8月31日に3社が出した蓄電所の開示は、どれも動き出した話に見えて中身が違う。個人集計の一覧41社を全行転記し、55件の一次資料と4つの公的データで金額と日付を裏付けた。差を作るのは設備の大きさではなく開示の書き方である。

電力会社の送電網に直接つないだ大型の蓄電池、すなわち系統用蓄電所のうち、稼働中の設備に一次資料で名前が出る上場企業を蓄電容量の多い順に並べた個人集計 (蓄電池おじさん調べ、2026年9月6日時点) が投資家の間で回っている。家庭用と自家消費用は対象外で、共同事業は出資者全員に設備全量を計上する按分なしの方式である。本誌はこの41社の一覧を全行転記したうえで、集計者が示した出典①〜⑪の55件をすべて取得し、金額・出力・容量・日付を突き合わせた。さらに金融庁の EDINET で12社の有価証券報告書、財務省の法人企業統計 (e-Stat)、米証券取引委員会 (SEC) の提出書類、セントルイス連銀の FRED を当て、蓄電所が「いくらで買われ、いくら稼ぎ、いつ収益に乗るか」を実額で追った。

41社の一覧を全行転記する ― 首位113MWhから容量非公表の4社まで

一覧の首位はオリックス (8591) と関西電力 (9503) の113MWhで、両社が折半出資する紀の川蓄電所 (和歌山県紀の川市、定格出力48MW・定格容量113MWh、2024年12月1日商業運転) の全量が双方に計上されている。3位は ENEOS ホールディングス (5020) の88MWh (室蘭、50MW/88MWh)、4位はサーラコーポレーション (2734) の77.12MWh (浜松 69.6MWh と東三河 7.52MWh の2件)、5位は東邦ガス (9533) の69.6MWh (津、11,400kW/69,600kWh) と続く。

系統用蓄電所に名前が出る上場企業41社の一覧 (稼働中設備の蓄電容量・企業別合算)
系統用蓄電所に名前が出る上場企業41社の一覧 (稼働中設備の蓄電容量・企業別合算)

6位は姫路蓄電所 (15MW/48MWh) の出資3社、レノバ (9519、48MWh+非公表分)・出光興産 (5019)・長瀬産業 (8012) が48MWhで並ぶ。9位の東京センチュリー (8439) は39.546MWhで、J&S蓄電合同会社の8.4MWh、千里蓄電所の23MWh、岩手北上蓄電所の8.146MWhの3件を足した値である。10位の四国電力 (9507) は松山蓄電所の35.8MWh、11位のヒューリック (3003) はブルースカイエナジーと開発した4拠点 (姫路市・みやき町・大崎市・中津市、各8MWh) の32MWh、12位の大阪ガス (9532) は千里の23MWhと武雄の8MWhで31MWh、13位のみずほリース (8425) は東北電力との3拠点22.32MWhに武雄8MWhを加えた30.32MWhである。

14位以下は2MW/8MWh級の高圧案件を複数持つ会社が並ぶ。ミツウロコグループホールディングス (8131) は4件で27.808MWh、リミックスポイント (3825) は3件で24.438MWh (各1,998kW/8,146kWh)、JALCOホールディングス (6625) は3件で24MWh、ポート (7047) は3件で約24MWh、住友商事 (8053) は千歳の23MWhに川尻の非公表分、伊藤忠商事 (8001) は千里の23MWh、東北電力 (9506) は3件で22.32MWh、JFEホールディングス (5411) は2件で16.4MWh、NTT (9432) は香春町4.2MWhと函館8.226MWhで12.426MWh、豊田通商 (8015) はユーラスの香焼と白鳥で約9.68MWhである。

24位以下は1件保有の会社で、ファンタジスタ (fantasista、1783) とグリーンビー (GreenBee、3913) が8.14MWh、バードマン (Birdman、7063) とイーレックス (9517) が8.128MWh、ADワークスグループ (2982) が約8MWh+非公表分、環境フレンドリーホールディングス (3777)・クラダシ (5884)・丸紅 (8002) が8MWh、芙蓉総合リース (8424) が7.834MWh、石油資源開発 (1662) が約6MWh、KDDI (9433) が5.608MWh、三菱商事 (8058) と九州電力 (9508) が香春町の4.2MWh、東急建設 (1720) が相模原の4.064MWhと続く。順位なしの容量非公表はクラフティア (1959、旧九電工)、多摩川ホールディングス (6838)、シーラホールディングス (8887)、JR九州 (9142) の4社である。

集計者は6つの注記を付けている。稼働中は商業運転・電力市場での取引開始を一次ソースで確認できたもので受電開始・系統連系のみは含まない、共同事業は出資者・事業者に全量を計上し設計施工・機器供給のみは計上しない、容量が非公表か一次ソースで確認できない設備は合算に含まない、件数は事業案件ベースで系統直結の大規模蓄電池のみ、*印は運転開始が事業者の事前告知ベースで開始後の発表は未確認、出典は各社開示と報道、である。*印はオリックス・関西電力・東邦ガス・住友商事・ADワークスグループの5社に付く。

本誌が同じ55件を1か所1回だけ数え直すと、容量が資料にある48設備の合計は約767MWhで、紀の川・室蘭・浜松・津の4か所で340MWh (44%) を占める。2MW/8MWh級の高圧案件は32か所あるが容量の合計は全体の33%にとどまる。上場企業の顔ぶれは2MW級の小口で増え、容量は大手電力とガス・リースの特別高圧案件に集まっている。

受電開始と需給調整市場 ― 2つの用語と5つの段階

集計者は用語を2つ潰している。受電開始 (系統連系) は蓄電所を送電網につないで電気を受けられる状態にすること、需給調整市場は蓄電所が調整力を出して稼ぐ電力市場のことで、JALCOの開示はここを「主な収益源」と書き、卸電力市場と容量市場を「補完的な収益機会」としている。

本誌はこれを5段階に広げた。契約・取得、建設・竣工、系統連系・受電、卸電力市場での運用、需給調整市場での取引である。収益はこの順に、なしから減価償却の開始、卸電力市場の値差 (基礎収益)、調整力ΔkWの提供 (主な収益源)、そして2030年度以降の容量市場へと厚みを増す。JALCOの7月31日開示は、需給調整市場の調整力提供収益を主とし、卸電力市場の時間帯差を使う充放電収益と容量市場の供給力提供収益を補完と位置づけたうえで、「蓄電池及び PCS の設備仕様、入札状況、市場価格、稼働状況、アグリゲーターによる運用方針並びに需給調整市場における制度及び上限価格等により変動する」と断っている。

同じ8月31日の開示を5段階に置いた多摩川HD・ADワークス・JALCOの位置
同じ8月31日の開示を5段階に置いた多摩川HD・ADワークス・JALCOの位置

多摩川ホールディングス ― 引渡しと運転開始は過去形、容量は「約8MW」

多摩川ホールディングス (東証スタンダード、6838) は2026年8月31日、子会社の多摩川エナジーが取得を進めていた福岡県みやま市瀬高町の系統用蓄電所について、同日付で引渡しが完了し同日運転を開始したと開示した。開示は蓄電池出力約2MW、蓄電池容量約8MW、連系日2026年7月1日、運転開始日と引渡日をいずれも8月31日とし、今後は需給調整市場への参入に必要な各種手続きと審査を進め早期の同市場での稼働を目指すと書く。5月25日の取得開示も蓄電池容量を約8MWと記載していた。集計者はMWhではなくMWと書かれた容量を数字に入れず非公表扱いで並べており、本誌の突合でも両開示に MWh の表記はない。

5月25日開示には数字が2つ載る。取得価額は約6.84億円、資金計画は自己資金 (8月31日開示では自己資金及び金融機関借入金) である。相手先は名古屋市東区の会社で、相手先の要請により純資産・総資産・大株主の公表は控えられた。同開示は「完成間近で2026年7月に系統連系を予定している系統用蓄電所」を早期の事業開始のために購入したと説明し、2025年12月4日公表の中期経営計画が2028年10月期の収益化を目標にしていたところ、本件取得で「2027年10月期の早期段階」にその収益化が視野に入ると書いた。同開示は蓄電所事業の水準として「内部収益率 (IRR) 10%以上」を業界の通り相場の形で引いており、自社の試算値は示していない。

財務の物差しを当てると、同社の2025年10月期 (日本基準) は受注高57.87億円、売上高55.87億円、営業利益2.78億円、経常利益2.31億円、総資産112.76億円で、取得価額6.84億円は営業利益の2.5年分に当たる。2026年10月期は IFRS へ移行し、売上高62.7億円、事業利益3.69億円を予想する。同社の中計資料は政府見通しとして「系統用蓄電池は2030年に累計14.1〜23.8GWh程度、2024年3月末比4.3〜7.2倍」を引き、2024年3月末の接続契約が2023年5月末比3倍 (1.12GWh→3.31GWh) に増えた点を成長の根拠に置く。同社は2025年10月に蓄電所建設を目的に事業用地・発電権利を購入する一方、自社で使う計画のない蓄電所の事業用地・発電権利を他社へ複数売却しており、蓄電所は保有だけでなく権利の売買でも稼ぐ事業になっている。

ADワークスグループ ― 竣工は過去形、市場は11月末の予定形

ADワークスグループ (東証プライム、2982) は同日、子会社エー・ディー・ワークスが熊本県益城町で開発してきた第2号「ADW熊本益城町蓄電所」が竣工し引渡しを受けたと発表した。出力/容量は約2MW/約8MWh、竣工・引渡日は8月31日で、電力系統への本連系と試運転は完了済み、卸電力市場での運用は「速やかに開始」、需給調整市場は事前審査完了済みで2026年11月末頃の運用開始 (予定) と記載する。設備は完成し、市場はこれからである。集計者はこの案件を*印にした。

第1号の「ADW三重松阪市蓄電所」(2MW/8MWh) は3月31日に本連系を完了して稼働を開始し、6月に需給調整市場の一次調整力へ参入した。同社は蓄電所事業を「2034年に税前利益200億円」のビジョンを後押しする新規事業と位置づけ、2026年内に累計10拠点の確保を目標に熊本・宮崎・鹿児島で用地を取得している。8月31日の発表は、第1号の稼働状況を受けて累計取得目標を10か所から15か所へ拡大するとした。開発中の6か所を含めれば、益城の次は九州に集中する。

有価証券報告書 (2025年12月期、S100XS5K) では売上高675.3億円、営業利益49.9億円、純利益33.2億円、長期借入金380.1億円、自己資本比率28.5%で、本業は収益不動産の販売と賃貸である。2MW/8MWh級を1か所7億円前後 (多摩川HDの取得価額を物差しにした概算) とすれば15か所で約100億円で、同社の長期借入380億円の4分の1に相当する。

JALCOホールディングス ― 11件・約90MWhの台帳と、市場に出た3件

JALCOホールディングス (東証スタンダード、6625) の開示が一番奥まで進んでいた。同社は8月31日、島根県雲南市木次町の高圧系統用蓄電所 (出力1.99MW、容量8.14MWh) を取得し、保有・契約・出資を通じて関与する系統用蓄電所が11件、全体容量が合計約90MWhになったと開示した。同日現在で需給調整市場の取引を開始しているのは計3件で、7月31日に取得した長野県小布施町 (2MW/8MWh、需給調整市場参加は2026年5月) に加え、6月30日の匿名組合出資案件のうち愛知県知多郡阿久比町と三重県志摩市が取引を始めた。雲南は第14回無担保普通社債 (8月21日開示) で調達した資金を充て、需給調整市場への参入は2027年8月の予定である。

JALCOが関与する11件の台帳 (取得日・所在地・持分・ステータス・受電・市場参入予定)
JALCOが関与する11件の台帳 (取得日・所在地・持分・ステータス・受電・市場参入予定)

同社の一覧は各案件を「契約済」「建設中」「受電開始」「需給調整市場取引開始」の4区分に分け、最後の区分を「需給調整市場への入札その他の電力市場における取引を開始し、蓄電所として商業運転を行っている段階」と自ら定義する。一覧で目を引くのは待ちの列である。栃木県小山市は2026年2月に受電が済んでいるのに8月31日時点でも「受電開始」にとどまり、後から受電した阿久比・志摩 (いずれも4月) が先に市場へ入った。同社は各務原市と田原市を10月、男鹿市を11月、成田市を2027年1月に参入させる予定で、予定どおりなら2027年1月までに7件が需給調整市場で取引する体制になる。小山の参入時期は8月31日の開示に記載がない。

金額の開示は3つある。小布施は中部エリアの市場環境を前提とした試算で年約2.4億円の収益、雲南は参入後の通期稼働で売上高2〜3億円、既存蓄電所は2027年3月期に売上高約5億円で、いずれも7月31日公表の通期業績予想の上方修正に織り込み済みである。取得価額はいずれも取引の相手先との守秘義務で非公表、第1号の成田 (1.970MW(AC)/8.14MWh(DC)、2025年12月5日開示) は前期末純資産の30%未満と記載され、電池は寧徳時代新能源科技、設備供給から施工・運用支援までを陶科能源 (TAOKE ENERGY) が担う。

一覧の全体容量約90MWhは設備全量である。持分比率 (成田・小布施・雲南100%、杵築・日田70%、6月30日の6件は25%) を掛けた持分容量は約48.7MWhで、集計者の24MWhは市場取引を始めた3件を按分なしで数えた値である。有価証券報告書 (2026年3月期、S100YKK9) では売上高170.0億円に対し設備投資191.3億円が上回り、有利子負債は長期借入527.9億円・短期借入57.8億円・社債23.1億円の計608.8億円、自己資本比率20.6%、総資産917億円である。本業は貸金業と不動産賃貸で、蓄電所は無担保社債と匿名組合の持分25%で件数を積む設計になっている。

リミックスポイント ― 受電から市場参入までの日数が縮んだ

一覧15位のリミックスポイントは8月31日の3社ではないが、開示の細かさで JALCO と並ぶ。8月12日の決算説明資料は自社保有蓄電所を10か所 (合計出力20MW/容量80MWh)、受電開始済み5か所、需給調整市場参入済み2か所とし、参入後の月間収益見込を「約2,000万円/1拠点 (出力約2MW/容量約8MWh規模の施設の場合)」と書く。年換算2.4億円で、JALCOの小布施の試算と同じ額になる。8月19日には熊本県玉名市の「NC玉名市青野蓄電所」(1,998kW/8,146kWh) が3か所目として需給調整市場に入り、2027年3月期の蓄電ソリューション事業予想 (セグメント売上高70.45億円・利益10.02億円) に月約20百万円の見込売上高を算入した。

日付を並べると受電から参入までの日数が見える。玉名は受電3月5日・参入8月19日で167日、上愛子 (仙台市) は4月1日・6月23日で83日、白河は6月24日・7月17日で23日である。事前審査と試験運用の段取りが2回目以降で短くなったことを、同社の3件は示している。同社は中期経営計画で2029年3月期までに高圧系統用蓄電所32か所の開発と20か所以上の自社保有を掲げ、日本蓄電池との共同開発7か所に加え島根県大田市を8月末に取得予定 (8月12日時点)、2030年からは容量市場にも参加する予定である。

出典55件の台帳 ― 大型4か所と2MW級32か所

本誌は集計者の出典55件を全件取得し、名称・事業者・出力/容量・運転開始・資料の付記を1枚に転記した。ローカルからは名前解決できない15件を本番サーバーから取得し、適時開示の PDF は本文を抽出して数字を拾った。

出典55件の設備台帳 (名称・事業者・出力/容量・運転開始・一次資料の金額)
出典55件の設備台帳 (名称・事業者・出力/容量・運転開始・一次資料の金額)

大型は4か所である。紀の川はリチウムイオン電池コンテナ64台で48MW/113MWh、関西電力オリックスの折半出資で、運用はE-Flow合同会社が担う。室蘭は ENEOS パワーの系統用50MW/88MWhで2024年3月に商業運転を始め、令和3年度補正の補助事業である。同社は千葉に100MW/202MWhを建設中 (2024年6月時点) で、こちらが動けば ENEOS は首位に立つ。浜松は日本ガイシ製 NAS 電池コンテナ48台で11,400kW/69,600kWh、報道によれば投資額約40億円のうち補助金12億円で、2025年10月15日に開所式を開いた。津は同じく NAS 電池で11,400kW/69,600kWh、令和3年度補正の補助を使い2025年5月15日に運用を始めた。

中型は姫路 (15MW/48MWh、出光興産51%・レノバ22%・長瀬産業22%・SMFLみらいパートナーズ5%、兵庫製油所跡地)、松山 (12MW/35.8MWh、四国電力とCHCジャパンの松山みかんエナジー合同会社、松山太陽光発電所に隣接)、千里 (11MW/23MWh、伊藤忠商事大阪ガス東京センチュリー、千里供給所内、2023年4月の補助採択)、千歳 (6MW/23MWh、住友商事、日産系フォーアールエナジーの中古EV電池) の4か所である。千歳は中古の EV 電池を定置用に転用した国内で唯一の系統用案件で、集計者は住友商事に*印を付けている。

2MW級は32か所で、出力は1,998〜1,999kW (高圧2MW未満の区分に合わせた値) か2MW、容量は7,403〜8,226kWhに集まる。東北電力みずほリース (エムエル・パワー) の3拠点はGSユアサ製の弥藤吾 (1.96MW/7.46MWh、2025年3月4日)、韮塚 (1.96MW/7.46MWh) と PowerX 製の小角田 (1.99MW/7,403kWh、いずれも6月30日) で、坂東蓄電所1合同会社が保有する。ポートは群馬の3か所 (伊勢崎第一 2025年6月10日、太田 6月18日、伊勢崎第二 10月16日) に約10億円を投じた。KDDI は小山ネットワークセンター構内に1,999kW/5,608kWh、石油資源開発は技術研究所構内に1,999kW/約6,000kWh、東急建設は相模原工場内に1,999kW/4,064kWhを置いており、自社施設の敷地と受変電設備を使う案件が並ぶ。ユーラス (豊田通商) の長崎香焼は出力約2,000kW・蓄電容量 (初年度) 約5,100kWhで運転期間20年 (2023年10月〜2043年9月)、白鳥は1,500kW/4,580kWhである。

容量非公表は7か所で、クラフティアの上州太田3案件 (各2MW、しろくま電力の電池システム)、レノバの安来 (市場運用を内製化、2030年に設備容量0.9GWの中計目標)、シーラソーラー (香川銀行の融資)、JR九州と住友商事の川尻、多摩川HDのみやまである。集計者が「一次ソースで確認できない設備は合算に含まない」とした線引きは、レノバの48MWh+非公表分や住友商事の23MWh+非公表分にそのまま表れている。

需給調整市場の上限価格は19.51円から10円へ ― 制度の数字

蓄電所の収益を決める制度の数字は2026年に大きく動いた。資源エネルギー庁の5月13日資料によると、需給調整市場は3月13日の前日取引化に合わせ、一次調整力・二次調整力①・複合商品の募集量を3σ相当量から1σ相当量へ減らし、上限価格を19.51円/ΔkW・30分から15円へ引き下げた。競争状況に善が見られない場合は10円、7.21円と段階的に引き下げる措置も同時に決まっていた。7月14日の第4回電力安定供給ワーキンググループはその後の実績を検証し、9月1日から一次・二次①・複合商品の上限を10円へ下げた。7.21円への引き下げは投資の予見性を保つために見送られ、三次調整力①と二次調整力②は7.21円のまま、三次調整力②は上限価格の設定がなく別枠で調達される。

需給調整市場の上限価格、容量市場、卸電力市場、系統接続の待ち行列
需給調整市場の上限価格、容量市場、卸電力市場、系統接続の待ち行列

7月14日資料は応札の中身も示す。複合商品の応札は前日取引化前で7円以下が92.7%、10円以下が95.7%を占め、14円を超える応札の内訳は蓄電池が84.4%、火力14.3%、VPP/DR 1.3%だった。蓄電池の応札量は継続的に増え、応札単価は前日取引化後に上がった。同資料は蓄電池について「固定費の占める割合が大きいこと、特に償却期間を短く設定している場合には、当該年度の減価償却費」を応札価格に乗せる構造を指摘しており、上限価格の引き下げは償却を急ぐ事業者ほど効く。複合商品の不足率は前日取引化前の14.6%から直近 (6月6日〜7月3日) の5.3%へ改善した。

他の2市場は逆に上がった。容量市場の2029年度向けメインオークション (2026年1月20日公表) は経過措置考慮後の約定総額が約2兆2,094億円 (前年比19%増) と過去最高、総平均単価は約13,303円/kWで、北海道14,972円、東北・東京15,111円、九州15,112円と第1回を除き初めて全エリアで指標価格を超えた。卸電力市場 (JEPX) のシステムプライスは2026年4月1日〜8月2日の平均が15.51円/kWhで前年同期の10.63円から46%上がった。長期脱炭素電源オークションの2025年度分 (5月13日公表) は蓄電池の応札が7GWから2.7GWへ6割超減り、落札は1.37GWから1.25GWに減った。落札には揚水の京極3号 (185,889kW) やCHCジャパンの益田市蓄電所が入った。

系統接続の待ち行列はさらに長い。系統用蓄電池の契約申込は2025年9月30日時点で約2,400万kW (前年比3.9倍)、2025年12月時点で連系済み約64万kW、契約申込約3,000万kW、接続検討約1億7,200万kWである。2026年4月に保証金が増額され、8月に接続検討の件数上限が設けられ、6月1日に電力広域的運営推進機関が手続きを更新した。連系済み64万kWに対し契約申込3,000万kWは47倍で、一覧の41社は列の先頭に立つ少数派である。政府見通しの2030年累計14.1〜23.8GWhに対し、本誌の台帳合計約0.77GWhは下限の5%に当たる。

いくらで買い、いくら稼ぐか ― 1kWh当たりと上限価格からの計算

各社の開示値を1kWh当たりに揃えると、みやま (多摩川HD) は取得価額6.84億円÷8,000kWhで約8.6万円、浜松 (サーラ) は投資額40億円÷69,600kWhで約5.7万円、補助12億円を引けば約4.0万円、ポートの群馬3か所は10億円÷約24,000kWhで約4.2万円、クラダシの栃木小山はリコーリースのプロジェクトファイナンス2.9億円 (借入分のみ) で約3.6万円、グリーンビー (GreenBee) の穂浪第2は中間期に増えた有形固定資産5.89億円÷8,140kWhで約7.2万円である。経済産業省の令和8年度概算要求 (472億円) の例示は10MWhの総額6.8億円 (6.8万円/kWh) を補助率3分の2で実質2.3億円に圧縮する。補助が付く案件と付かない案件で、1kWh当たりの自己負担は3倍以上開く。

取得価額・投資額・収益試算の1kWh当たり比較と、上限価格での理論上限
取得価額・投資額・収益試算の1kWh当たり比較と、上限価格での理論上限

収益側は2MW/8MWh級1か所で年約2.4億円 (JALCO小布施の試算、リミックスポイントの月2,000万円) が2社で一致する。本誌はこの数字を上限価格で計算し直した。三次調整力②以外の商品で2,000ΔkWを1日48コマ・365日すべて上限価格で約定させた理論上限は、19.51円で6.84億円、15円で5.26億円、10円で3.50億円、7.21円で2.53億円になる。2.4億円は15円上限の46%、10円上限の68%、7.21円なら95%に当たる。9月1日以降の10円の下では、上限に張り付いた応札が約定し続けても、卸電力市場の値差収益 (システムプライス15.51円/kWh) と2030年度以降の容量市場 (13,303円/kW×2,000kWで年約2,660万円) を足さなければ2.4億円に届きにくい。JALCOの開示が「上限価格等により変動する可能性がある」と断ったのは、この計算のことである。

取得価額6.84億円を年2.4億円で割ると2.9年だが、これは費用控除前である。運用委託料、保守、固定資産税、借入金利 (米10年国債は9月3日に4.77%、日本の電気業の平均借入利率は後述の1.6%) を引くと、多摩川HDが引いた「IRR 10%以上」は上限価格15円の時代の数字に見える。補助金の側では、環境共創イニシアチブ (SII) の令和4年度補正から令和7年度までの交付決定が82件・907.6億円で、案件別の実額はこの交付決定一覧が唯一の源である。補助率3分の2の案件は1kWh当たり2万円台で設備を持てるため、補助の有無が回収年数を2倍以上変える。

有価証券報告書で見る12社の体力

EDINET で見る12社の売上高・営業利益・設備投資・有利子負債と稼働容量
EDINET で見る12社の売上高・営業利益・設備投資・有利子負債と稼働容量

EDINET の直近書類を並べると、蓄電所が財務に占める比率は会社の規模で桁が違う。JALCO は設備投資191.3億円が売上高170.0億円を上回り、有利子負債608.8億円は自己資本比率20.6%の下で総資産917億円の3分の2を占める。リミックスポイント (2026年3月期、S100YJHT) は売上高177.5億円、営業損失54.8億円、純損失47.4億円で、損失の大半は暗号資産の評価損 (第1四半期だけで19.4億円) であり、自己資本比率86.5%は暗号資産を含む純資産の厚さを映す。ポート (2026年3月期 IFRS、S100YDYD) は売上収益291.0億円、営業利益40.7億円、社債・借入113.1億円で、本業は新卒採用と電気・ガスの成約支援である。グリーンビー (2025年12月期、S100XT1W) は売上高9.6億円・営業利益1.7億円の会社が中間期に蓄電所へ5.89億円を投じ、長期借入を3億円増やした。

大手は蓄電所が誤差の範囲に入る。ヒューリック (2025年12月期、S100XR5L) は営業利益1,868億円、設備投資4,519億円、長期借入1兆3,980億円で、4拠点32MWhは年間設備投資の1%に満たない。東京センチュリー (2026年3月期、S100YDRI) は売上高1兆4,577億円、営業利益1,483億円で、蓄電池発電所の新設と運用を「中期経営計画2027」の成長戦略に掲げる。クラフティア (2026年3月期、S100YI0L) は売上高4,761億円・営業利益546億円、ミツウロコグループホールディングス (2026年3月期、S100YAZQ) は売上高3,395億円・営業利益123.7億円・設備投資103.7億円、サーラコーポレーション (2025年11月期、S100XL6L) は売上高2,515億円・営業利益73.8億円・設備投資122.0億円で、浜松の40億円は同社の年間設備投資の3分の1に当たる。レノバ (2026年3月期、S100YD7F) は売上収益876.2億円、営業利益82.8億円、社債・借入3,321.2億円で、蓄電事業の建設着手済み設備容量は260MW (2025年10月時点)、運転中・建設着手を含めて352MW、2030年の中計目標900MWの約4割である。同社は静岡県菊川市で90MW/270MWhの市場販売型蓄電所に約60億円のプロジェクトファイナンスを組んだ。

15社の信用残・貸借・空売り

蓄電所銘柄15社の信用取引残高・日証金貸借残・空売り残高報告
蓄電所銘柄15社の信用取引残高・日証金貸借残・空売り残高報告

株式需給を本誌データベースの4表 (東証の信用取引残高 8月28日、日本証券金融の貸借残 9月3日、JPX の空売り残高報告 9月1〜2日) で見ると、8月31日に開示を出した3社はいずれも信用買いが売りを大きく上回る。JALCO は買い残355.2万株・売り残47.5万株で7.5倍、日証金は融資と貸株が34.95万株ずつで差引ゼロ、空売り残高報告にモルガン・スタンレーMUFG証券が1.30%で載る。ADワークスグループは買い残252.3万株・売り残6.8万株で37倍、日証金は融資超過84.6万株、同証券が0.51%。多摩川HDは買い残97.3万株に対し売り残が100株で、空売り残高報告にはモルガン・スタンレーMUFG証券0.87%と野村インターナショナル0.62%の2社が並ぶ。リミックスポイントは買い残415.2万株・売り残2.7万株で155倍、日証金は融資超過48.9万株、同証券が1.20%で、暗号資産の値動きと連動する銘柄でもある。

一覧の上位で貸株超過なのは関西電力 (融資1.49万株・貸株6.57万株)、東邦ガス (融資0.69万株・貸株9.30万株、信用売り残は買い残の4.2倍)、ミツウロコ (売り残が買い残の8.2倍) の3社で、蓄電容量の順位と株式需給の向きは一致しない。レノバは買い残207.3万株・売り残42.3万株で、モルガン・スタンレーMUFG証券1.01%とメリルリンチ・インターナショナル0.74%が空売り残高を報告する。

米国の2社と日本の電気業 ― SEC・FRED・法人企業統計の物差し

テスラとフルエンスの提出書類、FRED の蓄電池 PPI と金利、法人企業統計の電気業
テスラとフルエンスの提出書類、FRED の蓄電池 PPI と金利、法人企業統計の電気業

SEC の提出書類で規模の差を置く。テスラ (TSLA) の2026年4〜6月期の蓄電設置量は13.5GWhで四半期記録、メガパックの工場はカリフォルニアと上海が各40GWh/年、テキサス州ブルックシャーの新工場は設計50GWh/年で2026年8月にメガパック3の生産を始めた。残存履行義務は100.5億ドル、2025年の売上高は948.3億ドルである。日本の系統用蓄電池の2030年見通し14.1〜23.8GWhは、テスラの1〜2四半期分の設置量に当たる。フルエンス・エナジー (FLNC) の2026年6月期 (第3四半期) は受注残64億ドル (四半期比14%増、前年比30%超増)、四半期受注14.4億ドル (前年同期5.09億ドル) の一方、新工場の生産遅れで2026年9月期の売上高予想を29〜31億ドル (中央値で4億ドル減) に下げ、データセンター向けの大型受注を初めて計上した。米国では設置量と受注が伸び、供給側の工場立ち上げが足かせになっている。

FRED の米国蓄電池製造の生産者物価指数 (NAICS 335911、鉛蓄電池を含む) は2019年1月の223.4から2026年7月の281.9へ26%上がった。日本の蓄電所が使うリン酸鉄リチウム (LFP) 系の容器価格は中国勢の増産で下がっており、この指数は国内製造の価格で輸入容器の価格ではない。金利は9月3日で米10年国債4.77%、30年5.25%、社債の上乗せ幅は AAA 0.44、投資適格0.81、BBB 1.00、ハイイールド2.65である。

日本側は財務省の法人企業統計 (e-Stat 表0003060191) で電気業の2026年4〜6月期を前年同期と比べた。営業利益は6,796億円から3,353億円へ51%減、支払利息等は1,313億円から1,878億円へ43%増、設備投資は7,796億円から9,218億円へ18%増、社債・長期借入・短期借入の合計は43.9兆円から46.4兆円へ増えた。全産業は営業利益が24%増、支払利息が28%増、設備投資が1.6%増で、電気業だけ利益が半減し投資と利払いが増えている。四半期利払い1,878億円を年率にすると7,500億円、有利子負債46.4兆円に対し平均1.6%で、大手電力が蓄電所に出す資本はこの利払いの増え方と営業利益の半減のなかで配分される。

2MW/8MWhの中身と調整力の商品 ― 技術の整理

蓄電所の構成要素と需給調整市場の商品区分 (応動時間・上限価格)
蓄電所の構成要素と需給調整市場の商品区分 (応動時間・上限価格)

蓄電所は電池セル、モジュールとラック、コンテナ、パワーコンディショナー (PCS)、変圧器・受変電設備、エネルギー管理システム (EMS) の6層で構成される。セルは280〜314Ah級のリン酸鉄リチウムが主流で、寧徳時代・EVE・BYD のほか GSユアサ (弥藤吾)、PowerX (小角田) が入り、浜松と津は日本ガイシのナトリウム硫黄 (NAS) 電池である。セルを直列・並列に組んで直流1,000〜1,500Vのラックにし、電池管理システム (BMS) がセル電圧と温度を監視する。20〜40フィートのコンテナ1台に2〜5MWhを収め、空調・消火・ガス検知を備える。紀の川は64台で113MWh、浜松は48台で69.6MWhである。

出力 (MW) と容量 (MWh) は別の量である。出力は PCS が直流と交流を変換できる速さで、蛇口の太さに当たる。容量は電池に貯められる電力量で、タンクの大きさに当たる。2MW/8MWhは満充電から4時間で放電できる設計で、放電率 (Cレート) は0.25Cである。1,999kWや1,998kWという出力は高圧2MW未満の接続区分に合わせた値で、受変電設備と接続検討の費用を抑える。多摩川HDの「蓄電池容量約8MW」は単位の取り違えで、2MWの出力に対し8MWhなら4時間率になるが、開示にその1文字がないため集計者は容量非公表に落とした。

需給調整市場は応動の速さで商品が分かれる。一次調整力は応動10秒以内・継続5分で周波数の瞬時変動に応じ、二次調整力①は5分以内・30分、二次調整力②は5分以内・30分、三次調整力①は15分以内、三次調整力②は45〜60分以内で再生可能エネルギーの予測誤差に対応し、一次〜三次①の要件を満たす電源は複合商品として同時に応札できる。蓄電池は充電状態 (SOC) を中間に保てば上げと下げの両方向に数百ミリ秒で応じられるため一次・二次に向き、ミツウロコ田原は三次②と三次①、ADワークス松阪は一次、グリーンビー穂浪は一次を中国電力ネットワークのエリアで提供する。市場入札と充放電計画は EMS とアグリゲーターが担い、E-Flow (紀の川、相模原、ファンタジスタ)、日本工営エナジーソリューションズ (ミツウロコ)、陶科能源 (JALCO、岩手北上)、しろくま電力 (クラフティア) が名を連ねる。

容量は初年度の値で書かれる。長崎香焼の「蓄電容量 (初年度) 約5,100kWh」と運転期間20年の記載がその例で、LFP は1日1サイクルで年1〜2%の劣化が典型であり、20年で容量保証の下限 (60〜70%) に近づく。一覧の8MWhは初年度の値で並んでおり、2023年運転の設備と2026年運転の設備を同じ8MWhで比べている点は、容量順位を読むときの注意である。

次に「稼働開始」の見出しを見たら

集計者の助言は「本文のどこが過去形になっているか探す」である。建った話 (竣工・引渡し)、つないだ話 (連系・受電)、売り始めた話 (卸電力市場の運用、需給調整市場の取引) の3つは別の動詞で書かれ、8月31日の3社はそこが全部違った。本誌の突合で加わる読み方は3つある。

  • 容量の単位と持分比率を確かめる。MW と MWh の1文字、按分の有無、匿名組合の25%で、同じ「8MWh」が会社の帳簿に乗る額は4倍違う。
  • 受電日と参入日の間隔を記録する。JALCO 小山の2月受電・8月末未参入、リミックスポイントの167日→83日→23日は、案件ごとの審査の待ち行列を示す唯一の公開データである。
  • 収益試算の前提を上限価格で割り戻す。年2.4億円は15円上限の46%で、9月1日以降の10円では卸電力市場と容量市場を足す前提になる。

次の日付は決まっている。JALCO の各務原・田原は10月、男鹿は11月、ADワークス益城は11月末、リミックスポイントの大田は8月末取得予定、JALCO 成田は2027年1月、雲南は2027年8月に需給調整市場へ入る予定で、多摩川HDのみやまは手続きと審査の段階にある。上限価格10円の下での初めての通期は2027年3月期で、JALCO が見込む既存蓄電所の売上高約5億円と有利子負債608.8億円の比率、リミックスポイントの月2,000万円という前提が、そのときの決算で試される。