世界経済フォーラム(WEF)の「Future of Jobs Report 2025」によると、2025年から2030年に最も伸びる職業はビッグデータ専門職で純増率は+110%、フィンテック技術者が+95%、AI・機械学習専門職が+85%で続く。

上位15職種のうち11がデータ・AI・ソフトウエアの系統である。この調査は世界の企業1,043社、従業員計1,400万人超の回答に基づく。雇用主は2030年までの成長の原動力をAIとロボットの進歩だと見込んでいる。本稿はまず15職種の順位を数字で再構成し、次にこの成長職種を日本で誰が抱え、誰が仲介し、給与がいくらかを金融庁EDINETの有価証券報告書で並べる。その上で、成長職種に相当する人材が日本にどの経路で入っているかを出入国在留管理庁の在留統計で、米国の求人と「人材不足」の開示の動きを米セントルイス連邦準備銀行と米証券取引委員会の公表データで確かめる。なおこの順位表は暗号資産分野の転職支援の宣伝とともに出回っているが、宣伝は本稿の対象外とし、WEFの調査結果のみを扱う。売買の推奨や評価は示さない。

15職種のうち11がデータとAI、例外は配送運転手と電化の現場職

世界で最も伸びる職業15の純増率
世界で最も伸びる職業15の純増率

順位を数字で読む。純増率の首位はビッグデータ専門職の+110%で、フィンテック技術者+95%、AI・機械学習専門職+85%、ソフトウエア・アプリ開発者+60%、セキュリティ管理専門職+55%、データウエアハウス専門職+50%と続く。+45%で並ぶのが自動運転・EV専門職、UI・UXデザイナー、小型トラック・配送運転手の3職種、+40%で並ぶのがIoT専門職、データ分析者・データ科学者、環境技術者、情報セキュリティ分析者、DevOps技術者、再生可能エネルギー技術者の6職種である。

15職種の構成に、2つの読み筋がある。第1に、11職種がデータ・AI・ソフトウエアの系統で、データを集める(ビッグデータ、データウエアハウス、IoT)、守る(セキュリティ管理、情報セキュリティ)、使う(AI・機械学習、データ分析、フィンテック)、動かす(ソフトウエア開発、DevOps、UI・UX)の4段に分かれる。AIの職種だけが伸びるのではなく、AIに食わせるデータの上流と下流が同時に伸びる。第2に、残る4職種の配送運転手、自動運転・EV、環境、再生可能エネルギーは、物流と電化の現場職である。配送運転手の+45%は、AIが仕事を奪うという語りの反証になる。電子商取引が増えるほど最後の区間を運ぶ人が要り、自動運転が届くまでの時間差がそのまま求人になる。

成長職種を抱える側の年収1,380万円、仲介する側の540万円

日本14社の平均年間給与
日本14社の平均年間給与

WEFの成長職種を日本で誰が抱えているかを、有価証券報告書の平均年間給与で確かめる。提出会社ベースの平均年収は、半導体製造装置の東京エレクトロン(8035)が1,380万円で最も高く、野村総合研究所(4307)1,333万円、ソフトバンクグループ(9984)1,320万円、ソニーグループ(6758)1,155万円、産業ロボットのファナック(6954)1,144万円、アドバンテスト(6857)1,098万円、トヨタ自動車(7203)1,006万円が1,000万円台に並ぶ。データとAIとロボットの職種を自社で抱える製造・技術側は、平均年齢40〜45歳、平均勤続13〜20年で、人を長く抱えて育てる型である。

仲介する側は様相が違う。求人と人材紹介のリクルートホールディングス(6098)は1,162万円と例外的に高いが、派遣を主力とするパーソルホールディングス(2181)は882万円、転職のビジョナル(4194)は861万円、名刺管理のSansan(4443)は780万円、ソフトウエア試験のSHIFT(3697)は685万円、エン・ジャパン(4849)は540万円で、平均年齢は31〜41歳、平均勤続は3〜6年と短い。成長職種の人材を動かす側の給与は、その人材を抱える側の半分から4割にとどまる。WEFの+110%という伸びが日本で実現するなら、その差額を誰が払うかが、人材株と技術株の間の配分を決める。産業ロボットの安川電機(6506)が860万円で、ロボット職種を抱えながら仲介側と同じ水準にあることは、同じ職種でも企業の収益構造で給与が決まることを示す。

技術・人文知識・国際業務の在留者は10年で3.5倍、中国の比率は44%から25%へ

技術・人文知識・国際業務の在留者数の推移
技術・人文知識・国際業務の在留者数の推移

日本の成長職種の供給経路を、出入国在留管理庁の在留統計で確かめる。技術者・企画・通訳などの専門職に与えられる在留資格「技術・人文知識・国際業務」の在留者は、2015年12月末の13万7,706人から2025年12月末の47万5,790人へ10年で3.5倍になった。入国制限のあった2020〜2021年だけ足踏みし、2022年以降は年5万〜6万人の速さで増えている。国籍別では中国籍が6万504人から11万7,314人へ1.9倍にとどまり、全体に占める比率は44%から25%へ下がった。増加分の8割超を中国以外の国籍が担い、供給経路は1国への依存から分散へ移っている。

この数字は、WEFの成長職種と日本の現実をつなぐ。データ・AI・ソフトウエアの職種が国内の教育だけで埋まらない以上、専門職の在留資格がその差を埋める経路になり、47万6,000人という規模は経営・管理ビザで見た中国籍の2万4,840人の19倍にあたる。国産LLM-jp-4を検証した回で見た情報通信業の研究費6,203億円という薄さを、人の側で補っているのがこの経路である。

米国の求人は頂点から4割減、それでもAI人材の不足を語る開示は3倍

米国の求人と人材不足の開示
米国の求人と人材不足の開示

米国側の数字は、成長職種の伸びが労働市場全体の拡大ではないことを示す。米セントルイス連邦準備銀行のデータで、米国の求人件数は2022年3月の1,230万件を頂点に2026年6月には736万件へ40%減り、失業率は4.1%にある。求人の総量は縮んでいる。一方で、米上場企業が提出書類で「熟練人材の不足」と「人工知能」を併記した件数は2023年121件、2024年238件、2025年361件と3倍になり、2026年も8月21日までで306件と前年通年の85%に達した。「machine learning engineers」の言及は19件、27件、52件と増え、「data scientists」は年700〜800件で横ばいである。

求人が減る中で人材不足の開示が増えるという組み合わせは、WEFの+110%の意味を定める。伸びているのは雇用の総量ではなく、職種の構成の入れ替わりの速さである。企業は全体の採用を絞りながら、データとAIの職種だけを奪い合い、その不足をリスク要因として投資家に説明している。Anthropicが計算資源を5段構えで押さえた回で見たGPUの奪い合いと同じ構図が、人の側でも起きている。

精錬の側から見た成長職種、電化の現場職が磁石と電池につながる

15職種のうちデータ系でない4つ、自動運転・EV専門職、環境技術者、再生可能エネルギー技術者、配送運転手は、いずれも電化の現場に立つ。EVと風力と配送車両のモーターには希土類磁石が入り、蓄電池にはリチウムとニッケルが入る。これらの精錬は中国に集中し、希土類の輸出管理を追った回で見た通り、磁石材料の調達が電化の速さを制約する。成長職種の伸びは、人の供給だけでなく材料の供給にも縛られる。本件の文脈で挙げる関連銘柄は、成長職種を抱える側で給与と利益率の両方が高い日本株に置く。

確かめられる点

検証は公表の日付で追える。第1に、WEFの次回調査で15職種の顔ぶれと純増率がどう変わるか。第2に、日本14社の次の有価証券報告書で平均年間給与の差が縮むか。抱える側と仲介する側の差が縮むなら、成長職種の需給が給与に転嫁され始めた合図になる。第3に、技術・人文知識・国際業務の在留者が2026年12月末に50万人を超えるか。第4に、米国の求人件数が736万件から反転するか、あるいは減り続ける中で人材不足の開示だけが増え続けるか。第5に、米提出書類で「machine learning engineers」の言及が年100件に達するか。

+110%という数字は、データを扱う人の需要が5年で2倍以上になるという雇用主の見込みである。日本でその人材を抱える側は年収1,000万円台を払い、仲介する側は500万〜900万円で動かし、供給は10年で3.5倍になった専門職の在留者が支える。米国では求人が4割減る中で、この職種だけが奪い合われている。成長職種の順位表は、誰が伸びるかの一覧であると同時に、誰がその人材に払うかの配分表でもある。