中国広東省深圳市の中級人民法院(地裁)は2026年8月20日、不動産大手、中国恒大集団(エバーグランデ)の創業者、許家印被告に無期懲役の判決を言い渡し、全財産の没収を命じた。関連企業への罰金は計158億2,000万元(約3,700億円)にのぼる。

恒大は2021年に債務不履行(デフォルト)に陥り、中国の不動産市場低迷の引き金となった。許被告は4月、資産横領や企業ぐるみの贈収賄など複数の罪状について有罪を認めており、国営メディアによると、裁判所は同被告が率いていた複数の企業についても、記録の偽造や債務の隠蔽などいくつかの犯罪行為を認定した。本稿はこの判決を起点に、死刑を免れた対価がいくらだったのかを量刑の構造から確かめ、その先にある問い、すなわち中国の家計資産がどこへ逃げているのかを、日本側の公的統計で追う。使うのは出入国在留管理庁の在留統計、国土交通省の調査、金融庁EDINETの有価証券報告書、米セントルイス連邦準備銀行と米証券取引委員会の公表データである。なお今回は添付画像がないため、画像からの抽出は行っていない。元建ての円換算は判決報道の換算(1元=約23.4円)による。売買の推奨や評価は示さない。

深圳の法廷は、2兆4,000億元の破綻に「無期」で帳尻を合わせた

恒大集団と許家印被告の軌跡と一審判決の内訳
恒大集団と許家印被告の軌跡と一審判決の内訳

判決の中身を報道で確かめる。許被告本人は無期懲役に加えて政治的権利を終身剥奪され、個人の全財産を没収される。法人側は恒大集団に罰金88億2,000万元、中核子会社の恒大地産に70億元で、合計は報道の伝える158億2,000万元と一致する。認定された行為は、違法な預金集め、出資金集めを装った詐欺、違法な貸付、証券の虚偽発行、重要情報の不開示などに及び、同じ日に関係者56人にも1年10か月から18年の懲役が言い渡された。創業者1人の断罪ではなく、経営の中枢を層ごと裁いた集団判決である。

規模の感覚を添えておく。恒大の負債は2兆4,000億元(約56兆円)を超え、これは日本の国家予算の半分に相当する。2024年1月には香港高等法院が清算命令を出し、同年3月には中国の証券監督当局が2019〜2020年の売上5,640億元の水増しを認定していた。1996年に広州で生まれ、2017年には推計資産2,900億元で中国の長者番付首位に立った企業集団は、30年でこの終点に着いた。

命の対価は、起訴された罪名の段階で決まっていた

この判決が残す問い、すなわち「結局、いくらかけて命を守ったのか」に、量刑の制度から答える。中国の刑法で出資金集めを装った詐欺の最高刑は、2015年の法改正で死刑が廃止されて以来、無期懲役である。今回の起訴罪名の並びには、死刑があり得る収賄側の罪が入っていない。比較対象がある。国有金融大手、中国華融の頼小民元会長は17億8,800万元の収賄などで2021年1月に死刑を執行された。金額だけ見れば恒大の破綻規模は桁が3つ違うが、頼元会長は「受け取った側」、許被告は「配った側」として裁かれた。罪名が確定した時点で、量刑の天井は無期と決まっていた。

その上で許被告が差し出したものを並べると、かつて2,900億元とされた全財産、4月の段階での有罪の承認、そして56人の共同被告とともに立つ法廷という見せしめの舞台である。没収と罰金を合わせても債権者への配当原資は負債の1%に満たず、この判決は被害の回復ではなく責任の清算として設計されている。残る変数は財産没収の執行範囲である。前妻が多額の資金とともに海外に滞在していると報じられており、国境の外にある資産まで没収が届くかどうかは、各国の司法協力にかかっている。許被告の来歴を追った回で見た「貧困から不動産王へ」の物語は、財産の国外流出という後日談で終わろうとしている。

中国の住宅は2割下がり、日本の住宅は2割上がった

住宅価格指数の10年、中国・日本・米国
住宅価格指数の10年、中国・日本・米国

判決が清算した過去よりも、投資家に効くのは現在の価格である。国際決済銀行(BIS)の名目住宅価格指数(2010年=100)によると、中国は恒大デフォルト直前の2021年7〜9月期に145.9でピークをつけ、2026年1〜3月期には114.0まで21.9%下げた。下落は18四半期連続で、下げ止まりの兆しはまだ数字に出ていない。同じ期間に日本は122.6から144.6へ2割近く上がり、米国は234.9と最高値圏にある。10年の目盛りで見ると、山を描いて下りたのは中国だけである。

米国市場の受け止めは、開示の言葉数に出ている。米上場企業の提出書類で「Evergrande」に触れた開示は、危機が表面化した2021年に3,829件を数えたが、2023年1,880件、清算命令の出た2024年には410件まで減った。米市場にとって恒大は連鎖破綻の火種ではなく、既に過去の出来事である。一方で中国国内では、万科が国有株主の支援で資金をつなぎ、碧桂園が債務再編を続けるなど、恒大の後に続いた大手の整理はなお進行中である。住宅の値下がりは家計の資産防衛を促し、その一部が国外の不動産へ向かう。次節の日本側の統計が、その到着点を示す。

資本は判決を待たなかった、経営・管理ビザの中国籍は4年で1.8倍

経営・管理ビザの中国籍在留者の推移
経営・管理ビザの中国籍在留者の推移

日本で会社をつくり経営する外国人に与えられる在留資格が「経営・管理」である。不動産の賃貸や宿泊事業を営む法人はこの資格の典型的な受け皿の一つで、日本に住みながら物件を持ち、管理する入り口になる。出入国在留管理庁の在留外国人統計によると、この資格を持つ中国籍の在留者は、恒大がデフォルトした2021年12月末の1万3,748人を底に一本調子で増え、2025年12月末には2万4,840人と4年で81%増えた。全国籍の合計4万6,781人のうち中国籍が53%を占める。中国籍の在留者全体も同じ期間に71万6,606人から93万428人へ増え、統計開始以来の最多を更新している。曲線の折れ目が中国の住宅価格のピークとほぼ重なることは、この移動が観光や留学ではなく資産の再配置であることを示す。

入り口の制度は2025年10月16日に変わった。資本金の基準が500万円以上から3,000万円以上へ6倍に引き上げられ、従来は資本金か常勤職員2人のどちらかでよかった要件が、資本金3,000万円と常勤職員1人以上の両方必須になった。出資金の出所、つまり送金元と出資者の素性の確認も厳格化されている。既存の在留者には2028年10月16日までの経過措置がある。3,000万円という水準は都心の中古ワンルーム1戸分にあたり、この改正は流入の遮断ではなく、実体のない会社を除いた上での選別である。改正後初の統計となる2025年12月末値がなお増勢を保った背景には、この経過措置がある。SBIグループの意見広告を検証した回で見た外国人政策の再設計は、不動産の入り口でも同時に進んでいる。

東京のマンションは平均1億3,613万円、都心6区の海外買い手は7.5%

到着点の価格を確かめる。不動産経済研究所によると、2025年の東京23区の新築分譲マンション平均価格は前年比21.8%増の1億3,613万円で、3年連続で1億円を超えた。千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷の都心6区に限ると1億9,503万円と2億円に迫る。この高騰の中で外国人がどれだけ買っているのかについて、2025年秋に初めて公的な実測が出た。国土交通省の調査で、2025年1〜6月に23区の新築マンションを海外住所の人が取得した割合は3.5%、都心6区では7.5%だった。「爆買いが相場をつくっている」という言説に対し、実測は「都心ほど濃いが全体の1割未満」という輪郭を与えた。ただしこの数字は海外住所者に限られ、経営・管理ビザで日本に住む買い手や日本法人経由の取得は国内取引として数えられる。前節の在留統計と合わせて読むべき数字である。

制度の側も確認しておく。日本は外国人の土地・建物の取得に原則として制限がなく、登記も税も日本人と同条件で、相手国が日本人の取得を制限していても問い返さない。基地や国境離島の周辺を対象にした重要土地等調査法は利用状況の調査と勧告の仕組みであり、取引そのものを止める建て前ではない。取得規制の議論は政治日程に上がり続けているが、2026年8月時点で売買を直接制限する法律はない。中国から見れば、自国の住宅が2割下がり、人民元は円に対して強く、東京の実質価格は割り引かれて見える。判決が示した「中国国内で財産を持つことの危うさ」は、この計算をさらに後押しする変数になる。

有報で見る受け皿8社、三井不動産の株式は51%が外国人

日本の不動産・住宅8社の外国人持株比率と実数
日本の不動産・住宅8社の外国人持株比率と実数

実物の取得比率3.5%という数字だけを見ると、外国資本の存在は小さく映る。だが株式のレイヤーでは景色が反転する。金融庁EDINETに収載された有価証券報告書で大手の実数を並べると、三井不動産(8801)は売上2兆7,097億円に対し外国人持株比率51.1%、三菱地所(8802)は49.8%と、丸の内と日本橋の大家の株式は既に半分を外国人が持つ。営業利益率28.3%と収益性で頭一つ抜ける住友不動産(8830)が34.2%、売上5兆5,769億円と規模で最大の大和ハウス工業(1925)も34.2%である。個人がマンションを1戸買う動きの10倍の厚みで、機関投資家の資金が不動産「株」に入っている。東京の不動産を巡る外国資本の本流は、登記簿より先に株主名簿に現れている。

本件の文脈は精錬や磁石と接点が薄いため、関連銘柄はレアアースではなく、中国マネーと東京の不動産価格の交差点に立つ日本株で構成する。

  • 三井不動産(8801): 日本橋・八重洲の再開発と賃貸・分譲・運営の複線収益。外国人持株51.1%は大手不動産で最高
  • 三菱地所(8802): 丸の内の大家。営業利益率18.9%、都心オフィス市況の代表銘柄
  • 東京建物(8804): 1896年創業の最古参。八重洲再開発と「Brillia」、含み資産に対して時価総額が小さい
  • オープンハウスグループ(3288): 都心戸建ての製販一体で売上1兆円超。一次取得者の金利感応度が高い
  • 野村不動産ホールディングス(3231): 「プラウド」の分譲依存度が大手で高く、都心マンション価格の動きが業績へ最も直結する

金利が共通の変数になる。米セントルイス連邦準備銀行が収載する日本の長期金利(10年国債利回り・月次)は2.67%とこの10年で最も高く、借りて建てるデベロッパーの調達費用と、住宅ローンで買う家計の支払いの両方を圧迫し始めた。中国マネーの流入と国内金利の上昇が綱引きするのが、2026年の東京の価格形成である。

確かめられる点

検証は公表資料で追える。第1に、全財産没収の執行がどこまで届くか。海外に滞在すると報じられる前妻の資産に中国の司法が手を伸ばせるかは、二審の有無とともに今後の開示で確認できる。第2に、経営・管理ビザの中国籍在留者数。改正後の基準が効き始める2026年6月末の統計で、4年続いた増勢の曲線が折れるかどうかが最初の判定点になる。第3に、国土交通省の外国人取得調査の次回公表。2025年7〜12月分で都心6区の7.5%がどう動くか。第4に、BISの中国住宅価格指数の下げ止まり。18四半期続く下落が止まった時が、資金流出の圧力が緩む時である。第5に、米提出書類のEvergrande言及件数。2025年に410件から545件へ小さく戻した動きが、清算の残り火なのか別の火種なのかを見分ける材料になる。

深圳の法廷は30年の物語に判決を出したが、資本の移動には判決が出ない。中国の住宅価格が2割下がる間に、東京のマンションは2割上がり、経営・管理ビザの中国籍は1.8倍になり、日本の不動産大手の株式は半分近くが外国人の手に渡った。次の恒大を測る場所は深圳の法廷ではなく、東京の在留統計と株主名簿である。