同じ間違いを300回、しかも同時に犯す。それが並列エージェントの費用の正体である。修正を1行ずつ書きためる1つのファイルが、1週目の3行から3か月で30行になり、その分だけ次の実行が安くなる。

自律型のエージェントを何百体も同時に走らせる仕組みは、2026年に入ってから製品として買えるようになった。ムーンショットAIが1月に Kimi K2.5 で出した「エージェントの群れ」は最大100のサブエージェントを1,500手まで束ね、その後の更新で上限は300体、ツール呼び出し4,000回超に広がり、いまは7月に出た Kimi K3 が動かしている。ところが、この規模で走らせた結果を翌週にも使える形で残す方法は、製品側には付いてこない。ポリダオ名義の書き手が2026年9月5日に公開した手引きは、同じ構成を1年で4回組み直して3回捨てた経験から、14の手順を「作る順」に並べたものである。本稿はその14手順を1つも省かずに日本語へ書き起こし、手順ごとに公開されている研究と一次資料を当て、1回の起動にいくらかかり、何を置き換えるのかを、SEC・FRED・e-Stat・EDINET の数字で確かめる。

4回組んで3回捨てた人が、最後に変えた1つのこと

手引きの出発点は失敗の記録である。組み直したどの版も、およそ1週間は動いた。そのあとで修正が繰り返しはじめる。同じ重複した会社名が間違ったノードに統合され、同じ薄い出所が根拠として受け入れられ、金曜日に打ち込んだ指示を月曜日にまた打ち込む。この循環を終わらせたのは、修正に住む場所を与えたことだった、と書き手は述べる。

仕組みが実行と実行のあいだに善するのは、2つの条件がそろったときである。何かが次へ持ち越され、何かが持ち越される前に仕事を拒む。ループ工学が前者を与え、グラフ工学が記憶に問い合わせできる形を与え、定型実行が部屋にいなくても回る状態を作る。Kimi K3 の群れは、1つの問題に最大300体という並列の余力を供給し、この構造を作る価値を成り立たせる。14手順はどれも、書くファイルか決める規則であり、半日を超えるものはない。

14の手順を作る順に
14の手順を作る順に

図1 — 4つの段階と14手順、および1回目・2〜3回目・12回目の実行で残るもの

段階手順残るもの
I ・ 骨格1〜4自分で終わり、悪い仕事を拒む1つのループ
II ・ グラフ5〜8記録の羅列ではなく、形のある記憶
III ・ 動的ワークフロー9〜11グラフの状態から自分で範囲を選ぶ実行
IV ・ 定型実行と検討12〜14予定で走り、自分の指示書を編集する

群れの起動は、大きなプロンプトではなく5つの部品を持つ制御装置である

手引きが最初に置くのは、どのループにも共通する5つの部品である。引き金が実行を始め、作業で群れが動き、関門が未完成を拒み、状態が検証された結果を持ち越し、停止が実行を終える。次の実行は、前の実行が止まった場所から始まる。

どのループも同じ5つの部品
どのループも同じ5つの部品

図2 — 5つの部品と、それぞれが無いときに壊れるもの

5つのどれが欠けても、壊れ方は決まっている。引き金がなければ自分が時計になる。関門がなければ結果を照らし合わせる相手がない。状態がなければ明日はゼロから始まる。停止がなければ、誰かが気づくまで使い続ける。書き手はこれを「300のエージェントは、あらゆる間違いを300回、同時に犯す」と要約する。停止線のない起動は派手に失敗しない。請求書が届くまで静かに使い続けるだけである。

骨格の4手順、頻度と可逆性で仕事を選び、終わりを先に書く

手順1は仕事の選び方である。最初の仕事が、この仕組みが最初につまずく週を乗り切れるかどうかを決める。少なくとも週1回は繰り返し、1分以内に検証でき、間違って戻ってきても費用がかからないもの。頻度は傾向を見るのに十分な回数を与え、可逆性は間違えても取り返せる余地を与える。競合の追跡、更新履歴の監視、見込み客情報の補強、出所の選別はどれも該当する。送信する、支払う、公開するものは、少なくとも今月は該当しない。

手順2は停止条件で、書き手はプロンプトより先にこれを書けと言う。エージェントの構成は同じ軸で繰り返し失敗する。始め方は知っているが、いつ終わったかを知らない。終わりを先に、機械が評価できる形で書く。

STOP 次のどちらかが真なら止める:
  ・ 40ノードが、それぞれ独立した出所2件以上で検証済み
  ・ 新しい検証済みノードなしに、全周3回を完了
上限: 300体 ・ 実時間45分 ・ ノードあたり再試行2回
上限に達したら: 40-runs に記録を書き、未完の一覧を人へ回し、終了

形容詞ではなく数で作った停止条件が、ループと暴走の違いである。「調査が十分になるまで」は停止条件ではない。この主張には、2026年7月に投稿された研究が裏づけを与える。ホウ、ワン、チャオ、ワンの4人は、大規模言語モデルのエージェント6,549件の公開リポジトリを静的解析し、処理が戻る経路が有効に制限されていないために呼び出しやツール実行や引き継ぎを繰り返す「無限エージェントループ」を、47のプロジェクトで68件確認した。報告した74件のうち91.9%が実際の欠陥だった。1つの要求が長時間の実行に増幅され、費用の枯渇、モデルへのサービス妨害と同じ状態、コンテキストの肥大、外部への副作用の反復を引き起こす。停止条件を数で書くことは、この68件に入らないための最も安い手段である。

手順3は、作業の手順をプロンプトから SKILL.md へ移すことである。プロンプトは意図の一部を切り取ったものにすぎない。ファイルは意図そのもので、版が管理され再利用でき、群れは何よりも先にこれを読み込む。

# SKILL.md ・ 企業の調査
手順: 1 特定 → 2 一次資料を取る → 3 項目を抽出 → 4 自己点検 → 5 返す
判断の規則:
  ・ 提出書類と当事者の文書は、それを報じた記事より上位
  ・ 数字が食い違うなら、日付を付けて両方返す。平均しない
返す前の自己点検:
  ・ すべての項目が出所の行まで辿れる
  ・ 確度0.6未満は、落とさずに印を付けて返す
出力: SCHEMA.md の返答の型のみ。それ以外は返さない

自己点検の節が、300体から300通りの形式が返ってくるのを防ぐ。安く、エージェントの内側で走り、機械的な誤りを関門に届く前に捕まえる。

手順4は関門で、エージェントに制御させないことが要点である。自分の出力を読み返すエージェントは、そう書いた理由をすべて見ているので、承認する。これは Kimi K3 でもアンソロピックのクロードでも、どのモデルでも同じだと書き手は言う。機能する関門は、実行の外側にあるものでなければならない。

関門の種類捕まえるもの作る費用
決定的なスクリプト型の破れ、欠けた項目、切れたリンク、件数の不一致20分。以後は無料で走り続ける
新しいコンテキストの検証役薄い根拠、別の対象、でっち上げた関係プロンプト1つ、ノードごとに呼び出し1回
閾値の規則SCHEMA.md で決めた確度の基準を下回るもの1行
人の待ち行列2回失敗した少数の案件1日5分

この順に走らせる。スクリプトは無料なので、検証に1トークンも使う前に、拒めるものはすべて拒む。関門の費用感には、アンソロピックが自社の調査機能について公開した数字が参考になる。同社によれば、エージェントはチャットのおよそ4倍、複数エージェントの構成はおよそ15倍のトークンを使う。指揮役にクロード・オーパス4、サブエージェントにソネット4を置いた構成は、単体のオーパス4を社内の調査評価で90.2%上回ったが、性能のばらつきの80%はトークンの消費量で説明できた。性能は代金で買っているのであり、だからこそ無料の関門を最初に置く順番に意味がある。

グラフの4手順、ノードの定義と別名表を先に書く

手順5はノードの定義である。SCHEMA.md の1行が、あとで仕組みが答えられる問いのすべてを決める。ノードは会社か、人か、提出書類か、規格か。グラフごとに主となる型を1つ選び、残りは属性として扱う。

# SCHEMA.md
ノードの型:  company ・ person ・ filing ・ vendor ・ protocol
辺の型:      shared_investor ・ shared_vendor ・ shared_filing
             depends_on ・ supersedes ・ contradicts
閾値:        確度0.6未満の候補の辺は落とす
検証済み:    独立した出所2件でノードと数える

1度書けば、どの市場に対する将来のどの実行も、同じ形で統合し比較できるグラフを作る。

スキーマの5つの設計規則
スキーマの5つの設計規則

図3 — 5つの設計規則、グラフが浮かび上がらせるもの、根拠を示せる辺の形

手順6は別名表で、最初の起動より前に書く。「ブロック」「スクエア」「ブロック社」が3つのノードとして届けば、1つの塊が3つに割れ、以後のすべての問い合わせがその誤りを受け継ぐ。10分で書いた aliases.csv が、300体を送り出す実行を守る。別名表はグラフの中ではなく上に置く。将来のすべての起動への入力だからである。すり抜けた重複は、ここで1度だけ直す。

canonical,alias
Block Inc,Block
Block Inc,Square
Alphabet Inc,Google

この例が架空ではないことは、SEC の提出者情報で確かめられる。ブロック社 (CIK 1512673) の旧社名欄には「Square, Inc.」が2011年3月2日から2021年12月8日まで登録されている。一方でアルファベット (CIK 1652044) とグーグル (CIK 1288776) は別の登録番号を持ち、旧社名の欄は双方とも空である。同じ会社が名前を変えた場合と、持ち株会社の下に別法人として残った場合では、一次資料の側でも表れ方が違う。別名表は、この2種類を人が読んで1行にまとめる作業である。

統合の誤りには向きがある。2026年6月29日にハインドサイトのチームが公開した解説は、誤った統合は見逃した統合より悪いと述べる。重複した記録は復旧できるが、誤って1つにまとめた記録は矛盾した1件になり、エージェントはそれを自信を持って語る。同社は名前の類似度に0.5、共起する相手の重なりに0.3、時間的な近さに0.2の重みを置き、合計が0.6を下回れば別の対象として作る。手引きの SCHEMA.md が辺を落とす閾値も0.6で、数字が偶然に一致している。

手順7は返答の型である。300体が自由な文章で返せば、どの指揮役に向けても溢れる。300体が固定した形で返せば、判断を挟まずに統合でき、トークンは何分の1かで済む。

返答 (1体あたり、これ以外は返さない):
  node_id ・ label ・ type
  出所: [最大3件、URL + 日付]
  候補の辺: [相手の名前 + 関係の型 + 根拠の行]
  確度: 0〜1

手順8は、辺を1本も引く前にすべてのノードを置くことである。逐次に動く道具は途中でつながりに気づき、最初に読んだものへ地図全体を偏らせる。群れはノードの集合を完全に実体化してから、全体を一度に推論する。この順序を守り、すべての辺に出所の行を付ける。

{ "from": "n041", "to": "n077", "type": "shared_processor",
  "evidence": "sec:0001 p.14", "confidence": 0.86 }

根拠の項目があるから、顧客に主張を信じてくれと頼む代わりに、主張の根拠を一緒にたどれる。創業者から「なぜ競合2社がつながっているのか」と問われたとき、答えはページ番号になる。

100万トークンは記憶ではない、実行の最中と後で違う2つの問題

手引きは、コンテキストの問題を1つと数える誤りを、費用のかかる誤りとして分けて書く。

2つのコンテキストの問題
2つのコンテキストの問題

図4 — 指揮役の窓が溢れる問題と、セッション後に何も残らない問題

1つ目は実行の最中に起きる。各エージェントは自分の窓を持つ。溢れるのは、300件の返答を統合する1体である。自由な文章で返せば指揮役の窓の96%が埋まり、切り捨てが起きる。型で返せば24%で、統合は判断を挟まない。この2つの数字を Kimi K2.6 の256Kトークンの窓に当てはめると、1体あたり自由な文章でおよそ820トークン、型でおよそ205トークンに相当する。返答の型が4分の1に圧縮しているのは文字数だけではなく、指揮役が読まなければならない判断の数である。Kimi K3 の窓はおよそ100万トークンに広がったが、300体が自由な文章で返せば同じ比率で埋まる。

2つ目はセッションの後に起きる。窓の中のものは何も残らない。新しいセッションは、その窓を空にして開く。残るものは、自分が持つファイルに住まわせるほかない。SKILL.md はすでにうまくいった手順で、入力の形と返答の型、うまくいったエージェントの手順が書かれている。これがなければ毎回学び直す。CONSTRAINTS.md は過去の実行からの修正で、ノードと数える前に出所を2つ、名前は先に正規化する、といった行が並ぶ。これがなければ、同じ間違いをより速く犯す。手順のファイルだけでも時間とともに速くなる。手順に修正が添えられると、速くなったうえに同じ間違いを繰り返さなくなる。記憶と呼べるのは後者だけである。

この2層の構造は、開発者向けの製品にも同じ形で現れている。アンソロピックのクロード・コードは、人が書いて版管理する CLAUDE.md と、モデル自身が修正を書きためる自動メモリを分けて持つ。前者が編集方針で、後者が学習の蓄積という分担は、手引きの SKILL.md と CONSTRAINTS.md の分担そのものである。

動的ワークフローの3手順、起動ブロックは一覧ではなく問い合わせ

ここが多くの人が飛ばす段階であり、静的な自動化が自分の状態に応答するものへ変わる場所だと手引きは書く。

手順9では、起動ブロックを固定の一覧ではなくグラフへの問い合わせにする。40社の固定した一覧は台本である。グラフを先に読む起動ブロックはワークフローで、来週は何も編集しなくても違うエージェントの組を送り出す。この最後の1節が、グラフを下に敷く意味のすべてである。仕組みは自分の仕事を、行の順ではなく構造上の重要さで並べ替える。

起動: 次の条件を満たすノードごとに1体
  status = unverified
  OR last_checked > 30日
  OR inbound_edges >= 3 AND confidence < 0.8
上限: 300。問い合わせがそれ以上を返したら、inbound_edges の多い順に取る
起動ブロックは1つ、経路は5つ
起動ブロックは1つ、経路は5つ

図5 — 起動の問い合わせ、ノードの状態による5つの経路、関門の4つの分岐

手順10は、すべてに1本の経路を走らせるのではなく、ノードの状態で振り分けることである。

ノードの状態経路理由
検証済みで新鮮丸ごと飛ばす代金はもう払ってある。再調査する理由がない
検証済みで古い1体、差分の確認だけ安く、変わった分を捕まえる
薄い (出所1件)1体、出所だけ狙い撃ち。全部のやり直しではない
矛盾あり出発点となる出所を変えた2体食い違いは独立した視点で見る
新規調査の全工程再利用できるものがまだない

2回目の実行が1回目の何分の1かで済む理由が、この振り分けにある。片付いた仕事を飛ばすことが、この構成の経済性のすべてである。

手順11は判定による分岐と、再試行の上限である。

関門 合格           → 20-graph に統合し、検証済みの印を付ける
関門 不合格 (1回目)  → 1回だけ再試行。失敗の理由をタスクに添える
関門 不合格 (2回目)  → 30-queries/needs-human.md に書き、以後は触らない
スクリプト 不合格    → 再試行しない。返答が形式を壊した。記録して先へ

何が失敗したかをエージェントに伝えずに再試行することが、ループが同じ間違いに予算を燃やす仕組みである。理由を戻すことで、再試行は修正に変わる。

同じ群れを起動する4つの引き金と、4つの安全装置

手引きの図解は、1つの関門に対して引き金が4種類あることを示す。手動は自分がブロックを起動し、停止の行が保つ。閾値は前回の実行が空白を残したときに始まり、全ノードが基準を超えたら止まる。予定は cron の間隔で始まり、実行が完了したら止まる。事象はウェブフックが発火したときに始まり、群れがそれを処理したら止まる。

4つの引き金と4つの安全装置
4つの引き金と4つの安全装置

図6 — 手動・閾値・予定・事象の引き金と、回数の上限・予算・並列数・検証役の4つの安全装置

安全装置も4つある。回数の上限は目標が未達でもN周で実行を終える。予算はトークンの天井で群れを止め、それはプロンプトではなく呼び出しの側に設定する。並列数は、40ノードに必要なのは40体であって、300は上限であり既定ではないという規律である。検証役は新しいコンテキストでの2周目で、答えが書かれるのを見ていない。書き手は、検証役が他の3つを合わせたより重要だと言う。自分の仕事を採点するエージェントは、それを承認するからである。

定型実行の3手順、予定と事象、修正の住所、自分のファイルを編集するループ

手順12は予定に載せることで、その後に事象の引き金を足す。

定型実行 weather-check
  予定:     月曜 07:00 ヨーロッパ/ワルシャワ
  起動:     00-launches/mobile-payments.md
  予算:     120体、30分
  終了時:   40-runs に記録を書き、差分を私に送る
引き金 監視対象に新しい提出書類 → 同じ起動を、その1社に絞って走らせる

予定が下限を決め、事象の引き金が急な変化に対応する。間隔は、元のデータが実際に動く速さに合わせる。月に1度しか変わらない市場に日次の実行は要らない。それに払うことが、エージェントは高いと人が結論づける最も多い経路である。

手順13は、修正に恒久的な置き場を与えることである。CONSTRAINTS.md が、仕組みが繰り返すのではなく善する理由になる。何かを直すたびに、消えるチャットの発言ではなく、ここに書く。

# CONSTRAINTS.md
2026-08-19 ・ 報道発表は独立した出所ではない。発表2件 = 出所1件
2026-08-24 ・ 「買収された」には提出書類か会社の声明が必要。報道では足りない
2026-08-29 ・ 子会社は、別に提出していない限り親のノードにまとめる

毎回の起動の冒頭で読み込まれ、1週目は3行、3か月目には30行になる。1行ずつが、この先どの実行でも、どのエージェントも繰り返さない間違いである。

ループを編集するループ
ループを編集するループ

図7 — 週次の検討ループと、積み上がる CONSTRAINTS.md

手順14が、全体を自己改善にする最後の手順である。週に1度、1体のエージェントが実行の履歴を読み、人が持つファイルへの変更を提案する。承認の手順は残す。検討なしに自分の制約を編集できるエージェントは、いずれ不都合だった制約を編集して消し、しかもなぜそれが妥当だったかを説明してみせる。

週次の検討 (1体、新しいコンテキスト):
  読む:   直近7日の 40-runs/*
  探す:   2回以上現れた失敗の理由
          1回より多く人へ回されたノード
          統合時に捕まえた別名の衝突
  提案:   SKILL.md、SCHEMA.md、aliases.csv、CONSTRAINTS.md への編集
  出力:   差分。人が承認か却下する。それらのファイルには自分では書かない

1つのディレクトリに1人の書き手、作業領域の構造

すべてのファイルを1か所に置いた作業領域の構造が、手引きの締めくくりである。

graph-workspace/
├── SKILL.md          人が書く       ・ 手順。最初に読み込まれる
├── SCHEMA.md         人が書く       ・ ノードの型、辺の型、閾値
├── CONSTRAINTS.md    人が書く       ・ 持ち越される修正
├── aliases.csv       人が書く       ・ 正規名。統合の前に照合
├── 00-launches/      人が書く       ・ 問いごとに1つの起動の問い合わせ
├── 10-returns/       群れが書く
├── 20-graph/         群れが書く     ・ nodes.jsonl ・ edges.jsonl ・ graph.md
├── 30-queries/       人が問い、群れが答える ・ needs-human.md を含む
└── 40-runs/          追記のみ       ・ 手順14への入力
作業領域のフォルダ構造
作業領域のフォルダ構造

図8 — 書き手の区分、数字の接頭辞、4つの規則

1つのディレクトリに1人の書き手。数字の接頭辞が書く順を固定するので、返答が起動を上書きすることも、グラフが返答を上書きすることもない。40-runs は追記のみである。6週間後に「なぜグラフはそう言うのか」と問われたとき、答えるファイルだからである。

1回の起動にいくらかかるか、公表価格で割り戻す

手引きは代金を書かない。Kimi K3 の API 価格は公表されているので、本稿で割り戻す。入力は100万トークンあたり3.00ドル、キャッシュに該当する入力は0.30ドル、出力は15.00ドルで、100万トークンの窓のどこでも同じ単価である。1体のサブエージェントが入力6万トークン、出力4千トークンを使うと仮定すると、300体の入力は1,800万トークン、出力は120万トークンになる。キャッシュが1つも効かなければ入力54ドル、出力18ドルで72ドル。ムーンショットAIがプログラム作成の作業で9割超と説明するキャッシュの該当率をそのまま置けば入力は10.3ドルに下がり、1回の起動はおよそ28ドルになる。

群れの費用と置き換える相手の売上
群れの費用と置き換える相手の売上

図9 — 1回の起動の代金、調査会社の決算、米国の投資と雇用、国内の情報サービス業、有価証券報告書の言及数

週1回の定型実行なら年に1,470〜3,740ドルである。この仮定は1体あたりの消費量に強く依存するため、幅として読む必要がある。上限の300体を毎回使うのではなく、必要なノード数だけを送り出すという手順10と安全装置の並列数が、この幅の下側に近づける実務そのものである。API ではなく製品として買う道もある。6月に試験提供が始まったパソコン向けの Kimi Work は、月19ドルから199ドルまでの4段階で、300体の群れを完全に使えるのは最上位の199ドルの段階だけと報じられている。

置き換える相手の売上、調査会社の契約額はいくらか

手引きが挙げる収益化の経路は3つである。納品物として売る市場地図は、数千ドル規模の分析契約を置き換え、午後のうちに納品できる。生きたグラフの継続契約は、再実行し、新しい辺に印を付け、動いたものを再検証する月額の料金になる。作業領域そのものを製品として売る道は、14手順を他人の分野向けに包み直すもので、2つの市場で試した構造があれば、3つ目は午前中に組める。3つ目が本当の事業で、手順は分野をまたいでも変わらず、変わるのはスキーマと別名表だけだと書き手は言う。

置き換える相手の規模は SEC の決算で測れる。ガートナーの2025年12月期の売上高は64億9,723万ドルで前年比3.7%増だが、営業利益は10億2,571万ドルで11.3%減り、純利益は12億5,372万ドルから7億2,923万ドルへ落ちた。同社が開示する契約額は2025年末で52億ドル、為替中立で1%増にとどまる。2026年の売上高の見通しは64億5,500万ドル以上で、実質的に横ばいである。フォレスターは2025年の売上高が3億9,689万ドルで8.2%減り、営業損益は1億1,317万ドルの赤字で、のれんの減損2,680万ドルを含む。契約額は2億9,240万ドルで6%減、既存顧客の支出の維持率は87%だった。同社は AI による自己サービス型の商品を2025年7〜9月期に出し、それを顧客の維持率が4ポイント善した理由に挙げている。

ガートナー自身は2025年6月、エージェント型 AI の案件の4割超が2027年末までに中止されると予測した。費用の増大、事業価値の不明確さ、リスク統制の不足が理由で、数千あるエージェント型 AI の供給者のうち実体があるのは約130社にすぎず、既存の助手や自動化製品を「エージェント」と呼び替える例が多いとも述べた。この予測を出した会社の契約額が横ばいで、同業の小さいほうが減収と減損に向かっていることは、置き換えが一部で始まっているという読み方と、需要そのものが伸び悩んでいるという読み方の両方を許す。手引きの14手順は、前者の側に立つ道具である。

米国ではソフトウエア投資が増え、作り手の雇用が減っている

FRED の系列は、この置き換えが雇用の側でどう見えるかを示す。米国の民間固定投資のうちソフトウエアは、2026年4〜6月期に年率8,166億ドルで前年同期の7,459億ドルから9.5%増えた。ところがコンピュータシステム設計・関連サービス業の雇用者数は2023年7月の247万700人を山に、2026年8月には236万2,700人へ10万8,000人、4.4%減っている。同じ期間に経営・科学・技術コンサルティング業の雇用は186万1,500人から189万6,600人へ1.9%増え、経営コンサルティングの生産者物価指数は2025年7月の124.6から2026年7月の136.4へ9.5%上がった。データ処理・ホスティングの生産者物価は128.6から122.4へ4.8%下がっている。

作る側の単価は下がり、人は減り、助言する側の単価と人は増えている。手引きが置き換えの対象に据える「分析契約」は後者の領域にあり、そこはまだ縮んでいない。300体の群れが市場地図を午後のうちに納品できるなら、次に動くのはこの系列である。

国内の情報サービス業は18兆円、各種調査の売上は2,277億円で横ばい

e-Stat の特定サービス産業動態統計で、国内の情報サービス業の売上高は2024年に17兆9,203億円、前年比5.5%増だった。内訳では受注ソフトウエアが11兆430億円で7.8%増と伸びる一方、ソフトウエア製品は1兆9,172億円で4.2%減、各種調査は2,277億円で0.3%減である。技術系従業者は32万636人で横ばいだった。四半期では2024年10〜12月期の売上高が4兆5,146億円である。この統計は2021年に調査対象が定されており、その年に売上高が12兆9,102億円から15兆2,970億円へ跳ね上がっているのは制度の段差で、市場の急拡大ではない。2025年分は e-Stat に未収録である。

各種調査の2,277億円が、国内で市場地図の納品物が競合する最も近い市場になる。この区分は2021年の改定後、2,255億円、2,298億円、2,285億円、2,277億円とほぼ動いていない。受注ソフトウエアが3年で2兆円伸びたのと対照的である。

有価証券報告書に「AIエージェント」と書いた回数、NTT 本体は0回

日本の上場企業がこの分野をどう位置づけているかは、有価証券報告書の語数で測れる。EDINET から2026年6月に提出された有価証券報告書のうち、IT サービスと AI に関わる29社を取得し、本文で「AIエージェント」が現れる回数を本稿が機械集計した。

首位はエクサウィザーズの36回で、市場が2025年を「AIエージェント元年」と位置づけたと書き、自社の基盤をエージェントを駆動し管理する司令塔と説明する。NEC (6701)は16回で、自社の生成 AI を使ってセキュリティのリスクを診断する AI エージェントと内部監査を支援する AI エージェントを開発したと記す。富士通 (6702)は11回で、複数の AI エージェントの社内実践と、2025年10月に自社 CPU とエヌビディアGPU を載せた基盤の上で領域特化型のエージェントを組み合わせる協業を挙げる。同時に、自律的に判断し行動するエージェントの普及が従来のセキュリティの前提を崩すことをリスクの項に書いており、事業の項とリスクの項の両方に同じ語が出る唯一の例になっている。日鉄ソリューションズ (2327)も11回で、業務への組み込み、システムへの組み込み、開発運用の工程への組み込みという3層で書く。日立製作所 (6501)は8回で、社内の実績を顧客への導入に転用する「カスタマーゼロ」の位置づけと、AI 統括委員会による統制を並べる。

一方でNTT (9432)本体は0回だった。「自律」は12回現れるが、エージェントという語は使っていない。さくらインターネット (3778)は0回で、「生成AI」は26回である。ソフトバンクグループ (9984)は1回、TIS (3626)は1回、野村総合研究所 (4307)は2回で、脚注に「目的達成へ自律的に動く AI」という定義を置いている。ソフトバンク (9434)は4回で、複数のエージェントが連携して分析・判断・実行までを自律的に行う通信業向けの基盤モデルを記す。

語数は注目の度合いを示す代理の指標であって、売上高ではない。29社のうち、エージェントに関わる売上高を区分として開示した会社は1社もない。手引きの言葉を借りれば、日本の有価証券報告書はまだ「自由な文章で返している」段階にあり、返答の型はこれからである。

この手引きを買う側にいる会社、群れを売る側にいる会社

群れを売る側の資金の動きは速い。ムーンショットAIは2026年2月に7億ドル超を企業価値100億ドルで調達し、5月7日にはメイトゥアンの投資部門ロング・ズィーが主導する約20億ドルを企業価値200億ドル超で集めた。半年の調達額は39億ドル、年換算の経常収益は4月に2億ドルを超えたと報じられている。香港に上場したジープーAIの時価総額は4,347億香港ドル、ミニマックスは2,570億香港ドルで、ムーンショットはケイマン諸島の持ち株構造を解消して香港へ向かうかどうかを検討している。中国証券監督管理委員会が海外持ち株構造の会社に中国本土の法人での上場を促す方針を出したためである。本誌がドイツ銀行の報告書を検算した記事で見た米中の AI 資本の競争は、この会社の資本の側にそのまま現れている。モデルそのものの構造は本誌のKimi K3 技術報告書の解剖に委ね、本稿は群れの使い方に絞った。

技術の側では、K2.5 の技術報告が群れの学習法を明かしている。指揮役だけを強化学習で更新し、サブエージェントは学習途中のチェックポイントで固定し、学習の対象から外す。報酬にはサブエージェントを作ることへの加点と、作るだけで終わらないための完了率の加点を置き、その2つの係数は学習の終盤でゼロに減衰させる。並列が有利だとは前提にせず、いつ、どれだけ並列にするかを環境からの応答で学ばせる。この設計で、幅の広い検索の実行時間は単体の3〜4.5分の1になり、ブラウズコンプの正答率は60.6%から78.4%へ上がった。手引きの手順10で「40ノードに必要なのは40体」と書かれた規律を、モデルの側は報酬の減衰で学んでいる。

投資家がこの14手順から取り出せる3つの見方

第1に、群れの上限は性能の指標ではなく費用の上限である。300体は既定ではなく上限で、実際の代金は必要なノード数と再試行の回数で決まる。K3 の価格で1回の起動は数十ドルの幅に収まり、週1回なら年に数千ドルである。この額は、ガートナーの契約額52億ドルやフォレスターの2億9,240万ドルと同じ土俵で比べる金額ではなく、それらの契約の1件を置き換えられるかどうかで測る金額である。

第2に、記憶は文脈の長さではなくファイルの構造で決まる。100万トークンの窓は実行の中では効くが、実行が終われば消える。手引きの4つのファイルのうち、価値が積み上がるのは修正記録の CONSTRAINTS.md だけで、それは人の承認を経てしか増えない。エージェントの製品を評価するとき、窓の広さより、修正がどこに住み、誰が承認するかを見るほうが実務に近い。

第3に、国内の上場企業の開示はまだ語数の段階にある。有価証券報告書で「AIエージェント」を最も多く書いた会社と、0回だった会社のあいだで、事業の実体の差は語数ほど大きくない。売上高の区分開示が出てくる会社が最初の1社になったとき、その数字が、この分野の国内市場の最初の一次データになる。

これから確かめる4つの数字

第1は Kimi K3 の群れの価格体系である。API の単価は公表されているが、群れとしての起動に別料金があるかどうかは、ヘルプセンターが「通常のエージェントより大幅に多くのクレジットを消費する」と書くにとどまる。第2はガートナーの2026年の契約額で、同社は年内に伸びが加速すると述べており、52億ドルがどう動くかが置き換えの速さを示す。第3は FRED のコンピュータシステム設計業の雇用者数で、236万人の減少が止まるか続くか。第4は2027年3月期の有価証券報告書で、29社のうちエージェントの売上高を区分として書く会社が現れるかどうかである。

手引きは、最初の実行は調査であり、12回目は資産であり、その差は午後のうちに書いた4つのファイルだと結んでいる。300体を動かす技術は買える。4つのファイルは、まだ自分で書くしかない。