ガソリンが3.9%上がった1か月だった。ウエートは3.770%しかないのに、この1品目だけで8月の物価上昇の37.1%を占めている。電気も都市ガスも下がっており、値上がりはこの燃料1つに偏っていた。
米労働省労働統計局が2026年9月11日に公表した8月の消費者物価指数は、前月比0.4%、前年比3.4%だった。前年比は7月と同じで、公表された総合の数字は動いていない。だが報道発表の表2に載っている品目ごとのウエートを使って割り戻すと、この0.4%も3.4%も、ごく少数の品目が押し上げていたことがわかる。
投稿は、この報道発表を材料に「8月の消費者物価指数は需要の崩れを隠しており、米連邦準備理事会はここで利上げをすれば誤る」と書いた。本誌はその投稿が挙げた寄与度をすべて一次資料から計算し直し、さらに総務省統計局の日本の指数と並べた。取得日はいずれも2026年9月12日である。
エネルギーと住居が、8月の値上がりの62.4%を占めた
寄与度は、品目のウエートに変化率を掛け合わせれば出る。8月の総合の前月比は0.396%で、そのうちエネルギーが0.154ポイントで総合の38.9%、住居が0.093ポイントで23.5%を占めた。足すと0.247ポイントになり、総合0.4%の62.4%にあたる。投稿は「およそ61%」と書いていたが、本誌の計算では62.4%だった。
エネルギーの側はガソリンにほぼ集中している。報道発表の表2にあるウエート3.770%のガソリンが季節調整済みで前月比3.899%上がり、掛けると0.147ポイントで、これだけで総合の37.1%になる。ガソリン以外のエネルギーはウエート3.577%に対して前月比0.20%で、寄与は0.007ポイントしかない。電気は8月に0.2%下がり、都市ガスは1.1%下がっている。上がったのは灯油で、月次で10.1%、12か月では52.0%に達した。ただし灯油のウエートは0.107%しかなく、総合を押し上げる力は小さい。ガソリン1品目が月次を動かした経緯と、指数が価格を調べた期間が原油高の前に終わっていた点は、本誌の米CPI上昇の3分の1超はガソリン1品目で扱った。
住居の中身はさらに偏っている。ウエート1.402%の宿泊料が前月比2.357%上がり、寄与は0.033ポイントになった。住居の寄与0.093ポイントの35.4%である。残る家賃と持ち家の帰属家賃などはウエート33.941%もありながら、前月比0.18%で寄与は0.060ポイントにとどまった。家賃は0.17%、持ち家の帰属家賃は0.19%しか上がっていない。住居の指数を押し上げたのは、住んでいる家の家賃ではなく、旅行や出張で泊まった宿の代金だった。宿泊料は7月に2.75%下がっており、8月の上昇はその反動でもある。
エネルギーと住居を除いた残りの品目は、ウエート57.310%に対して寄与0.149ポイント、前月比に直すと0.26%だった。総合の値上がりの37.6%にあたる。ガソリン1品目の37.1%と、ほぼ変わらない。
消費者物価指数は、品目のウエートと価格の変化率を掛けて足し合わせたものである
ここで指数そのものの成り立ちを確かめておきたい。消費者物価指数は、家計が何にいくら使っているかという調査から品目ごとの重みを決め、その重みで価格の変化率を加重平均したものである。米国はこの重みを「相対的重要度」という名前で報道発表の表2に載せている。合計は100.000になる。
2026年7月時点の内訳は、住居が35.343%、食品が13.540%、エネルギーが7.347%で、残りの品目が43.770%になる。住居だけで3分の1を超えるのが米国の指数の特徴である。ウエートが大きい品目は、わずかに動くだけで指数を動かす。住居は前月比0.264%という小さな変化で0.093ポイントを生んだ。逆にウエート3.770%のガソリンは、3.899%という大きな変化があって初めて0.147ポイントになる。同じ0.1ポイント前後の寄与でも、背後にある値動きの大きさはまったく違う。
前年比の寄与も同じやり方で分解できる。ただし現在のウエートは足元の価格を反映しているので、前年同月の重みに直さないと過大になる。エネルギーの現在のウエート7.347%を、総合の前年比3.4%とエネルギーの前年比16.3%の比で割り戻すと6.532%になる。これに16.3%を掛けると1.065ポイントになる。住居は前年のウエートが35.480%で1.064ポイント、食品は13.632%で0.368ポイントになる。
エネルギーと住居を足すと2.129ポイントで、前年比3.4%の62.6%を占める。投稿は「エネルギーがおよそ1.08ポイント、住居がさらに1.08ポイント」と書いており、本誌の1.065と1.064にきわめて近い。家計が避けにくい2項目に3分の2近くが集まっているという投稿の指摘は、報道発表のウエートから復元できる。
コア指数の直近3か月を年率にすると1.97%になり、除く範囲を広げるとさらに下がる
米国のコア指数は、総合から食品とエネルギーを除いたものを指す。ウエートは79.114%である。8月の前年比は2.4%で、7月の2.5%から下がった。総合の3.4%との差は1.0ポイントになる。
月ごとの動きを見ると、季節調整済みのコア指数の前月比は6月が0.02%の下落、7月が0.22%、8月が0.29%だった。3か月を年率に直すと1.97%になる。投稿の「3か月の月ごとの値を年率にするとおよそ2.0%」という記述と合う。月ごとには強まっているが、年率に直した水準は米連邦準備理事会が目安としてきた2%を下回っている。
投稿はさらに「食料・住居・エネルギーを除くと年でわずか2.0%」と書いた。この数字は報道発表が直接は載せていない。本誌は3項目の前年のウエートと寄与を総合から差し引いて逆算した。食品0.368ポイント、住居1.064ポイント、エネルギー1.065ポイントを3.4ポイントから引くと0.903ポイントが残り、ウエートは44.355%になる。割り戻すと2.04%になった。投稿の2.0%は、この逆算とほぼ一致する。
除く範囲を広げるほど数字が下がるという事実は、除いた部分こそが3.4%の中身そのものだということでもある。住居のウエート35.343%を除くだけで、前年比は2.4%から2.04%へ0.36ポイント落ちる。債券市場が織り込む期待インフレが、輸入物価の上昇とどれだけ離れていたかは、本誌の輸入小麦は12%上がり、債券の期待インフレは1年で0.02ポイントで検証している。
前年を下回る品目は並ぶ。ただし投稿の2つは符号が逆だった
投稿は、景気に敏感な品目がすでに値下がりしていると書き、11品目を挙げた。本誌が報道発表の表2と突き合わせたところ、8品目は公表値と一致した。
一致したのは、スマートフォンの12.2%安、医療保険の8.5%安、自動車保険の5.1%安、引っ越し・保管・運送の4.6%安、情報関連機器の4.3%安、医薬品などの医療用品の2.7%安、中古車・トラックの2.3%安、家具・寝具の0.8%安である。いずれも12か月の変化率で、前年を下回っている。
残る2つは符号が逆だった。投稿は「おもちゃは2.3%下落」と書いたが、表2の12か月の変化率は2.3%の上昇である。数字は一致しており、符号だけが逆になっている。表1によれば、おもちゃの8月の前月比は2.1%の下落である。月ごとの下落と年の上昇が入れ替わっている。もう1つの入場料は、投稿が0.8%下落としているが、表2の12か月では2.9%の上昇になっている。0.8%という値は本誌が調べた表のどこにもなかった。
なお医療保険の8.5%安とスマートフォンの12.2%安は、どちらも品質の向上を値下がりとして織り込む品質調整を経た数字である。店頭の値札がその幅で下がったわけではない。不要不急の支出が細っているかを測る材料として読むなら、この点は割り引く必要がある。
日本の「コア」はエネルギーを含むので、同じ言葉で日米を比べると逆の答えが出る
ここからは日本の指数と並べる。総務省統計局の消費者物価指数は2025年を基準とする指数に切り替わっており、全国の最新は2026年7月分である。米国が8月分を9月11日に出しているのに対し、日本は1か月遅い。
最も紛らわしいのが「コア」という言葉である。米国のコア指数は食品とエネルギーの両方を除く。日本のコア指数は生鮮食品だけを除き、エネルギーは含んだままになる。エネルギーまで除いた指数は、日本では「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」という別の名前で呼ばれる。
数字で見ると違いがはっきりする。日本の2026年7月は、総合が1.9%、生鮮食品を除く総合が1.8%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合が1.9%だった。米国では総合3.4%からコア指数2.4%へ1.0ポイント下がるのに、日本では総合1.9%からコア指数1.8%へ0.1ポイントしか下がらず、エネルギーまで除くと逆に1.9%へ戻る。米国ではエネルギーが指数を押し上げ、日本では押し下げる側に回っているからである。
住居の扱いも違う。米国の住居はウエート35.343%で前年比3.0%、そのうち持ち家の帰属家賃は25.918%と前年比3.1%になる。日本の持ち家の帰属家賃は前年同月比0.4%しか上がっていない。「持家の帰属家賃を除く総合」は2.2%で、総合1.9%を0.3ポイント上回る。日本では帰属家賃が指数を押し下げている。米国で住居が3.4%の3分の1近くを押し上げているのと、正反対の姿になる。
指数の水準そのものも比べられない。米国の総合は1982〜84年を100とする指数で334.980、日本の総合は2025年を100とする指数で102.0である。日本はおよそ5年ごとに基準を改定しており、統計コード00200573には平成17年基準から2025年基準まで5つの統計表が並んでいる。数字の大小に意味はなく、比べられるのは変化率だけになる。
向きも違う。日本の総合は2025年6月の3.3%から下がり続け、2026年1月には1.5%まで落ちた。そこから7月の1.9%へ戻している。生鮮食品及びエネルギーを除く総合は2025年7月の3.4%から2026年7月の1.9%へ下がった。米国の総合は7月までの12か月も8月までの12か月も3.4%で動いていない。同じ「インフレが続いている」という表現でも、日米では中身も向きも違う。この8月の指数が公表された日に日本株がどう動いたかは、本誌の米CPI3.4%で確定、日本株5銘柄の四半期に隠れていた数字で扱った。
この指数には2025年10月と11月が存在しない
最後に、報道発表の図1そのものについて書いておきたい。掲載されている13か月分の棒グラフには、2025年10月と11月の棒がない。
理由は図の下の注記に1行だけ書いてある。2025年の歳出予算が失効したため、この2か月分のデータの値は利用できない、というものである。本誌がセントルイス連邦準備銀行の統計で総合・コア指数・エネルギー・住居・家賃・持ち家の帰属家賃の指数を調べたところ、どれも2025年10月の数値が無かった。ガソリンの指数だけは2025年10月があり、前月比1.31%の下落となっている。
この2か月の空白は、前年比を読むときに問題になる。2026年10月と11月の前年比は、比べる相手の月が存在しない。日本の2025年基準の指数には2025年10月の100.7も11月の101.0もあるので、同じ時期の日米を月ごとに並べようとすると、米国側だけが2か月抜ける。
なお報道発表の公表値と、本誌がセントルイス連邦準備銀行の指数から計算した前月比は、13か月すべてで小数第1位まで一致した。3月の0.9%は本誌の計算で0.87%、8月の0.4%は0.396%になる。小数第1位までしか出ていない公表値も、指数からたどれば誰でも復元できる。
8月の消費者物価指数が伝えているのは、物価が3.4%上がったという1つの事実ではない。エネルギーと住居という避けにくい2項目が2.13ポイントを占め、それを外した部分は2.04%まで下がっているという、寄与度の偏りである。前年比が7月と同じ3.4%にとどまったという一行からは、この偏りは読み取れない。指数を見るときは、必ずウエートと変化率の掛け算に戻して、どの品目が何ポイント押し上げたかを確かめたい。日本の指数を同じ手順で読むなら、まず「コア」が何を除いた数字なのかを確かめるところから始めたい。
本誌は、統計と企業の一次資料を数字の出どころまでさかのぼって検証した記事を出している。各国の物価統計や企業の開示について個別の検証が必要なときは、データのお問い合わせで相談を受け付けている。
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