2027年に系統用ナトリウム電池を出すと語る企業がある。その企業の直近四半期の売上高は7万3,000ドルで、同じ期の営業損失は1,513万ドルだった。技術の見立ては筋が通っているが、金が落ちる場所は電池の会社ではない。

ナトリウムイオン電池が蓄電の分野で注目を集めている、という話が出回っている。リチウムより安く、低温に強く、冷却装置がほとんど要らない。米国のフロー電池企業ESSテックの最高商務責任者が「これほど速く市場が関心を示すのは見たことがない」と語り、同社は2027年に初の系統用ナトリウム電池、2028年後半に高密度版を出す計画を示す。アルシムのNFPPセルを採用し、オレゴン州の工場で1.2メガワット時の蓄電システム「Bridge」を組み立てる。受動冷却で20年後も85パーセントの健全度を保ち、液冷のリチウムイオンの約65パーセントを上回る。モルガン・スタンレーは市場占有率が2030年に20パーセント、2035年に37パーセントへ達すると予測する。

技術の説明はおおむね正確である。ただし、この話を読んだ人が最初に確かめるべきなのは、語っている企業が2027年まで存続できるかどうかである。米国証券取引委員会に提出された書類を見た。

2027年を語る企業の、いまの決算

ESSテックの提出書類は厳しい内容だった。通期の売上高は2023年12月期の754万ドルから2024年12月期629万5,000ドル、2025年12月期158万3,000ドルへ落ちている。直近1年の減少率は74.9パーセントである。

四半期でみるとさらに急である。2025年1-3月期の59万9,000ドル、4-6月期の235万8,000ドル、7-9月期の21万4,000ドルと来て、2026年1-3月期は12万8,000ドル、4-6月期は7万3,000ドルだった。日本円にすればおよそ1,100万円で、中小企業の月商にも届かない規模である。

ESSテックの決算の実額
ESSテックの決算の実額

同じ2026年4-6月期の営業損失は1,513万4,000ドルだった。売上高の約207倍にあたる。そして同期末の株主資本はマイナス268万7,000ドルで、債務超過に入っている。現金及び現金同等物は1,084万8,000ドルしかなく、直近の四半期損失を下回る。総資産は2025年12月末の5,117万ドルから3,248万ドルへ、半年で36.5パーセント減った。

2026年7月2日には、ニューヨーク証券取引所からの上場廃止に関する届出が提出された。登録情報の取引所欄は取引所と店頭市場の併記になり、7月と8月には希薄化を伴う募集の届出が続いている。

「2027年に発表し、2028年後半に高密度版」という計画そのものを疑う必要はない。疑うべきは、その計画を実行する主体が2027年に存在しているかである。技術の話と企業の話は、分けて読む必要がある。

技術の筋は通っている ― ただし理由が語られていない

ナトリウムがリチウムより蓄電に向く理由は、記事が挙げた「安い・低温に強い・冷却が要らない」の3つより、もう一段深いところにある。

第1に、材料そのものが違う。ナトリウムは海水から取れ、地殻に豊富にある。アルシムが使うNFPPは、ナトリウム・鉄・リン・酸素で構成される正極で、ニッケルもコバルトも使わない。調達の地政学から外れることが、価格の安さより重い。

第2に、放電しきっても壊れない。リチウムイオン電池は完全に放電すると劣化するため、輸送時も一定の充電を保つ必要がある。ナトリウム系はゼロボルトまで放電しても構造が壊れにくく、輸送と保管の制約が緩む。これは系統用の大型設備では手間と費用に直結する。

第3に、冷却が要らない理由が構造にある。液冷が必要なのは、リチウムイオン電池が熱暴走を起こしうるからである。ナトリウム系は熱暴走の閾値が高く、受動冷却で足りる。冷却装置が消える分、初期費用だけでなく、20年間の電力消費と保守の手間が消える。

弱点も明確である。エネルギー密度がリチウムイオンより低い。1キログラムあたり、1リットルあたりで劣るため、車には向かない。だからこそ、重さと体積の制約が緩い系統用の蓄電が最初の戦場になる。記事が蓄電の分野に話を限っているのは、この点で正しい。

20年後の85パーセントと65パーセントを、必要な設備量に直す

技術の説明で最も実用に近いのが、20年後の残存容量の差である。ただし85パーセントと65パーセントという数字だけでは、いくら得をするのかが分からない。設備の量に直すと意味が出る。

20年後にも同じ出力を確保したいなら、初期にその分だけ余分に積む必要がある。残存率85パーセントなら1を0.85で割って1.18倍、残存率65パーセントなら1を0.65で割って1.54倍を最初に積むことになる。両者の差は約1.31倍である。同じ仕事をさせるために、リチウム側は3割多く設備を買う計算になる。

工程ごとの担い手と実額
工程ごとの担い手と実額

この3割の差は、キロワット時あたりの単価の差と足し合わせて初めて意味を持つ。単価がリチウムの7割で済むなら、必要量が3割少ないことと合わせて採算に響く。逆に単価が同じなら、密度の低さで場所を取る分が相殺してしまう。導入を検討する側が見るべきは、キロワット時単価ではなく「20年後に必要な出力を確保するための総額」である。この直し方は、電力会社の入札でも同じ形で使われる。

なお、冷却装置が消えることの効果はこの計算に入っていない。液冷の蓄電設備は、冷却のために自らの蓄えた電力の一部を使う。この分は正味の出力を減らし、20年分では無視できない額になる。ただし比率は設備ごとに違うため、本稿では数値を置かない。

金が落ちる場所は、負極材にある

投資の観点でいちばん実用的なのは、この技術で誰が稼ぐかである。工程は5つに分かれる。正極材、負極材、セル製造、システム化、そして運用と保守である。

セル製造は中国勢が量産で先行している。CATLがナトリウムイオン電池の量産計画を進め、HiNa Batteryのような専業も育っている。ここで日本勢が正面から戦うのは難しい。システム化も、箱と配線と制御の組み合わせであり、参入の壁は高くない。

日本勢の押さえどころは負極材にある。理由は化学にある。リチウムイオン電池の負極は黒鉛で、リチウムイオンが黒鉛の層の間に入り込む。ところがナトリウムイオンは半径が大きく、黒鉛の層に入らない。そこで無定形の炭素、いわゆるハードカーボンが必要になる。ナトリウムイオン電池を作る限り、この材料は避けて通れない。

クラレはハードカーボンの世界的な供給元である。ただし全社の決算は厳しい。2025年12月期の連結売上高は8,084億4,700万円で前期比2.2パーセント減、営業利益588億8,200万円は30.8パーセント減、親会社株主に帰属する当期純利益は74億6,800万円で76.5パーセント減った。研究開発費283億6,900万円を投じ続けているが、電池材料の伸びが全体を支えるには至っていない。世界的な地位と足元の業績が一致していないことは、投資の判断では分けて見る必要がある。

大阪ガスも子会社を通じてハードカーボンを手がける。ただし2026年3月期の連結売上高は2兆303億200万円、営業利益1,748億900万円で、電池材料が全社に占める比重は小さい。都市ガスの会社の株を電池材料の期待で買うのは、比率の面で無理がある。

正極とシステムでは、日本にも動きがある

正極の側では日本電気硝子が別の道を進んでいる。結晶化ガラスを正極に使う全固体のナトリウムイオン電池で、可燃性の電解液を使わない構成である。2025年12月期は連結売上高3,114億200万円で4.1パーセント増、営業利益341億3,100万円は前期の61億2,000万円から5.6倍になった。当期純利益296億1,600万円、自己資本比率70.2パーセント、設備投資343億900万円。開発を続ける体力があることが数字で確認できる。

システムの側ではGSユアサが本業で稼いでいる。2026年3月期の連結売上高6,089億9,500万円は4.9パーセント増、営業利益601億7,200万円は20.3パーセント増、当期純利益418億6,300万円は37.6パーセント増。設備投資は543億6,200万円である。ナトリウム系の量産に踏み込んでいるわけではないが、蓄電システムを納める能力と資金を持つ。

未上場の担い手も押さえておく価値がある。アルシム・エナジーはリチウムもコバルトも使わない構成を掲げ、NFPP系の正極でセルを作る。ナトロン・エナジーはプルシアンブルー類似体を正極と負極の両方に使い、出力を重く見る用途を狙ってきた。いずれも未上場で財務は開示されていないため、公開情報から健全性を確かめる手立てがない。上場企業の数字と同じ重みで扱うことはできない。

市況は蓄電が儲かる側へ動いている

技術と企業の話とは別に、蓄電そのものの採算は改善している。米国の都市部の電力小売価格は、2019年1月の1キロワット時あたり0.135ドルから2026年7月の0.197ドルへ45.9パーセント上がった。2024年1月と比べても13.9パーセント高い。売る電気の値段が上がれば、蓄えて売る事業の収入も増える。

一方で設備も高くなっている。蓄電池製造の生産者物価指数は同じ期間に223.4から281.949へ26.2パーセント上がり、2024年1月比では6.1パーセント上昇した。電池は年々安くなるという通念があるが、米国の生産者物価では上がっている。

差の方が効く。電力価格の上昇45.9パーセントが、設備価格の上昇26.2パーセントを上回っている。売る側の値上がりが買う側の値上がりより速い限り、蓄電の採算は改善する。ナトリウムイオンが伸びる余地は、この差の中にある。

確かめられないこと

正確を期すために、確かめられなかったものも書いておく。

モルガン・スタンレーの市場占有率の予測 ― 2030年に20パーセント、2035年に37パーセント ― は、証券会社が顧客向けに出す資料であり、提出書類にも公的な統計にも現れない。実現するかどうかを判断する材料は公開情報の中にない。20年後の残存率85パーセントと65パーセントも、出回っている説明に示された数値であって、第三者が検証した試験結果ではない。本稿の1.31倍という計算は、この数値が正しいという前提のうえに立つ。

日本の蓄電池の生産統計を公的な統計から取ろうとしたが、該当する系列は見つからなかった。国内の需給を数字で押さえるには、企業ごとの開示を積み上げるしかない。

追いかけるなら、この4つを見る

実務として確かめられる点を挙げておく。

第1に、ESSテックの次の四半期報告である。売上高が7万3,000ドルからどう動くか、そして現金がいつまで持つか。2027年の新製品の話は、この2つが解決しない限り前に進まない。第2に、クラレの電池材料の売上高である。ハードカーボンの需要が本当に立ち上がっているなら、決算の区分別の数字に表れる。第3に、日本電気硝子の設備投資である。全固体ナトリウム電池を本気で量産するなら、343億円という現在の水準がさらに動く。第4に、電力価格と蓄電池の生産者物価の差である。この差が縮まれば、蓄電の採算改善は止まる。

技術としてのナトリウムイオン電池は、蓄電という用途では筋が通っている。ただし技術が正しいことと、その技術を語る企業が生き残ることは別である。今回の記事は前者を伝え、後者を伝えていない。蓄電の企業一覧はエネルギー分野の企業データベースから辿れる。