千葉銀行や徳島大正銀行など地方銀行3グループが傘下に持つ系統用蓄電所は、出力がいずれも約2,000キロワットだ。国の長期脱炭素電源オークションが蓄電池の参加条件とする3万キロワットは、その15倍にあたる。
地方銀行のグループ会社が、系統用蓄電所を自ら保有する動きが出てきた。千葉銀行の子会社は千葉県いすみ市に蓄電所を新設し、2027年4月の運転開始を予定する。徳島大正銀行の子会社は2026年7月10日、徳島県板野郡の蓄電所の引き渡しを受けた。ちゅうぎんフィナンシャルグループ傘下のちゅうぎんエナジーも、島根県松江市宍道町で2026年度中の運転開始を予定している。
系統用蓄電所は、電力網に直接つないだ大型の蓄電池で、電気が余るときに充電し、足りないときに放電する。編集部は3グループの発表資料、国と電力広域的運営推進機関の制度資料、金融庁の監督指針を2026年10月4日に確認した。そのうえで、3カ所の出力が2,000キロワット前後にとどまる理由と、金利の上昇が採算に与える影響を検証した。
出力が2,000キロワット前後なのは、高圧の配電線につなぐため
千葉銀行 (銘柄ページ) は2026年8月26日、全額出資子会社のひまわりグリーンエナジーが千葉県いすみ市に「いすみ系統用蓄電所」を新設し、系統用蓄電池事業に参入すると発表した。出力2,000キロワット (2メガワット)・容量8,000キロワット時 (8メガワット時) の蓄電池を電力系統に直接つなぎ、需給の調整に使う。
徳島大正銀行は2026年2月20日、全額出資子会社のとくぎんトモニリンクアップが板野郡に蓄電所を設け、系統用蓄電池事業に参入すると発表した。同行によると、四国の地方銀行グループの参入は初めてだ。蓄電池システムはパワーエックス製で、出力は1,990キロワット、容量は8,226キロワット時。参入を発表した時点では、運転開始を2026年夏ごろとしていた。東証グロース上場のグリーンエナジー&カンパニー (1436) の子会社グリーンエナジー・プラスが、用地の確保から各種の権利の取得、工事までを一体で担った。同社は7月10日に工事を終え、蓄電所を引き渡した。8月31日には現地で竣工記念式が開かれた。
パワーエックス (銘柄ページ、企業データベース) は2026年4月20日、ちゅうぎんフィナンシャルグループ (銘柄ページ) 傘下のちゅうぎんエナジーに系統用蓄電所を販売し、運用も受託する契約を結んだと発表した。ちゅうぎんフィナンシャルグループは中国銀行 (岡山市) の持ち株会社だ。「松江市宍道蓄電所 (仮称)」は、直流と交流を変換するパワーコンディショナーの出力が1,999キロワット、公称容量が8,226キロワット時。容量は一般家庭約720世帯の1日分の使用量にあたる。蓄電システム「Mega Power 2700A」を3台設置し、設計から建設まではミライト・ワンが担う。
| 3グループの蓄電所 | 千葉銀行 | 徳島大正銀行 | ちゅうぎんFG |
|---|---|---|---|
| 保有会社 | ひまわりグリーンエナジー | とくぎんトモニリンクアップ | ちゅうぎんエナジー |
| 場所 | 千葉県いすみ市 | 徳島県板野郡 | 島根県松江市宍道町 |
| 出力 (キロワット) | 2,000 | 1,990 | 1,999 |
| 容量 (キロワット時) | 8,000 | 8,226 | 8,226 |
| 現状 | 2027年4月に運転開始予定 | 2026年7月10日に引き渡し | 2026年度中に運転開始予定 |
| 市場での運用 | 3市場 (運用会社は非公表) | Sustechが3市場で運用 | パワーエックスが運用 |
| 発表日 | 2026年8月26日 | 2026年2月20日 | 2026年4月20日 (パワーエックス) |
資源エネルギー庁の系統連系技術要件ガイドラインは、高圧の配電線に接続できる設備を原則2,000キロワット未満としている。蓄電池の出力は、パワーコンディショナーの定格出力で判断される。板野と宍道は、この上限をわずかに下回る1,990キロワットと1,999キロワットに出力を設定したとみられる。NTTアノードエナジーも同じ理由で、出力を1,999キロワットにしている (関連記事)。千葉銀行は発表で「出力2MW」としか記しておらず、2,000キロワット未満を丸めた数字かどうかは分からない。
宍道の8,226キロワット時は3台分で、1台あたり2,742キロワット時の計算になる。板野の容量も同じ8,226キロワット時だ。公称容量を出力で割った目安では、続けて放電できる時間は宍道と板野が約4.1時間、いすみが4時間となる。実際に使える容量は公称容量より小さい。
3カ所の収入源は、卸電力・需給調整・容量の3市場
3グループとも、電力市場での取引で収入を得る計画だ。千葉銀行の資料によると、卸電力市場では実際に発電された電気 (キロワット時) を、需給調整市場では需給バランスを保つための調整力 (デルタキロワット) を、容量市場では将来の電力の供給力 (キロワット) を取引する。徳島大正銀行も、容量市場を「将来の電力需要に備えて発電能力を事前に確保するための市場」と説明している。
市場で電気を売買するのは、アグリゲーターと呼ばれる事業者だ。複数の蓄電池などを束ね、需給の調整や市場での取引を担う。とくぎんトモニリンクアップは蓄電所の運用をアグリゲーターのSustech (サステック) に委ね、同社が卸電力・需給調整・容量の3市場で取引する。グリーンエナジー&カンパニーの発表によると、施工を担った同社グループが保守・管理も引き受ける。
宍道の蓄電所は運転開始後、パワーエックスが市場での運用を担う。同社は「需給調整市場など各種電力市場での運用を通じて収益化を図ります」としている。両社が結んだ役割分担では、パワーエックスが蓄電システムやパワーコンディショナー、変圧器、受変電設備を供給し、運転開始後の保守も担う。同社はこの契約による売上高を2026年12月期の連結業績予想に織り込んでいる。千葉銀行は資料で建設、保守、アグリゲーターの役割分担を示しているが、担う会社名は明らかにしていない。
3カ所の収入の見通しは、いずれのグループも公表していない。手がかりは、同規模の蓄電所を持つ上場企業の開示だ。JALCOホールディングスは2026年8月31日、島根県雲南市の高圧の系統用蓄電所 (出力1,990キロワット・容量8,140キロワット時) を取得したと開示した。同社は、需給調整市場に参入して通年で稼働した場合の年間売上高を2億〜3億円と見込む。参入は2027年8月の予定だ。収入の柱は需給調整市場とし、卸電力市場で時間帯による価格差を生かす売買と容量市場は補完と位置づける。同社は、収益の水準が蓄電池と変換装置の仕様、入札状況、市場価格、稼働状況、アグリゲーターの運用方針、需給調整市場の制度と上限価格などで変動する可能性があるとしている。雲南市の設備は宍道と同じ島根県にあり、いずれも中国電力の管内だ。
徳島大正銀行の子会社社長は、蓄電所を金融庁が認めた「他業」案件と説明
銀行法は、銀行が本業以外の事業を営むことを原則として禁じている (他業禁止)。金融庁の監督指針は、この規制が銀行本体だけでなく銀行グループに課されていると説明している。とくぎんトモニリンクアップの天野嘉彦社長はグリーンエナジー&カンパニーの発表の中で、今回の事業を「徳島大正銀行グループとして、金融庁より銀行業以外の他業として許可を受けた初めての『他業』案件」と位置づけた。とくぎんトモニリンクアップは2025年2月の設立以来、脱炭素の分野で「自らアセットを保有・運営する」事業モデルづくりに力を入れてきたという。
監督指針によると、銀行は「他業銀行業高度化等会社」に対し、通常の議決権保有の上限を超えて出資できる。出資には当局の認可が必要で、当局は他業禁止の趣旨である「他業リスクの回避、利益相反の禁止及び優越的地位の濫用の防止」を踏まえて審査する。2021年11月施行の改正銀行法で、他業銀行業高度化等会社は地域の活性化に役立つ業務も営めるようになった。とくぎんトモニリンクアップが今回新たに認可を受けたのか、認可済みの会社が新しい業務を始めたのかは、公表資料では分からない。
ちゅうぎんフィナンシャルグループは2022年12月23日、グループの投資子会社ちゅうぎんキャピタルパートナーズが全額出資する地域エネルギー会社の設立を決めたと開示した。設立は「関係当局への届出等を前提」とした。2023年2月28日の経過報告で社名をちゅうぎんエナジーとし、事業内容に「蓄電池・EV等を活用した環境エネルギー事業」を挙げた。千葉銀行の子会社の設立の手続きは公表されていない。
千葉銀行、蓄電所の建設を発表した30日後に短期プライムレートの0.25ポイント引き上げを決定
地銀の参入と時期を同じくして、金利の上昇も続いている。千葉銀行は2026年9月25日、「日本銀行の金融政策の見直しに伴う市場金利の動向を踏まえ」、短期プライムレートを11月2日から0.25ポイント引き上げ、年2.750%から年3.000%にすると発表した。普通預金の金利も0.1ポイント上げて年0.400%から年0.500%とし、円定期預金の金利も改定する予定だ。蓄電所の建設を発表してから30日後だった。
短期プライムレートは、銀行が優良企業に期間1年以内で貸し出す際の最優遇金利で、変動金利型の融資の基準として使われる。新しい金利は11月2日以降の新規の貸し出しと更新分に適用され、既存の借り入れには同日以降の利払い日から適用される。利上げで銀行は貸し出しの利息収入が増える一方、預金の利払いも膨らむ。借り入れで設備投資をする企業は、利払いの負担が増す。
長期脱炭素電源オークションでは、落札者が選べば資本コストを毎年度、金利で見直す
国の入札制度には、金利の上昇を収入に反映できる仕組みがある。長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源の新設などに対し、固定費に見合う収入を原則20年間保証する国の入札制度だ。資源エネルギー庁などは制度の趣旨を「巨額の初期投資の回収に対して長期的な収入の予見可能性を付与する」ことと説明する。その代わり、落札した事業者は他の市場で得た収入の約9割を還付する。制度の全体像は、蓄電事業の体系解説のビジネスモデルの章で解説している。
電力安定供給ワーキンググループが2026年8月にまとめた資料によると、国はこれまで入札価格に織り込める資本コストの上限を、5%を基準に電源ごとに4〜6%としてきた。5%は、容量市場のメインオークションで指標となる価格を算定する際の割引率 (税引き前の加重平均資本コスト) に合わせた値だ。この値を算定した際の借り入れの金利 (他人資本コスト) は0.98%で、2020年時点の過去10年の平均金利だった。
その後、金利は上昇した。日銀の貸出約定平均金利は2025年度の平均で1.51%と、0.98%より約0.5ポイント高い。資料は、基準を5%に据え置けば事業者の実質的な収益性が下がり、応札が難しくなるおそれがあると指摘した。このため国は第4回の入札から基準を5.5%とし、電源ごとに4.5〜6.5%とした。供給力の提供を始める期限が5年未満の区分に入る蓄電池の上限は、4%から4.5%に上がる。審議会では当初、2025年の平均金利1.41%をもとに0.4ポイント上乗せする案が示された。委員から金利がさらに上がっているとの意見が出たため、算定に使う金利を2025年度平均の1.51%に改めた。この金利は2026年3月には1.885%まで上がった。第5回の入札以降も、毎年の金利の変動を反映して基準を決める。
落札した後の見直しもある。落札者は応札時に、収入の補正の方法を選ぶ。金利による補正を選ぶと、資本コストにあたる部分 (資料では事業報酬) が毎年度、日銀の貸出約定平均金利 (新規・長期の年平均) に合わせて見直される。第4回の場合、補正する年度の前年の金利から入札年度の前年の金利を引いた差を5.5%に足し、それを5.5%で割った比率を事業報酬に掛ける。金利が上がれば、翌年度以降の収入も増える。
3グループの蓄電所は、長期脱炭素電源オークションの参加条件に届かない
この見直しを受けられるのは、長期脱炭素電源オークションで落札し、金利による補正を選んだ電源に限られる。電力広域的運営推進機関の2026年度の募集要綱 (2026年9月2日) によると、参加できる蓄電池は、送電端で3万キロワット以上、1日1回以上・連続6時間以上運転でき、連続して発電できる時間の年平均も6時間以上の設備に限られる。2025年度の第3回と同じ条件だ。
3グループの系統用蓄電所は、出力が1,990〜2,000キロワット、放電できる時間が約4時間だ。出力は条件の3万キロワットの15分の1、放電時間は6時間の約7割にとどまる。3万キロワットで6時間放電すると18万キロワット時となり、宍道の8,226キロワット時の21.9倍にあたる。高圧の配電線につなぐ規模の蓄電所は、制度上、長期脱炭素電源オークションに参加できない。
3グループが収入源に挙げる容量市場は、これとは別の入札だ。メインオークションには期待容量1,000キロワット以上で参加できる。蓄電池の期待容量は、設備の出力に連続して放電できる時間で決まる係数を掛けた値で、2,000キロワットがそのまま算入されるわけではない。取引は1年単位で、金利に応じた補正はない。運用を委ねる契約の条件は明らかにされておらず、発表資料にも金利の変動に合わせて収入を見直す仕組みは示されていない。3つの地銀グループは、融資とは収益の構造がまったく異なる事業を、長期脱炭素電源オークションの対象外となる規模で始めた。
0.25ポイントの利上げの負担は、同規模の蓄電所の想定売上高の1%未満と推定
では、収入で取り戻せない金利上昇の負担はどの程度か。3グループとも建設費と借り入れの条件 (金額、期間、固定か変動か、貸し手) を公表していないため、編集部は国の資料の数字をもとに試算した。経済産業省の定置用蓄電システム普及拡大検討会のとりまとめによると、国の補助事業での系統用蓄電システムの価格は、2024年度の見積額をもとにした推計で1キロワット時あたり6.8万円 (機器5.4万円、工事費1.4万円) だった。宍道の容量8,226キロワット時に掛けると、約5億5,900万円になる。
| 試算の前提と結果 | 金額 |
|---|---|
| 建設費の推定 (8,226キロワット時×6.8万円) | 約5億5,900万円 |
| 金利の0.25ポイント上昇による利払いの増加 (全額を変動金利で借りた場合、年) | 約140万円 |
| 金利の0.53ポイント上昇 (0.98%と1.51%の差) による利払いの増加 (同、年) | 約300万円 |
| 同規模の蓄電所の想定売上高 (JALCOホールディングス、参入前の想定、年) | 2億〜3億円 |
全額を短期プライムレートに連動する変動金利で借りたと仮定すると、0.25ポイントの利上げで利払いは年約140万円増える。JALCOホールディングスが同規模の蓄電所で見込む年2億〜3億円の売上高の0.5〜0.7%にあたる。国が見直しで比べた0.98%と1.51%の差 (0.53ポイント) では年約300万円で、売上高の1.0〜1.5%になる。いずれも売上高に対する比率で、利益に対する比率はこれより大きい。6.8万円は海外製の電池を含む平均だ。同じ検討会は、容量が大きくなるにつれて1キロワット時あたりの価格は下がる傾向があるとしている。国内メーカーのパワーエックスが岡山県玉野市で製造する蓄電システムを使い、容量が約8メガワット時の板野と宍道は、単価が平均より高い可能性がある。土地や系統への接続、受変電設備の費用も含まないため、実際の建設費と利払いの増加はこの試算より大きくなりうる。逆に自己資金や固定金利で賄えば、当面の増加は小さい。
制度上、3カ所には金利の上昇分を収入の増加で補う仕組みがない。それでも0.25ポイントの利上げの負担は、試算では想定売上高の1%に満たない。一方、JALCOホールディングスの想定売上高は2億〜3億円と1億円の幅があり、市場価格や運用方針で収入は大きく変わる。地銀グループにとって大きいのは、金利の変動リスクよりも、電力の市場価格や運用の方針で収入が上下するリスクとみられる。銀行はこれまで、融資の審査で借り手の電力事業の価格変動リスクを見積もってきた。今後は自社グループでそのリスクを負う。
千葉銀行と徳島大正銀行は地域の脱炭素を目的に掲げる、運用実績は2027年以降
千葉銀行と徳島大正銀行は、収益源の多様化を目的とは説明していない。千葉銀行は、「地域まるごとGX」の実現に向けて地域の脱炭素化と電力系統の安定化に貢献することを目的に掲げる。GX (グリーントランスフォーメーション) は、化石燃料中心の経済・社会をクリーンエネルギー中心に移す取り組みを指す。天野社長は、今回の事業を「単なる収益追求ではなく、地域インフラを整備するための重要なステップ」と位置づけた。ちゅうぎんフィナンシャルグループは2022年の開示で、業務の幅を広げ、地域の脱炭素化を通じて顧客の経営課題の解決や本業の支援に取り組むことを目的に挙げた。ちゅうぎんエナジーとパワーエックスは販売・運用契約と同時に、蓄電池を使って再生可能エネルギーの電力を地域内で使う仕組みを共同で進める基本合意書も結んだ。
施工を担ったグリーンエナジー&カンパニーの鈴江崇文社長は、徳島大正銀行グループが「先行データが少ないこの事業に自らリスクを取り挑戦された」と述べた。グリーンエナジー&カンパニーは、蓄電所事業に参入した理由に「ストレージパリティ」の到来を挙げる。ストレージパリティは、蓄電池の導入費用が下がり、電気をためて使う費用が買う費用と同じか下回る状態を指す。同社グループは2026年7月時点で系統用蓄電所を9カ所で稼働させ、20カ所の開設を予定している。ほかに100カ所以上で開発を進めている。
3カ所の運用実績が出そろうのは、いすみの蓄電所が稼働する2027年4月以降になる。千葉銀行、徳島大正銀行、ちゅうぎんフィナンシャルグループの蓄電所は、いずれも出力約2,000キロワット・放電時間約4時間と高圧の上限に近い規模で、長期脱炭素電源オークションの参加条件を満たさない。収入は電力市場での運用で決まり、0.25ポイントの利上げの負担は想定売上高の1%未満と推定される。3つの地銀グループは、利ざやで稼ぐ本業とは別に、電力価格の変動リスクを自ら負う事業に乗り出した。
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