露光1回で写せる面積が半分になる。それが High NA EUV の光学が抱える制約で、マスクを6インチから12インチにすれば元に戻る。ただしマスクの原版から搬送容器まで、34年使った規格を丸ごと作り直す必要がある。
2026年9月8日、ASMLとTSMCは、EUV 露光用フォトマスクを現在の6インチから12インチへ移行させる業界横断の取り組みを立ち上げたと発表した。発表文に示された年号は2つしかない。2031年に12インチマスクの試作線 (パイロットライン) を立ち上げ、2033年に12インチ対応の High NA 露光装置を先端ノードの量産に投入する。TSMC 自身は2030年から6インチマスクのまま High NA を量産に採用し、ノードが進むほど High NA を要する層が増えると述べた。ASML のクリストフ・フーケ最高経営責任者は「まず現行の6インチマスクで、次に12インチマスクで採用が段階的に広がる」と説明し、TSMC の魏哲家会長兼最高経営責任者は「産業界が協力して複雑な問題を解けば、1社では実現できない可能性が開ける」と語った。発表は9月7日、カリフォルニア州モントレーで開かれる SPIE フォトマスク技術・EUV リソグラフィ会議 (旧称 BACUS) の前日に行われ、High NA の採用企業と主要な供給元が参加の意向を示したという。
本稿はこの発表を、光学の原理から順に読み直す。なぜ開口数を0.33から0.55に上げるとマスクの視野が半分になるのか、半分の視野で大きなチップを作る「つなぎ露光」は何を代償にするのか、12インチが実際には「6×12インチ」を意味する理由、そして原版から搬送容器までの9つの工程で何が作り直しになるのか。そのうえで、この移行の当事者である装置・原版・検査の各社の規模を SEC と EDINET の決算で測り、米国の生産指数と国内のフォトマスク出荷額を FRED と e-Stat で確かめる。
発表文の全文を、5つの主張に分けて確かめる
発表文は短い。要点の3項目と本文6段落、2人の発言で構成され、数字は6インチ、12インチ、2030年、2031年、2033年の5つしか出てこない。本稿はそのすべてを拾い、主張ごとに裏づけを確かめる。
第1の主張は、取り組みの成立そのものである。9月7日、SPIE の会議に先立って ASML と TSMC が業界横断の協力の枠組みを作り、12インチマスクへの移行を主導するとした。第2は年号で、2031年までに12インチマスクの試作線を整え、2033年までに先端ノードの量産に向けた露光装置全体の準備を整える。第3は効果で、High NA は現行の6インチマスクで量産に採用されるが、12インチへの移行は工場の生産性をさらに上げ、チップの製造費用を下げ、つなぎ露光の制約を取り除き、半導体産業全体に利益をもたらす。先端チップの製造者が High NA の利点を最大限に引き出し、将来の最先端チップの費用対効果が高まる、と発表文は書く。第4は TSMC 自身の計画で、2030年から先端ノードの量産に ASML の High NA を使う意向を示し、ノードが進むにつれて High NA を要する層の数が増え、その主因は AI 向けに複雑さを増すトランジスタ構造にあると述べた。第5は支持の広がりで、High NA の採用企業と他の主要な供給元が参加の意向を示し、主要な協力企業と供給元が会場で関心を表明したとする。
2人の発言も全文で残す。フーケ氏は「High NA の採用は、素子の微細化の道筋に沿って段階的に広がると見ている。まず現行の6インチマスクを使い、次に12インチマスクがそれを支える。12インチマスクは露光装置の生産性を高め、より小さく、速く、電力効率の高いチップへの需要に産業界が応えられるようにする」と述べ、半導体メーカー、マスク供給者、協力企業から当初から強い支持を得たことを歓迎した。魏氏は「産業界が協力して複雑な問題を解決するとき、1社では成し得ない可能性が開けると、私たちは常に信じてきた。産業界の価値連鎖全体の専門知識を集めることで、障壁を下げ、先端の解決策を広く行き渡らせる継続的な革新を通じて、最先端技術の利点を提供し続けたい」と述べた。
発表文に書かれていないことも挙げておく。12インチの正確な寸法、参加企業の名前、試作線の場所、費用の分担、そして6インチから12インチへの切り替えが既存の High NA 装置にどう影響するかである。以下の各節は、この書かれていない部分を公開資料で埋める作業になる。
開口数0.55の変倍光学が、6インチマスクの視野を半分にする
露光装置の解像度は、光の波長を開口数で割った値に比例する。EUV の波長は13.5ナノメートルで固定されているから、より細い線を写すには開口数を上げるしかない。従来の EUV 装置は開口数0.33で、High NA と呼ばれる新型は0.55である。ASML の説明では、0.55の装置は0.33の装置より1.7倍細かい構造を1回の露光で写せる。
開口数を上げると、マスクに当たる光の角度が広がる。EUV のマスクは透過型ではなく反射型で、光を斜めから当てて反射させる。角度が広がると、マスク上の吸収体の段差が影を落とし、写した線の太さが方向によってずれる「影の効果」が許容できない大きさになる。この問題を避ける方法は2つしかなく、1つは縮小率を上げること、もう1つはマスクを大きくすることである。ASML は前者を選び、走査方向だけ縮小率を4倍から8倍に上げ、それと直交する方向は4倍のまま残した。これが変倍 (アナモルフィック) 光学で、レンズではなく鏡で作る EUV の投影系では、走査方向の鏡の大きさを抑える効果もある。
代償は視野である。6インチマスク上の回路領域は104×132ミリメートルで、従来は4倍で縮小されてウエハー上に26×33ミリメートルの視野を得ていた。走査方向が8倍になると、同じマスクからウエハー上に写る範囲は26×16.5ミリメートルになり、面積は半分の429平方ミリメートルに落ちる。マスクの大きさを変えないまま開口数だけを上げた結果が、この視野の半減である。
図1 — 従来 EUV、High NA の6インチ、High NA の6×12インチで、マスクの寸法とウエハー上の視野がどう変わるか
12インチマスクは、この関係を逆にたどる。マスクを走査方向に2倍の152×304ミリメートルにすれば、8倍で縮小しても回路領域が26×33ミリメートルの視野に戻る。ASML と TSMC の発表文が「つなぎ露光の制約を取り除く」と書いたのは、この意味である。発表文は12インチとだけ書いているが、インテルが3年以上前から業界と調整してきたのは6×12インチの形式で、SPIE の会議に併設された「大型 EUV マスク形式に関する第2回ワークショップ」もこの形式を扱う。本稿では以下、12インチを6×12インチ (152×304ミリメートル) の意味で読む。
つなぎ露光の代償、858平方ミリメートルのダイを2回で写す
半分の視野が問題になるのは、大きなチップである。データセンター向けの GPU や AI 向けの専用チップは、露光装置が1回で写せる上限 (レチクル上限、26×33ミリメートルの858平方ミリメートル) に近い大きさで設計されている。High NA の6インチマスクでは、この大きさのダイを1回で写せない。上半分と下半分を別々に露光し、境界で1つの回路としてつなぐ。これがつなぎ露光 (スティッチング) である。
図2 — 1つのダイを2回の露光で作るときの代償と、インテルが用意した2つの回避策
代償は3つある。第1に重ね合わせで、2回の露光の位置合わせの誤差が、境界をまたぐ配線の寸法誤差にそのままなる。EXE:5200B の重ね合わせ精度は0.7ナノメートルと公表されており、境界の配線幅がその数倍しかない世代では、この数字が歩留まりを直接決める。第2に処理能力で、1層あたりの露光回数が2倍になる。第3に設計規則で、境界に置けない素子や、境界をまたぐ配線の扱いが設計基盤 (PDK) に増える。SPIE では2024年と2025年に、実験による最初のつなぎ露光の評価が報告されており、設計・歩留まり・製造性のすべてに影響する移行上の課題と位置づけられている。
インテルはこの代償に2つの方法で向き合った。9月7日の同社と ASML の共同発表によれば、同社の設計基盤は、重要な回路を26×16.5ミリメートルの視野の中に配置し直す方法と、つなぎ露光を受け入れる方法の両方に対応する。同社は High NA でこれまで100万枚超のウエハーを処理し、18A 世代の Core Ultra シリーズ3 (開発名パンサーレイク) の一部の層を High NA で量産している。その層の性能は従来の EUV で作った層と同等以上だと同社は述べた。6インチマスクのまま量産に入れる道は、すでに1社が実証している。
6インチという規格の来歴、1992年に決まり、1997年の9インチ案は消えた
マスクの寸法は SEMI 規格 P1 で152.4ミリメートル角、厚さ6.35ミリメートルと定められている。6インチ角、4分の1インチ厚で、業界では6025と呼ばれる。規格が制定されたのは1992年で、以来34年間、露光装置のレチクルステージ、描画装置、検査装置、洗浄装置、搬送容器、保管棚のすべてがこの寸法を前提に作られてきた。
大きくする試みは1度あった。300ミリメートルウエハーへの移行を控えた1997年、国際会議を重ねて230×230ミリメートル、厚さ9ミリメートルの「9インチレチクル」で合意が成立し、1999年の SPIE では4倍と6倍の縮小率に対する費用分析まで発表された。搬送容器の規格化では6インチと9インチの両方を収められる箱まで設計されたが、9インチは採用されないまま消えた。露光装置が300ミリメートルウエハーで処理能力を上げるには、視野を広げるより走査を速くするほうが安く済んだからである。
図3 — 1992年の規格化から2026年の構想まで、および面積の比較
EUV の時代に入っても寸法は変わらなかった。2009年に規格化された SEMI E152 は、EUV 用の二重ポッド (内箱と外箱) を150ミリメートルのレチクル向けに定めており、エンテグリスの1010シリーズや台湾のグーデン精密の製品はこの規格に沿って ASML の認定を受けている。9インチ案が消えた理由と、6×12が今回は実現するかもしれない理由は同じところにある。走査を速くする道が、High NA のレチクルステージで物理的な限界に近づいた。EXE 系列のレチクルステージは従来機の4倍の32Gで加速し、ウエハーステージは8Gで動く。走査をこれ以上速くするより、1回の走査で写す面積を戻すほうが安いと、ASML 自身が判断したことになる。
12インチで作り直しになる9つの工程と、そこに立つ会社
6インチという前提が組み込まれている場所を、原版から露光装置まで9つの工程で数える。面積が2倍になるという1つの事実が、工程ごとに違う形で現れる。
図4 — 基板から露光装置までの9工程で、担い手と12インチで変わることを1つずつ数える
基板は低熱膨張ガラスである。EUV の露光では光の吸収でマスクが温まるため、通常の石英ではなく、熱で伸びないガラスを使う。信越化学工業 (4063)は有価証券報告書の沿革に、1979年10月に直江津工場で合成石英製のフォトマスク基板の製造を始め、2005年7月に同じ工場でマスクブランクスの製造を始めたと記す。米コーニングは低熱膨張ガラス ULE を供給し、AGC はガラス材料から成膜まで自社で手がける唯一の EUV ブランクス製造者だと自社を説明する。面積が2倍になれば、規格の平坦度をその全面で満たす難度が上がる。
ブランクスは、この基板の上にモリブデンとシリコンを40層重ねた反射膜を作り、ルテニウムの保護層とタンタル系の吸収体を載せたものである。この工程はHOYA (7741)とAGC (5201)の2社でほぼ全量を占める。2倍の面積に欠陥ゼロで成膜する確率は、面積に反比例して下がる。描画はマルチビームの電子線装置で、東芝グループのニューフレアテクノロジーが2023年に投入した MBM-3000 は12ナノメートルのビームを電流密度3.6アンペア毎平方センチメートルで照射し、ビーム数を前世代の2倍にした。描画時間は面積に比例するから、12インチでは1枚あたり2倍になる。日本電子 (6951)も電子線描画装置を持つ。
検査はレーザーテック (6920)がほぼ独占している。同社は2017年に世界で初めて EUV 光でブランクスの欠陥を検査する装置を、2019年に回路を描いたマスクを EUV 光で検査する装置を開発し、2023年11月に High NA 向けの ACTIS A300 シリーズを発表した。走査面積が2倍になれば、検査装置の処理能力がそのままマスク供給の上限になる。保護膜 (ペリクル) は三井化学 (4183)が2023年7月に旭化成から事業を引き継ぎ、信越化学も機能材料の区分に載せている。マスクの上に張る膜の範囲が2倍になり、EUV の透過率と耐熱の両立が難しくなる。搬送容器は SEMI E152 が150ミリメートル前提で書かれているため、規格から作り直しになる。露光装置は ASML の EXE 系列で、レチクルステージは32Gで加速する。質量が2倍のマスクを同じ加速度で動かすには、ステージも駆動も作り直しである。発表文が「12インチ対応の High NA 露光装置」を2033年としたのは、装置そのものが新設計になるからである。
1枚のマスクができるまでの工程を12インチでたどる、描画から保護膜まで
原版が届いてから露光装置に載るまで、マスクは1枚ずつ次の順で作られる。テクセンドフォトマスクは有価証券報告書で、顧客から支給された回路パターンのデータをもとに、電子線でマスクブランクス (ガラス基板に遮光膜を成膜し、感光材を塗ったもの) に回路を描き、現像とエッチングを経て製造し、各種の寸法測定と外観検査を経て納入する、と自社の工程を説明している。EUV マスクではこの各段に固有の難所がある。
描画は最も時間がかかる。EUV マスクの回路は曲線を含む複雑な形状になり、可変成形ビームの装置では1枚に数十時間を要する。マルチビーム描画装置は数十万本の電子線を同時に使ってこれを数時間に縮め、ニューフレアの MBM-3000 は前世代の2倍のビーム数と、曲線を効率よく扱う新しいデータ形式を備える。描画時間は面積に比例するから、12インチでは同じ装置で2倍になり、装置の稼働時間がそのままマスク1枚の原価に反映される。次に現像とエッチングで吸収体の不要な部分を取り除き、洗浄する。EUV マスクは反射型で保護の透明板がないため、洗浄で反射膜を傷めない条件が必要になる。
検査は2段階で、回路を描く前のブランクスの欠陥検査と、描いた後のパターンの欠陥検査がある。反射膜の中に埋もれた欠陥は可視光や深紫外光では見えず、露光と同じ13.5ナノメートルの EUV 光で照らして初めて見つかる。レーザーテックが2017年と2019年に世界で初めて実用化したのがこの2つの装置で、High NA では吸収体が薄く、パターンが細くなるため、2023年の A300 シリーズは光学系を新設計し、光源を高輝度化した。見つかった欠陥は電子線やイオンで修正し、修正後にもう一度検査する。最後に保護膜 (ペリクル) を張る。EUV のペリクルは厚さ数十ナノメートルの膜で、露光光を9割以上通しながら、光源の出力が上がっても破れない耐熱性が必要になる。三井化学が旭化成から引き継いだ事業と、信越化学がこの膜を担う。マスクは二重ポッドに収めて工場へ送られ、露光装置の中でポッドから取り出される。
12インチでは、この全工程で「装置が存在しない」状態から始まる。描画装置のステージ、現像・エッチング・洗浄の枚葉装置、検査装置の走査機構、ペリクルの枠、ポッドのすべてが152ミリメートル角を前提に作られている。発表文が2031年の試作線を掲げたのは、装置の新設計に4年から5年を見込んでいることを意味する。
High NA を要する層はなぜ増えるか、AI 向けトランジスタ構造との関係
発表文で TSMC は、ノードが進むにつれて High NA を要する層が増え、その主因は AI 向けに複雑さを増すトランジスタ構造にあると述べた。この1文の背景を補う。
EUV の露光は、従来の開口数0.33でも1回で写せる最小の間隔に限界があり、それより細かい層は2回に分けて写す (2重露光) か、別の手法で補う。High NA は1回の露光でその限界を1.7倍細かくするため、0.33で2回に分けていた層を1回で済ませられる。ノードが進むほど、この「1回で済む層」の数が増える。TSMC の2ナノメートル世代はナノシート型のトランジスタに移行し、A16 では裏面から電源を供給する構造を加え、A14 以降はさらに配線の間隔が詰まる。層ごとの露光回数を減らせる価値は、間隔が詰まるほど大きくなる。
ただし High NA を要する層が増えるほど、半分の視野の代償も増える。大きなダイの製品で High NA の層が5層あれば、つなぎ露光は5層分の重ね合わせの誤差を抱える。TSMC が2030年に6インチで採用し、2033年に12インチへ移ると年号を分けたのは、採用の初期には High NA の層が少なく、つなぎ露光の代償が小さいという見方に基づいている。12インチが必要になる時期は、High NA の層数が増える時期と一致する。
半分の視野を戻すと何が増えるか、処理能力と装置の代金
インテルは2025年の SPIE で、6×12インチのマスクが露光装置の処理能力を23%から50%上げると示した。この幅の意味を、公表されている装置の数字で割り戻す。
図5 — 1台の High NA 装置が1年に処理できる枚数、ASML 側の利害、マスク側の費用
EXE:5200B の公称処理能力は毎時175枚で、インテルは200枚超まで調整する計画である。年8,760時間の80%を稼働に充てると、1台で年に123万枚になる。大型ダイの層をつなぎ露光で処理すれば露光回数が2倍になるため、実効は62万から84万枚まで落ちる。12インチ対応機で1回に戻せば123万枚に戻り、処理能力が23%上がれば151万枚になる。装置1台が約3億8,000万ユーロで、従来型 NXE:3800E のおよそ2倍という報道の数字を5年で償却すると、1枚あたりの装置代金は62万枚で123ユーロ、123万枚で62ユーロ、151万枚で50ユーロである。High NA を要する層が増えるほど、この差が積み上がる。
この計算は ASML 側の利害も示す。同じ枚数を処理するのに装置が1.3倍から2倍必要になるなら、12インチ対応機は装置の台数需要を減らす。業界解説は2025年の時点で、2台売るほうが2億から3億ユーロ多い売上になるため ASML の動機は弱いと指摘していた。それでも ASML が構想を主導するのは、High NA の採用そのものが進まないことのほうが損だからである。TSMC は2ナノメートルと A16 で High NA を見送り、2030年からの採用を明言した。ASML は2026年に High NA を4台から5台売上計上する見込みで、2026年通期の売上高見通しを430億から450億ユーロに引き上げたが、その中心は低NA の EUV である。同社は低NA EUV の生産能力を2027年に30%増やし、2028年にさらに30%増やすことを検討している。
マスク側の費用は面積に比例して増える。業界解説による EUV マスク1枚の価格は50万から100万ドル、1つの製品に要する60から100枚のセットで500万から1,500万ドルである。12インチではブランクスの成膜面積、描画時間、検査の走査面積がそれぞれ2倍になり、歩留まりを考えれば1枚の価格は2倍を超える。ただしマスクは1枚を何万枚ものウエハーに使うので、1枚あたりの費用に効くのは露光装置の処理能力のほうである。
2025年から2033年までの年表、年号を出したのは TSMC だけ
公表された年号だけを並べる。
図6 — 各社の High NA 導入と12インチ移行の年号
インテルは2025年に EXE:5200B の受け入れ検査を終え、18A の一部の層で量産を始めた。サムスン電子は2025年後半に1号機を受け取り、2026年上半期に2号機を予定した。SKハイニックスは2025年9月に同じ装置を DRAM 工場に設置し、2026年3月には ASML に80億ドルの EUV 装置を発注した。ベルギーの研究機関 imec は EXE:5200 で2026年第4四半期に評価を終える計画である。インテルは2027年に14A のリスク生産 (量産前の試験生産) に入る。TSMC は2030年に High NA を先端ノードの量産に採用する。12インチの試作線が2031年、12インチ対応機の量産投入が2033年である。
業界紙によれば、ASML は9月8日にインテルファウンドリー、TSMC、サムスン電子と別々に共同声明を出し、先端3社を12インチ移行の側にそろえた。年号を出したのは TSMC だけである。インテルの声明は6×12インチの形式を3年以上調整してきたことと、6インチのまま量産に入れる設計基盤を持つことを述べ、年号を示さなかった。3社の温度差は、High NA を先に使った会社ほど6インチのまま続ける準備ができており、後から採用する会社ほど12インチを待つ余裕がある、という順序で説明できる。
マスクブランクスは日本の2社が握る、HOYA と AGC の有報に見る逆方向の1年
EUV マスクブランクスの供給は HOYA と AGC の2社にほぼ限られる。この2社の直近の決算は逆方向を向いている。
HOYA の2026年3月期は売上収益9,477億4,900万円で9.4%増、税引前利益3,276億6,800万円で26.0%増、純利益は25%増の2,530億円で6期連続の最高益だった。マスクブランクスが属する情報・通信事業は売上収益3,547億5,100万円、セグメント利益1,923億2,500万円で、決算資料は半導体用マスクブランクスで EUV と DUV の需要が増えたと記す。同社は次期のマスクブランクスの売上を10%から15%増と見込む。統合報告書は EUV マスクブランクスで「極めて高い市場シェア」を保ち、先端ノードで首位供給者の位置を堅持すると書き、High NA 向けには吸収体の薄膜化を進め、位相シフト、High NA、Hyper NA の順に技術の道筋を描く。
AGC の2025年12月期は売上高2兆588億円で0.4%減、営業利益1,275億円で1.3%増だった。電子の区分は売上高3,551億円で2.6%減、営業利益475億円で12.7%減で、有価証券報告書は「EUV露光用フォトマスクブランクスの出荷が減少した」と減収の理由に挙げる。同社は2026年の財務目標を下方修正し、その理由の1つに電子部材事業 (EUV 露光用フォトマスクブランクス、オプトエレクトロニクス) の売上目標の未達を書いた。同社は2023年4月に福島県郡山の生産能力を2025年までに約30%増やし、2025年に同事業で売上高400億円以上を目指すと発表しており、経済産業省の補助金の採択も受けていた。2025年の出荷減は、この計画に対する遅れを意味する。
2社の差は、先端ノードの EUV 需要がどちらに向かったかを示す。HOYA が「首位供給者の位置」と書き、AGC が「先端分野の開発及び拡販に注力することで成長軌道への回帰を図る」と書いたのは、同じ市場の同じ年の話である。12インチへの移行は、この2社にとって、成膜面積2倍の新しい原版を最初に欠陥ゼロで揃えた側が次の首位供給者になる、という競争の再開を意味する。
検査は受注が2.3倍、外販マスクはテクセンドが37.8%
レーザーテックの2026年6月期は売上高2,304億8,500万円で8.3%減、営業利益1,052億5,900万円で14.3%減だったが、受注高は2,375億400万円で前年の2.26倍、受注残高は3,229億6,400万円に積み上がった。同社は2027年6月期の売上高を2,900億円 (25.8%増)、営業利益を1,250億円 (18.8%増) と見込む。EUV 光でマスクを検査する ACTIS の受注は620億円、ブランクスを検査する装置を含む検査装置の需要回復を同社は挙げている。2024年6月期の地域別売上高は台湾691億円、韓国525億円、米国441億円、欧州208億円、日本143億円で、顧客はほぼ海外にある。12インチの試作線が2031年に稼働するなら、検査装置の新機種はそれより前に必要になる。
外販フォトマスクでは、TOPPAN グループから2022年4月に分離したテクセンドフォトマスクが2025年10月16日に東京証券取引所プライム市場へ上場した。同社は有価証券報告書で、2024年の半導体向け外販フォトマスク市場で37.8%の首位シェアを持つと SEMI の調査を引用して書き、2000年代初頭から EUV マスクの研究開発に取り組み、いまは量産体制を確立したと記す。2026年3月期の売上収益は1,295億7,600万円で9.8%増、営業利益は275億3,000万円で2.4%減、2027年3月期は1,401億円と298億円を見込む。同社は EUV マスクの外注需要が顕在化したこと、内製中心だったメモリーメーカーの外注が進むことを増収の理由に挙げた。同社は2024年2月に IBM と5年間の共同研究を結び、ニューヨーク州オールバニーと埼玉県新座市の朝霞工場で2ナノメートル世代と High NA 向けのマスク技術を開発している。大日本印刷 (7912)は台湾でフォトロニクスとの合弁 (出資49.9%) とイタリアの子会社 (80.6%) でマスクを作り、エレクトロニクス部門の売上高は2,518億円で1.6%増だった。米フォトロニクスの2025年10月期は売上高8億4,929万ドルで2.0%減だが、設備投資は1億8,814万ドルで44%増え、同社は EUV 対応の装置導入を理由に挙げている。
SEC・FRED・e-Stat・EDINET で測る
当事者の規模を SEC の決算で確かめる。ASML の2025年12月期は売上高326億6,730万ユーロで15.6%増、営業利益113億140万ユーロ、純利益96億940万ユーロ、研究開発費46億9,880万ユーロだった。TSMC の2024年12月期は売上高2兆8,943億台湾ドル、純利益1兆1,575億台湾ドル、研究開発費2,042億台湾ドルで、2025年の売上高は1,229億ドル、設備投資は409億ドル、2026年の設備投資は520億から560億ドルの見通しである。エンテグリスの2025年12月期は売上高31億9,660万ドル、研究開発費3億2,900万ドルだった。搬送容器の作り直しは、この会社の研究開発費の使い道に直結する。
図7 — SEC の決算、FRED の生産指数と価格、e-Stat のフォトマスク出荷額と鉱工業指数、EDINET の語数と日本4社の決算
FRED によれば、米国の半導体・電子部品の生産指数は2026年7月に191.9で、前年同月の171.6から11.9%増えた。半導体製造装置の生産者物価は106.6から108.2へ1.5%上がり、半導体そのものの生産者物価は29.80から28.99へ2.7%下がった。生産は2桁増え、装置の価格はほぼ横ばい、製品の価格は下がり続ける。同じ機能を年々安く作る圧力が、露光1回の面積を取り戻す動機になっている。本誌がドイツ銀行の報告書を検算した記事で見た AI への資本投下が、この生産指数を押し上げている。
e-Stat の経済構造実態調査によれば、国内のフォトマスクの出荷額は2021年の813億4,200万円から2022年に923億3,300万円へ13.5%増え、産出事業所は47から46に減った。その他の半導体製造装置の出荷額は4,150億8,200万円から4,992億3,900万円へ20.3%増えている。鉱工業指数の半導体製造装置 (2020年=100) は2025年に四半期で155.4まで落ちたあと、2026年1〜3月期に185.2へ戻り、前年同期の175.0を5.8%上回った。
EDINET では、2025年9月、2026年3月、2026年6月に提出された有価証券報告書のうち、マスクと露光に関わる25社の本文を機械集計した。「フォトマスク」を最も多く書いたのは TOPPAN ホールディングスの36回で、大日本印刷が10回、レーザーテックが6回、AGC が6回である。「マスクブランクス」は信越化学の8回、AGC の6回、レーザーテックの5回。「EUV」はレーザーテックの18回、ウシオ電機の8回、ニコンの7回、AGC の6回。そして「High NA」を本文に書いた会社は、東京エレクトロン (8035)の1回だけだった。12インチ移行の当事者側にいる原版と検査の会社は、まだ1社も High NA という語を有価証券報告書に書いていない。語数は関心の度合いを示す代替の指標であって、事業の実体そのものではない。それでも、2033年に向けた作り直しがどこまで各社の計画に入っているかを、来年の有価証券報告書で最初に確かめられる場所がここである。
投資家がこの発表から取り出せる3つの見方
第1に、年号は2つだけで、どちらも供給側の年号である。2031年の試作線は原版・描画・検査・保護膜・搬送容器のすべてがそろって初めて稼働する。この5つのうち日本の会社が担うのは、原版で HOYA と AGC、検査でレーザーテック、保護膜で三井化学と信越化学、基板で信越化学である。試作線の年号は、この各社の新機種の開発期限として読める。
第2に、High NA の採用は6インチのまま先に進む。インテルは100万枚を処理し、TSMC は2030年から6インチで量産に入る。12インチは採用の条件ではなく、採用が広がったあとに処理能力を取り戻す手段である。露光装置の台数、マスクの枚数、検査装置の受注は、2030年までは6インチの High NA で動く。
第3に、6×12には、9インチ案と同じ理由で消える可能性と、その理由を乗り越える可能性の両方がある。1997年の9インチ案は、走査を速くするほうが安いという理由で消えた。今回は走査の速さが32Gの加速度で限界に近づき、面積を戻すほうが安くなった。ASML が自社の装置需要を減らす方向の構想を主導していることが、その判断の重さを示している。
これから確かめる4つの数字
第1は ASML の2027年の High NA の売上計上台数で、2026年の4台から5台がどこまで増えるかが、6インチでの採用の速さを示す。第2はレーザーテックの ACTIS の次の機種の発表時期で、2031年の試作線に間に合う12インチ対応の検査装置がいつ発表されるか。第3は HOYA と AGC の2027年3月期と2026年12月期の決算で、EUV ブランクスの出荷が2社のどちらに向かうか。第4は2027年に提出される有価証券報告書で、「High NA」という語を書く会社が東京エレクトロンの1社から増えるかどうかである。
TSMC の魏会長は、業界の価値連鎖の専門知識を集めれば、障壁を下げて先端の解決策を広く届けられると述べた。障壁を下げる作業の大半は、露光装置の外側にある。34年使った6インチの寸法を、9つの工程が同時に手放せるかどうかが、2033年を決める。
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