AIへの巨額投資は、売上で費用を賄える段階に入った。稼働中のデータセンターと機器の費用に対し、売上は1.6倍ある。懸念は、半導体最大手が顧客の資金繰りを支えていることで、保証の上限額だけで1,085億ドルに上る。

AIの売上は、すでに稼働しているデータセンターと機器の費用を賄えるようになった。英国の調査・出版会社エクスポネンシャル・ビューは投資家向けの報告で、稼働中の設備にかかる年間費用を約1,450億ドルと見積もった。これに対しAIの売上は年2,320億ドルで、費用の1.6倍にあたる。同社はそのうえで、リスクは売上の規模ではなく資金の出し手にあると指摘し、エヌビディアを例に挙げた。同社が自社の顧客に対して負う保証、調達契約、出資の合計は4,860億ドルになるという。

本稿は2026年9月23日、この報告の数字を、エヌビディアとオラクルが米証券取引委員会 (SEC) に提出した四半期報告書と照らし合わせた。4,860億ドルは、エヌビディアの開示から4,865億ドルとして再現できた。ただし、その6割近くは部品メーカーへの支払いを定めた調達契約で、顧客向けの出資と保証は2,075億ドルである。

稼働中のAI設備4,730億ドルの年間費用は1,450億ドルで、AIの売上はその1.6倍にあたる

エクスポネンシャル・ビューは、すでに稼働しているAI向けの機器とデータセンターの投資額を4,730億ドルと見積もる。年間費用は3つの合計である。1つ目は減価償却で、半導体などの計算機は5〜6年、建物は約22年で償却する。2つ目は年2.4%の運転費、3つ目は投下資本利益率15%分の利益である。投下資本利益率は、事業に投じた資本に対してどれだけの利益を上げたかを示す指標で、同社は設備が年15%の利益を確保する前提で計算した。合計は年約1,450億ドルになる。

一方の売上は、クラウドが年1,760億ドル、AIモデルやアプリケーションを含むAI全体が年2,320億ドルである。稼働中の設備の費用に対し、クラウドの売上だけで121%、全体では160%を賄う計算になる。同社はこの比率が100%以上なら安全、50〜100%なら注意、50%未満なら警戒と区分しており、AI全体の売上は2024年末ごろに100%を超えて安全圏に入った。

AIの売上と稼働中の設備の年間費用、必要な伸び率と実際の伸び率。年間費用1,450億ドルに対しクラウドの売上1,760億ドル (121%)、AIの売上全体2,320億ドル (160%)。今後12か月分の設備投資の回収に必要な売上の伸びは年29%、24か月分は44%で、月8.3%の伸びを年率に直すと160%増、昨年の伸びは190%増
AIの売上と稼働中の設備の年間費用、必要な伸び率と実際の伸び率。年間費用1,450億ドルに対しクラウドの売上1,760億ドル (121%)、AIの売上全体2,320億ドル (160%)。今後12か月分の設備投資の回収に必要な売上の伸びは年29%、24か月分は44%で、月8.3%の伸びを年率に直すと160%増、昨年の伸びは190%増

年間費用の内訳は逆算できる。4,730億ドルに運転費の2.4%と利益の15%を掛けると約823億ドルで、残る約627億ドルが減価償却にあたる。4,730億ドルを627億ドルで割ると、設備全体の平均の耐用年数は約7.5年になる。計算機の耐用年数を5年とすると投資額の56%、6年とすると72%が計算機で、残りが建物という構成になり、AI向けの設備としては無理のない比率である。なお、同社が2026年6月に公表した報告書は、計算機を6年、その他の設備を14年で償却し、年換算の売上を1,750億ドル、直近12か月の売上を1,100億ドルとしていた。今回は建物の耐用年数を長くみており、前提は同じではない。

本誌が照合したところ、費用との比較に使った売上 (全体2,320億ドル、クラウド1,760億ドル) は、同じ報告の後半にある8月末の推計 (全体2,290億ドル、クラウド1,730億ドル) をやや上回る。どの時点の値かは報告に書かれていない。

今後の設備投資の回収に必要な売上の伸びは年29〜44%で、足元の伸びを大きく下回る

エクスポネンシャル・ビューは、これから投じる設備についても同じ計算をしている。今後12か月に投資が決まっている設備で15%の投下資本利益率を確保するには、クラウドの売上が機器の耐用年数の間、年29%ずつ伸びればよい。今後24か月分まで含めると、必要な伸び率は年44%になる。2023年初めには、それぞれ約158%、約220%だった。設備の計画に比べて売上がまだ小さかったためで、その後は売上が追いつくにつれて必要な伸び率が下がってきた。

実際の伸びは、この水準を大きく上回っている。同社によると、昨年の売上の伸び率は190%だった。8月の前月比の伸び率は8.3%で、同社はこれを「9か月で倍増するペース」と説明する。本誌の計算では、月8.3%の伸びが1年続くと売上は2.6倍 (160%増) になり、倍増するまでの期間は8.7か月である。伸び率は過去1年の平均 (月10.9%、年3.46倍、6.7か月で倍増) から鈍ったものの、必要な伸び率の29%も44%も大きく上回る。

このため同社は、売上の水準は設備投資のリスクではないと結論づけた。そのうえで、今後の変動要因として2つを挙げた。1つは設備投資の計画が売上より速く膨らむこと、もう1つは売上の質、つまり誰が代金を支払っているかである。

設備投資の計画が売上を上回るリスクは、オラクルの受注残高6,640億ドルに表れている

設備投資の計画が売上より速く増えると、必要な伸び率の44%は上昇する。同社は報告で、オラクルの決算発表を控えて「売上が変わらないまま受注残高が増えれば、必要な伸び率は上がる」と書いた。オラクルは2026年9月10日 (木曜) に6〜8月期の決算を発表し、翌日に四半期報告書を提出した。

オラクルの受注残高は8月末で6,640億ドルと、1年前の4,550億ドルから46%増えた。受注残高は、契約済みでまだ売上に計上していない金額で、会計上は残存履行義務と呼ぶ。同社は大型のクラウド契約が増加の主因だと説明し、今後12か月で売上に計上するのは約13% (約860億ドル) とした。6〜8月期の売上高は193億4,500万ドルで30%増え、うちクラウド基盤サービスの売上は73億8,800万ドルで121%増えた。

一方、6〜8月期の設備投資は284億9,900万ドルと前年同期の85億200万ドルの3.4倍に膨らみ、クラウド基盤サービスの売上の3.9倍に達した。営業キャッシュフローから設備投資を差し引いたフリーキャッシュフローは54億ドルの赤字で、同社は市場での随時の新株発行で199億ドルを調達した。記者の見立てでは、受注残高の伸び (46%) が売上の伸び (30%) を上回り、設備投資が売上を大きく超える現状は、報告が指摘する「計画が売上を追い越す」状態にあたる。

エヌビディアの調達契約・出資・保証4,865億ドルのうち、顧客向けの出資と保証は2,075億ドルある

2つ目のリスクについて、エクスポネンシャル・ビューは設備投資の資金の質を数値で示している。最も質が低いとみなすのは、売り手が顧客に購入資金を融通する取引である。同社の指標は、資金の質を加味して評価した額を資金の総額で割り、1から差し引いた値で、設備投資のうち質の低い資金で賄う比率を表す。9月21日時点で24.6%と、6月の22.3%から上昇した。今年は毎月上がっており、同社は12%未満を安全、12〜30%を注意、30%超を警戒と区分したうえで、このペースが続けば2027年2月に警戒水準に達するとみる。本誌の計算では、6月から9月のペース (月0.77ポイント) が続いた場合、30%に達するのは約7か月後になる。2月に達するには月1.08ポイントの上昇が必要である。

同社はその例として、エヌビディアが自社の顧客に対して保証、調達契約、出資で4,860億ドルを負っていると書いた。エヌビディアの7月26日時点の四半期報告書と財務責任者の説明資料から、この数字は次の3つの合計として再現できる。

内訳 (億ドル)金額相手
部材の調達契約2,790主にメモリーの供給元
株式投資の残高990AIモデルの開発企業など
保証の最大額1,085オープンAIの施設ほか
合計4,865

部材の調達契約は、前四半期の1,190億ドルから2.3倍に増えた。財務責任者は増加の主因をメモリーの調達と説明しており、契約の相手は顧客ではなく部品の供給元である。顧客向けは出資の990億ドルと保証の1,085億ドルで、合わせて2,075億ドルと、4,865億ドルの43%にあたる。同社は出資先を「AIモデルの開発企業、インフラ投資の資金提供者、その他の非上場企業」と説明している。

保証の大半は、8月17日に結んだ契約による。エヌビディアは、SBエナジーがオハイオ州パイク郡で建設するデータセンター群について、約4.25ギガワット分の賃貸契約に残価保証を付けた。借り手はオープンAIの関連会社で、賃貸期間は20年である。施設は9期に分けて完成し、最初の完成はエヌビディアの2029年度 (おおむね2028年2月〜2029年1月) を見込む。オープンAIが経営破綻するか賃料を支払えなくなった場合、エヌビディアは保証した最低額と、別の借り手への賃貸や売却で回収した額との差額を支払う。上限は1,050億ドルで、オープンAIはエヌビディアが支払った額を補償する。見返りとして、施設では原則としてエヌビディアの機器だけを使う。エヌビディアはさらに約3.8ギガワット分を追加で保証できる権利を持つ。財務責任者は、この施設に入る機器は1世代分でGPU約150万個、同社の売上にして約1,500億〜2,000億ドルになるとの見通しを示した。貸し手であるSBエナジーの資金繰りは同社の借り入れの記事で取り上げた。

保証の残る35億ドルは、AI向けクラウド事業者のデータセンターの賃貸契約に付けた、用地・電力・建屋の保証で、相手先は7億1,200万ドルを預託している。4,865億ドルに含まれない契約もある。エヌビディアの機器を購入したクラウド事業者から、同社がクラウドの利用枠を買い戻す契約が360億ドル、第三者に引き継ぐ予定のデータセンターの賃貸契約が200億ドル、まだ実行していない出資の予定額が250億ドルある。

報告は、エヌビディアが来年の売上の4分の1を、自社が資金を出すAI開発企業から見込んでいるとも書いた。本誌は四半期報告書と財務責任者の説明資料の中に、この記述を確認できなかった。関連する開示の数字は3つある。AIクラウド・産業・企業向けの売上は5〜7月期に403億1,300万ドルで、売上全体の41.9%を占めた。直接取引する顧客1社で売上の16%を占める。売掛金は631億ドルに増え、回収までの日数は45日から60日に延びた。同社はその理由を、信用力の高い一部の顧客と結んだ複数四半期にわたる大型契約で、支払い条件を延ばしたためと説明している。

5〜7月期の売上高は962億2,100万ドルで前年同期比106%増、純利益は596億8,800万ドルで126%増、1株利益は2.46ドルで128%増えた。報告は、利益が大きく伸びた週にも市場の評価が上がらなかった点を挙げ、市場が行き過ぎを感じ取っている可能性があると書いた。ただし、この食い違いを市場の誤りとはみておらず、問うべきは、売り手による資金支援の伸びが止まったとき、それに頼らない需要がどれだけ残るかだとしている。エヌビディアの資金面の取り組みは運用会社6社との覚書の記事にまとめた。

エヌビディアの4,865億ドルの内訳。部材の調達契約2,790億ドル、出資990億ドル、保証1,085億ドル (SBエナジー向け1,050億ドルと用地の保証35億ドル)。顧客向けは2,075億ドルで43%。質の低い資金で賄う設備投資の比率は6月の22.3%から9月21日に24.6%へ上昇し、30%超が警戒水準
エヌビディアの4,865億ドルの内訳。部材の調達契約2,790億ドル、出資990億ドル、保証1,085億ドル (SBエナジー向け1,050億ドルと用地の保証35億ドル)。顧客向けは2,075億ドルで43%。質の低い資金で賄う設備投資の比率は6月の22.3%から9月21日に24.6%へ上昇し、30%超が警戒水準

AIの売上2,290億ドルの4分の3はクラウドで、伸びの中心はAIモデルの開発企業に移っている

エクスポネンシャル・ビューは、企業の開示をもとにAIの売上を推計している。最終的な利用者が支払った金額を数え、クラウド、AIモデル、アプリケーションの間で同じ代金を二重に数えないよう調整する。8月末の年換算 (直近1か月の売上を12倍した値) は2,290億ドルで、1年前の660億ドルの3.5倍、7月の2,110億ドルからも増えた。直近12か月の合計は1,400億ドルで、2025年8月までの12か月の440億ドルの3.2倍、7月の1,260億ドルから増えた。このペースでは売上は7.2か月ごとに倍増する。

区分別では、クラウドが1,730億ドルと全体の4分の3 (75%) を占め、AIモデルが460億ドル (20%)、アプリケーションが100億ドル (4%) である。1年前はクラウドが88%、AIモデルが8%だった。この12か月で、AIモデルの売上は8.4倍、クラウドは2.9倍になった。同社は、売上の比重がAIモデルやアプリケーションへ移り、その多くがオープンAIアンソロピックの売上だとみている。本誌が構成比から1年前の金額を逆算すると、AIモデルは約53億ドル、クラウドは約581億ドルになる。構成比が四捨五入した値のため倍率は8.7倍と3.0倍となり、報告の数字とほぼ一致する。

AIの売上の推移と区分別の内訳。年換算は2025年8月660億ドル、2026年7月2,110億ドル、8月2,290億ドル。直近12か月は440億ドル、1,260億ドル、1,400億ドル。区分別はクラウド1,730億ドル・75%、AIモデル460億ドル・20%、アプリケーション100億ドル・4%
AIの売上の推移と区分別の内訳。年換算は2025年8月660億ドル、2026年7月2,110億ドル、8月2,290億ドル。直近12か月は440億ドル、1,260億ドル、1,400億ドル。区分別はクラウド1,730億ドル・75%、AIモデル460億ドル・20%、アプリケーション100億ドル・4%

米国上場のAI関連企業の売上と利益を開示から区分ごとに確かめた数字は、本誌のAI経済の解説にまとめている。

オープンAIとアンソロピックの企業向け売上の80%は、上位1%の企業が占める

売上の質をめぐっては、一部の顧客への依存も論点になっている。米国の法人カード会社ランプは、顧客企業約7万社の支出データを分析した。同社の主任エコノミスト、アラ・カラジアン氏によると、ランプの顧客の中で、オープンAIアンソロピックの企業向け売上の80%を上位1%の企業が占める。同氏は、自社が調べている他のソフトウェア分野には例のない偏りだと指摘した。ただし、ランプの顧客はデジタル化に積極的な企業が多く、米国企業の平均的な姿を映しているとは限らない。

エクスポネンシャル・ビューは、偏りは大きいが前例がないわけではないとして、他のソフトウェア企業の数字と並べた。本誌がSECへの提出書類で確かめると、比べている顧客の範囲がそろっていない。

会社上位顧客の基準売上の比率顧客数の割合
ファストリー年10万ドル超94%20.3%
データドッグ年10万ドル以上91%14.1%
オープンAIとアンソロピックランプの顧客の上位1%80%1%
クラウドフレア年10万ドル超69%未取得
スノーフレーク年100万ドル超68%未取得
上場時のスラック年10万ドル超40%未取得

ファストリーの94%は、顧客3,092社のうち628社 (20.3%) が生む年換算売上の比率である。データドッグは6月末で、顧客約33,400社のうち約4,720社 (14.1%) が年換算売上の91%を占め、報告の90%はそれより前の時点の値に近い。どちらも上位1%ではなく、上位14〜20%の顧客が売上の9割を占めている。記者の見立てでは、同じ基準で比べれば、上位1%で売上の80%を占めるAI開発企業の偏りは、並べた例よりはるかに大きい。クラウドフレア、スノーフレーク、上場時のスラックの顧客数の割合は取得できていない。

報告は、この偏りについて2通りの解釈を示した。AI開発企業が一部の顧客に依存しているという解釈と、多くの米国企業がAI開発企業から仕入れるソフトウェア会社やサービス会社を通じてAIを使っているため、AI開発企業の直接の顧客が一部に偏って見えるという解釈である。

AIの売上は稼働中の設備の年間費用の1.6倍に達し、これからの設備投資の回収に必要な伸び率も足元の伸びを下回る。売上の規模でみれば、AI投資は採算が取れる段階に入った。懸念が残るのは資金の出し手で、エヌビディア1社でも顧客向けの出資と保証が2,075億ドルに上り、その半分はオープンAIの施設の保証である。投資家が注視すべきは売上の伸びよりも、売り手が顧客のために負う保証と出資の額、そして質の低い資金の比率が警戒水準の30%に近づくペースである。

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