2026年1〜7月に半導体産業の売上は4,080億ドルから8,610億ドルへ2.1倍になった。増加分4,530億ドルのうち3,060億ドルはメモリー価格の上昇分で、数量が押し上げた分は500億ドルしかない。
米調査会社バーンスタインが、世界半導体市場統計 (WSTS) の数字を価格要因と数量要因に分けた分解を示した。2025年1〜7月の4,080億ドルから2026年同期の8,610億ドルへ、業界の売上は111%伸びた。その111ポイントのうち75ポイントはメモリーの単価が上がった分で、数量の寄与は12ポイントにとどまる。価格が押し上げた分を合計すると87ポイント、数量が押し上げた分は22ポイントになる。本稿はこの分解が日本の税関統計と米国の政府統計でも同じ形になるかを確かめ、そのうえで「業界の総額」という数字が今年どこまで使えるかを見る。
メモリー価格だけで3,060億ドル、値上がり全体で87ポイントを占めた
分解は8つの項目でできている。メモリーの価格が3,060億ドル、メモリーの数量が500億ドル、ロジック・MPU・MCUの価格が550億ドル、同じく数量が290億ドル、アナログの価格が20億ドルの減少、アナログの数量が100億ドル、ディスクリート半導体・光半導体・センサー・DSPの価格が10億ドル、同じく数量が50億ドルである。2025年1〜7月の4,080億ドルを分母に置くと、順に75%、12%、13%、7%、▲1%、2%、0%、1%になり、合わせて111%の成長になる。メモリーの価格と数量を足すと3,550億ドルで、増加分4,530億ドルの8割近くをメモリーが占める。メモリー以外の3分類の寄与は全部足しても1,000億ドルに届かない。
図1 — 4,080億ドルから8,610億ドルまでの8段。値上がり側だけで87ポイントを占める
図には「価格と数量が重なる部分は価格に寄せた」という注記が付いている。数量が増えたうえに単価も上がった分が価格に数えられているため、この分解は価格の寄与をやや大きめに示す。引用するときはこの偏りを踏まえる必要がある。
そのまま引用するときに見落としやすい点が2つある。百分率の8項目を足すと109%で、図に書かれた111%と2ポイント合わない。金額の8項目を足すと4,540億ドルで、8,610億ドルから4,080億ドルを引いた4,530億ドルと10億ドル違う。どちらも各項を整数に丸めた差であって、元の数字が食い違っているわけではない。
価格要因だけを合計すると87ポイント、数量要因は22ポイントになる。111ポイントのうち78%が値上がり、20%が数量である。「メモリーの値上がりだけで業界の成長の約70%」という言い方は75を111で割った67.5%を指していて、値上がり全体で測ればその比率はさらに上がる。メモリーを除いた増加分は980億ドルで、メモリーを除いた2025年の売上を2,900億ドルとすればおよそ34%の伸びになる。この分解を紹介した解説が挙げる「メモリーを除けば残りは約35%」と、おおむね合う。
日本のIC輸入は数量が17.2%しか増えず、金額は57.3%増えた
同じ7か月を、日本の税関が別の方法で測っている。財務省の貿易統計で集積回路の輸入を1月から7月まで足すと、数量は127億8,219万個から149億8,612万個へ17.2%増え、金額は1兆9,591億円から3兆821億円へ57.3%増えた (政府統計の総合窓口、2026年9月12日取得)。金額を数量で割った1個あたりの単価は153.3円から205.7円へ34.2%上がっている。2026年は1〜6月が確報、7月は輸入9桁速報で、前年は確々報の数字である。
図2 — 測る役所も対象も違う3つの統計で、数量の伸びはそろって1〜2割に収まる
円安の分は差し引く必要がある。円相場の1〜7月平均は2025年の148円20銭から2026年の158円78銭へ動き、円は7.1%下がった (米セントルイス連銀、2026年9月12日取得)。ドルに直した単価は1.034ドルから1.295ドルで、それでも25.2%上がっている。日本が集積回路1個に払う金額は、円安の影響を除いても2割以上増えた。
バーンスタインと同じやり方で分解できる。金額の増加1兆1,230億円のうち、数量が増えた分を前年の単価で評価すると3,378億円、残りの7,852億円が単価の上昇による。比率は価格要因が70%、数量要因が30%である。業界全体の78%対20%より価格要因がやや低いのは、日本の統計が集積回路を一括りにしていて、値上がりの穏やかなロジックが混ざっているためで、メモリーだけを抜き出せれば比率はさらに価格要因に寄る。
米国の統計も同じ方向を示す。米連邦準備理事会 (FRB) が公表する鉱工業生産指数のうち半導体・その他電子部品の系列は、2026年7月に191.90で前年同月比11.9%増だった (FRB、2026年9月12日取得)。売上が111%伸びた期間に、米国で実際に作られた数量は12%しか増えていない。日本の輸入数量17.2%増と合わせて、数量の伸びは1〜2割に収まる。
メモリー価格の寄与は数量の6.1倍、アナログは値段が下がっている
分類ごとに見ると、同じ「半導体」の中で3つの違う相場が同時に動いている。メモリーは価格の寄与3,060億ドルが数量の500億ドルの6.1倍で、値上がりが主役である。ロジック・MPU・MCUは550億ドル対290億ドルの1.9倍で、値上がりと数量の両方が効いている。アナログは価格の寄与が20億ドルの減少、数量が100億ドルで、値下がりしながら数量で伸びた唯一の分類になる。ディスクリート半導体・光半導体・センサー・DSPは10億ドル対50億ドルで、こちらも数量が主役である。
WSTS が集計した上期の実績も同じ形をしている。2026年1〜6月の世界の半導体売上は7,020億ドルで前年同期比102%増、その中でメモリーは305%増、ロジックは45%増だった。45%成長の事業と305%成長の事業を1つの数字に足し合わせたものが「半導体市場」という言葉である。
業界全体の集計値だけを見ても、中身は分類ごとに別物である。値上がりで伸びた売上は、単価が戻れば同じ速さで縮む。数量で伸びた売上は、出荷される数量が減らない限り残る。111%という1つの数字は、この2つを区別せずに足し合わせている。
WSTSは通年のメモリー成長率を249%から302%に引き上げた
WSTS は第2四半期の実績を織り込んで予測を見直した。2026年通年の市場規模は1兆6,550億ドルと算出され、年間成長率にすると約108%で、春の当初予測より18ポイント高い。2027年は約2兆1,000億ドルで約29%増とした。伸びの中心にあるメモリーは302%増の見込みで、当初予測より53ポイント引き上げられている。春の予測が市場全体で1兆5,100億ドル (90%増)、メモリーが約250%増の8,000億ドル超だったから、3か月で市場全体に1,450億ドル、メモリーの成長率に50ポイント余りが上乗せされた。
メモリーが業界に占める比率も動く。2025年の28.9%から2026年に約53%、2027年に55.5%へ上がり、メモリーが他のすべての分類の合計より大きくなる、という説明が広く使われている。ただしこの2つの比率は、改定前と改定後の数字が混ざっている。2025年の売上7,917億ドルの28.9%は2,288億ドルで、そこに302%増を当てると2026年のメモリーは9,199億ドルになる。1兆6,550億ドルで割ると55.6%で、「2027年に55.5%」とされる値とほぼ重なる。53%のほうは、春の予測の8,000億ドル超を1兆5,100億ドルで割った数字に一致する。
バーンスタインの分解からも同じ答えが出る。2025年1〜7月の4,080億ドルに28.9%を当てるとメモリーは1,179億ドル、そこにメモリーの増加分3,560億ドルを足すと2026年1〜7月は4,739億ドルになり、8,610億ドルに対する比率は55.0%である。上方修正後の数字で計算するかぎり、メモリーが業界の過半を占める逆転は、2027年を待たずに2026年の年半ばには起きている。
同じ7月に「過去最高」と「前月比マイナス」の見出しが並んだ
7月の数字は、同じ週に正反対の見出しになった。米半導体工業会 (SIA) の発表では2026年7月の世界の半導体売上は1,468億ドルで、6月の1,379億ドルから6.4%増、2025年7月の625億ドルから135.1%増だった。一方でUBSの集計では、7月の世界の半導体売上は6月の最高記録から9.8%減り、メモリーだけを取ると16.3%減っている。
図3 — 同じWSTSの集計から、移動平均をとるかどうかだけで逆方向の見出しが出る
違いは、移動平均をとっているかどうかにある。SIA は発表の注記で「月次の売上は WSTS が集計した3か月移動平均である」と明記している。1,468億ドルは5月・6月・7月の平均であって、7月そのものの数字ではない。加盟49社が地域ごとの窓口に出した報告を匿名化して集計したものが元になる。伸びが急な局面では、移動平均は実額を下回り、方向が変わった月を1〜2か月遅れて映す。UBSの側はその月の実額を追っていて、6月のメモリーは月次で過去最高の746億ドル (前月比31.7%増、内訳はDRAM 480億ドルで27.7%増、NAND 258億ドルで40.7%増)、7月はそこから下げた。
この分解を紹介した解説は、7月の下げ幅16.3%が平年の7月の下げ幅26.1%より穏やかだったこと、6月の数字が約4%上方修正されて1,570億ドルになったことを、メモリー市況がまだ冷えていない根拠に挙げている。16.3%減はUBSの集計で確かめられた。一方、平年値の26.1%、6月の改定幅、7月のDRAMのビット当たり平均販売価格が258%増・NANDが344%増・メモリー売上が451.7%増、季節的に弱い時期にも前月比でDRAMが6%・NANDが9%上がり続けたという数字は、公開されている一次資料には当たらなかった。数字以外の根拠としては、AI の計算を支える部品のうちメモリーが最も詰まりやすい場所になりつつあること、HBM がウェハーの生産能力をより多く使い続けていること、長期契約が先の需要を固定していることが挙げられている。いずれも数字による裏づけは示されていない。値上がりは長続きしないという弱気論への反論は、確かめられなかった数字のほうに寄りかかっている。
公式の物価統計も、この値上がりをほとんど映していない。米労働省労働統計局の生産者物価指数のうち半導体・関連デバイス製造の系列は、2026年7月に29.058で前年同月比2.5%減、8月は28.472で3.1%減だった (米労働省、2026年9月12日取得)。物価指数は同じ性能あたりの価格を測る指標で、性能が上がった分を値下がりとして扱う。電子部品・付属品の系列は7月に86.932で28.0%増、8月は89.912で27.6%増と上がっているので、部材全体の値上がりそのものは統計にも出ている。それでも、業界の売上を2.1倍にした値上がりの規模は、どの公式の物価統計にも同じ大きさでは現れない。
業界の総額も、その月次の見出しも、公式の物価統計も、いま何がどれだけ作られているかは教えてくれない。今年の半導体の数字を読むときに要るのは、111%を87と22に割り直しておくことである。
投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談はこちら。Postation は一次資料と公的統計に当たり、業界の集計値を価格と数量に割り直して、値上がりで伸びた売上と数量で伸びた売上を分けて示します。個別銘柄の調査、統計の出所と定義の確認、市場予測の妥当性検証のご依頼は、お問い合わせフォームからお寄せください。
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました