GoldmanはHBMのTAMが2026年に67%、2027年に108%伸びて1,162億ドルに達し、平均単価は44%上がって17ドル/GBになると推計した。市場を2倍にするのは数量でなく単価で、需要の主役はGPUからASICへ移る。

Goldman Sachs Global Investment ResearchのExhibit 50「HBM demand and TAM」は、HBM (High Bandwidth Memory、広帯域メモリー) の需要と市場規模を2022年から2028年まで7年分の一覧にまとめている。引用元の投稿が取り上げるのは2点で、HBMのTAMが今年 (2026年) 前年比67%、来年 (2027年) 108%で伸びること、平均単価が2027年に44%上がって17ドル/GBになることである。投稿が挙げる投資対象はMicron (MU)、DRAM市況そのもの ($DRAM)、韓国株ETF (EWY) の3つになる。本稿は週次のDeep Dive Pro版として、Exhibit 50の全行を書き出して検算し、HBMとTAMという言葉の中身、需要がGPUからASICへ移る意味、HSBC推計との差、日本の装置・材料の有価証券報告書 (金融庁EDINET)、財務省の貿易統計 (e-Stat)、米連邦準備制度のデータ (FRED) までを一枚につなぐ。円換算は1ドル=159.21円、ウォンは1ドル=1,414.29ウォン (いずれも2026年8月14日、FRED) による。

HBMとTAMの中身: DRAMを積み木のように積んだメモリーと、「獲得可能な市場の総額」

HBMはDRAMのチップを垂直に積み、シリコン貫通電極 (TSV) で束ねたメモリーである。GPUのすぐ隣に置かれ、通常のDRAMより桁違いに広い帯域 (データの通り道) を、少ない消費電力で提供する。AIの学習と推論は「計算」より「データを計算機に運ぶ」速度で詰まるため、HBMなしに最先端のAI半導体は成立しない。積層と検査の工程が通常のDRAMより多く、製造できるのはSK hynixSamsungMicronの3社だけである。TAM (Total Addressable Market) は「その市場で理論上獲得できる売上の総額」を指す言葉で、Exhibit 50では需要 (GB) に平均単価 (ドル/GB) を掛けた金額がそのままTAMになる。検算すると2027年は68億4,051万GB×17.0ドル=1,163億ドルで、原表の116,267 (100万ドル) と一致する。

Goldman SachsのHBM需要とTAM (Exhibit 50): 市場は2027年に2.1倍の1,162億ドルへ
Goldman SachsのHBM需要とTAM (Exhibit 50): 市場は2027年に2.1倍の1,162億ドルへ

Exhibit 50の全行はこうなる。HBM総需要は2022年2億1,600万GB、2023年3億4,900万GB (+62%)、2024年14億9,200万GB (+327%)、2025年26億7,800万GB (+79%)、2026年47億2,400万GB (+76%)、2027年68億4,100万GB (+45%)、2028年97億1,300万GB (+42%)。DRAM総需要に占める比率は1%から14%へ上がる。GPU向けの比率は2023年の80%から2028年の61%へ下がり、ASIC向けが20%から39%へ上がる。GPU向け需要は2028年に59億1,200万GB、ASIC向けは38億GBで、ASIC向けは2026年に前年比172%と最も速く伸びる。平均単価は2022年10.8ドル/GB、2025年12.5ドル、2026年11.8ドル (-6%)、2027年17.0ドル (+44%)、2028年17.3ドル (+2%)。TAMは2022年23億ドル、2024年174億ドル (+340%)、2025年334億ドル、2026年558億ドル (+67%)、2027年1,163億ドル (+108%)、2028年1,684億ドル (+45%) である。原表の注記のとおり2022〜25年も推計値で、実績の公表値ではない。

2027年の倍増は単価が半分を担う: -6%で息を継ぎ、HBM4で+44%

Exhibit 50で最も情報量が多いのは単価の行である。2026年の-6%は、HBM3E世代の中で3社の供給が立ち上がり、歩留まりが改善して価格が緩む局面を意味する。2027年の+44%は数量の伸び (+45%) とほぼ同じ寄与でTAMを2.1倍にし、その源はHBM4への世代交代である。HBM4は積層数と帯域が上がる分だけ製造原価と検査工程が増え、1GB当たりの価格が上がる。つまりGoldmanの「2027年倍増」は、AIの需要が2倍になる予測ではなく、同じ需要の伸びに世代交代の値上げが乗る予測で、HSBCの推計 (2028年1,960億ドル、1Gb単価が3年で1.9倍) と構造は同じである。両行の差は単価の置き方にあり、HSBCの単価経路をGB換算すると2025年13.9ドル→2028年26.6ドルで、Goldmanの12.5→17.3ドルより強気になっている。数量の見立ての差は小さく、2028年TAMの差 (1,684億ドル対1,960億ドル、14%) はほぼ単価の差である。単価がGoldmanの想定より上に振れれば、答えはHSBC側へ寄る。

需要構成の変化も投資の含みを持つ。GPU向け比率80%→61%、ASIC向け20%→39%という転換は、NVIDIAのGPUだけでなく、GoogleのTPUやAWSのTrainiumのような大手クラウドの自社設計チップがHBMの大口顧客になることを意味する。ASIC向けが2026年に+172%と跳び抜けるのは、自社チップの世代が一斉に量産へ入るためで、HBMの顧客はNVIDIA 1社への依存から、クラウド4社+NVIDIAへの分散に向かう。メモリー3社にとって顧客分散は価格交渉力の維持に働き、Micronが結んだ預託金220億ドルの戦略的顧客契約の相手が広がることも裏付ける。

MU・$DRAM・EWYの3点セット: 個別株、市況、そして韓国ETFという間接投資

投稿が挙げる3つの記号は、同じ需要を違う形で取る。MUはMicronの個別株で、2026年度第3四半期の売上415億ドル (前年同期比4.5倍)・粗利益率79%、10-Qに記された預託金・約束220億ドルと設備投資270億ドルが直近の実額である。$DRAMは個別銘柄ではなくDRAM市況そのものを指す表記で、市況は2026年1月に前四半期比90〜95%上がった契約価格と、貿易統計の輸入額で追える。EWYはiShares MSCI韓国ETFで、SK hynixとSamsungを上位に含む韓国株への一括投資になる。ウォンは1ドル=1,414.29ウォン (8月14日) で、HBMのドル建て売上はウォン安の分だけ韓国2社の円換算・ウォン換算利益を押し上げる。日本からは、韓国からの半導体等電子部品の輸入が2026年上半期に2,866億円と前年通年 (2,271億円) を半年で超えており、EWYの上昇と日本の輸入額の増加は同じ現象の裏表である。

HBMのTAM 1,684億ドルは誰の売上になるか: MU・EWYと、日本の装置・材料の有報
HBMのTAM 1,684億ドルは誰の売上になるか: MU・EWYと、日本の装置・材料の有報

日本株には第4の取り方がある。TAM 1,684億ドルは3社の売上だが、数量9.7兆GBを作る工程は日本の装置と材料を通る。2026年3月期の有価証券報告書では、東京エレクトロン (8035、前工程装置) が売上2兆4,435億円・営業利益率25.6%、アドバンテスト (6857、HBM検査) が売上1兆1,286億円・営業利益率44.2%、ディスコ (6146、積層ウエハの研削・切断) が売上4,369億円・営業利益率42.3%、レゾナック (4004、積層用接着材料) が売上1兆3,471億円・営業利益率3.5%、信越化学工業 (4063、ウエハ) が売上2兆5,740億円・営業利益率24.7%である。HBMは通常のDRAMより積層・研削・検査の工程数が多く、数量の伸び42〜45%がそのまま装置・材料の需要になる。単価の+44%は3社の取り分で、数量の+45%は日本の取り分という分け方ができる。

需要9.7兆GBの電力側と、物価統計に出ない急騰

2028年の需要9.7兆GBを積む場所は、GPU (61%) とASIC (39%) を並べるAIデータセンターである。Microsoft・Google・Amazon・Metaの2026年の設備投資は計1,690億ドルで、米国では既存原子炉の長期電力購入契約 (Constellationが新たに920MW) が電源を支える。日本ではMicronの広島工場がHBM対応の先端DRAM拠点で、経済産業省と最大5,000億円の新たな助成枠に合意し、立地する中国電力管内では島根2号機が2024年12月に再稼働した。メモリーの急騰は物価統計に現れない。米国の半導体生産者物価指数は2026年7月に29.0で横ばいのままで、TAMの67%や108%という伸びは、企業の提出書類と契約価格、輸入統計でしか観察できない。米10年債利回りは4.69%で、単価主導の市場拡大は在庫金利の負担も同時に増やす。

HBMのTAMに向き合う関連銘柄: 3社の単価と日本の数量、売買の推奨や評価は示さない

本稿の主題はHBMであり、関連銘柄は希土類でなく「単価を取る3社への入口」と「数量を取る日本株」を置く。数字は2026年3月期の有価証券報告書 (EDINET) と2026年6月のSEC提出書類によるもので、売買の推奨や評価は示さない。

希土類の関連銘柄は別稿に役割別の30銘柄がある。

確かめられる点

  • 第1に、2026年の単価が実際に-6%へ緩むか。緩まなければGoldmanのTAMは上方修正になり、HSBCの経路に近づく。
  • 第2に、2027年のHBM4立ち上がりで+44%の単価上昇が通るか。Micronの四半期開示 (クラウドメモリー部門の売上と粗利益率) が最初の観察点になる。
  • 第3に、ASIC向け比率が2026年に33%へ上がるか。Google・AWS・Metaの自社チップの量産公表が対応する。
  • 第4に、日本側ではアドバンテストディスコの受注・売上がHBM向けで伸び続けるか、韓国からの輸入額が2026年通年で5,000億円を超えるか。
  • 第5に、DRAM総需要に占めるHBMの比率が2028年に14%へ達するか。

この比率が上がるほど、従来型DRAMの供給が絞られ、メモリー全体の価格が支えられる。

Exhibit 50の要点は、1,684億ドルという到達点ではなく、その内訳が「数量は年4〜7割で伸び続け、金額の倍増は世代交代の値上げが作る」という構成にある。単価で稼ぐのは3社、数量で稼ぐのは日本の装置と材料、そして両方を積む場所の電気を原子炉が支える。この3層を分けて持つことが、HBMという言葉を投資に翻訳する実務になる。