SBエナジーは上場延期と同じ日に、新たな借入でも十分な投資家を確保できなかった。提示した利回りは10%近くに達した。設備投資1,780億ドルの大半を事業ごとの借入で賄う計画では、上場よりも借入の条件が採算を左右する。

SBエナジーの新規株式公開 (IPO) は、少なくとも10月以降まで延期された。データセンターに電力を供給するホルテックとアグレコの2社も上場を先送りした。米紙ニューヨーク・タイムズは9月21日、「ウォール街はデータセンターの活況に懐疑的になりつつある」との見出しで、電力を大量に消費する施設への世論の反発が強まるなか、業界に関わる複数の企業が上場を延期したと報じた。だがSBエナジーにとって、上場延期より深刻な出来事が同じ日に伝えられた。英フィナンシャル・タイムズ (FT) によると、同社の新たな借入に対する投資家の関心は鈍かった。報道によれば借入の規模は約49億ドルで、利回りは10%近くに達する見通しだった。同社は今後も巨額の建設費の大半を、同じ手法の資金調達に頼る。

本稿は、同社が米証券取引委員会 (SEC) に提出した上場申請書類の2回目の修正版 (9月21日) を2026年9月23日に読み直し、借入の利率が用途によってどう異なるか、利払いが賃料のどれだけを占めるか、返済期限がいつ到来するかを数字で検証した。上場延期の経緯と受注残高の中身は、前回の記事で報じた。

SBエナジーの上場延期に続き、ホルテックとアグレコも上場を先送りした

ニューヨーク・タイムズによると、投資家はSBエナジーの500億ドル超という評価額に疑問を示した。同紙は、年末の上場を目指すバンテージ・データセンターズとサイラスワン、スイッチ、10月の上場を目指す英エヌスケールの結果が、データセンター企業に対するウォール街の評価を占う最初の試金石になると伝えた。

米ホルテック・ニュークリアは9月16日、7億5,000万ドル超の調達を目指した上場を延期した。同社は小型モジュール炉 (SMR) の開発と原子力発電所の廃炉を手がける。クリシュナ・シン最高経営責任者はFTに「我々の事業は良くも悪くもデータセンターと結びついていると見られている」と語り、データセンターの電力需要の不透明さを理由に挙げた。発電機レンタル大手のアグレコも上場の時期を遅らせた。SECの提出記録によると、両社とも申請の取り下げは届け出ておらず、アグレコは9月17日に修正版を提出したが、公開価格の仮条件は空欄のままだ。

49億ドルの借入は利回り10%近くでも需要が不足し、同社の借入の利率は用途によって段階的に高くなっている

上場申請書類には、SBエナジーのこれまでの借入条件が記載されている。太陽光発電所の建設資金は、米国の短期金利の指標である担保付き翌日物調達金利 (SOFR) に1.25〜1.375ポイントを上乗せした変動金利で借り入れた。SOFRは2026年9月21日時点で3.85%なので、利率は5.10〜5.23%になる。テキサス州のコスモス拠点 (データセンター) の建設資金は、2026年5月に子会社が発行した2031年満期の担保付き社債9億9,900万ドルで賄った。表面利率は8.875%、発行価格は額面の99.5%で、利回りは9.002%だった。この社債をSBエナジー本体は保証していない。

SBエナジーの借入の利回りの比較。太陽光発電所の建設資金は5.16%、ソフトバンクグループの2031年満期の社債は8.20%、コスモス拠点の担保付き社債は9.00%、新規の借入は報道によると10%近く
SBエナジーの借入の利回りの比較。太陽光発電所の建設資金は5.16%、ソフトバンクグループの2031年満期の社債は8.20%、コスモス拠点の担保付き社債は9.00%、新規の借入は報道によると10%近く

新規の借入で提示された10%近くという利回りは、太陽光より4.8〜4.9ポイント、コスモス債より1.0ポイント高い。同じ会社の借入でも、稼働中の発電所より、賃貸契約は結んだものの建設前のデータセンターの方が高い利回りを求められる。それでも投資家の需要は不足した。一方、親会社のソフトバンクグループが9月21日に発行手続きを始めたドル建て100億ドルとユーロ建て10億ユーロの社債は、格付けが投資適格級を下回るBB+ながら、ブルームバーグによると200億ドル超の需要を集めた。募集額の1.8倍にあたる。投資家はソフトバンクの信用力ではなく、稼働前のデータセンターの借り手の信用力と完成時期を見て利回りを求めている。

設備投資1,780億ドルの大半を借入で賄う計画では、オハイオ州の17棟の利払いだけで年平均賃料の56〜63%に達する

49億ドルは、6月末の連結の借入残高 (元本約40億ドル。このほか税額控除を活用した出資が約17億ドル) の123%にあたる規模だが、今後必要となる資金のごく一部にすぎない。申請書類によると、契約済み案件の設備投資は約1,780億ドルで、24か月以内に約480億ドルを支出する。49億ドルはその10.2%、総額の2.8%である。同社は設備投資の大半を事業ごとの借入で賄う方針で、オハイオ州の17棟については1棟80億〜90億ドルの設備投資の最大90%を借入で調達する計画を示している。

この計画に新規の借入の条件を当てはめると、利払い負担の大きさが分かる。17棟の借入は1,224億〜1,377億ドル (推定) で、利率10%なら年間の利払いは122億〜138億ドルになる。データセンター事業の受注残高4,300億ドルを、契約の残存期間の加重平均19.6年で割ると年平均の賃料は219億ドルで、利払いはその56〜63%にあたる。利率が1ポイント違えば、利払いは年12億〜14億ドル変わる。

オハイオ州の17棟の借入と利払い。年平均の賃料219億ドルに対し、利率10%の利払いは借入1,224億ドルで122億ドル、1,377億ドルで138億ドル。利率1ポイントあたり12億〜14億ドル
オハイオ州の17棟の借入と利払い。年平均の賃料219億ドルに対し、利率10%の利払いは借入1,224億ドルで122億ドル、1,377億ドルで138億ドル。利率1ポイントあたり12億〜14億ドル

賃料は建設費に一定の利回りを上乗せして決める契約のため、金利の上昇分は借り手のオープンAIに転嫁するか、SBエナジーが利益率の低下として受け入れるかのどちらかになる。オープンAIは投資適格級の格付けを持たず、エヌビディアの残価保証は最初の4.25ギガワット分に限られる。貸し手が10%近くの利回りを求めた理由は、この構図にある。

返済期限も迫っている。2027年までの主な返済は、ペリカンズ・ジョー (8億5,780万ドル、2027年3月)、本体が実質的に返済義務を負う唯一の借入であるヒッコリー (4億7,300万ドル、2027年10月)、アトス蓄電 (3億6,190万ドル、2027年2月) で、合計16億9,300万ドルにのぼる。6月末の現預金11億9,914万ドルの1.41倍だ。同社は長期融資への切り替えや借り換え、税額控除を活用した出資で対応するとしている。ヒッコリーは上場に合わせて新たな融資枠で返済する予定だが、上場が延びればこの前提も崩れる。

2027年までの主な返済残高期限
ペリカンズ・ジョー8億5,780万ドル2027年3月
ヒッコリー4億7,300万ドル2027年10月
アトス蓄電3億6,190万ドル2027年2月
合計16億9,300万ドル

テキサス州ミラム郡の2棟 (753メガワット、契約期間15年) には、もう1つの条件がある。引き渡し条件を期限内に満たせなければ、借り手のオープンAIが買い取りの選択権を行使でき、長期に保有した場合の価値を大きく下回る価格で資産を譲渡せざるを得なくなる可能性があると、申請書類は記している。送電網への接続は段階的で、第1段階では太陽光発電所から34.5キロボルトの送電線で200メガワットを供給する計画だった。借入の遅れが工期の遅れにつながれば、賃料の発生が遅れるだけでなく、資産を安値で手放す条項が発動しかねない。

テキサス州は9月21日にデータセンターの新規許認可を停止し、申請書類はこれを事業リスクに挙げていた

世論の反発は借入条件にも影響する。テキサス州のアボット知事は9月21日、州環境品質委員会 (TCEQ) に対し、送電網の運用機関ERCOT、公益事業委員会、水資源開発委員会による監査が終わるまで、データセンターの新規許認可を出さないよう指示した。知事は「テキサス州民が最優先だ。データセンターは自らの費用を負担し、送電網と水を守り、監査を終えなければならない」と述べた。TCEQは10月19日までに対応状況を報告する。知事は8月3日にもERCOTに接続審査の強化を指示しており、ERCOTは一部の大口需要家について送電開始の承認を一時停止している。

SBエナジーの申請書類は、この8月の指示について「テキサス州の計画に影響する可能性がある」とリスク要因に記していた。同社が着工済みの2拠点はいずれもテキサス州にある。ニューヨーク州は7月14日に大規模データセンターの州の許認可を最長1年凍結し、オハイオ州では25メガワット超の施設を禁止する住民投票を2027年に実施する動きがある。申請書類は、こうした規制が広がれば案件の中止や移転、回収できない費用の発生につながると認めている。ニューヨーク州の動きはデータセンター新設の一時停止と住宅投資を抜いたAI向け投資で分析した。

日本の投資家向けには上場時に最大5億ドル分の販売が予定され、親会社の社債には需要が集まっている

日本への影響は2つある。1つは、SBエナジーの上場に伴う日本の投資家向けの販売だ。ブルームバーグは9月15日、同社が上場に合わせて日本で最大5億ドル分の株式を販売する計画だと報じた。引受団にはみずほ、野村、三菱UFJ、SMBC日興、大和の各グループの証券会社が名を連ねる。上場の延期は、この販売の時期も先送りする。

もう1つは親会社への波及だ。ソフトバンクグループの2031年満期のドル建て社債の利回りは、1月の6.7%から8.2%に上昇した。それでも同社は9月21日に110億ドル超の社債の発行手続きを始め、オープンAIへの3回目となる100億ドルの出資に充てる。エヌビディアは同じ日、SBエナジーに15億ドルを追加出資し、出資額を30億ドルに引き上げると明らかにした。親会社と主要な取引先は資金を出し続けているが、事業ごとの借入の貸し手は、データセンターの完成と借り手の信用力を確かめるまで利回りの引き下げには応じない。

SBエナジーの事業計画は、建物ごとに借り入れて建設し、賃料で返済する前提で組まれている。最初の大口の借入が10%近くの利回りでも投資家を確保できなかったことは、上場の延期より深刻だ。利率が1ポイント違えば年12億〜14億ドル、利率10%なら17棟の利払いだけで賃料の6割に迫る。上場で調達する資金は設備投資の一部にすぎず、借入条件が事業の採算を決める。

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