企業向けAIの活用例を5,201件集めたという目録が2026年9月に出回っている。数えられたのは供給者が公開する事例集であり、第三者調査で利益に結びついたと答えた企業は1割前後にとどまる。

「世界最大のAI活用例集」を名乗る目録が、2026年9月版として英語圏のビジネス向けSNSで拡散した。作成者は英国の技術コンサルタントで、40の出典から5,201件の活用例を「最前線」「職能」「産業」の3層20分類に並べ、導入期間の短縮と失敗の削減に役立つと述べる。目録そのものは公開資料の索引であって新しい事実を含まないが、各分類に添えられた一言、たとえば「企業の58%が物理AIを導入」「人以外のIDは人の45倍」「顧客対応は投資回収の計算が最も明快」は、それぞれ別の調査から引かれた数字である。本稿はその20の一言を出典に戻して確かめ、目録が1分類にまとめた「実行基盤」の中身を技術報告書の水準で分解し、販売側4社が米証券取引委員会に提出した決算、日本のIT大手8社が金融庁EDINETに提出した有価証券報告書、経済産業省と総務省の統計、米連邦準備銀行の系列で、活用例の数ではなく資金の行き先を示す。

5,201という数の作られ方 — 40出典の合算であって、検証された成果の数ではない

目録は1年で版を重ねてきた。2025年7月版は16出典1,319件、翌8月版は40出典3,427件、9月には「厳選版」として2,195件、2026年5月版は16の公開事例集を足した2,143件、そして9月版が40出典5,201件である。件数は単調に増えていない。版によって出典の数え方が変わり、重複や同一案件の再掲を除く方法は公表されていない。2026年5月版の内訳は作成者が明示しており、マイクロソフト700件、グーグル601件、SAP 200件、PwC 200件、OpenAI 90件、デロイト73件、マッキンゼー60件、キャップジェミニ54件、セールスフォース45件、グーグル・クラウド30件、IBM 27件、Stack AI 25件、ワークデイ25件、インテル25件、富士通15件、EY 15件で、上位4者だけで1,701件、全体の79%を占める(本稿の図1・図2)。

「5,201件のAI活用例」の20分類
「5,201件のAI活用例」の20分類

図1 — 最前線4・職能8・産業8の20分類と、目録の作成者が各分類に添えた一言

これらの出典は供給者が自社サイトで公開する導入事例集であり、販売資料である。成果は各社と顧客の自己申告で、損益への寄与を第三者が確かめた数字ではない。第三者調査が測った実態は別の姿を示す。マッキンゼーが2026年8月25日に公表した調査 (97か国1,719社、5月4日から6月8日に実施) では、88%の企業が少なくとも1つの職能でAIを使い、生成AIの利用は72% (2024年は33%) に達した一方、EBIT (利息・税引前利益) への寄与を報告した企業は37%で前年から横ばい、業務の再設計を伴って大きな価値を得た「高成果」企業は全体の約6%にとどまる。デロイトが2026年1月21日にダボスで公表した調査 (24か国3,235人、2025年8〜9月実施) では、AIの実証実験の40%以上を本番に移せた企業は25%にすぎない。MIT NANDAが2025年7月に出した報告は、公開された300件の導入と153人の回答から、生成AIの実証実験のうち損益に表れる効果があったのは5%と結論した。ガートナーは2025年6月25日、エージェント型AIの案件の40%超が2027年末までに中止されると予測し、既存の対話型支援や定型処理の自動化の看板を掛け替えただけの製品を除くと、実体のある供給者は数千社のうち約130社だと述べている(本稿の図2)。

5,201の数え方と、利益に届いた割合
5,201の数え方と、利益に届いた割合

図2 — 左は目録の版ごとの件数、中は2026年5月版の出典別内訳、右は第三者調査が測った「使っている」から「利益になった」までの減衰

5,201件と1割という2つの数字は矛盾しない。前者は供給者が語りたい事例の数、後者は買い手が損益で確かめた割合であり、目録の価値は件数ではなく、どの分類に第三者の裏づけがあるかを見分ける索引として使うところにある。

4つの最前線 — 物理AIの58%、主権AIの77%、実行基盤、IDの45対1

目録が最前線に置いた4分類のうち、数字の付いた3つはいずれも出典を特定できる。「企業の58%が物理AIを導入」はデロイトの2026年調査で、物理AIを「現実世界を知覚し、判断し、機械や制御装置を通じて物理的な動作を起こすAI」(ロボット、自動機械、無人機、自動運転車) と定義し、58%が限定的であれ既に使い、2年以内に80%へ達すると見込む。地域別ではアジア太平洋が現在の利用率と期待の伸びの両方で米州・欧州を上回る。用途は工場と倉庫のピッキングロボットと無人フォークリフトが典型で、条件が予測しやすく失敗の種類が限られる環境から広がっている。

「77%が調達で供給者の本国を判断材料にする」も同じ調査からで、83%が主権AIを経営戦略上重要と答え、5社に3社近くがAI環境を主に自国企業の製品で構築すると回答した。ここには裏がある。コヒアがIDCに委託し2026年4〜5月に米英独加の売上10億ドル超の企業を対象に行った調査では、経営層の過半が主権AIを優先課題と答えながら、主権AIが扱うリスクが社内で広く理解されていると答えたのは12%にすぎず、定義すら一致していない。米国側ではパランティアの最高経営責任者が2026年8月3日の決算で「AI主権への需要が解き放たれた」と述べ、同社の米国商業売上は前年同期比149%増の7億6,400万ドルに達した。主権という言葉は、欧州では自国の供給者を選ぶ理由として、米国では米国製の統合基盤を政府と大企業に売る理由として、同じ1年に逆の意味で使われている。

「人以外のIDは人の45倍」はRubrik Zero Labsの数字で、APIの認証情報、証明書、コンテナ、自動処理用のアカウントを合わせた人以外のIDが企業内で人の45倍あり、そのうち47%は1年以上認証情報が更新されていないとする。より新しい数字はパロアルトネットワークスが2026年5月14日に公表した「2026 Identity Security Landscape」で、機械のIDは人の109倍 (前年82倍)、うち79がAIエージェントであり、企業はAIエージェントの数が今後12か月で85%増えると見込む。Rubrikの2026年4月の調査では、AIエージェントの増加が自社の安全対策の整備を1年以内に追い越すと答えた企業が86%、稼働中のエージェントを全て把握していると答えた企業は23%であった。目録の「45対1」は2025年時点の人以外のID全体の比率であり、AIエージェントだけを数えた2026年の比率はそれより速く動いている。4つ目の「実行基盤」には数字が付いていない。代わりに「コンテナにおけるKubernetesの役割」という比喩が添えられており、その中身は次章で分解する。

エージェントはどう動くか — 実行基盤・サンドボックス・IDの3層

大規模言語モデルは、与えられた文脈を読んで次の出力を確率的に選ぶ装置であり、それ自体は状態を持たず、外の世界に触れる手段も持たない。エージェントとは、このモデルの周りに「道具を呼び出し、結果を受け取り、再び考える」循環を置き、目標に達するまで自律的に繰り返す構成の総称である。2026年4月から5月にかけて、AnthropicOpenAI、グーグルの3社が相次いで提供を始めた構成は、この循環を3つの層に分ける点で一致した(本稿の図3)。

エージェントの実行基盤・サンドボックス・IDの3層
エージェントの実行基盤・サンドボックス・IDの3層

図3 — 上からモデル、実行基盤 (統制面)、サンドボックス (計算面) とID (認可面)、道具とデータ。3社の構成を1枚に重ねた

第1層は実行基盤で、英語圏では馬具になぞらえた呼び名が付いている。モデルの出力を読み、道具の呼び出しであれば実行し、結果を文脈に戻して再び推論させる反復の制御そのものである。道具は名前・引数・戻り値を構造化して定義し、外部の道具はMCP (モデルと外部の道具をつなぐ通信規約) で共通の形に接続する。MCPは2024年11月にAnthropicが公開し、2025年12月9日にLinux Foundationへ寄贈されてAgentic AI Foundationの中核となり、公開サーバーは1万を超え、開発キットの月間ダウンロードは9,700万回に達した。会話が長くなると古い部分を要約して入れ替える文脈の圧縮、作業指示を置くAGENTS.md、手順をまとめた「スキル」、破壊的な操作の前に人の承認を挟む権限制御、失敗時の再試行と途中保存した地点からの再開、処理経路の記録が、この層に属する。AnthropicはClaude Codeと同じ循環を部品として公開し、2026年4月8日にはこれを運用込みで提供するManaged Agentsの公開試験を始めた。OpenAIは4月15日、Agents SDKを刷新し、モデル固有の実行基盤 (端末操作、差分の適用、AGENTS.md、MCP、スキル、圧縮) を統制面として、サンドボックスを計算面として明示的に分けた。

第2層はサンドボックスで、モデルが書いたコードを実行する使い捨ての隔離環境である。実行基盤が永続し信頼される側なのに対し、サンドボックスは信頼されない側として設計され、OSの中核 (カーネル) を仮想化するgVisorや軽量の仮想マシンで外に漏れる範囲を限る。グーグルは2026年5月21日、Kubernetes上のサンドボックスであるAgent Sandboxを一般提供し、1つのクラスターで毎秒300個のサンドボックスを割り当て、90%が200ミリ秒以内に完了し、待機中のサンドボックスの状態を保存して停止・復元することで費用を下げると公表した。2025年11月の試験提供から5か月弱でサンドボックスの数は16倍に増え、LangChainやLovableが本番で使っている。同日に公開されたAgent Substrateは、Kubernetesの制御の中枢にあたるAPIサーバーが数千の常駐サービス向けに最適化されており、毎秒100万件級の短い道具呼び出しと頻繁な停止・復元には向かないとして、中枢を迂回する軽量の制御層を置く。目録が「コンテナにおけるKubernetes」と例えた役割は、Kubernetesの開発元自身が「Kubernetesの中枢はエージェントの挙動に合わない」と述べて別の層を出したところに、比喩の限界がある。OpenAIもサンドボックスの供給者を7社 (Blaxel、Cloudflare、Daytona、E2B、Modal、Runloop、Vercel) から選べる形にし、実行基盤とサンドボックスを分けることで被害の範囲を限定すると説明している。

第3層はIDで、エージェントが誰の権限で動くかを機械側で管理する仕組みである。エージェントは人の代理で動くため、人の権限をそのまま渡せば過剰になる。標準はOAuth 2.0と2.1の委任で、権限の範囲と期限を絞った認証情報を発行し、MCPの認可仕様もOAuth 2.1を採用した。2026年7月28日の訂では、動的な登録に代えてClient ID Metadata Documentsを必須とし、どの実行基盤がどの道具に触れるかを事前に検証できるようにした。マイクロソフトはEntra Agent IDを登録台帳とし、その上に統制面としてAgent 365を2026年5月1日に一般提供した。オクタはCross App Accessという規格で、認可の判断を各アプリからID基盤へ移す。前章の109対1という比率は、この層が整う前にエージェントが増えている現状を示す。

運用費用も層の設計に効く。マッキンゼーの2026年調査で「AIの運用費、すなわち推論で消費するトークンの費用が導入の制約になっている」と答えた企業は20%であった。スタンフォード大学のAI Indexによれば、一定の性能水準の推論単価は2022年11月から2024年10月までに280分の1に下がったが、エージェントは1つの作業で数百回の推論を繰り返すため、単価の低下を呼び出し回数の増加が相殺する。実行基盤の文脈圧縮とサンドボックスの停止・復元は、この費用を抑える手段でもある。

8つの職能 — ソフトウェア工学が最初に広がり、顧客対応が最も計算しやすい

目録が「2026年に最も広く導入された用途」と書くソフトウェア工学は、販売側の数字で裏づけられる。GitHub Copilotの利用者は5,000万人に達し、AnthropicのClaude Codeは2026年2月に年換算売上25億ドル、カーソルは同月に年換算20億ドルを超えた。マッキンゼーの調査では、コード作成用のエージェントで自社開発できるようになったため、外部ソフトウェアの購入を1件以上見送った企業が32%あった。Menlo Venturesの集計では、企業の生成AI支出370億ドル (2025年、前年の3.2倍) のうちコード作成用のエージェントと構築支援は5億5,000万ドルから40億ドルへ増え、単一用途として最大である。

「導入率2位、投資回収の計算が最も明快」とされる顧客対応は、成功と方針転換の両方が数字で残っている。クラーナは2024年2月、AIによる応対が1か月で230万件の会話を処理し67%を自動化して700人分の仕事に相当すると公表したが、2025年5月に人の採用を再開し、複雑な案件と重要顧客には人を戻す併用型に転じた。2025年11月時点でAIは853人分の仕事をこなし、年6,000万ドルの節約を見込むとしており、方針転換は全面的なものではない。セールスフォースは自社のサポートサイトでAgentforceが430万件の問い合わせを受け70%を自律的に解決したと公表し、顧客別ではヒースロー空港95%、OpenTable 70%、パンドラ60%、GEアプライアンス25%と解決率の幅が大きい。解決率の幅は製品の性能差というより、問い合わせの内容が定型か非定型かの差である。IDC Japanの国内推計でも、用途別の伸びは営業 (年率46.2%) と顧客対応 (同42.0%) が最も高い。

IT運用管理では、一次対応の問い合わせのうちAIが解決する割合が指標になる。フレッシュワークスは自社製品で平均66%の自動解決率を示し、サービスナウは社内のIT関連の依頼の80%超をAIの関与で解決したと述べる。業界の実測は一次対応の40〜60%に集中し、パスワード再設定、権限付与、状況照会、定型の不具合対応がその中身である。財務では、利用者の56%がAIを使うが中核の業務工程で使うのは17%にすぎず、SAPは50種類超のAIアシスタントと200種類超の専門エージェントを財務向けに投入した。営業とマーケティングでは、案件管理や商談準備に加えて「AI検索での露出」が新しい指標になった。AIの回答から企業サイトへ流入する訪問は全体の1.08%と少ないが、通常検索の4.4倍の率で購入や申し込みに至り、AI経由の流入の87.4%はChatGPTからである。供給網では、供給網責任者の78%が今後2年で混乱が激しくなると答える一方、備えができていると答えたのは25%で、ガートナーは2031年までに供給網の混乱の60%が人の介在なく解決されると予測する。リスクと法務では、契約審査のハーヴィーが2026年3月に企業価値110億ドル、年換算売上約1億9,000万ドル、利用する弁護士10万人超に達し、トムソン・ロイターのCoCounselは2026年2月に107か国100万人の利用者を超えた。

8つの産業 — 金融が最大の支出、保険は書類の量、公共は1ドルの契約

金融サービスを「業種別で最大のAI支出」とする目録の一言は、個社の数字で確かめられる。JPモルガン・チェースは本番稼働の活用例450超を2026年に1,000へ増やす計画で、不正防止・取引・事務で年15億〜20億ドルの価値を測定したと述べ、社内の言語モデル基盤は20万人超の従業員が使い、2026年の技術予算は約180億ドルである。ゴールドマン・サックスは自律型のコード作成エージェントを数百人分から1万2,000人の開発者の「数千」へ広げる。医療では、診察中の会話を自動で文書にする記録支援が主戦場で、マイクロソフトのDragon Copilotは600超の医療機関が導入し、インターマウンテン・ヘルスでは1件あたりの記録時間が27%減った。事前承認では、米メディケア・メディケイドサービスセンターが2026年1月1日から6州 (ニュージャージー、オハイオ、オクラホマ、テキサス、アリゾナ、ワシントン) で、AIを使う外部の技術会社が17品目の外来サービスを事前審査するWISeRモデルを始めた。審査会社の報酬は「審査の結果、支払われなかった請求」から生じる節約額の一定割合であり、2026年7月16日の上院で廃止を求める決議案が46対50で否決された。医療AIの収益源が、診療の効率化だけでなく支払いの差し止めからも生じる構造が制度として固まった。

製造では、シーメンスとエヌビディアが2026年からエアランゲンの電子工場を最初のモデル工場として「完全にAIで駆動する適応型の製造拠点」を目指し、ペプシコはデジタルツインで設備変更前に潜在的な問題の最大90%を洗い出し、初回導入で処理能力20%増、設備投資10〜15%減を得た。小売では、アドビの計測で生成AI経由の米小売サイトへの流入が2025年の年末商戦で前年比693.4%増、2026年のプライムデーで98.3%増となり、AI経由の訪問者は通常より50.7%高い率で購入する。目録が「エージェント型商取引の入口」と書く仕組みは、OpenAIとストライプの仕組みが特定の店と金額に限った1回限りの決済トークンを発行し、マスターカードのAgent Payとビザのエージェント認証の仕組みがエージェントのIDに署名して決済網へ渡す形で、2026年4月時点で5つの本番導入がある。

技術・ソフトウェア産業には目録が「AIを前提に設計した製品への圧力が最も強い」と書く通りの動きが株価に表れた。2026年初めに「SaaSの終焉」論が広がり、上場ソフトウェア企業120社超の指数は3月末までに25.7%下落、セールスフォースは30%、ワークデイは33%下げた。JPモルガンの分析者はこれを「壊れた論理」と呼び、8月26日のセールスフォースの決算後に株価は1日で14%戻した。保険では、レモネードが2025年末時点で事故の第一報の96%をAIで処理し、請求の55%を受付から支払いまで完全に自動化した。コニングの2025年調査では保険会社のAI全面導入が1年で8%から34%へ増えた。公共では、米一般調達局のOneGov契約でOpenAIとAnthropicのモデルが1機関あたり年1ドル、グーグルが47セントで提供され、累計節約は16億2,000万ドルに達したが、2026年2月27日には大統領がAnthropic製品の使用停止を指示し、国防総省が同社を供給網上のリスクに指定した。英国政府の2万人規模の実験では、Copilotの利用で1人1日26分の時間が節約された。エネルギーでは、国際エネルギー機関がデータセンターの電力消費を2025年の485TWhから2030年に950TWhへ倍増と見込み、米国東部の系統運用機関PJMは2027/28年度の容量不足を6.5GW超と見積もって、2026年1月16日に自前の発電を伴わない大口需要は非常時の前段階でも供給を絞れる「接続して管理する」枠組みを打ち出した。目録が「データセンター電力の議論」と書いた分類は、AIを使う側ではなくAIに電気を売る側の分類である。

販売側の決算で確かめる — SECに提出された4社の数字

活用例の目録に資金の流れは書かれていない。それは供給者の決算に書かれている(本稿の図4)。

販売側の決算 — SEC提出書類4社
販売側の決算 — SEC提出書類4社

図4 — 上段は各社が決算で開示したAI関連指標、中段はXBRLの実額、下段はガートナー・Menlo Ventures・IDC Japanの市場推計

マイクロソフトは2026年6月期の通年売上3,318億ドル (18%増)、営業利益1,552億ドル、純利益1,337億ドルで、第4四半期 (4〜6月) は売上900億ドル、営業利益406億ドルであった。Azureは年間売上1,000億ドルを初めて超え、四半期の伸びは43%、AI関連の年換算売上は370億ドルで123%増、Microsoft 365 Copilotの有料座席は3,000万を超え、Agent 365には公開から2か月で約4,000万のエージェントが登録された。通年の有形固定資産の取得は1,159億ドル、研究開発費は356億ドルで、AIの年換算売上370億ドルは設備投資額の3分の1にあたる。サービスナウの2026年第2四半期は売上39億8,700万ドル (24%増)、購読売上38億7,700万ドルで、AIの年間契約額が10億ドルを超え、エージェント型の導入は9か月で9倍になった。ただし米国会計基準の営業利益は3億5,800万ドルから1億6,200万ドルへ半減しており、AI関連の費用と買収に伴う償却が先に立つ。セールスフォースの2026年5〜7月期は売上113億4,500万ドル (11%増、インフォマティカの寄与4億5,600万ドルを含む)、営業利益23億3,100万ドルで、Agentforceの年換算経常収益は15億ドルを超えて240%超増、Data 360と合わせて約39億ドル、エージェントの作業単位は累計70億件、四半期で32億件と前四半期比97%増であった。パランティアの2026年第2四半期は売上19億3,500万ドル (93%増)、営業利益9億1,200万ドル (利益率47%)、純利益10億6,200万ドルで、米国商業の契約総額は21億3,200万ドルと153%増、通期の売上予想は81億5,000万ドルへ引き上げられた。

市場全体では、ガートナーが2026年5月19日に世界のAI支出を2兆5,900億ドル (47%増) と予測し、うちAIソフトウェアは4,532億ドル、エージェント用ソフトは2,065億ドルで2027年に3,763億ドルへ伸びる一方、半導体・サーバー・AI向けIaaSを含む基盤層が45%超を占める。Menlo Venturesの2025年12月の集計は、企業の生成AI支出370億ドルが応用層190億ドルと基盤層180億ドルに二分され、企業向けの言語モデルAPI支出の占有率はAnthropic 40%、OpenAI 27%、グーグル21%で、導入のうち「真のエージェント」と呼べるものは16%にとどまるとした。目録が「導入率2位」と書いた顧客対応はAgentforceの15億ドルとして、「最も広く導入」と書いたソフトウェア工学はCopilotとコード作成エージェントの数字として決算に現れ、それ以外の16分類の多くは、まだ販売側の開示に独立した数字を持たない。

日本の数字 — 有価証券報告書の語数、情報サービス業17.2兆円、白書の86.4%と24.5%

日本の企業が目録の分類をどう受け止めているかは、有価証券報告書の本文を機械的に数えると見える。2026年3月期の有報 (EDINETに2026年6月提出) の本文で「AIエージェント」が出る回数は、エクサウィザーズ36回、NEC 16回、富士通11回、日立製作所10回、SCSK 5回、野村総合研究所2回、TIS 1回、BIPROGY 0回であった。「生成AI」はエクサウィザーズ33回、富士通10回、BIPROGY 7回、TIS 5回、NEC 3回、SCSK 3回、野村総研1回、日立0回で、「AI」全体では日立143回、NEC 113回、富士通102回である。日立は「フィジカルAI」を15回使い、他の7社にない語を有報に置いた。「ソブリン」は8社とも0回で、目録が最前線に置いた主権AIは、日本のIT大手の法定開示にはまだ言葉として現れていない(本稿の図5)。

日本の数字 — EDINET・e-Stat・FRED
日本の数字 — EDINET・e-Stat・FRED

図5 — 左は有報本文の語数、中は情報サービス業の売上、右は米国のソフトウェア投資と物価、情報通信白書の企業調査

決算の数字では、NTTデータグループの2026年3月期は売上高5兆46億円 (7.9%増) で初めて5兆円を超え、営業利益はデータセンター譲渡益1,295億円を含めて4,882億円、同社はOpenAI関連事業で2027年度末までに累計1,000億円の売上目標を掲げる。富士通 (6702) は売上収益3兆5,029億円 (1%減) ながら営業利益3,483億円 (31%増) で、事業ブランドUvanceの売上収益は7,093億円 (47%増) と中期計画の目標7,000億円を達成した。NEC (6701) は売上収益3兆5,827億円 (5%増)、営業利益3,599億円 (40%増) で、売上と営業利益の両方で富士通を上回り、2026年8月18日には業務自動化エージェントをマイクロソフトのオンライン店舗で販売し始めた。野村総合研究所 (4307) は海外の減損約1,000億円で営業利益が582億円 (56.8%減) に落ちたが、国内は売上7,059億円 (8.2%増)、営業利益1,600億円 (20.5%増) で、中期計画でAIに800億円を投じ、AI関連売上を300億円から3,000億円へ広げる。TIS (3626) は2030年3月期までにAI駆動開発で生産性50%向上を掲げ、一部案件で納期と工数が半減した例を報告した。日立製作所 (6501) はLumada事業の比率を売上の50%へ引き上げる方針で、有報の語数が示す通り物理AIを自社の重点領域に選んでいる。

産業全体の数字は経済産業省の統計にある。特定サービス産業動態統計の調査対象企業では、情報サービス業の売上高は2015年度の10兆8,101億円から2023年度の17兆2,166億円へ1.59倍になり、受注ソフトウェアは6兆6,892億円から10兆4,132億円、うちシステム構築は4兆2,817億円から6兆8,418億円へ1.60倍、技術系従業者は24万5,996人から31万8,514人へ1.29倍で、1人あたりの売上が伸びた。全数調査である経済構造実態調査の2024年分では、情報サービス業3万4,934社の売上は39兆4,503億円で前年比12.7%増、内訳は受注制作の元請13兆5,469億円 (5.7%増)、受注ソフトの保守・運用2兆6,042億円 (12.6%増)、情報処理サービス2兆9,721億円 (16.8%増)、事業用パッケージの配信1兆320億円 (7.8%増)、使用許諾4,274億円 (13.5%増) である。伸びは受注制作より保守・運用と情報処理の側で高く、目録の「IT運用管理」と「顧客対応」に当たる仕事から先に資金が動いている。総務省の令和8年版情報通信白書 (2026年7月) によれば、業務で生成AIを使う日本企業は86.4% (前年55.2%、米国90.9%、中国98.1%) と国際水準に並んだが、組織的な取り組みがない企業が27% (米国1.4%) あり、AIが社内データを参照できる基盤を持つ企業は24.5% (米国57.2%、中国73%) にとどまる。使っているが社内データに繋がっていないというこの差が、目録の「実行基盤」と「ID」の2分類が日本で先に必要になる理由である。IDC Japanは国内AI市場の支出を2025年の2兆3,725億円から2029年の6兆8,897億円 (年率36.0%) へ伸びると見込み、2026年を「AIエージェントの実ビジネス適用の元年」と位置づけた。個社では、パナソニックが年18.6万時間の労働時間削減を公表し、三菱UFJ銀行は2026年1月から演説原稿の作成や中途採用者の問い合わせ応答など20業務に「AI行員」を置き、約3万5,000人の全行員にChatGPT Enterpriseを順次展開している。

米国側の系列は投資と単価の分離を示す。米連邦準備銀行のFREDにある民間のソフトウェア投資 (年率換算) は2023年第1四半期の6,361億ドルから2026年第2四半期の8,166億ドルへ28%増え、設備投資 (機器) も1兆3,694億ドルから1兆8,648億ドルへ36%増えた。一方、ソフトウェア出版の生産者物価指数は2025年10月の102.9を頂点に2026年7月は99.3へ下がり、データ処理・ホスティングの指数は124.2で横ばいである。数量は伸び、単価は下がるという組み合わせは、前章の推論単価の280分の1と同じ向きであり、活用例の数が増えるほど1件あたりの販売側の取り分は薄くなる。

目録を使う側の手順 — 5,201件から自社の1件を選ぶ

目録は索引として使えば役に立つ。手順は3つに絞れる。第1に、分類の一言に付いた数字を出典に戻し、それが供給者の事例集か第三者調査かを見分ける。デロイトとマッキンゼーの数字は後者で、事例集の件数は前者である。第2に、自社の候補が「投資回収の計算が最も明快」な分類、すなわち解決率や自動処理率や記録時間のように、導入前後で同じ物差しで測れる指標を持つかを確かめる。顧客対応、IT運用管理、診療記録、請求処理はこの条件を満たし、営業やマーケティングの「可視性」は物差しが定まっていない。第3に、エージェントを本番に置くなら、実行基盤・サンドボックス・IDの3層のどれを自前で持ち、どれを買うかを先に決める。デロイトの調査でエージェントの統治が成熟していると答えた企業は21%、AIエージェントを全て把握していると答えた企業はRubrikの調査で23%であり、この2つの数字が、5,201件のどれを選んでも最初に突き当たる壁になる。

2026年9月の目録に載った活用例のうち、損益で確かめられたものは1割前後で、その1割の多くはソフトウェア工学と顧客対応に集中し、販売側の決算に現れた数字はAgentforceの15億ドル、サービスナウの10億ドル、マイクロソフトの370億ドルである。日本の情報サービス業は年39兆円の売上を持ちながら、AIが社内データを参照できる企業は4社に1社にとどまる。