人を増やしても戸数が出ない市場がある。建設業で働く人は2026年2月に過去最多となったのに、住宅1戸を建て終えるまでの期間は9.1か月から15.5か月へ延びた。空室率0.7%が動かない理由はここにある。

西オーストラリア州の住宅不足は、人手が足りないという言葉で語られてきた。ところが州予算の資料が挙げた建設業の就業者は17万2,500人と、統計を取り始めてから最も多い。同じ時期に、オーストラリア統計局の建築活動統計は、同州で住宅1戸にかかる建築期間が2019〜20年度の3.02四半期から2024〜25年度の5.15四半期へ延びたことを示した。投入する人は増え、1戸あたりの時間も増えた。両方が同じ向きに動いている。

承認も着工も完成も2万3,000戸前後で並び、人口の増加分に届かない

2024〜25年度の西オーストラリア州の住宅は、承認が2万2,945戸、着工が2万2,533戸、完成が2万2,736戸だった。最も多い承認と最も少ない着工の差は412戸しかない。3つの段階がほぼ同じ高さで並んでいる。許可が滞っているわけでも、着工に踏み切れずに承認が積み上がっているわけでもない。

その2万2,736戸に対して、パースの人口は2024〜25年度に5万8,088人増えた。伸び率2.4%は国内で最も速い。2021年の国勢調査で西オーストラリア州の1世帯あたり人員は2.48人だから、増えた人口を収容するだけで2万3,423戸が要る。完成は687戸届いていない。積み上がった不足を埋めるどころか、その年に増えた人の分すら作れていない。

西オーストラリア州の住宅は承認から完成まで2万3,000戸前後で並び、人口の増加分に届かない
西オーストラリア州の住宅は承認から完成まで2万3,000戸前後で並び、人口の増加分に届かない

不足の大きさは推計によって開く。バンクウェスト・カーティン経済センターが2026年に出した報告は、住居費を負担できないと答えた世帯が21万を超え、2022年から91%増えたとし、西オーストラリア州は少なくとも年4,000戸足りないとした。一方、全国住宅供給負担可能性評議会が2026年3月にまとめた四半期報告は、2029年6月までに同州で12万9,000戸が必要だとしている。残り3年で割ると年4万3,000戸で、実績の2万2,736戸に対して1.89倍になる。差し引き年2万戸を超える計算で、年4,000戸という数字とは5倍の開きがある。一方は現に困っている世帯から積み上げ、もう一方は人口見通しから必要量を置いている。どちらか片方を不足の実数として扱うことはできない。

賃貸の側はこの差をそのまま映している。不動産業界団体が会員の管理物件を調べた集計で、パース都市圏の空室率は2026年3月期に0.7%だった。均衡とされるのは2.5%から3.5%の範囲で、1%を割った状態は2年続いている。週350豪ドル未満で借りられる物件は82%減った。住宅と賃貸の不足は、ある年の出来事ではなく慢性の状態になっている。

就業者は過去最多なのに、1戸の建築期間は1.71倍に延びた

州予算の資料は、2026年2月の建設業就業者が過去最多の17万2,500人に達したと記した。この17万2,500人は技術者だけを数えたものではない。建設業で働く人の合計であり、大工や左官のような技能職も、現場の管理も、土木も含む。設計や構造の技術者に限った人数ではないことは、他の数字と比べる前に押さえておく必要がある。

人が増えている一方で、1戸を建て終えるまでの時間は延びた。建築期間は2019〜20年度が3.02四半期、2023〜24年度が5.95四半期、2024〜25年度が5.15四半期である。2024〜25年度は前の年度より0.8四半期縮んだものの、5.15四半期はオーストラリアの全州で最も長い。2019〜20年度と比べると1.71倍になる。

ここに構造がある。承認から完成までの件数が412戸の幅で揃っているのに供給が追いつかないのは、1戸が現場を占有する期間が延びたからである。同じ人数、同じ現場数でも、1戸あたりの滞留時間が1.71倍になれば、年間に吐き出せる戸数はその分だけ減る。人を増やすことは、現場の数を増やすことには効くが、1つの現場が空くまでの待ち時間には効かない。

州政府は資金を積んでいる。2026-27年度の住宅予算は過去最大の47億豪ドルで、2021年以降の追加投資は累計108億豪ドルに達した。2026年2月までの1年間の建築承認は2万5,050戸、2025年の新築着工は2万3,830戸と、前の年度より積み上がっている。着工が2万3,830戸まで戻っても、1戸が15.5か月現場に留まるなら、完成として出てくるのは1年以上先になる。

就業者は過去最多に増える一方で、1戸あたりの建築期間は1.71倍に延びた
就業者は過去最多に増える一方で、1戸あたりの建築期間は1.71倍に延びた

鉱業が賃金でさらう人材を、住宅の現場は取り返せない

工期が延びる原因のうち、外から効いているのが労働市場である。西オーストラリア州の住宅建設は、鉱業と商業開発を相手に同じ人材を取り合っている。遠隔地勤務の鉱山労働者の平均年収はおよそ14万1,000豪ドルという水準が業界の調査で示されており、住宅の現場が並べられる賃金とは開きがある。

需給の見通しも住宅側に不利である。業界の推計では、全国で2026年までに必要な新規の鉱業労働者は2万4,400人だが、育成の見込みは約1万6,000人にとどまる。8,400人が埋まらない。埋まらない分は他の産業から引き抜かれる。西オーストラリア州の失業率は3%台で推移しており、働きたい人はおおむね働いている。新しく人を増やす余地が労働市場の側にないため、鉱業が採れば住宅が失う関係になる。

大工や左官のような技能職と、現場を回す技術者の不足は、この綱引きの結果として慢性化した。ただし賃金を上げて人を採っても、1戸あたりの工期は短くならない。工程の順番、検査の待ち、資材の到着、下請の空き。これらは1つの現場に同時に人を積んでも縮まない性質を持つ。本誌の見立てでは、西オーストラリア州の住宅供給を縛っているのは人数ではなく、1戸を現場に留め置く時間である。

パース最大手の答えは、人を増やすことと工場で作ることの両方に向かった

この問題に現地の最大手がどう答えているかは、供給側の判断として読む価値がある。パースを拠点とする Summit Homes Group は47年を超える事業歴を持ち、4万7,000人を超える西オーストラリア州民の住宅を手がけてきた。2025年には州の最優秀住宅建設会社の表彰を6年連続で受けている。

同社が公表している対応は2つに分かれる。1つは従業員を27%増やしたこと。もう1つは、工場で作った住宅と、れんがを併用する工法の能力を広げ、設計から施工までを自社で通すことである。前者は人数で、後者は1戸あたりの時間で解こうとする手にあたる。現地で最も表彰されている会社が、人を増やすだけでは足りないという判断に立っている。

工場で作る工法が効くのは、現場での作業を減らして天候と職人の空き待ちから切り離せるからである。基礎の工事と並行して躯体を作れるため、現場が1戸に占有される期間が縮む。工期が律速になっている市場では、この差がそのまま年間の戸数になる。

豪州の住宅供給で最大手は日本の会社で、その1社はパースにいる

慢性化した不足を埋める側に、日本の住宅メーカーが3社入っている。進出の順に見ると、この市場の攻め方が工期へ寄ってきたことがわかる。

住友林業はオーストラリアでの住宅着工が年3,894戸で豪州首位にある。西オーストラリア州へは2019年12月18日に入った。Scott Park Group の持分51%を取得したもので、国内の住宅会社として初めてのパース進出だった。同社は当時、西オーストラリア州で年およそ600戸を供給し、州内第5位の着工規模だった。住友林業はいまパース地域で Redink Homes、101 Residential、B1 Homes の3つの看板を持つ。本稿が追っている工期の問題に、現地の当事者として向き合っている日本企業である。

大和ハウス工業(1925)は2018年1月に Rawson Group の全株式を取得した。ニューサウスウェールズ州のシドニー周辺と首都特別地域が地盤で、同州の戸建住宅では着工戸数が第2位にあたる。

最も新しいのが積水化学工業(4204)である。2026年9月10日、クイーンズランド州の宅地開発・住宅建設会社 Ausbuild の持株会社の51%を約3億3,500万豪ドル、日本円でおよそ370億円で取得すると発表した。取得の完了は2027年1月を予定する。Ausbuild はこれまでに99の分譲地を開発し、1万棟を超える住宅を供給してきた。同社が挙げた狙いは工場生産の工法による短工期と品質で、住宅そのものより工程を売りに来ている。

3社が押さえた州は、ニューサウスウェールズ、西オーストラリア、クイーンズランドと分かれる。進出の年は2018年、2019年、2026年で、後になるほど工法が前面に出る。日本の投資家がこの市場を数えるときの物差しは、着工戸数でも従業員数でもなく、1戸が現場に留まる月数になる、というのが本誌の見立てである。各社の国内での位置づけは不動産企業データベースで確かめられる。

日本の住宅メーカー3社が押さえた州と進出の順番
日本の住宅メーカー3社が押さえた州と進出の順番

パースの空室率0.7%は、建てる意思や許可や資金が足りないことの結果ではない。承認2万2,945戸、着工2万2,533戸、完成2万2,736戸が412戸の幅に収まり、就業者が17万2,500人という過去最多に達してなお、1戸は15.5か月現場に留まる。住宅危機と呼ばれているものの正体は、人数の不足ではなく時間の長さである。

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