米半導体大手のエヌビディアがクラウド事業者に対し、サービスの51%以上を中国以外の企業に提供するよう求めていると、英フィナンシャル・タイムズ(FT)が3日報じた。中国への対応をめぐる米議会などの批判をかわす狙いで、今夏に導入したという。

中国企業が米国製の先端半導体を使う方法は、大きく分けて3つある。中国への輸出、第三国経由の密輸、そして海外でのクラウドサービスの利用だ。米国は規制で、最先端品の中国への輸出を認めていない。FTによると、密輸もエヌビディアが取引先の審査を厳しくしたため減った。その分、海外でクラウドサービスを利用する中国企業が増えていた。エヌビディアは今回、この利用にも歯止めをかけた。FTは、AI開発で米国を追う中国にとって、追いつくのが一段と難しくなると伝えた。

今夏から口頭で伝え、米議会の批判をかわす狙い

FTが事情に詳しい関係者5人の話として報じたところでは、エヌビディアはここ数カ月、この要求をクラウド事業者に伝えてきた。これまでこうした制限はなかったという。FTが関係者の話として報じた要求の内容は次の通りだ。

項目報道の内容
求める比率サービスの51%以上を中国以外の企業に提供
対象世界のクラウド事業者(アジアに限らない)
適用新たな契約から(既存の契約は対象外)
導入の時期2026年夏
伝え方営業担当者や地域担当者が、書面ではなく口頭で伝える
狙い中国への対応をめぐる米議会などの批判をかわす
51%の測り方明らかでない

51%を売上高、提供する計算資源の量、顧客数のどれで測るのかは分かっていない。何をもって中国企業とするのかも明らかでない。FTの記事自体も、「顧客の過半数」と「サービスの51%以上」の2通りの書き方をしている。

エヌビディアは報道を肯定も否定もしていない。同社は声明で、米国製の半導体を使うデータセンターとクラウドがあってこそ、米国のAI企業は世界で戦えると強調した。米国は長年、クラウド事業者が米国の技術を使って世界で顧客を開拓するのを後押ししてきたとし、それが米国の経済と雇用を支え、影響力も高めてきたと訴えた。AFP通信によると、同社は、世界のクラウドが他国の半導体に頼れば、そこで動くAIも米国製ではなくなるとも主張した。

ロイター通信は、FTの報道内容を確認できていないとしている。中国外務省の毛寧報道局長は記者会見で「承知していない」と述べた。そのうえで、各国の企業を公平かつ透明に、差別なく扱うよう求めた。

クラウドが輸出規制の抜け道に、米国はH200の輸出に条件

米国の輸出規制は主に、半導体などモノの輸出を対象にしている。クラウドでは、半導体を事業者のデータセンターに置いたまま、利用者がインターネット経由で使う。中国企業が海外のデータセンターにある米国製の半導体を使っても、半導体そのものは中国に渡らないため、規制の網にかかりにくい。多くの中国企業は、AIモデルの学習など高度な処理に海外のデータセンターを使ってきた。米政府も、中国企業が海外のデータセンターで先端半導体を使えないよう、規制を強めようとしている。

米商務省産業安全保障局(BIS)は2025年5月、バイデン前政権が打ち出したAI半導体の輸出規制を撤廃すると発表した。同時に指針を公表し、米国製のAI半導体が中国のAIモデルの学習や推論に使われる恐れがあるとして注意を促した。新たな規制は、2026年10月末の時点でまだ示されていない。

米議会でも、半導体の対中規制を強める法案の審議が進んでいる。下院は2026年1月、敵対国の企業がクラウドを通じて米国の先端半導体を使うことを規制する法案を可決した。3月には下院外交委員会も、輸出した先端半導体の所在の確認をメーカーに義務づける法案を可決した。どちらもまだ成立していない。エヌビディアは8月に提出した四半期報告書で、1月の法案が成立すれば、親会社が中国にある企業へのクラウドサービスの提供が禁じられる恐れがあると指摘した。

商務省は2026年1月、H200など一定の性能までの半導体を中国へ輸出する際の審査を、原則不許可から個別審査に改めた。許可には条件を付けた。利用者の本人確認を徹底して無断で遠隔から使われるのを防ぐこと、親会社が中国にある利用者の一覧を提出すること、クラウドサービスとして提供する場合は用途を管理し制限することなどだ。米政府は2月から、中国の一部の取引先向けにH200の出荷を認めている。ただ認められた量は少なく、中国政府も国内での販売を制限している。より高性能なB300は、中国への輸出が認められていない。

エヌビディアは同じ四半期報告書で、中国のデータセンター向けの市場から事実上締め出されたとしている。H200など旧世代の「ホッパー」の中国向け販売は、2026年5〜7月期にデータセンター部門の売上高の1%に満たなかった。同じ期の売上高は全体で962億2100万ドル。中国(香港を含む)に本社を置く企業向けは78億8000万ドルだった。データセンター向け以外の製品も含む数字だ。

エヌビディアが取引先の審査を厳しく、中国企業は密輸から海外のデータセンターへ

中国企業が米国製の先端半導体を使う3つの方法と、米政府やエヌビディアの対策。中国への直接輸出では、B300は認められておらず、H200は米政府が個別に審査する。FTによると、エヌビディアが取引先の審査を厳しくしたため、第三国経由で中国に密輸される半導体は減った。米司法省も摘発を続けている。海外のデータセンターを使う方法をめぐっては、エヌビディアがクラウド事業者に、サービスの51%以上を中国以外の企業に提供するよう求めた
中国企業が米国製の先端半導体を使う3つの方法と、米政府やエヌビディアの対策。中国への直接輸出では、B300は認められておらず、H200は米政府が個別に審査する。FTによると、エヌビディアが取引先の審査を厳しくしたため、第三国経由で中国に密輸される半導体は減った。米司法省も摘発を続けている。海外のデータセンターを使う方法をめぐっては、エヌビディアがクラウド事業者に、サービスの51%以上を中国以外の企業に提供するよう求めた

FTによると、エヌビディアは今年、製品の中国への流出を防ぐため、アジアの取引先の審査を厳しくした。審査に合格した企業をホワイトリストに載せ、AI半導体の購入を認める取引先を既に半分未満に減らした。その結果、中国に密輸される先端半導体は減った。中国ではエヌビディア製半導体の闇市場が広がっており、米政府はそれを支える仲介業者の取り締まりも強めようとしている。

米司法省は、第三国を経由した密輸を相次いで摘発している。表の4件のうち、少なくとも3件は東南アジアを経由していた。

発表日米司法省の主な摘発金額
2025年11月20日A100を400個、マレーシアとタイ経由で中国に不正輸出したとして4人を起訴389万ドル超(中国からの送金)
2025年12月8日「ゲートキーパー作戦」で、H100とH200を中国に密輸した事件を摘発1億6000万ドル以上
2026年3月19日東南アジアの企業が購入したサーバーを中国に不正輸出したとして3人を起訴5億1000万ドル以上
2026年10月1日サーバーをマレーシアとシンガポール経由で中国に密輸したとして1人を逮捕3億ドル超

シンガポールは、エヌビディアの売上高でも大きな比重を占めていた。請求先の国・地域別にみると、2025年5〜7月期は全体の22%に上った。同社は当時、輸出規制の対象となるデータセンター向け製品に限ると、シンガポールの売上高の99%超は米国に本社を置く企業の注文だったと説明していた。2025年8〜10月期からは、請求先ではなく直接の取引先の本社がある国・地域別に売上高を開示している。

シンガポールでは2026年7月、個人4人が追起訴され、企業4社も起訴された。4人と4社は、米デル・テクノロジーズや米スーパー・マイクロ・コンピューターなどのメーカーに対し、サーバーのエンドユーザーを偽った疑いが持たれている。エヌビディアは8月の四半期報告書に、迂回輸出を防ぐため当局に協力していると記している。ただ、販売した製品には自社の管理が及ばず、取引先や提携先の法令順守体制に頼るしかないとも認めている。

各国も迂回輸出への対策を強めた。マレーシア政府は2025年7月、米国製の高性能AI半導体の輸出や積み替え、通過を許可制とし、即日施行した。日本政府も2025年10月、外為法に基づく「キャッチオール規制」を見直した。リストで指定していない製品も対象にする規制で、輸出管理で優遇する「グループA」(旧ホワイト国)以外の国への輸出では、集積回路などの汎用品でも、通常兵器の開発などに使われる恐れがあると輸出者が判断すれば、経済産業省の許可を得なければならない。グループAの国への輸出でも、迂回輸出の恐れがあれば、経産省が輸出者に許可の申請を求められるようにした。

中国ではB300搭載の機器が国際価格の約4.6倍に

B300はエヌビディアが手がける最先端の半導体の一つで、アンソロピックやオープンAIなど米AI大手が使っている。エヌビディアの締め付けで、中国企業ではAIの計算に使う先端半導体の不足に拍車がかかっているとFTは伝えた。

取引に詳しい関係者がFTに語ったところでは、B300を搭載した機器の国際価格は約60万ドルだ。中国では10月、品薄のため1850万元(280万ドル)の値が付いた。欧州中央銀行が公表する為替相場の10月平均は1ドル=6.685元だ。編集部がこれで換算すると約277万ドルとなり、FTの数字とほぼ一致する。中国での価格は国際価格の約4.6倍になる計算だ。

エヌビディアの製品ページによると、「DGX B300」はB300を8個搭載するサーバーだ。「GB300 NVL72」は72個を搭載する大型の製品で、サーバーを収める棚(ラック)全体で1つの製品になっている。ロイター通信によると、B300を8個搭載するサーバーは米国で約55万ドルだった。FTは価格を「1ラック」あたりとしているが、約60万ドルという水準はこれに近い。このため編集部は、FTの「1ラック」はGB300 NVL72ではなく、8個搭載のサーバー1台を指すと判断した。この前提で、価格の推移を表にまとめた。

時点区分B300を8個搭載するサーバーの価格出所
2025年末中国約400万元ロイター
2026年4月米国約55万ドルロイター
2026年4月中国約700万元ロイター
2026年10月中国1850万元FT
2026年11月国際価格約60万ドルFT

編集部の計算では、中国での価格は4月から10月までの半年で約2.6倍に上がった。ロイター通信によると、4月には購入をあきらめ、借りることを検討する企業もあった。1年契約の利用料は、高いもので月額19万元だったという。

東南アジアのデータセンター、新たな顧客の獲得に奔走

FTによると、米国以外のデータセンターは、エヌビディアの要求を受けて新たな顧客の獲得に奔走している。顧客が見つからなければ、事業の縮小を迫られかねない。計算資源の需要は米国と中国が突出して多く、東南アジアなどのデータセンターでは、これまで中国企業が最大の顧客だった。クラウド事業者は新たな要求への対応に苦慮している。シンガポールに拠点を置く企業はFTに「米国以外の市場で、中国以外の顧客を十分に見つけるのは難しい。厳格に運用されれば、事業への打撃は避けられない」と話した。

マレーシア南部のジョホール州政府によると、州内では2024年6月時点で、データセンター9カ所が完成し、電力容量は合わせて1280メガワットだった。ほかに6カ所、約1490メガワット分が建設中だった。シンガポール政府は2023年7月、公募で4件のデータセンター計画を選んだ。4件の電力容量は合わせて約80メガワットだった。このうち2件は、中国の字節跳動(バイトダンス)が参加する企業連合と、中国のデータセンター大手GDSの計画だった。2026年8月の2回目の公募では、米デジタル・リアルティや米エクイニクス、シンガポールのケッペルなど、いずれも中国以外の4社に50メガワットずつ配分した。

日本企業では、NTT(9432)傘下のNTTデータがジョホールバルにデータセンター6棟を建てる計画だ。電力容量は合わせて約290メガワットで、1棟目(48メガワット)は2027年4月に稼働する予定だ。マレーシアの英字紙ニュー・ストレーツ・タイムズが2024年12月に報じた。NTTデータは、どの企業が利用するかを公表していない。

さくらインターネットやソフトバンク、国の助成で計算基盤を整備

経済安全保障推進法に基づく経済産業省の助成額の上限(2023〜24年の認定分の合計)。最も多いのはさくらインターネットの569億円で、ソフトバンクの474億円が続く。KDDIは102億4000万円、ハイレゾは77億円。RUTILEAは25億6000万円、GMOインターネットグループは19億3000万円。ゼウレカは11億円
経済安全保障推進法に基づく経済産業省の助成額の上限(2023〜24年の認定分の合計)。最も多いのはさくらインターネットの569億円で、ソフトバンクの474億円が続く。KDDIは102億4000万円、ハイレゾは77億円。RUTILEAは25億6000万円、GMOインターネットグループは19億3000万円。ゼウレカは11億円

日本では経産省が助成金を出し、画像処理半導体(GPU)を使う計算基盤の整備を支援してきた。政府が経済安全保障推進法で特定重要物資に指定した「クラウドプログラム」の安定供給を確保するためだ。経産省によると、国内のクラウド市場で日本勢のシェアは約3割にとどまり、海外依存が高まっている。助成には、多くの開発者が使える計算資源を国内で整備する狙いがある。

さくらインターネット(3778)は2023年と24年の2回、供給確保計画の認定を受けた。助成額は合わせて最大569億円になる。「国内完結の生成AI基盤」を掲げ、2027年3月期は「GPUインフラ」事業の売上高で前期比2.6倍の208億5000万円を見込む。ソフトバンク(9434)も2024年5月に認定を受け、約1500億円を投じて計算基盤を整備する。助成額は最大421億円だ。2023年にも認定を受けており、合わせて最大474億円になる。KDDI(9433)の助成額は最大102億4000万円、GMOインターネットグループ(9449)は最大19億3000万円だ。

エヌビディアは2025年10月、日本でクラウドサービスを提供する提携先として、ソフトバンク、GMOインターネットグループ傘下のGMOインターネット(4784)、KDDIの3社を挙げた。要求はアジアに限らないとされ、日本のクラウド事業者にも及ぶ可能性がある。ただ、経産省の助成は、国内で使える計算資源を確保するのが目的だ。ソフトバンクも、計算基盤を国内の企業や研究機関に提供するとしている。国内の利用者が中心であれば、日本の事業者への影響は限られそうだ。

報道のとおりなら、エヌビディアは米国の規制や法律ができる前に、中国企業によるクラウドの利用に自ら制限をかけたことになる。ただ、対象は今後結ぶ契約に限られ、51%を何で測るのかもまだ分かっていない。東南アジアのデータセンターは、中国企業の比率を下げるため、ほかの国の顧客を増やす必要がありそうだ。ジョホールバルに拠点を建てるNTTデータも、同じ市場で顧客を集めることになる。

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