ドイツ銀行の調査部門は2026年9月4日、AIをめぐる米国と中国の資本の集め方を「開かれた市場と閉じた技術」対「開かれた技術と閉じた市場」と整理した。米国は海外の民間資本と金融の新しい仕組みを総動員し、中国は少ない資本を国内と人民元で賄う。

本稿は報告書が挙げた数字を一つずつ書き起こし、SECの提出書類、米財務省の資本流出入統計、FRED、EDINETの有価証券報告書、e-Statの法人企業統計で検算した。

報告書の題名は「資本主義とドル: AI開発競争、トークン化、ドルの未来」で、為替戦略担当のマリカ・サチデバが書いた。同行が7月9日と7月20日に出した2本の資料 (ドルのAIへの連動、中国のオープンウエート型モデルの経済性) を束ね、9月4日の報告書で「米国は私的資本と金融の革新の全力を使ってAI開発競争に勝とうとしている」と総括した。

二つの型の骨格 — 誰の資金で、どの市場で、どの通貨で集めるか

同行の対比は三つの軸で読める。第1は資金の出し手で、米国は海外の民間資本を歓迎し、中国は国内資本と国家系ファンドに頼る。第2は市場で、米国は未公開株、投資適格債、増資、新規上場のすべてを使い、中国は香港のオフショア人民元債と香港市場の株式売出しを使う。第3は技術の公開度で、米国の上位研究所はモデルの重みを非公開のまま利用料を取り、中国は重みを公開して普及を優先する。同行はこの組み合わせを、資本の門戸を開いて技術を閉じる米国、技術を開いて資本の門戸を閉じる中国と呼んだ。

報告書が挙げた米国側の数字は五つある。AI企業への未公開株投資は2026年に4,000億ドルを超え、前年の3倍の速さで進んでいる。上位2つの研究所は今年2,170億ドルを1兆ドル前後の企業価値で集めた。ハイパースケーラーが2020〜24年に投資適格債で借りた額は平均で年250億ドルだったが、2026年はその10倍に達した。株式の随時売り出し (ATM) と新規上場が再び重要になり、最新で最大の技術には結局、公開市場が要る。中国側は2026年のAI設備投資が約1,000億ドルで米国の8,000億ドルに対して8分の1、最大の調達はディープシークの約70億ドル、米国の上位の閉鎖型研究所の累計2,500億ドル超と桁が違う。民間AI投資は米国が中国の23倍で、中国の124億ドルに対し米国は2,859億ドルである。

4,070億ドルの行き先 — 半分が2社、出し手はアマゾン・エヌビディア・湾岸

未公開株の数字はPitchBookの集計と一致する。2026年上半期のAI企業への投資は4,070億ドルで、2025年通年の2,640億ドルを半年で超えた。うちOpenAIアンソロピックの2社で約2,170億ドル、53%を占める。米国のベンチャー投資全体は上半期4,127億ドルで、その87.5%がAIに向かった。

AIベンチャー投資の10年と2026年上半期の大型調達
AIベンチャー投資の10年と2026年上半期の大型調達

図1 — 2016年から2026年上半期までのAIベンチャー投資と、2社に集中した2,170億ドルの中身

2,170億ドルの中身は二つの調達である。OpenAIは3月31日に1,220億ドルを8,520億ドルの企業価値で調達し、アマゾンが500億ドル、エヌビディアソフトバンクグループが各300億ドルを出した。アマゾンの500億ドルのうち350億ドルは上場か汎用AI到達を条件とし、銀行経由で個人投資家からも約30億ドルが入った。アンソロピックは5月28日に650億ドルを9,650億ドルで調達し、アルティメーター、ドラゴニア、グリーンオークス、セコイアが主導し、シンガポールのGICとテマセク、アブダビのMGXが名を連ねた。MGXは7月1日に490億ドルのAI基金の募集を終え、OpenAI、アンソロピック、xAIの3社すべてに出資する。同行が「海外の民間資本」と呼ぶものの正体は、湾岸とシンガポールの政府系資金と、日本のソフトバンクグループである。

中国側の最大はディープシークで、5月末に初の調達70億ドルを520億ドルの企業価値で完了し、8月には約80億ドルの第2回を740億ドルで交渉している。出し手は国内資本と国家系ファンドで、2027年の上場を視野に入れると報じられた。米国の上位2社の合計の30分の1にとどまる。

社債という第二の調達経路 — 月次の起債を積み上げると、年250億ドルの10倍になる

報告書の図2は、ハイパースケーラーと半導体大手のドル建て投資適格債を月ごとに積み上げている。2025年は9月のオラクル180億ドルとブロードコム200億ドル、10月のメタ300億ドル、11月のアルファベット250億ドルとアマゾン150億ドルで年間約1,850億ドル。2026年は2月にアルファベット310億ドルとオラクル255億ドル、3月にアマゾン535億ドル、4月にメタ250億ドル、6月にエヌビディア245億ドルとSpaceX 260億ドルとブロードコム75億ドル、7月にアマゾン250億ドル、8月にアルファベット240億ドルとAMD 50億ドルで、8か月で約2,400億ドルに達した。

ハイパースケーラーの投資適格債の月次発行額
ハイパースケーラーの投資適格債の月次発行額

図2 — 2025年1月から2026年8月までの月次発行額と、SEC XBRLで見た長期負債の増え方、投資家の需要の変化

SECのXBRLデータでこの起債は負債の増え方として確かめられる。アルファベットの長期負債 (非流動) は2025年末の465億4,700万ドルから2026年6月末に981億6,500万ドルへ倍増し、上半期の起債収入は304億9,900万ドル。アマゾンの長期負債は688億3,600万ドルから1,329億9,500万ドルへ、上半期の起債収入は669億9,800万ドルで、3月の535億ドルには11本立てのドル債370億ドルと8本立てのユーロ債145億ユーロ、100年債が含まれた。メタは587億4,400万ドルから836億6,400万ドルへ。エヌビディアは7月26日時点で長期負債が84億6,800万ドルから333億6,600万ドルへ急増し、6月の250億ドルが5年ぶりの起債だった。SpaceXは2月にxAIを買収し、つなぎ融資200億ドルを6月の投資適格債250億ドルで借り換え、上半期の起債収入は518億1,200万ドルに達した。

同行の「10倍」は集計の取り方で幅がある。Bloombergの集計ではアルファベット、アマゾン、メタ、オラクル、エヌビディア、SpaceXの6社が上半期に2,440億ドルを発行し、2025年通年の1,080億ドル、2024年の170億ドルの14倍になった。ヴァンガードは2020〜24年の年平均を約350億ドル、2025年を930億ドルと見積もる。同行の250億ドルはハイパースケーラー4社に絞った数字で、いずれの取り方でも10倍前後という結論は動かない。JPモルガンは2026年のテック債発行を5,400億ドル (うちハイパースケーラー3,170億ドル) と見込む。

需要側には息切れが見え始めている。アポロのトルステン・スロクによれば、ハイパースケーラー債の応募倍率は2月の約5倍から7月には2倍未満へ落ちた。アマゾンの7月債は18〜21bpの上乗せ利回りが必要になり、応募は2.5倍と3月の3.2倍を下回った。2〜4年債の対米国債スプレッドの中央値は2025年の30bpから40bpへ広がり、SpaceXの30年債は発行後に165bpから205bpへ広がった。ゴールドマン・サックスの社債デスクは、かつて750億ドルで市場が消化不良を起こしたのに対し、いまは250億ドルで守勢に回ると内部資料で指摘した。FREDの投資適格債の上乗せ利回り (OAS) は9月3日に0.81%、AAAで0.44%、BBBで1.00%、10年国債は4.77%で、ヴァンガードが「集中は高まり、上乗せは薄い」と書いた通りの水準にある。

資金需要の源は設備投資が営業キャッシュフローに迫ったことにある。アルファベットの上半期の設備投資806億ドルは営業キャッシュフロー849億ドルにほぼ並び、メタは491億ドル対641億ドル、マイクロソフトは2026年6月期に1,159億ドル対1,829億ドル。オラクルは2026年5月期に設備投資557億ドルに対し営業キャッシュフローが320億ドルで、借りなければ投じられない。同行が「AI研究所は資本を切実に必要としている」と書いた対象は研究所だけではなく、貸し手であるはずのハイパースケーラー自身である。

公開市場への回帰 — 上場以来初の増資、新規上場、随時売り出し

報告書が「株式の随時売り出し (ATM) と新規上場が再び重要になった」と書いた根拠はアルファベットにある。同社は6月2日、普通株A 90.6億ドル、普通株C 89.6億ドル、転換優先株2本各83.75億ドル、400億ドルの随時売り出し枠、バークシャー・ハサウェイへの私募100億ドルを合わせ847.5億ドルの増資を決めた。2004年の上場以来初めての新株発行で、当初400億ドルの第1弾は需要が強く450億ドルに増額され、2010年のペトロブラスの700億ドルを超えて史上最大の株式調達になった。使途は「AI基盤と世界の計算資源を拡張する設備投資」で、2026年の設備投資は最大1,900億ドルとされる。6月末の現金は559億ドルと3月末の381億ドルから増えた。

公開市場への回帰
公開市場への回帰

図3 — 2026年の増資・新規上場・随時売り出し・個人向け販売と、SEC XBRLで見える痕跡

SpaceXは5月の新規上場後、6月末の現金を943億5,200万ドルまで積み上げた。セレブラスは5月に1株150〜160ドルで約48億ドルを集め、6月末の現金は3月末の27億4,500万ドルから74億2,700万ドルへ増えた。アンソロピックは6月1日にS-1を非公開で提出し、8,000億ドル超の引き合いを受けて10月にも上場する可能性が報じられる。コアウィーブは上半期に167億4,700万ドルを借り、アンソロピック向けの26億ドルのローンは7月29日に利回りを引き上げて売り切った。未公開株で1兆ドルに届いた2社も、上場の準備と個人投資家への販売に踏み出した。

中国は違う土俵で戦う — 1,000億ドル対8,000億ドル、点心債の利率2.5%

中国の数字は小さいが、伸び率は大きい。ムーディーズは8月28日、アリババテンセントバイトダンスバイドゥの2026年のAI設備投資を約1,400億ドル (2025年は650億ドル)、2027年を1,650億ドルと見込み、米国の7,850億ドル超と比べて約6倍の差とした。同行の「1,000億ドル対8,000億ドル」は前提の違いで、比率は6〜8倍の範囲に収まる。スタンフォードのAI指数は2025年の民間AI投資を米国2,859億ドル、中国124億ドルとし、23倍の差にもかかわらず上位モデルの性能差は2026年3月時点で2.7%に縮んだ。同行は7月20日、中国の重みを公開するオープンウエート型モデルが「米国の中位モデル並みの価格で上位に近い性能」を出すことが米国の設備投資の回収を脅かすと書いた。

米中の資本レースの二つの型
米中の資本レースの二つの型

図4 — 米国と中国の資金の出し手、市場、通貨、技術の公開度の対比と、点心債の内訳

中国側の借り方は通貨から違う。アリババは2024年11月に初の点心債 (オフショア人民元債) 170億元、バイドゥは2025年3月と9月に144億元、テンセントは2025年9月に90億元 (5年2.1%、10年2.5%、30年3.1%で30年物は8.6倍の応募) を発行した。美団は2025年11月に71億元、快手は2026年1月に35億元、京東は4月に100億元。テンセントは6月11日に10年物2.50%と30年物3.10%で150億元を発行し、2026年最大の点心債となった。主要7件で約760億元、約106億ドルで、米6社の上半期のドル債の4%にすぎない。10年物2.50%という利率は、10年国債4.77%に上乗せ0.8%前後が乗る米国の投資適格債の半分以下で、人民元の低金利と元高期待 (2025年は対ドルで4.4%上昇) が香港市場へ誘導している。同行はこれを「ドル建て調達から離れる意思」と読む。株式ではアリババが8月26日に7億1,000万株を1株112.70香港ドルで売り出し、800億香港ドル (約102億ドル) の全額をAI基盤に充てると公表した。アルファベットの847.5億ドルの8分の1である。

ドルはAI相場に連動する — 4〜6月期の海外株式資金4,242億ドル

同行の主張の核心はドルにある。米財務省の資本流出入統計 (TIC) で海外居住者の米国株式の純購入を合計すると、2026年4月は民間842億ドルと公的240億ドル、5月は1,208億ドルと138億ドル、6月は1,447億ドルと367億ドルで、4〜6月期の合計は4,242億ドルになる。報告書の「4〜6月期に4,000億ドル超の海外株式資金」はこの数字である。同じ6月に公的部門は米国債を98億ドル売り越した。国債を買ってきた地政学的動機の長期資金が退き、技術的動機の短期の株式資金が入る。同行はこれを「地政学から技術への資金の入れ替え」と呼び、株式資金が長期債資金を上回り米国の資本収支の主な財源になったと書いた。

ドルとAI相場、TICとトークン化
ドルとAI相場、TICとトークン

図5 — 海外居住者の米長期証券の純購入 (2026年4〜6月)、FREDの金利と為替、証券のトークン化の日程

トークン化はこの入り口を広げる仕組みである。SECは2025年12月11日に証券保管振替機関DTCのトークン化サービスにノーアクションレター (不処分の確約)を出し、2026年1月に「Project Crypto」の枠組みを整えた。DTCは7月に試験取引を始め、10月に本格運用を始める。対象はラッセル1000の株式、主要指数のETF、米国債で、ブラックロック、ゴールドマン・サックス、JPモルガン、サークルなど50社超が参加する。ナスダックは2027年の全面トークン化を掲げ、NYSEはSecuritizeと24時間取引の基盤を作る。同行によれば、トークン化済みの資産は約400億ドルで、米国の資産総額100兆ドル超に対してまだ入り口にすぎない。ブロックチェーンの基盤が海外の民間資本をAI投資と財政赤字へ流し込む道具になれば、ドルは「株式に敏感で、AI開発競争に直接連動する」通貨になる。安全資産としての性格は薄れ、AI株と同じ方向に動く。FREDの広義ドル指数は8月28日に118.75、10年国債は4.77%、円は159.97円、人民元は6.726元で、ドルは高止まりのまま金利が上がっている。

日本の資金はどこに立つか — 出し手、貸し手、そして外債を売る投資家

日本はこの構図の中で三つの立場にある。出し手としてはソフトバンクグループ (9984)OpenAIの3月の調達に300億ドルを出し、9月4日に7年4.75%の個人向け社債1兆円の条件を決めた。9月に償還する4,000億円の借り換えと、残りをAI投資に充てる。EDINETで2026年6月提出の有価証券報告書を機械集計すると、同社は「OpenAI」を144回、「ドル」を373回、「社債」を228回記載し、2025年1月のStargateと2026年1月の子会社Energy Globalによるテキサス州ミラム郡の1.2GWデータセンターの電力・通信設備を記載している。

日本の資金の立ち位置
日本の資金の立ち位置

図6 — EDINETの語数、e-Statの法人企業統計、財務省の週次対外証券投資で見た日本の資金の向き

貸し手としては、三菱UFJフィナンシャル・グループ (8306)が「外国債券」を34回、みずほフィナンシャルグループ (8411)が26回、三井住友フィナンシャルグループ (8316)が13回記載し、日本郵政 (6178)は貯金186.1兆円のうち88.2兆円を外国債券と外債投信で運用すると記す。米国の起債ラッシュの受け皿はここにあるが、財務省の週次統計では8月16〜22日に日本の投資家が対外中長期債を1兆9,768億円、23〜29日に8,240億円と2週連続で売り越した。生保10社の2026年度計画は半数が国内債を積み増し、30年国債4%を歓迎する。海外勢が2026年1〜6月に日本株を9.7兆円買い越して半期で最大となった一方、日本の資金は外債から円建ての超長期債へ戻る局面にある。

借り手としての日本企業は米国と逆の構図にある。e-Statの法人企業統計 (金融・保険業以外、全産業・全規模) で社債残高は2024年4〜6月期の126.0兆円から2026年4〜6月期に144.1兆円へ18兆円増えたが、現金・預金は同じ期間に268.0兆円から282.4兆円へ増え、四半期の設備投資は13.0兆円にとどまる。米国のハイパースケーラー4社の1四半期の設備投資約1,000億ドルにも届かない。米国は借りて投じ、日本は借りても貯める。同行が描く「開かれた市場」の資金の一部は日本の投信と年金を経由して米国のAI株に向かい、円はドルの裏返しとしてAI相場に連動する。

本稿が9月5日に書いたモルガン・スタンレーの「AIインフラの押し目」の検算は、電力の制約が投資の上限を決めると示した。同行の報告書はその上流にある資金の制約を扱う。電力が物理的な壁なら、社債の応募倍率と海外の株式資金は金融の壁で、後者は前者より早く動く。

長い目で勝つのはどちらか — 五つの指標

報告書を引用した投資家の投稿は「長い目でどちらが勝つのか」と問うた。答えは報告書にはないが、見るべき指標は五つある。第1にDTCのトークン化サービスが10月に本格運用開始し、海外資金の流入が続くか。第2にハイパースケーラー債の応募倍率が2倍を割ったまま下半期の起債が続くか、JPモルガンの5,400億ドルが消化されるか。第3にアンソロピックOpenAIの上場が実現し、未公開株から公開市場への移行が完了するか。第4に点心債の発行が主要7件の760億元から桁が上がり、中国勢のドル建て調達の割合が下がるか。第5にTICの公的部門の米国債売りが続き、株式資金が逆流する局面でドルがどう動くか。米国の型は速く大きく、崩れるときも速い。中国の型は小さく遅く、崩れにくいが伸びにくい。どちらが勝つかは、AI投資の回収が始まる前に金融の壁に当たるかどうかで決まる。