データセンターの電力容量が10%増えると家庭の電気料金は0.4%下がる。米国でこう推計した論文が注目を集める。だが東京電力パワーグリッドは11月、送配電網の利用料を上げる。データセンター向けの送電網増強費も大半は利用者が負担する。
米ベンチャーキャピタル(VC)のアンドリーセン・ホロウィッツは2026年9月30日に公開した市場動向の解説動画で、「データセンターは電気料金を下げる可能性がある」との見方を取り上げた。出演したのは同社のデービッド・ジョージ氏、サラ・ワン氏、アレックス・イマーマン氏ら4人。人工知能(AI)向けのデータセンターは大量の電力を使うため、家庭の電気料金を押し上げるとの懸念が米国で広がっている。4人が動画で紹介したのは、これとは逆の結果を示した論文だ。
「データセンター10%増で料金は0.4%下がる」、根拠は査読前の論文
論文は、米電力研究所の研究者ら3人が2026年6月に公開した。同研究所は電力会社などが資金を出す非営利の研究機関で、3人のうち2人が所属する。専門家が内容を審査する査読は経ていない。
3人は2015〜2024年の州ごとのデータを分析し、データセンターの電力容量が10%増えるごとに、家庭向けの電気料金は平均で約0.4%下がったと推計した。ここでいう電気料金は、電力会社が家庭から得た料金収入を販売電力量で割った平均単価で、料金表の単価ではない。電力容量は、米調査会社のデータを基に、施設ごとのIT機器向けの電力を合計した値だ。暗号資産のマイニング(採掘)施設は含まない。期間中に米本土で増えた電力容量は計21.3ギガワット(2,130万キロワット)だった。
「データセンターが160%増えた州では6%下がった」という数字も広まっているが、特定の州の実績ではない。論文の説明はこうだ。各州の増加率を家庭の数に応じて平均すると、データセンターの電力容量は2019〜2024年に160%増え、2.6倍になった。これに先の推計結果を当てはめると、料金は6%下がった計算になる。編集部が論文の数値で計算し直すと約5.6%で、四捨五入すると6%になる。2019〜2024年に限って推計すると、料金を押し下げる効果は全期間の約半分になり、これを使うと下げ幅は約2.7%にとどまる。
推計の手法にも弱点がある。データセンターは電力を早く確保できる場所を選んで建てられるため、州同士を単純に比べても因果関係は分からない。3人はこうした立地の偏りによる影響を取り除くため、1947年の州間高速道路計画を分析に使った。光ファイバーが高速道路沿いに敷かれ、データセンターがその近くに集まるためだ。ただ、論文の柱である全期間の推計では、高速道路の計画で立地をどの程度説明できるかを示す指標が、信頼性の目安とされる水準を下回っている。
下がるのは設備に余裕がある間だけ、米東部では負担増の試算も
料金が下がる理由として論文が挙げるのは、電力設備の固定費を負担する利用者にデータセンターが加わることだ。送電線や変電所、電柱の維持・更新にかかる費用は、電気がどれだけ使われても大きくは変わらない。この費用は電気料金を通じて利用者全体で負担している。有料道路にたとえれば、乗用車だけで維持費を負担していたところに、昼夜を問わず走る大型トラックが大量に加わるようなものだ。交通量が増える分、1台当たりの負担は軽くなる。
この理屈が成り立つのは、既存の設備で需要の増加を賄える間に限られる。論文も、発電設備などの供給力が将来、需要の伸びに追いつかなくなれば、データセンターの増加が逆に料金を押し上げる要因になりうると明記している。データセンターの需要が見込みを下回った場合も、料金が上がる恐れがある。先に造った設備の固定費を、想定より少ない販売電力量で回収することになるためだ。このほか論文は、天然ガス価格の変動のように全米に一様に及ぶ影響を分析の対象から外している。
料金が上がるとする研究や試算もある。下がるとするものと合わせ、主な4つを表にまとめた。
| 発表元 | 発表時期 | 結果 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 米電力研究所の研究者ら | 2026年6月 | データセンターの電力容量が10%増えると、家庭向けの電気料金は約0.4%下がる | 査読前。供給力が需要に追いつかなければ料金上昇の要因になりうると明記 |
| 米ローレンス・バークレー国立研究所 | 2026年4月 | 需要の伸びが大きい州ほど、利用者全体の平均料金は下がる | 家庭向けでは関係がはっきりしない |
| 欧州の経済政策研究センターが紹介した研究 | 2026年 | データセンターが1カ所増えると、家庭向けの電気料金は1キロワット時当たり0.182セント上がる | 非営利の電力会社では影響がほぼない |
| 米PJMの市場監視機関 | 2026年1月 | データセンター以外の利用者の負担が3年分で約231億ドル増える | 入札結果を基に計算し直した試算で、料金に転嫁された額ではない |
米東部13州などの送電網を運営するPJMの管内では、将来の供給力を確保するための入札(日本の容量市場に当たる)で、落札価格が急騰した。PJMから独立した市場監視機関は、データセンターの需要が価格上昇の主因だと結論づけている。米ローレンス・バークレー国立研究所は、需要の伸びと料金の関係について「過去の傾向が今後も続くとは限らない」と注意を促している。同研究所はPJMの管内について、供給力の確保にかかる費用が膨らみ、2025年の料金を大きく押し上げたと分析した。
メタのルイジアナ州のデータセンター、負担減は電力会社の見通しどまり
料金が下がる例としてよく引き合いに出されるのが、米メタがルイジアナ州に建設中のデータセンターだ。メタのディナ・パウエル・マコーミック社長兼副会長は、9月に配信されたポッドキャスト番組でこの計画に触れた。自社向けの発電設備の費用はメタが出し、送電網の強化や暴風雨被害の復旧にかかる費用も負担したと説明し、「ルイジアナ州の消費者の負担を軽くしている」と強調した。
電力を供給する米エンタジー・ルイジアナは、約32億ドルを投じてガス火力発電所を3カ所に建設する。州の公益事業委員会が2025年8月、賛成4、反対1で承認した。同社は2025年12月、メタとの契約によって利用者の負担が15年間で約6億5,000万ドル減ると発表した。暴風雨被害の復旧費用として料金に上乗せしている額も、平均で約10%減るという。いずれも同社の見通しで、家庭の料金が実際に下がったことを示す資料は確認できなかった。
消費者団体や科学者団体は、かえって負担が増えかねないと懸念する。メタとの契約期間は15年だが、発電所は30〜40年使う。米科学者団体「憂慮する科学者同盟」は、契約が終わった後の費用や、送電線の建設費5億5,000万ドルが他の利用者の負担になる恐れがあると指摘している。
東京電力管内の電力需要は全国の約3割、託送料金は11月に値上げ
日本ではどうか。データセンターの立地が家庭の電気料金に及ぼす影響を、国内のデータで分析した研究は見当たらなかった。関連する研究としては、電力中央研究所の研究者が2025年12月の報告書で、米国の電気料金を2024年まで州別に調べている。報告書は、カリフォルニア州を除けば目立った値上がりが続く州はないとしたうえで、発電所や送配電網の増強費用が今後、電気料金に転嫁される恐れがあると指摘している。
国内の送配電は地域ごとに分かれ、10社が担う。東京電力が全国の送配電網を握っているわけではない。東京電力ホールディングス傘下の東京電力パワーグリッドは、関東を中心とする地域に電気を送る。電力広域的運営推進機関によると、東京電力管内の2024年度の電力需要は2,584億キロワット時で、全国(8,046億キロワット時)の32.1%を占めた。管内の送配電は東京電力パワーグリッドが独占し、料金は国の規制を受ける。東京電力ホールディングスの開示資料は銘柄ページで確認できる。
送配電網の利用料に当たるのが託送料金だ。電力小売会社が送配電会社に支払い、家庭や企業の電気料金に転嫁する。国は2023年度、送配電会社が5年間に託送料金で得られる収入に上限を設ける制度を導入した。実際の収入が上限を超えれば、超えた分は全額、次の5年間の料金を下げて利用者に還元する。米国の論文が示した効果を料金に反映する仕組みは、日本にもある。
だが、実際の料金は下がっていない。東京電力パワーグリッドは2023〜2027年度の需要が年0.1%ずつ減ると想定していたが、2024年度の収入は、上限を基にした同年度の想定額を227億円上回った。それでも、5年間の途中で料金を下げるのは、上限を超えた分の累計が5年間の上限額の5%を超えた場合に限られる。今回はこの水準に届かなかった。一方で同社は物価や人件費、金利の上昇を理由に、収入の上限を5年間で2,516億円引き上げるよう申請し、国が9月に承認した。家庭などが使う低圧の託送料金は11月、平均で1キロワット時当たり8.58円から9.65円に上がる。電力小売会社の東京電力エナジーパートナーは、標準的な家庭(月260キロワット時使用)の電気料金が月9,307円から9,561円へ254円上がると発表した。他社の例は北海道電力ネットワークの託送料金の記事で取り上げた。
印西・白井の送電網増強に2,000億円超、事業者の負担は約100億円
データセンターを送電網に接続する申し込みが急増している。東京電力パワーグリッドが受け付けた申し込みは、2025年8月時点で累計約1,520万キロワットに上る。契約済みの分だけでも、2034年度には約1,040万キロワットに達する見通しだ。同社の設備投資は年3,000億〜4,000億円程度で、増加傾向にある。国内のデータセンター計画は日本のデータセンター一覧にまとめている。
焦点は、増強費用を誰が負担するかだ。資源エネルギー庁の2025年3月の資料によると、データセンターが集まる千葉県の印西・白井地区では約40件、計約250万キロワット分の申し込みが接続待ちになっている。変電所の新設や送電線の張り替えに必要な工事費は、総額で2,000億円を超える見込みだ。このうち接続を希望するデータセンター事業者が負担するのは約100億円にとどまる。変電所など基幹となる送電設備の増強費用は、広い範囲の利用者に恩恵が及ぶとして、管内全体の託送料金で賄う決まりになっているためだ。
データセンターが計画どおり電気を使えば、1キロワット時当たりの固定費負担は軽くなる。計画が遅れたり縮小したりすれば、先に投じた費用を想定より少ない販売電力量で回収することになり、家庭を含む利用者の負担は重くなる。電力広域的運営推進機関は2026年1月の需要想定で、データセンターの稼働が計画より遅れる傾向があると指摘した。経済産業省の作業部会は、契約電力が3万キロワット以上の大口需要家を対象にした新たなルールを議論している。計画が1年を超えて遅れたり、規模を縮小したりした場合は、確保済みの送電容量を返上させ、工事費も事業者の負担で精算する案だ。経産省は2027年4月の導入を目指す。送電網への接続を巡る課題は、国内のデータセンター計画の記事でも取り上げた。
下がる余地は託送料金と再エネ賦課金、容量市場と燃料費は負担増の恐れ
データセンターの電力需要が増えると、家庭の電気料金はどう変わるのか。内訳ごとに整理した。
| 電気料金の内訳 | 家庭の負担 | 理由 |
|---|---|---|
| 託送料金(既存設備の分) | 減る | 上限を超えた収入は、次の5年間の料金引き下げで全額還元される |
| 再エネ賦課金 | 減る | 買い取り費用を全国の販売電力量で割って単価を決めるため、電力量が増えれば単価は下がる |
| 託送料金(設備増強の分) | 増える | 変電所など基幹となる送電設備の増強費用は利用者全体で負担する |
| 容量市場の負担金 | 増える恐れ | 需要の伸びに供給力が追いつかなければ、入札の落札価格が上がる |
| 燃料費 | 増える恐れ | 発電量の約7割を火力に頼り、燃料費の高い発電所の稼働が増えれば発電費用の平均が上がる |
負担が減る託送料金と再エネ賦課金について、編集部は減少額を試算した。
1つ目は託送料金だ。管内の需要が10%(258億キロワット時)増え、その全量をデータセンターが大口向けの「特別高圧」で受電すると仮定した。特別高圧の託送料金は平均で1キロワット時当たり2.11円と、低圧の約5分の1にとどまる。この前提では、東京電力パワーグリッドの収入は年約545億円増える。収入の上限(年平均1兆5,212億円)の3.6%に当たる。これがすべての利用者に同じ割合で還元されれば、標準的な家庭の託送料金に当たる分(月2,507円)は約90円減る。電気料金全体の0.9%に相当する。送電網の費用がまったく増えないという、現実には考えにくい前提で見積もったため、実際の減少額はこれより小さくなるとみられる。還元分を利用者にどう配分するかも、制度上は決まっていない。一方、印西・白井地区の工事費2,000億円超は、この増収分の約3.7年分に相当する。
2つ目は再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)だ。単価は、再生可能エネルギーで発電した電気の買い取り費用を、全国の販売電力量で割って決める。2026年度の単価は1キロワット時当たり4.18円で、国は販売電力量を7,665億キロワット時と想定した。電力広域的運営推進機関は、データセンターと半導体工場の新増設で、2035年度に全国の需要が568億キロワット時増えるとみている。買い取り費用は変わらず、販売電力量だけがこの分増えたと仮定すると、単価は3.89円に下がり、標準的な家庭の負担は月約75円減る。
2つの試算は前提が異なるが、単純に合計しても月約165円で、11月の値上げ幅(254円)に届かない。
一方、負担が増える費用は金額が大きい。将来の供給力をあらかじめ確保する容量市場では、電力小売会社などの負担総額が2024年度分の1兆5,987億円から2025年度分は5,140億円に減ったものの、2029年度分は2兆2,094億円に膨らむ。必要な供給力は最大需要を基に決める。需要の伸びに供給力が追いつかなければ、米国のPJMのように落札価格が上がり、家庭の負担も増える恐れがある。燃料費も膨らむ恐れがある。第7次エネルギー基本計画によると、日本は発電量の約7割を火力に頼る。燃料の多くは輸入で、需要が増えて燃料費の高い発電所まで動かすことになれば、発電費用の平均も上がる。
米国の論文が示したのは、設備に余裕があった2024年までの平均的な傾向だ。東京電力管内では、データセンターの接続申し込みこそ急増しているが、実際の需要が伸びるのはこれからで、物価や金利の上昇が先に料金に表れている。データセンターの増加が家庭の負担軽減につながるかどうかは、接続を申し込んだ事業者が計画どおりに電気を使うか、増強費用をどう分担するかの2点にかかっている。
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