再生可能エネルギーの発電所を建てる地方企業に地銀が貸せる額は、本業に既に貸している額と合算して決まる。大口融資規制が1つのグループへの融資を自己資本の25%までに抑えるためだ。金融庁はこの数え方に例外を設ける。
地方企業が人工知能 (AI) 向けのデータセンターや再生可能エネルギーの開発に参入しやすくなる。金融庁は年内にも、地方銀行などを対象に大口融資の規制を緩和すると報じられた。緩めるのは上限の率ではない。1つの企業グループへの融資を自己資本の25%までに抑える枠そのものは残し、発電所やデータセンターを持たせるために作った特別目的会社への融資を、事業主の会社と切り離して承認できるようにする。地方の案件で地銀の足を止めてきたのは、案件の大きさより「本業の借入れと同じ枠で数える」ことだった。
大口融資規制は1つの企業グループへの融資を自己資本の25%までに抑え、事業会社が作った特別目的会社への融資も合算する
大口融資規制の根拠は銀行法第13条にある。2026年9月21日に e-Gov 法令検索で確かめた条文は、銀行が同一人に貸せる額を、自己資本の額に政令で定める率を掛けた「信用供与等限度額」までに制限する。率は銀行法施行令第4条第8項が定め、一般の借り手 (同一人) は100分の25、銀行の主要株主は100分の15である。貸出だけでなく債務の保証や出資も数に入る。1社に貸し込みすぎると、その会社が倒れたときに銀行も共倒れになるからだ。
この規制で地方の案件を左右するのは、率よりも「誰を同一人として合算するか」である。施行令第4条は、借り手が支配している会社 (合算子法人等) に加え、出資、役員の派遣、融資、債務の保証、技術の提供、取引を通じて方針の決定に重要な影響を与えられる会社 (合算関連法人等) まで、1つのグループとして数えると定める。
発電所やデータセンターの資金を集めるときは、事業主となる会社 (スポンサー) が、その設備だけを持つ特別目的会社を作るのが通例である。特別目的会社はスポンサーが出資し、運営も担うため、施行令の定義に当てはめると多くの場合スポンサーと同じグループに入る。本稿の図は、自己資本1,000億円の銀行を例にした。上限はその25%の250億円になる。スポンサーに本業で150億円を貸していれば、特別目的会社に200億円を貸す余地はない。合算すると350億円になり、上限を超えるからだ。
上限を超えてよい道は、今もないわけではない。銀行法第13条第1項ただし書は、合併や事業の譲り受けのほか、政令で定める「やむを得ない理由」があって内閣総理大臣の承認を受けた場合を例外とする。施行令と施行規則が挙げる理由は次のとおりで、発電所やデータセンターの新設はどれにも正面からは当てはまらない。
| 限度額を超えてよい理由 | 根拠 |
|---|---|
| 予見しがたい緊急の資金が要り、貸さないと事業の継続に著しい支障が出る | 施行令 第4条第9項第1号 |
| 一般送配電事業の安定的な遂行に困難が生じる | 施行令 第4条第9項第2号・施行規則 第14条の3第1項 |
| 借り手の側に合算の相手が新たに加わって上限を超える | 施行令 第4条第9項第3号 |
| 預金保険法の合併等、資本金の減少による一時的な自己資本の減少 | 施行規則 第14条の3第2項第1号・第2号 |
| その他金融庁長官が適当と認めるやむを得ない理由 | 施行規則 第14条の3第2項第3号 |
電力の分野で例外になっているのは送配電網を運ぶ一般送配電事業だけで、発電事業は入っていない。再エネの発電所を地方企業が建てても、この表のままでは地銀は25%の枠の中で貸すしかない。
地銀協は2025年10月、再エネのプロジェクトファイナンスがスポンサーとの合算で組めないと訴えていた
規制の壁を具体的に示したのは地銀の側だった。金融審議会の「地域金融力の強化に関するワーキング・グループ」で、全国地方銀行協会の会長行の横浜銀行が2025年10月2日に説明した資料は、大規模な再生可能エネルギー等へのプロジェクトファイナンスについて、大口信用供与規制によって対応が難しいケースがあると書いた。プロジェクトファイナンスとは、返済の原資を事業が生む収入 (発電所なら売電収入) に限る融資の組み方をいう。
資料が挙げた理由は数え方そのものである。プロジェクトファイナンスで使う特別目的会社への与信を、スポンサーとなる取引先への与信と合算して管理しなければならず、十分な与信を行えない場面がある。求めた緩和は、倒産隔離された特別目的会社向けの与信を、スポンサー企業への与信と合算せずに管理できるようにすることだった。倒産隔離とは、スポンサーが倒れても特別目的会社とその資産が巻き込まれないように、出資や契約の形を整えることを指す。
地銀が再エネ向けの融資に消極的だったわけではない。同じ資料によれば、調査に答えた銀行62行のほぼすべてがグリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローン等の融資商品を設け、一部の会員銀行は発電事業を営む子会社まで持つ。そのうえで資料は、民間金融機関だけで支えようとすると採算が問題になり、十分な支援に踏み切れない場合もあると認め、国と民間のリスク分担を進めることも求めた。地銀の訴えは「貸したいのに枠がない」ことと「貸せても採算が合わない場合がある」ことの2点で、今回の緩和が答えるのは前者である。
7月の成長投資金融戦略は、ノンリコースの特別目的会社向け融資を大口融資規制の特例承認の対象と明確にした
政府が7月に公表した金融の国家戦略は、正式な名を「成長投資を促進するための金融戦略 - 資産運用立国のアップグレード -」という。内閣官房の日本成長戦略本部事務局が2026年7月21日付でまとめ、目標の筆頭に2040年度250兆円の国内投資を置く。その原資を生むには金融機関からの資金供給を増やす必要がある、というのが戦略の組み立てで、規制緩和はその手段として位置づけられている。
戦略は、AIデータセンターの建設など大型プロジェクトに係る資金調達ニーズが高まっていると書き、大口信用供与等規制を「同一グループへの融資等を自己資本の25%以下に制限する規制」と注記したうえで、2種類の融資を限度額超過の特例承認の対象とすることを明確化するとした。
1つ目は企業の大型M&A資金の融資で、限度額の超過が短期に解消されることが確実に見込まれる場合に限る。大型案件では銀行がつなぎ融資で買収資金を一時的に出し、その後に社債やシンジケートローン (複数の銀行が同じ条件で分担する融資) へ切り替える実務が一般的だ、と戦略は説明する。2つ目が大型プロジェクトのために設立する特別目的会社向けの融資で、ノンリコースローンであり、親会社と倒産隔離され信用連鎖性がない場合に限る。ノンリコースとは、返済が滞っても貸し手が特別目的会社の資産と収入より先へ、つまりスポンサーの財産へは遡れない約束をいう。信用連鎖性がないとは、スポンサーの経営が傾いても案件の返済には響かず、その逆もない状態を指す。
条件の付け方に、規制の考え方がそのまま出ている。大口融資規制が合算するのは、同じグループの会社が一緒に倒れうるからだった。親会社と倒産隔離され、返済が案件の収入だけに頼るのなら、スポンサーの信用と案件の信用は別物として審査できる。本稿の図の例に当てはめれば、特別目的会社への200億円は承認を得て上限の外で扱われ、スポンサーの本業の枠は100億円残る。地銀協が求めた「合算せずに管理する」ことを、合算の定義を変えずに、承認という入口で実現する設計である。
承認の手続きも施行規則に定めがある。第14条の3第3項は、承認を受けようとする銀行が、理由書と借り手の資金計画を記載した書面などを添えて金融庁長官等に申請すると定める。記者の見立てでは、新しい2類型は同条第2項第3号の「その他金融庁長官が適当と認めるやむを得ない理由」の中身として、監督上の指針などで具体的に示す形になる。法律や政令を改めずに済み、戦略が「明確化」という言葉を選んだこととも合う。
時期については、戦略は施策の具体化について、特段の記載があるものを除き2026年度末までを目途に結論を得るとしている。報道は、地方銀行などを対象とする大口融資規制の緩和を年内にも行うと伝えた。地方の側では、同じグループ内の兄弟銀行の間の融資についても、金融庁が2025年12月19日の地域金融力強化プランで、大口融資規制の特例承認に関する監督指針の見直しを検討すると書いている。地域の人口減少や金利上昇を背景に、兄弟銀行の間で資金を融通する必要が高まっているためで、地銀協も同じ資料で兄弟会社への資金融通を規制の対象外にするよう求めていた。プランの全体像は 地域金融力強化プランの分解 にまとめた。
地銀61行の大口融資規制の枠は中央値で650億円、洋上風力1件の建設費を1行で賄えるのは7行
緩和がどこまで効くかは、地銀1行あたりの枠の大きさで決まる。限度額の基になる自己資本の額は、施行規則第14条の2第3項により、自己資本比率規制の基準で算出した自己資本に金融庁長官が定める調整を加えた額で、各行が個別に開示する数字をそろえないと正確には出せない。そこで本稿は、全国地方銀行協会が2026年6月17日に公表した「地方銀行2025年度決算の概要」の各行別データから、会員61行の2026年3月末の純資産 (単体) を使い、その25%を枠の目安とした。純資産には保有する有価証券の評価差額などが含まれ、規制上の自己資本の計算では扱いが異なるため、以下は推定である。
61行の純資産を1行ずつ足すと21兆6,606億円になり、協会の表の合計欄と一致した。純資産の中央値は2,598億円で、最も小さい行は290億円、最も大きい行は1兆1,551億円である。25%の目安は中央値で650億円、最も小さい行で72億円、最も大きい行で2,888億円になる。
案件の側の規模は、資源エネルギー庁の発電コスト検証ワーキンググループが2024年8月16日の会合で示したモデルプラント (2021年検証) で測った。1キロワットあたりの建設費は、出力3万キロワットの陸上風力で34.7万円、出力35万キロワットの洋上風力で51.5万円である。出力に単価を掛けると、陸上風力1件の建設費は104.1億円、洋上風力1件は1,802.5億円になる。AIデータセンターについては、建設費を示す公的な単価を取得できなかった (未取得)。
| 1件の建設費 | 枠の目安が足りる地銀 |
|---|---|
| 陸上風力3万キロワット 104.1億円 | 57行 |
| 洋上風力35万キロワットの半分 901億円 | 25行 |
| 洋上風力35万キロワット 1,802.5億円 | 7行 |
陸上風力1件の104.1億円なら、61行のうち57行は枠の目安に収まる。それでも案件が止まってきたのは、枠の中にスポンサーの本業の借入れが先に入っているからだ。記者の見立てでは、地方で発電所やデータセンターを手がけられる会社はたいてい地元の有力企業で、地銀の大口の取引先でもある。中央値650億円の枠のうち、本業で既に数百億円を貸していれば、残りは案件1件に足りない。緩和が効くのはこの重なりで、案件の分を承認で枠の外に出せれば、地銀は本業の取引を細らせずに地元の案件に加われる。洋上風力のような1,800億円級の案件を1行で賄える枠の目安があるのは7行にとどまるため、大型案件は今後も複数の銀行で分担する形が続く。地方の銀行が参加する単位が「スポンサーごと」から「案件ごと」に変わる、というのが今回の緩和の実質である。
国内のデータセンターの立地は 国内のデータセンター一覧 で、電力の制約は 日本のAIデータセンターと送電網 で追える。
金融庁の緩和は、大口融資規制の25%という上限を下げも上げもしない。変えるのは、倒産隔離されたノンリコースの特別目的会社への融資を、スポンサーの借入れと同じ枠で数えずに承認できるようにする点である。地方企業がAI向けデータセンターや再生可能エネルギーの開発に乗り出すとき、地元の地銀から借りる資金が本業の借入れと同じ枠を奪い合わなくなれば、地方経済の新しい柱に地元の資金が回る道が1本増える。その代わり、返済の当てが案件の収入だけになる融資を審査する力が、地銀1行ずつに求められる。
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