中国のメモリー産業には、DRAMは合肥の長鑫存儲、NANDは武漢の長江存儲という政府が決めた役割分担があった。その分担が2026年に崩れ、2社は互いの主力事業に参入する。上場で調達した909億元が、相手の市場に攻め込む資金になる。
中国の半導体業界には長年、越えてはならない一線があった。合肥の長鑫存儲がDRAM (メモリー) を、武漢の長江存儲がNAND型フラッシュメモリー (以下NAND) を担い、国家集成電路産業投資基金 (通称・大基金) が資金を割り当てて、互いの事業領域には手を出さない。当時の政府の計画では、担当分野を分けて足並みをそろえる方針と位置づけられていた。政府が担当分野を割り当て、各社がそれを守れば、業界内の価格競争と重複投資を避けられるという筋書きである。ところがこの一線は2026年に入って崩れた。台湾の電子時報は、2社の関係が急速に悪化し、互いの主力事業に参入する段階に入ったと報じている。
本稿は、長鑫存儲が2026年5月に上海証券取引所へ提出した上場保薦書、長江存儲の親会社が8月に提出した目論見書の報道、台湾と韓国の業界メディアの報道を2026年9月23日に確認し、役割分担が崩れた理由を技術と資金の両面から検証した。2社の会社概要は長鑫存儲と長江存儲の各ページにまとめている。
長鑫存儲はDRAM専業、長江存儲はNAND専業として大基金の資金で育ち、2026年には四半期の純利益が数百億元に達した
役割分担の成り立ちは、上場書類に明記されている。長鑫存儲の上場保薦書は、同社を「中国で規模が最も大きく、技術が最も進み、事業範囲が最も広いDRAMの垂直統合型メーカー」と位置づけ、2016年の設立以来DRAMに専念してきたと記す。製品はDDR4とLPDDR4XからDDR5とLPDDR5/5Xまでで、英調査会社オムディアの集計では出荷量・売上高とも中国1位、世界4位である。長江存儲の親会社である長存控股の目論見書は、同社をNANDの垂直統合型メーカーとし、台湾のトレンドフォースの集計で2026年1〜3月のNANDの売上高・出荷量とも世界3位、中国1位と記している。
大基金の出資比率も書類で確かめられる。長江存儲は大基金一期が11.97%、二期が11.38%を持ち、合計23.35%になる。長鑫存儲は大基金二期が8.73%で、清輝集電21.67%、長鑫集成11.71%に次ぐ第3位の株主であり、合肥集鑫8.37%、安徽省投7.91%が続く。大基金は一期987億2,000万元 (2014年)、二期2,041億5,000万元 (2019年)、三期3,440億元 (2024年5月) と規模を広げてきた。2社とも支配株主のいない分散した株主構成で、国と地方の資金が並んで出資している。
業績は2026年に様変わりした。長鑫存儲の売上高は2023年の90億8,700万元から2024年に241億7,800万元、2025年に617億9,900万元へと2年で6.8倍に増え、純利益は2023年の192億2,500万元の赤字、2024年の90億5,100万元の赤字から、2025年に71億4,400万元の黒字 (純利益率11.6%) に転じた。2026年1〜3月期は売上高508億元 (前年同期比719%増)、純利益247億6,200万元で、純利益率は48.7%に達する。長江存儲も2023年は191億8,100万元の赤字だったが、2024年に67億7,100万元、2025年に142億1,100万元の黒字を計上し、2026年1〜3月期は売上高470億4,200万元に対して純利益333億7,900万元、純利益率71.0%だった。米調査会社カウンターポイント・リサーチによると、2026年4〜6月期のNANDの出荷シェアで長江存儲は14%の3位に入り、米マイクロン・テクノロジーとキオクシアを上回った。DRAMでは長鑫存儲が7%で4位である。
長江存儲は武漢第3工場でLPDDR5を月2万5,000枚から試作し、長鑫存儲は北京にNANDの開発ラインを設ける
先に相手の領域に参入したのは長江存儲である。ロイター通信は2026年4月、同社が低消費電力DRAM (LPDDR) のサンプルを顧客に納め、年末までに顧客の評価を受けてDRAMの量産を判断すると報じた。電子時報によると、同社はLPDDR5の試作品を完成させ、2026年後半の量産を予定している。建屋の躯体工事を終えたばかりの武漢の第3工場は、生産能力をDRAMとNANDにほぼ半分ずつ振り分ける。報道では、第3工場は2026年末までに試作を始め、DRAMの初期の生産能力は月2万5,000枚で、その後はAI向けのHBM (広帯域メモリー) を目指す。長江存儲は政府から、消費者向けや車載向けを含むNANDの安定供給という役割も担っている。
長鑫存儲も対抗する。ロイターは9月18日、同社が北京の新工場にNANDの研究開発ラインを設ける計画で、NANDの開発を担う研究所を設立済みだと報じた。AIシステム向けのストレージ製品を手がける新興企業が、長鑫存儲のNANDを購入する意向を示しているという。量産の時期は未定で、台湾の経済日報は、早くても2028〜29年になるとの見方を伝えた。業界の予測では、最短で2028年に2社が市場で正面から競合する。電子時報は9月22日、2社が特許紛争に向かうと報じている。
規模を比べると、長江存儲のDRAMの初期の生産能力2万5,000枚は、長鑫存儲が2026年末に達する見込みの月35万枚の7.1%にすぎない。長江存儲のNANDの生産能力は月20万枚で、3つの工場を増設した後の2027〜28年には50万枚と2.5倍になる。相互参入は当面、本業の拡大と並行して進む。
スマホ向けの一体型パッケージ uMCP では、DRAMとNANDの片方しか作れない会社は交渉力を持てない
巨額を投じて築いた本業を守っていれば済むはずなのに、補助金を受ける国策企業同士がなぜ互いの市場を奪いに行くのか。半導体の技術が進む方向は、行政の指示では決められないからだ。産業政策の立案者は、半導体を積み木のように捉えていた。一方が機関車、もう一方が客車を造れば1本の列車が出来上がる、という発想である。しかし実際の技術には、事業領域を線引きする発想の弱点が最初から潜んでいた。
1つ目の弱点はスマートフォンの設計にある。以前のスマホは基板にDRAMとNANDを別々に実装していた。いまの中高価格帯の機種は、電池や放熱のための空間を確保するため、uMCP と呼ばれる一体型パッケージを使う。LPDDR5のDRAMをUFS規格のNANDの上に重ね、1つの部品としてスマホメーカーに販売する方式である。米マイクロンは、個別の部品に比べて実装面積がほぼ半分になると説明し、サムスン電子は2021年にLPDDR5のuMCPを量産して、基板の空き面積が150平方ミリ増えるとした。
この方式は、片方しか作れない会社に不利に働く。ファーウェイやシャオミ、トランシオン (伝音控股) が調達する際に求めるのは、DRAMとNANDを一体にした部品だ。長江存儲がNANDしか持たなければ、長鑫存儲からDRAMを買って組み合わせるか、顧客がサムスン電子、SKハイニックス、マイクロンに流れるのを黙って見ているほかない。この3社は両方を作れるうえ、一体で売れば値引きにも応じられる。供給網の中で半分しか作れない会社は、供給を相手に握られるだけでなく、価格の決定権も持てない。長鑫存儲は9月20日、第5世代のDRAM技術基盤の量産を発表し、メモリーセルの配線間隔 (ハーフピッチ) を11.95ナノメートルまで縮めた24GbのLPDDR5Xが国内の主力スマホに採用されたと明らかにした。スマホ向けの顧客を守るには、長江存儲も自前のDRAMを持つ必要がある。
HBMに欠かせないウエハーの貼り合わせ技術は長江存儲のXtackingにあり、サムスンも特許の使用許諾を受けた
2つ目の弱点はAIの計算基盤にある。AI向け半導体で最も不足しているのは演算能力ではなく、HBMだ。HBMはDRAMのチップを何層も縦に積み、極めて高い密度で接合して作る。米国は2024年12月にHBMの対中輸出規制を導入した。中国勢は制裁でEUV (極端紫外線) 露光装置を調達できず、回路の微細化による性能向上は難しい。残された手段は、先端のパッケージ技術でウエハー同士を貼り合わせることになる。
中国でこの貼り合わせ技術を最もよく使いこなしてきたのは、DRAMの長鑫存儲ではなくNANDの長江存儲だった。同社の公式説明によると、Xtacking はメモリーセルと周辺回路を別々のウエハーで作り、数十億個の金属の接続点 (ビア) で接合する技術で、周辺回路を高速の入出力に適したロジック向けのプロセスで作れる。2018年に採用し、2024年に第3世代、2025年に第4世代の製品を出荷した。仏調査会社KnowMadeの分析では、こうしたハイブリッド接合の特許は長江存儲が2017年から2024年1月までに119件で、サムスン電子の83件の1.43倍、SKハイニックスの11件を大きく上回る。サムスン電子は2025年2月、次世代の400層超のNANDでこの特許を回避するのが難しいため、長江存儲と使用許諾契約を結んだと報じられた。
HBMの製造で最も難しい積層構造の技術を自社が握っているのに、なぜ長鑫存儲の受託製造にとどまる必要があるのか。長江存儲の経営陣がそう判断したとしても不思議はない。同社は、DRAMを積層するためのTSV (シリコン貫通電極) の技術にも取り組んでいる。韓国半導体産業協会の推計では、中国と韓国の技術差はNANDで1年、DRAMで2年、HBMで3年で、長鑫存儲はHBM3Eの試作を始めたものの歩留まりは約25%にとどまる。貼り合わせの技術を持つ側がDRAMに参入する理由は、ここにある。
上場で調達した909億元と市況の変動の激しさが、DRAMとNANDの両方を持つ理由になる
3つ目の弱点は資本市場にある。メモリーは世界で最も市況の変動が激しい業界で、1990年代以降、DRAMかNANDの片方だけを作る専業メーカーの多くが、価格の急落で経営破綻に追い込まれた。サムスン電子とSKハイニックスが不況期を乗り切れたのは、DRAMとNANDの両方を持ち、片方の落ち込みをもう片方で補えたからである。
2社は上場でその備えを手に入れつつある。長鑫存儲は2026年7月27日に上海証券取引所の科創板に上場し、発行価格8.66元で579億1,900万元を調達した。長江存儲の親会社は5月19日に上場準備を届け出て、8月21日に科創板の上場申請が受理された。募集額330億元のうち208億元を量産ラインの技術改良に、122億元を研究開発に充てる。2社の調達額を合わせると909億1,900万元で、大基金三期の登録資本3,440億元の26.4%にあたる。公開市場で数千億元の評価を求める会社が、自らを片方の製品しか持たない会社だと説明するわけにはいかない。経営陣は投資家に、DRAMとNANDをそろえた総合メモリーメーカーという将来像を示す必要がある。
| 比較 | 長鑫存儲 | 長江存儲 |
|---|---|---|
| 2025年の純利益 | 71億4,400万元 | 142億1,100万元 |
| 2026年1〜3月期の純利益率 | 48.7% | 71.0% |
| 大基金の出資比率 | 8.73% (二期) | 23.35% (一期・二期) |
| 上場の調達額 | 579億1,900万元 (7月27日上場) | 330億元 (8月21日受理) |
産業政策の立案者は、競争をなくして力を集中させるつもりだった。文書で担当を決めれば、業界内に秩序が保たれると考えていた。この設計の盲点は、変わり続ける技術の進歩を固定した前提として扱った点にある。パッケージ技術が一体化に向かった途端、行政が決めた分担は企業の存続を左右する足かせになった。分担を守る側はスマホとAIの供給網で徐々に競争力を失い、生き残りを図る側は分担を越えて相手の市場に攻め込む。政府主導の分業は、大基金の配分と技術者の引き抜きをめぐる争いに変わった。市場と技術の法則は、官僚が描いた計画には従わない。
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