ガソリンは米消費者物価のウエートの3.770%しかない。その1品目が8月の押し上げ分の36.8%を占め、エネルギー全体でも前年比3.4%のうち1.065ポイント、31.3%にあたる。金融政策の効果が及ばない範囲である。

同じ発表で、食品とエネルギーを除くコアは2021年4月以来の低さまで下がった。それでも来週の利上げ確率は91%まで上がっている。市場が見ているのは、この指数が調査を終えた後に起きたことである。

投稿は、米労働省が9月11日に公表した8月の消費者物価指数を取り上げ、コアの前月比が市場予想を上回ったことで来週の利上げ確率が約90%まで上がったと書いている。会合は9月15日から16日で、実現すれば3年ぶりの利上げになる。本誌は同じ指数の公表資料と、労働統計局・エネルギー情報局・経済分析局の統計を突き合わせた。取得日はいずれも2026年9月12日である。公表当日の日本株の値動きと個別5社の四半期は9月11日の別稿で扱ったので、本稿は指数の中身と、指数が価格を調べた期間だけを追う。

米CPIの月次上昇は、3分の1超をガソリン1品目が占めた

労働統計局の公表資料は、加速の理由を推測ではなく比率で書いている。「ガソリンの指数は8月に3.9%上がり、月次の総合指数の上昇の3分の1超を占めた」。総合指数の上昇は季節調整済みで0.4%、7月は0.1%だった。同じ資料は表2にウエートも載せている。ガソリンは3.770%で、3.9%を掛けると0.147ポイントとなり、総合指数の0.4%の36.8%にあたる。指数の27分の1ほどの品目が、その月の物価上昇の3分の1超を占めたことになる。

エネルギー全体は2.1%上がった。ただし内訳を見ると、天然ガスは1.1%、電気は0.2%それぞれ下がっている。エネルギーが押し上げ要因になったのは、ガソリン1品目の上昇がこの2つの下落を打ち消して余りあったからである。7月のエネルギーは1.5%の下落だったので、投稿が書いた「2か月続けて下がったあとの反発」は指数の上でも確かめられる。

前年比で見ると偏りはさらに際立つ。12か月でエネルギーは16.3%、うちガソリンは27.4%上がった一方、同じエネルギーに属する天然ガスは4.4%、電気は3.8%の上昇にとどまる。総合指数は3.4%である。

2026年8月の米消費者物価 12か月上昇率
2026年8月の米消費者物価 12か月上昇率

エネルギー全体の寄与度も同じ表から出る。エネルギーのウエートは8月時点で7.347%だが、前年比の寄与度を求めるには1年前のウエートへ割り戻す必要がある。エネルギーの指数はこの12か月で16.3%、総合指数は3.4%上がっているので、7.347に1.034を掛けて1.163で割ると6.532%になる。これに16.3%を掛けた1.065ポイントが寄与度で、総合指数3.4%の31.3%にあたる。コアの前年比は2.4%だから総合指数との差は1.0ポイントで、この差は定義上、食品とエネルギーによるものだ。

数字の並べ方については、投稿に1つ取り違えがある。投稿は0.4%を季節調整前の月次としているが、労働統計局が0.4%として発表したのは季節調整済みの数字で、季節調整前の月次は0.3%、指数の水準は334.980である。季節調整前なのは年率3.4%のほうにあたる。ガソリンも同じで、3.9%は季節調整済み、季節調整前は2.5%である。

コアCPIは2021年4月以来の低さで、上がったのは通信と航空運賃だった

コアの前月比は0.3%で、7月の0.2%から上がった。投稿が市場予想を上回った点として挙げたのはこの数字である。一方、同じコアの前年比は7月までの12か月の2.5%から2.4%へ下がった。季節調整済みの統計で小数第2位まで取ると、5月2.82%、6月2.57%、7月2.47%、8月2.45%と3か月続けて低下している。2.45%以下だった月をさかのぼると、直近は2021年3月の1.65%で、そこから今回までの5年4か月はすべてこれより高い。投稿が書いた「2021年4月以来の低さ」は正確である。

では何が0.3%を押し上げたのか。公表資料が上がった項目として挙げているのは通信、宿泊料、航空運賃、教育、中古車で、下がった項目としては医療と自動車保険を挙げている。

項目8月の前月比7月の前月比
通信2.3%上昇0.6%上昇
航空運賃2.7%上昇記載なし
宿泊料2.4%上昇2.8%下落
教育0.8%上昇記載なし
中古車・トラック0.4%上昇記載なし
新車0.3%上昇記載なし
住居0.3%上昇0.1%上昇
医療0.2%下落0.4%上昇
自動車保険0.8%下落0.3%下落

本誌の見立てでは、この一覧は物価の根強さというより反動に近い。宿泊料は前月に2.8%下げた後の2.4%上昇で、2か月をならせばまだマイナスである。医療は歯科が0.6%下がり、入院・医師・処方薬はいずれも横ばい、自動車保険は2か月続けて下がった。住居は0.3%上がったが、内訳の持ち家の帰属家賃と家賃はいずれも0.2%で、ウエートの大きい部分は動いていない。住居の12か月上昇率は3.0%まで下がっている。

投稿が「エネルギーと家賃を除くサービスが0.5%上がった」と書いた数字は、公表資料には載っていない。公表されている近い集計は「エネルギー関連を除くサービス」で、季節調整済みの統計では前月比0.33%である。家賃を除くと値が上がるのは、家賃の上昇が小さいぶん残りのウエートが高まるからで、投稿が根拠として挙げた通信・宿泊・航空券の3つは公表資料の記述と一致する。数字そのものは独自に計算した値だが、指している中身は合っている。

財の側は動きが小さい。食品とエネルギーを除く財は前月比0.11%、前年同月比0.66%で、投稿が「主な押し上げ要因」とした新車と中古車も、前月比はそれぞれ0.25%と0.37%にとどまる。中古車の前年同月比はマイナス2.32%で、1年前より安い。

米CPIが調査を終えた後に、ブレント原油は100ドルを超えた

投稿の末尾近くに、ゴールドマン・サックスのアレクサンドラ・ウィルソンエリゾンド氏による指摘が置かれている。この報告の調査期間はエネルギー価格の最新の上昇より前で、商品高がエネルギーから金属や農産物へ広がるより前だ、というものである。投稿では3つ並んだ見解の1つとして扱われているが、日付を確かめると位置づけが変わる。

8月の指数が調べたのは8月の価格である。その月のブレント原油は平均91.08ドルだった。9月に入ると1日に96.02ドル、3日に100.52ドルと100ドルを超え、9日には109.51ドルまで上がっている。8月平均との差は20.2%である。投稿が「今週、原油価格が1バレル100ドルを超えた」と書いたのはブレントのことで、WTI原油は9日時点で97.26ドルとまだ100ドルに届いていない。同じ「原油100ドル」でも、どの原油を指すかで到達したかどうかが変わる。

店頭価格の動きはさらにはっきりしている。軽油の週ごとの店頭価格は8月の平均が5.462ドル、9月7日は5.967ドルで9.25%高い。この5.967ドルは統計をさかのぼれる1994年3月以降で最高値にあたり、投稿が書いた「軽油の店頭価格が過去最高を更新した」は確かめられる。レギュラーガソリンは8月の週平均4.058ドルに対し9月7日が4.157ドルで、上昇は2.44%にとどまり、2022年6月13日の最高値5.006ドルを16.96%下回っている。上がり方が軽油とガソリンで大きく違う。

8月の調査が終わった後に、原油と軽油が動いた
8月の調査が終わった後に、原油と軽油が動いた

日程を並べると開きがはっきりする。8月分の公表は9月11日、会合は9月15日から16日、9月分の価格が指数に載るのは10月14日で、会合の28日後になる。連邦公開市場委員会が来週見るのは、9月の原油と軽油が1日も入っていない指数である。本誌の見立てでは、利上げ確率が90%まで上がった理由を8月の0.3%に求めるのは順序が逆で、市場は指数の外にある9月の価格を先に見ている。

利上げで動かせない品目が、上昇の3割を占めている

投稿は、価格の圧力が続く理由として輸入関税と、人工知能向けの設備投資に伴うメモリー半導体の不足を挙げている。このうち後者は指数で確かめられる。

消費者物価のパソコンと周辺機器は、8月に前月比3.76%、前年同月比8.43%上がった。この指数は下がるのが普通で、1996年以降の247か月のうち前年同月比がプラスだったのは23か月しかない。年平均で見ると2015年はマイナス8.87%、2023年はマイナス5.10%、2024年はマイナス3.47%である。今回以上の上昇率だった月をさかのぼると、直近は2021年9月の8.52%になる。

下がり続けていたパソコンと周辺機器の価格が上がった
下がり続けていたパソコンと周辺機器の価格が上がった

同じ8月に、食品とエネルギーを除く財は前年同月比0.66%しか上がっていない。パソコンと周辺機器の8.43%はこれを7.77ポイント上回る。財全体が落ち着いている中で、この1分類だけが別の動き方をしている。半導体の価格がどこまで数量ではなく単価で伸びているかは半導体111%成長を価格と数量に割り直した記事で扱った。

ここで並ぶ2つの品目には共通点がある。ガソリンの価格は中東情勢とロシア・ウクライナの戦争による供給側の事情で動き、メモリー半導体の価格は人工知能向けの設備投資が需要側を押し上げて動く。関税も輸入価格に直接乗る。いずれも政策金利の上げ下げが短期には波及しない。エネルギーだけで総合指数3.4%の31.3%を占めるという先の計算は、裏返せば、金融政策の効果が及ばないところで物価の3割が決まっているということでもある。

市場は木曜の生産者物価で動き、金曜の米CPIで確率を91%にした

投稿は生産者物価と雇用を利上げ観測の補強材料として挙げている。8月の生産者物価は最終需要で157.411、前月比0.40%、前年同月比5.41%だった。消費者物価の前年同月比3.35%との差は2.06ポイントで、川上の価格が川下より速く上がっている。非農業部門雇用者数は8月に前月から16万2,000人増えた。

値動きの順序を日付で追うと、材料と反応の関係が見える。生産者物価が出た9月10日、2年国債利回りは前日の4.43%から4.56%へ、10年国債は4.83%から4.95%へ上がり、恐怖指数は16.46から17.84へ動いた。消費者物価が公表されたのは翌11日の米東部時間午前8時30分、日本時間では同日21時30分である。米CMEグループのフェドウォッチによる来週の利上げ確率は、木曜時点の約72%から公表直後に約91%へ上がった。投稿が書いた「約90%」はこの数字にあたる。

日経平均は9月11日に前日比1,259.61円安の64,011.34円で引けた。ただし東京市場が引けたのは日本時間の午後で、消費者物価の公表より前である。金曜の東京が下げたのは木曜の生産者物価と金利、そして原油への反応であって、コアが0.3%だったことへの反応ではない。

政策金利の誘導目標は9月11日時点で上限3.75%・下限3.50%にある。直近の利上げは2023年7月27日に上限を5.25%から5.50%へ引き上げた回で、9月16日に動けば3年1か月ぶりになる。その間、2024年9月からの6回の利下げで上限は1.75ポイント下がっている。投稿が引いたウォッシュ議長の「やるべきことが多く残る」という発言は8月28日のジャクソンホール講演で、同じ週にウォラー理事は3.50〜3.75%の据え置きに票を投じる意向を示した。投稿がナティクシスのクリストファー・ホッジ氏の利上げ予想と、ミシュラー・フィナンシャル・グループの見送り予想を並べたのは、当局者の意見の食い違いをそのまま映している。

もう1つ、投稿の数字で現実に追い越されているものがある。投稿は「総合の個人消費支出物価が年末に3%を超える」というエコノミストの見込みを紹介しているが、この指数は2026年7月時点ですでに前年同月比3.70%である。食品とエネルギーを除くものでも3.34%で、いずれも2%の目標から離れている。年末を待つ予想ではなく、すでに公表されている水準として読むほうが実態に合う。

投稿が最も強い材料として置いたコア前月比0.3%は、通信と航空運賃と宿泊料の反動によるものだった。前年比2.4%は2021年4月以来の低さだった。それでも利上げ確率が91%まで上がったのは、指数が調べ終えた8月の平均からブレント原油が20.2%上がり、軽油が1994年以来の記録を更新したからである。9月の物価を反映した指数が出るのは10月14日で、決定はその28日前に下る。投資家が9月に見るべき数字は、公表された前年比ではなく、まだ指数に入っていない価格のほうにある。

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