止と住宅投資を抜いたAI向け投資で、ソフトバンクグループのオープンAIへの傾斜はソフトバンクグループの米国株の保有とオープンAIへの出資で分析した。
SBエナジーの受注残高4,390億ドルは、契約上は法的な拘束力を持つ。ただし8割は9年目以降の売上で、それまでの6年間に1,780億ドルの設備投資が先行する。最大の拠点は、投資適格の格付けを持たない借り手、対象が半分にとどまる保証、日本の政策金融を待つ発電所という3つの前提の上に成り立っている。報道された500億ドルは、会社の算定額を1割あまり上回るだけの水準だった。それでも買い手が集まらなかったのは、投資家が売上と投資の時期のずれと、連鎖するリスクを評価しきれなかったためだ。
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