データセンターに巨額を投じる米IT大手は、税率が約8%まで下がったという説がある。この8%は会計上の税率ではなく、税引前利益に対する実際の納税額の割合に近い。米アマゾン・ドット・コムの2025年12月期は8.5%だった。
米アーク・インベストメント・マネジメントのキャシー・ウッド最高経営責任者(CEO)の主張だとして、中国語圏のSNSなどで次のような話が広まっている。世界のデータセンター向け借り入れの90%が米国に集中し、米国でデータセンターを建てる企業の実効税率は約8%と、世界で最も低い水準まで下がったという。製造設備の償却を前倒しする新制度の対象にデータセンターも含まれ、稼働した年に投資額の全額を課税所得から差し引けるためだという。大手は多額の税還付を受け、その資金を米国内の増設に回しており、拠点が雪だるま式に増えているとする。
編集部は米税法の条文や内国歳入庁(IRS)の通知、大手5社の年次報告書と四半期報告書に当たり、主張を1つずつ確かめた。そのうえで、日本の税制や補助金、データセンターを建てるまでの手順を調べ、米国と比べた。8%は会計上の税率とは別の数字だった。日本でデータセンターの建設を左右しているのは、税よりも電力の確保だった。
借り入れの90%と税率8%、どちらも一次資料では確かめられず
90%の出所はブルームバーグの債券データとされるが、どの記事かも集計の方法も確認できなかった。発行額か残高か、どの期間を対象にしたかによって、90%という数字の意味は変わる。データセンター向け借り入れの規模とクレジット市場への影響は、別の記事で検証した。
税率をめぐる主張に近い記述は、アークが1月15日に公表したウッド氏の2026年の見通しにあった。工場などの製造施設や機器、ソフトウエアの償却を前倒しでき、国内の研究開発費も支出した年に全額を費用計上できるため、米国企業の実効税率は10%に近づくとしている。法人税の還付が急増し、米国の税率は世界で最も低い水準になるとも見込んでいる。この10%はデータセンターに限った値ではない。見通しは8%という数字も示していない。
初年度の全額償却は主に設備が対象、建物本体は39年かけて償却
根拠となる法律は、2025年7月4日に成立した大型減税法だ。同法の第70301条は、使い始めた年に取得価額の全額を償却できる「ボーナス償却」を恒久化した。対象は2025年1月20日以降に取得した資産で、税法上の耐用年数が20年以下のものに限る。サーバーなどのコンピューターは耐用年数5年の資産に区分されるため、対象になる。事業用の建物本体は39年かけて償却するため、ボーナス償却の対象外だ。ただし電源設備や冷却設備は建物と切り分け、耐用年数の短い資産とすることが多いため、対象に入る場合がある。
主張にある「製造設備の償却を前倒しする新制度」は、同法の第70307条が新設した製造用建物の全額償却を指すとみられる。対象は、物の製造や生産、精製に使う建物に限られる。2025年1月20日から28年末までに着工し、30年末までに使い始めることが条件で、事務所やソフトウエア開発などの用途は除かれる。IRSが2026年2月に出した通知は、対象の目安として製造業などの産業分類を示したが、データセンターには触れていない。データを処理する施設は製品を作らないため、条文上は当てはまらないとみられる。
データセンターの扱いは米議会でも論点になっている。上院財政委員会の民主党側は8月6日に公表した報告書で、大手の今年のデータセンター投資が約7,000億ドルにのぼると推計した。データセンター事業者の売上高に低率の税を課す案を示し、新設するデータセンターの資産をボーナス償却の対象から外す案も挙げた。
8%に近いのはアマゾンとメタが実際に納めた税の割合、会計上の税率は4社が約17〜30%
大手5社の開示資料をもとに、税引前利益に対する税の割合を2通り計算した。会計上の実効税率は4社が16.8〜29.6%で、オラクルだけが12.6%と低い。8%に近いのは、その年に実際に納めた税額(還付分を差し引いた額)を税引前利益で割った値で、アマゾンが8.5%、メタ・プラットフォームズが8.8%だった。
| 会社(決算期) | 税引前利益 | 会計上の実効税率 | 実際の納税額 | 納税額の割合 |
|---|---|---|---|---|
| アマゾン(2025年12月期) | 973億1,100万ドル | 19.6% | 82億9,500万ドル | 8.5% |
| メタ(2025年12月期) | 859億3,200万ドル | 29.6% | 75億7,800万ドル | 8.8% |
| マイクロソフト(2026年6月期) | 1,659億3,400万ドル | 19.4% | 211億8,800万ドル | 12.8% |
| アルファベット(2025年12月期) | 1,588億2,600万ドル | 16.8% | 215億2,600万ドル | 13.6% |
| オラクル(2026年5月期) | 195億5,400万ドル | 12.6% | 37億400万ドル | 18.9% |
2つの割合には、償却以外の要因も影響している。アマゾンの税引前利益には、米AI新興アンソロピックの株式の評価益など約152億ドルが含まれる。これを除くと、納税額の割合は10.1%になる。メタの会計上の税率29.6%には、大型減税法に伴う一時的な税負担(繰延税金資産の評価性引当額だけで140億3,000万ドル)が含まれ、同社はこれを除けば13%だったと説明している。
ボーナス償却の効果は、減価償却に関わる繰延税金負債の増加に表れる。2025年の1年間で、この負債はアマゾンが約69億ドル、メタが約49億ドル増えた。償却を前倒しした分は、将来支払う税金として負債に計上される。ボーナス償却は税の総額を変えず、納める時期を先に延ばす仕組みだ。投資を続ける限り繰り延べも続き、納税を先送りした分の資金を無利子で使える。
納税額が減った理由は設備の償却だけではない。アマゾンは年次報告書で、2025年に成立した大型減税法によって同年の納税額が大幅に減り、2026年も同様の効果を見込むと説明した。理由として、100%のボーナス償却と、国内の研究開発費を支出した年に全額費用にできる措置の2つを挙げた。同社は2026年4〜6月期の四半期報告書でも、研究開発費の扱いを示したIRSの通知により、2024年と2025年の納税額が大きく減る見込みだとした。メタは、大企業に15%の最低税率を課す法人代替ミニマム税(CAMT)によって、優遇の効果の一部が相殺されたと説明した。還付金を米国内の増設に回したという記載は、5社の開示には見当たらない。
州による税の優遇も大きい。バージニア州の税務当局によると、データセンターの機器にかかる売上税を免除した結果、2025年度(州の会計年度)の減税額は19億4,139万ドル、対象の投資額は約486億ドルだった。
日本の法人実効税率は29.74%、防衛特別法人税を含めると30.64%
財務省の「諸外国における法人実効税率の比較(2026年1月現在)」によると、国と地方を合わせた日本の法人実効税率は29.74%で、米国(カリフォルニア州)の27.98%と大きくは変わらない。ドイツは30.14%、英国は25.00%だ。2026年4月以降に始まる事業年度からは、防衛特別法人税が加わる。法人税額から年500万円を差し引いた額に4%を課す税で、これがかかる企業の実効税率は最大で30.64%になる。日米の差は税率よりも、投資額をいつ費用にできるかにある。
日本の大企業が通常の方法で減価償却すると、初年度に費用にできる額は限られる。鉄筋コンクリート造の事務所用の建物は耐用年数が50年で、定額法では初年度に費用にできるのは取得価額の2.0%にとどまる。電気設備や冷房設備などの建物附属設備は15年で、6.7%だ。サーバーは耐用年数5年の定率法で償却し、初年度は40%だ。データセンターに使えた税の優遇措置も、すでに終わっている。DX投資促進税制は適用期限の2025年3月末で廃止された。首都直下地震緊急対策区域の外に置くバックアップ用データセンターの設備について固定資産税を軽減する特例も、2022年3月末で期限が切れた。
日本は建物まで即時償却できる新税制、条件は投資額35億円以上・投資利益率15%以上
日本でも、2026年度の税制改正で、取得した年度に全額を費用にできる「大胆な投資促進税制」(特定生産性向上設備等投資促進税制)が新設された。経済産業省は7月31日に申請の受け付けを始めた。即時償却か、取得価額の7%の税額控除かを選べる。建物、建物附属設備、構築物の控除率は4%だ。米国のボーナス償却と違い、建物も即時償却の対象に入る。
その代わり、条件は厳しい。対象は、総額35億円以上(中小企業者等は5億円以上)で年平均の投資利益率が15%以上の投資計画について、経済産業相の確認を受けて取得する設備に限る。確認には約30日かかる。確認を受ける前に取得した設備は対象にならない。建物だけの計画、貸し付けに使う資産、本店や事務所の設備も対象外だ。大企業は、所得が増えた年度に賃上げか国内設備投資の条件も満たす必要がある。税額控除はその期の法人税額の20%が上限だ。経済産業省は、税率を30%として、計画に含まれる50億円の建物を即時償却すると、初年度の納税額が15億円減り、資金繰りが改善するとの試算を示している。
| 項目 | 米国 | 日本 |
|---|---|---|
| 法人実効税率 | 27.98%(カリフォルニア州) | 29.74%(防衛特別法人税がかかる企業は最大30.64%) |
| サーバーなどの設備 | 初年度に全額償却(申請は不要) | 通常はサーバーで初年度40%、新税制なら即時償却 |
| 建物 | 本体は39年で償却(ボーナス償却は対象外) | 鉄筋コンクリート造の事務所用は通常、耐用年数50年で初年度2.0%、新税制なら即時償却か4%の税額控除 |
| 適用の条件 | 2025年1月20日以降の取得、耐用年数20年以下 | 投資額35億円以上、投資利益率15%以上、経済産業相の確認 |
| 固定資産税 | 州・郡ごとに減免あり | 償却資産に標準税率1.4%(即時償却しても税額は変わらない) |
扱いがはっきりしない点も残る。ラックや区画を他社に貸すコロケーション型のデータセンターが、対象外の「貸し付けに使う資産」に当たるかどうかについて、経済産業省の申請要領などに説明は見当たらなかった。なお、法人税で即時償却しても、サーバーなどの設備にかかる固定資産税は減らない。償却資産の固定資産税(標準税率1.4%)は、通常の耐用年数に基づく評価額に毎年かかる。
日本の補助金は投資額の最大2分の1、さくらインターネットに最大501億円
日本のデータセンター投資を支えているのは、税よりも補助金だ。経済産業省は2024年4月19日、経済安全保障推進法の特定重要物資「クラウドプログラム」の供給確保計画として、AI開発向けの計算資源を整備する5件を認定し、計最大725億円を助成すると発表した。内訳は、さくらインターネットが最大501億円、KDDIが約102億円、ハイレゾが約77億円、RUTILEA(ルティリア)が約26億円、GMOインターネットグループが約19億円だった。ソフトバンクは別に、約1,500億円の設備投資に対して最大421億円の助成を受ける。投資額の約28%にあたる。
さくらインターネットの計画は総額約1,000億円で、補助率は2分の1だ。補助金で投資の負担は半分になる。同社は受け取った補助金を、その額だけ設備の取得価額から差し引く圧縮記帳で処理している。2026年2月24日には、補助金105億3,900万円の交付決定を受けたと開示した。取得価額が補助金の額だけ小さくなるため、毎年の減価償却費も少なくなる。ただ、圧縮記帳は補助金への課税をなくすものではなく、減価償却費が減る分だけ課税を将来に繰り延べる仕組みだ。同社のGPU事業の採算は別の記事で検証した。
データセンターの地方分散を促す補助金もある。経済産業省のデータセンター地方拠点整備事業は、補助率が2分の1で上限は300億円(事業費600億円で上限に達する)だ。対象は10ヘクタール以上の用地を確保する案件で、2023年11月にはソフトバンクが北海道苫小牧市に建てるデータセンターが採択された。同社は2026年度の開業を目指しており、受電容量は将来30万kW(300MW)超まで広げる見込みだ。総務省のデジタルインフラ整備基金は2021年度補正予算の500億円で設けられ、2023年度に100億円、2024年度に120億円が積み増されて計720億円になった。2023年度の100億円は、国際海底ケーブルの陸揚げ局などの整備に充てる。
日本のデータセンター建設を左右するのは電力、東京電力管内の接続申し込みは約1,520万kW
日本でも大型のデータセンターは建てられる。ただ、すぐに着工できる状況にはない。調査会社のIDCジャパンによると、国内の事業者データセンターでサーバーなどのIT機器に供給する電力容量は、2024年末の2,365.8MVAから2029年末には4,499.6MVAに増える見通しだ。国際エネルギー機関(IEA)が示した2030年までの増加量と増加率から逆算すると、2024年のデータセンターの電力消費は米国が約185テラワット時、日本が約19テラワット時で、米国は日本の約10倍になる。
建設までの手順で最も時間がかかるのは、電力の確保だ。東京電力パワーグリッドによると、管内でデータセンターが申し込んだ送電網への接続(送電線の容量を仮に押さえた段階のもの)は、2025年8月時点で約1,520万kWにのぼる。管内の夏の最大電力需要(6,000万kW程度)の約25%にあたる。経済産業省の資料は、必要以上に容量を押さえる申し込みや、接続の権利が付いた土地などの転売を狙う申し込みもあると指摘している。送電網への接続は、申し込み、技術協議、供給対策の検討、供給承諾、工事の順に進む。千葉県印西市のような集積地に電気を送る基幹送電網の増強には、2025年時点の計画で10年以上かかる。同社が9月に示した資料によると、10月1日から、高圧の需要家は供給承諾から3か月以内に工事費負担金を払わないと、申し込みが取り消される。東京電力管内でデータセンターの接続申し込みが増えていることは、別の記事でも取り上げた。
電力に比べ、建物は短期間で建つ。インターネットイニシアティブは2018年2月に千葉県白井市のデータセンターの着工を発表し、2019年5月に稼働させた。建屋は工法を工夫して8か月で建てたという。受電容量は最大5万kW(50MW)だ。KDDIは2025年4月にシャープの堺工場の取得契約を結び、工場を転用して2026年1月に「大阪堺データセンター」を稼働させた。東急不動産などが北海道石狩市に建てた「石狩再エネデータセンター第1号」は、2024年10月に着工し、約1年半後の2026年3月に竣工した。
政府は、電力を確保しやすい地域にデータセンターを集めようとしている。総務省と経済産業省は2025年6月、ワット・ビット連携官民懇談会の取りまとめで、1ギガワット(100万kW)級の集積地を複数つくる方針を示した。東京近郊にも最大500万kW程度を受け入れる余地があるとした。経済産業省は9月11日、脱炭素電源の近くにデータセンターを集める「GX戦略地域」として、9道県の10地点を認定した。今後10年程度で1ギガワット級の拠点に育てる。認定先は次のとおりで、「・」でつないだ市町は1地点として数える。北海道の石狩市と苫小牧市、秋田市、宮城県富谷市、栃木県矢板市、茨城県の常総市・つくば市、富山県南砺市、香川県の綾川町・坂出市・丸亀市、福岡県の北九州市・直方市・鞍手町、鹿児島県薩摩川内市だ。
データセンターの建て方と持ち方は、大きく3つに分かれる。さくらインターネットやKDDIのように国内の事業者が自ら建てる形、特定目的会社が開発した施設を不動産投資信託(REIT)が買い取る形、海外のクラウド大手が自ら建てる形だ。三井不動産ロジスティクスパーク投資法人は2019年1月、特定目的会社が開発した千葉県印西市のデータセンターの持ち分を取得した。REITが持って事業者に貸す形は、新税制で対象外となる「貸し付けに使う資産」に当たる可能性がある。海外のクラウド大手では、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が2027年までに日本に2兆2,600億円を投じる計画を示している。
米国の「税率8%」は会計上の税率ではなく、実際に納めた税額の割合に近い。設備の償却や研究開発費の費用化を前倒しし、納税を先送りした結果だ。建物本体は初年度の全額償却の対象外だ。日本も建物まで即時償却できる新税制を設け、投資額の最大2分の1を補う補助金もある。ただ、新税制は投資計画35億円以上・投資利益率15%以上が条件だ。送電網への接続には年単位、基幹送電網の増強には10年以上かかる。日本でデータセンターへの投資を左右するのは、税の優遇よりも、電力をいつ確保できるかだ。
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