契約は取れた。では、いつ採算に乗るのか。有価証券報告書の実額で逆算すると、装備庁が示した上限の50機で営業損失を消すには1機あたり4,576万円が要る。安く撃ち落とすための器材としては高すぎる。

防衛装備庁が2026年8月25日にTerra DroneTerraB1の量産調達契約を結んだ経緯、公募から契約までの日数、対処目標に名指しされたシャヘド型、提案の条件に置かれた技術情報の開示については前稿で追った。本稿が扱うのはその先である。契約金額も調達数量もTerraB1の性能も公表されていないなかで、受注した会社の採算がどこで動くのか、動かないとすれば何が足りないのかを、有価証券報告書と装備庁の公募資料の数字だけで組み立てる。使ったのは金融庁のEDINET、米証券取引委員会のEDGAR、総務省の科学技術研究調査、そしてセントルイス連邦準備銀行の実測である。

50機で損失を消すなら、1機あたり4,576万円が要る

装備庁は公募資料で、予算規模を10機、20機、30機、40機、50機の刻みで提案するよう求めた。この5段階が、現時点で公にされている唯一の数量の手がかりである。契約の金額と実際の機数は公表されていない。

営業損失11億4,379万円を埋めるのに必要な売上と、1機あたりの逆算
営業損失11億4,379万円を埋めるのに必要な売上と、1機あたりの逆算

Terra Droneの2026年1月期の連結営業損失は11億4,379万円だった。この損失を営業黒字に戻すのに必要な追加売上は、粗利率を50%と置けば22億8,760万円、40%なら28億5,948万円、30%なら38億1,264万円になる。同期の年間売上47億8,259万円に対し、それぞれ47.8%、59.8%、79.7%にあたる。装備庁の上限である50機でこれを賄うとすると、1機あたり4,576万円から7,625万円が必要になる。10機なら1機あたり2億2,876万円から3億8,126万円である。

この金額は、迎撃ドローンという器材の設計思想と噛み合わない。迎撃ドローンが必要とされているのは、安い自爆型無人機が大量に飛んでくる事態に、釣り合う費用で対抗するためである。迎える側の1機が数千万円になれば、攻める側より高くつく構図が生まれ、装備として選ばれる理由そのものが薄れる。つまり今回の契約は、単体でTerra Droneの採算を動かす規模には収まらない公算が大きい。採算に効く可能性があるのは、航空自衛隊と陸上自衛隊への展開、そして納品後の整備・補給と教育の役務である。装備庁は公募の段階で「納品後の整備・補給、教育等の態勢提案」を求めており、器材の売り切りではなく継続的な役務を前提に設計されている。

損失の6割は、防衛とは別のところで出ている

採算を読むときに見落とせないのが、損失の出どころである。Terra Droneの報告セグメントは2つで、産業用ドローンによる測量・点検などを担うドローンソリューションと、無人機の運航管理システムを開発する運航管理に分かれる。

2026年1月期の内訳は、ドローンソリューションが売上高41億6,266万円に対しセグメント損失4億3,459万円、運航管理が売上高6億1,992万円に対しセグメント損失7億919万円だった。運航管理は売上を上回る損失を出しており、その額は連結の営業損失11億4,379万円の62.0%を占める。しかも運航管理の売上は前期の6億2,832万円から1.3%減っている。前期のセグメント損失は4億3,275万円だったから、減収のまま損失だけが1.6倍に膨らんだことになる。

迎撃ドローンの受注が乗るのはドローンソリューション側である。仮にこの部門が黒字化しても、運航管理が現状の水準で損失を出し続ける限り、連結の営業損益は7億円規模の重しを抱えたままになる。防衛の受注を材料に会社全体を評価すると、この構造を見落とす。

売上の伸び方も変わってきている。5期の推移は14億1,536万円、19億4,935万円、29億6,332万円、44億3,557万円、47億8,259万円で、直前の期は49.7%増だったのに対し、2026年1月期は7.8%増にとどまった。買収で規模を作る局面が一巡し、既存事業の成長で伸ばす局面に入ったところで伸び率が落ちている。

研究開発費146万9,000円という開示

有価証券報告書の研究開発活動の欄に記載された金額は、146万9,000円である。売上高47億8,259万円に対する比率は0.031%になる。

研究開発費146万9,000円の裏側、開発は費用ではなく資産に積まれている
研究開発費146万9,000円の裏側、開発は費用ではなく資産に積まれている

総務省の科学技術研究調査によると、2025年のソフトウェア業の売上高に対する内部使用研究費の比率は1.95%、情報通信業は1.40%だった。1組織あたりの内部使用研究費はソフトウェア業で4億4,318万円、情報通信業で5億2,928万円である。Terra Droneの0.031%はソフトウェア業の平均の63分の1にあたり、金額で見ると1組織あたりの平均の302分の1になる。

この数字だけを取り出すと開発をしていない会社に見えるが、実態は会計の置き場所の違いである。同社は前期に有形固定資産と無形固定資産を7億3,480万円増やしており、減価償却費は前期の3億3,011万円から当期5億2,729万円へ59.7%増えた。開発にかかった支出をその期の費用にせず資産に振り替えれば、当期の損益は軽くなる。負担は後の年度に減価償却として戻り、見込みが外れたときには減損として一度に出る。2026年1月期に計上した減損損失7億6,714万円は、この経路をたどった過去の投資が回収できないと判断された分にあたる。研究開発費の欄が小さいことと、減損が大きいことは、同じ一つの構造の表と裏である。

比較になるのが、同じ国産の産業用ドローンを手がけるACSLである。2025年12月期の研究開発費は13億1,932万円で、売上高25億9,873万円の50.8%を投じた。金額ではTerra Droneの898倍になる。ACSLは機体を自前で開発し、Terra Droneは買収した企業の技術とサービスを組み合わせて売上を作る。どちらが優れているという話ではなく、装備庁が提案の条件に置いた「官側へのシステムソフトウェア等の技術情報の開示、並びに装備品連携のための国内防衛産業への必要な情報の開示」に、どちらの型が応えやすいかという問いになる。開示できる中身を自前で持たない限り、二度目、三度目の受注では条件が重くなる。

なおACSL自身も採算は厳しく、2025年12月期の営業損失は18億4,040万円だった。前期の22億9,322万円からは改善しているが、自己資本比率は前期末の2.0%から増資を経て29.1%へ戻したところである。国産ドローンの2社は、いずれも防衛を追い風にしながら本業では損失を出している。

米国の先行例が示す、受注と利益は別だという事実

規模の違う先行例を1つ置く。米国のAeroVironmentは、無人機と対無人機システムの双方を手がける上場企業で、最新の対無人機用の撃墜機としてFreedom Eagle(FE-1)を持つ。装備庁がTerraB1に求めた対処目標が長射程の自爆型無人機であるのに対し、FE-1もGroup 3に分類される比較的大型の無人機を相手にしており、想定する脅威の階層は近い。

同社の2026年4月期の売上高は19億7,684万ドルで、前期の8億2,063万ドルから140.9%増えた。1ドル158.91円で換算すると3,141億円になり、Terra Droneの47億8,259万円の65.7倍である。受注残も厚く、資金の裏付けがある受注残高は11億8,300万ドルと前期の7億2,660万ドルから62.8%増え、うち85%を翌期に売上として計上する見込みだと開示している。

それでも同社の2026年4月期は営業損失3億1,100万ドルだった。売上総利益率は前期の39%から25%へ落ち、のれんの減損2億4,071万ドルを計上している。粗利率が落ちた理由は売上の中身にあり、製品販売の売上総利益率が32.2%なのに対し、買収で増えた役務の売上総利益率は7.9%しかない。契約の形態別では固定価格契約が70.0%を占め、原価が想定を超えたときの負担は受注側にかかる。

受注が増えることと利益が出ることは、この業界では別の話である。米国連邦政府の国防消費支出は2026年4-6月期に季節調整済み年率で9,489億7,500万ドルと、1-3月期の9,229億700万ドルから増え続けており、需要そのものは強い。強い需要のもとで規模を65倍持つ先行企業が営業赤字を出しているという事実は、日本の2社の損失が単に規模不足の問題ではないことを示している。

人の値段が、次の受注の制約になる

もう一つ、開示のなかで見落とされやすい数字がある。Terra Droneの提出会社単体の従業員は134人で、平均年齢33.0歳、平均勤続年数2.4年、平均年間給与は497万2,000円である。連結では551人で、内訳はドローンソリューション454人、運航管理40人、全社共通57人となっている。連結従業員は前期の618人から67人減った。

平均年間給与497万2,000円という水準は、防衛の装備品を継続的に供給する会社としては軽い。同じ時期の有価証券報告書で、富士通は1,012万2,665円、日本電気は993万9,349円、IHIは1,000万5,041円である。装備品の分野で求められるのは、機体の設計だけでなく、安全審査、電波の申請、官側への技術情報の提供、そして納入後の整備体制まで含む長い工程で、その多くは経験の蓄積に依存する。平均勤続年数2.4年という数字は、その蓄積を社内に留める仕組みがまだ組み上がっていないことを示す。

装備庁が公募資料で下請負企業の記載を求めていたことも、この文脈で読める。国内でどこまで作れるか、誰が支えるかを官側が把握しようとしている。1社の従業員の厚みではなく、供給網としての厚みが評価の対象になっている。

次の決算で確かめられる数字

契約の金額と数量が公表されない以上、外から採算を測る手がかりは決算に現れる数字しかない。Terra Droneの決算期は1月なので、2026年8月の受注は2027年1月期の第3四半期に入る。確かめるべき点は4つある。ドローンソリューションのセグメント売上が防衛の分だけ増えているか。同セグメントの損失4億3,459万円が縮んでいるか。運航管理の損失7億919万円が減っているか。そして現金及び現金同等物17億8,863万円が、前期のような56.9%減を繰り返していないか。

装備庁の側にも節目がある。9月の納入が予定どおり行われるか、航空自衛隊と陸上自衛隊への展開が具体的な調達として出るか、そして納品後の整備・補給の役務が別の契約として公示されるかである。公募資料には、粗見積もりの精度目安として-50%から+150%という幅が明記されていた。価格が固まるのはこれからで、その幅のどこに着地するかが、この受注が売上として意味を持つ規模になるかを決める。数字は次の四半期報告書と、装備庁の公示に出てくる。