米国とG7の蓄電事業 — 先行市場で収入はどう変わったか
米国の系統用蓄電池は5年で1.5GWから43.6GWへ増え、その間に1kWあたりの収入は半分以下になりました。カリフォルニア、テキサス、英国、ドイツ、イタリア、カナダの制度と実績から、事業者が収入をどう固め、機器メーカーがどう売っているかを読みます。
米国の系統用蓄電池は5年で1.5GWから43.6GWへ増えた
米エネルギー情報局の発電設備の月次調査を運転開始年で積み上げると、米国の系統用蓄電池は2020年末の1,519MWから2025年末に43,613MWへ増えています。2026年は7月までに9,695MWが加わり、累計は53,307MW、蓄電量では145,846MWhになりました。同局は2026年下期から2028年までにさらに54GWの運転開始を見込んでいます。
| 年 | 年間の追加 (MW) | 追加の大きさ | 年末累計 (MW) | その年の設備の平均時間 |
|---|---|---|---|---|
| 2020 | 585 | 1,519 | 2.46時間 | |
| 2021 | 3,132 | 4,651 | 2.88時間 | |
| 2022 | 4,307 | 8,958 | 2.74時間 | |
| 2023 | 7,234 | 16,193 | 2.73時間 | |
| 2024 | 11,065 | 27,258 | 2.76時間 | |
| 2025 | 16,355 | 43,613 | 2.86時間 | |
| 2026 (7月まで) | 9,695 | 53,307 | 2.57時間 |
出所: 米エネルギー情報局 Form EIA-860M (2026年7月版) の稼働中設備を当サイトが集計。現存する設備の積み上げで、廃止済みは含みません。2026年は7月版時点。
出力はテキサス、蓄電量はカリフォルニア — 同じ国の中で設計が違う
| 州 | 出力 (MW) | 蓄電量 (MWh) | 平均の持続時間 | 読み方 |
|---|---|---|---|---|
| テキサス | 18,270 | 29,960 | 1.64時間 | 容量に対価を払う制度がなく、短時間型で高値を狙う |
| カリフォルニア | 16,258 | 55,583 | 3.42時間 | 供給力確保の制度が4時間で容量を評価する |
| アリゾナ | 6,649 | 24,331 | 3.66時間 | 電力会社との長期契約が中心 |
| ネバダ | 1,704 | 4,766 | 2.80時間 | 太陽光との併設が多い |
| 全米 | 53,307 | 145,846 | 2.75時間 | 2026年7月版の稼働中設備 |
テキサスは平均1.64時間、カリフォルニアは3.42時間です。理由は市場の設計にあります。テキサスには容量に対価を払う制度がなく、短い時間で高値を取りに行く設備が先に建ちました。カリフォルニアは、電力の小売事業者に供給力の確保を義務づける制度 (Resource Adequacy) が4時間の持続出力で容量を評価するため、4時間型が標準になりました。持続時間は技術の選択ではなく、どの制度から収入を得るかの選択です。
蓄電池が増えるほど1kWあたりの収入は下がった — 3つの市場の実績
先行する市場がそろって示すのは、設備が増えると収入が下がるという事実です。カリフォルニアの市場監視部門がまとめた正味の市場収益は、2022年の1kWあたり年103ドルから2024年に53ドルへ下がりました。テキサスは民間の指数で2023年の193ドルから2025年に29.4ドル、英国は2022年の1MWあたり年15万6,000ポンドから2023年に5万1,000ポンドです。
下がる順番は決まっている — 調整力が先に飽和し、裁定へ移る
出所: カリフォルニア独立系統運用機関 市場監視部門「2024 Special Report on Battery Storage」(2025年5月)、ポトマック・エコノミクス「2025 State of the Market Report for ERCOT」(2026年6月)、モード・エナジーの収益指数。指数は対象設備の平均で、市場監視報告書は実績の集計。性質が違うため同じ行に並べていません。
米国の事業者は収入を4つの型の契約で組み立てている
市場の値動きをそのまま受ける事業は、融資する側から見ると返済の見通しが立ちません。米国と英国では、収入のどこまでを固定するかで契約が4つに分かれています。固定する部分が大きいほど融資は付きやすく、値上がりの取り分は小さくなります。
| 契約の型 | 仕組み | 事業者が得るもの | 手放すもの | 実例 |
|---|---|---|---|---|
| トーリング契約 | 設備の運用権を相手に渡し、出力に応じた固定料金を受け取る | 収入の全額が固定。融資が最も付きやすい | 市場が高騰しても取り分はない | 英国: グレシャム・ハウスとオクトパス・エナジー (568MW、2年)。日本: 東京ガスのオフテイク (20年) |
| 最低保証 + 収益分配 | 運用者や保険会社が年間の最低収入を保証し、上回った分を分ける | 下限が固まり、上振れも一部取れる | 保証料、または上振れの一部 | 英国: グレシャム・ハウスの789MW (74%) で年3,500万ポンドの最低収益。テキサス: エナジー・ボールトとグリッドマティック |
| 供給力・容量の契約 | 小売事業者や系統運用者に、必要な時間に動ける能力を売る | 出力 (kW) に対する固定収入。裁定と両立できる | 約束した時間帯は他に使えない | カリフォルニアの供給力確保契約が収益の5割超。イタリアの15年、オンタリオ州の20年 |
| 市場連動 (マーチャント) | 契約を結ばず、毎日の市場で売り買いする | 高騰時の利益をすべて取れる | 収入の下限がない。融資の条件が厳しい | テキサスの多数派。公表されたトーリングは10件・1.6GWにとどまる |
カリフォルニアでは、供給力確保の契約 (Resource Adequacy) が大半の蓄電池で収益の5割を超えます。テキサスで公表されたトーリング契約は2025年9月時点で10件・1.6GWにとどまり、市場連動の運用が多数派です。ジュピター・パワーは2026年4〜7月に、テキサスとミシガンの10案件 (1,500MW・3,600MWh) を担保に14億ドルを調達しました。手段は優先担保付きの事業融資、税額控除のつなぎ融資、投資適格の私募債です。契約価格の水準は有料の調査にしか載っておらず、本稿では未取得です。
税と関税が、米国での機器の売り方を決めている
投資税額控除 30%
2022年のインフレ抑制法で、独立型の蓄電池が投資税額控除の対象になった。賃金要件などを満たすと30%、国産部材と立地の加算が各10%。2025年7月成立の税制法でも蓄電池の控除は2033年着工分まで満額で残り、2034年75%、2035年50%、2036年以降は廃止。禁止外国事業体の制限
2025年末より後に着工する案件は、禁止外国事業体に由来しないコストの比率が2026年55%、2027年60%、2028年65%、2029年70%、2030年以降75%以上必要。中国製の電池に頼る設計は控除を失う。対中関税
通商法301条で、電気自動車用以外のリチウムイオン電池は2026年1月に7.5%から25%へ。2026年7月24日には労働問題を理由に中国の全品目へ12.5%が上乗せされた。関税は変動が激しく、数値は2026年9月時点。結果: 米国の価格は中国の3倍
ブルームバーグNEFの2025年調査で、一括納入の蓄電システム価格は世界平均1kWhあたり117ドル、中国73ドル、欧州177ドル、米国219ドル。米国の事業者は「控除を取れる調達」を売り物にしている。機器を売る側の戦略 — テスラとフルエンス
テスラの蓄電部門は2025年に46.7GWhを導入し、2026年4〜6月は13.5GWhでした。売り方は、機器 (メガパック)、自社の入札ソフト、米国内の工場を一体にして提供することです。カリフォルニア州ラスロップと上海に年40GWh級の工場を持ち、ヒューストン近郊に50GWhの工場を建てています。フルエンスの受注残は2026年6月末に約64億ドルで過去最高、データセンター向けの受注は7月までに約8.5億ドルでした。一方で同社は新しい製造委託先の立ち上げが遅れ、通期の売上見通しを29〜31億ドルへ下げています。米国内での調達に切り替えること自体が、納期の危険になっています。ウッドマッケンジーの2025年実績では、蓄電システムの提供は中国系の事業者が世界の76%を占め、北米の首位はテスラです。
出所: テスラ・フルエンスが米証券取引委員会に提出した決算資料、ジュピター・パワーの発表 (2026年9月16日)、米通商代表部の官報告示、ブルームバーグNEF (2025年12月)、ウッドマッケンジー (2026年6月)。税制の整理は法律事務所の解説による。
G7の各国は、収入の下限を制度で与える方向へ動いている
市場連動の収入が下がる中で、各国の制度は「長期の固定収入を入札で配る」形へ寄っています。契約の年数と、対価の単位 (出力か蓄電量か) が国ごとに違います。
| 国 | 導入の規模 | 収入を固める制度 | 実績の数字 | 読みどころ |
|---|---|---|---|---|
| 米国 | 43.6GW (2025年末)。2026〜28年にさらに54GW | 州ごとに違う。カリフォルニアは供給力確保の契約、テキサスは市場連動 | 投資税額控除30% (2033年着工分まで満額) | 税控除と関税が調達先を決める |
| 英国 | 7.5GW (2025年末)。2030年目標23〜27GW | 容量市場 + 8時間以上には収入の上限と下限を与える制度 | 容量市場の落札27.10ポンド/kW・年 (2029/30年受渡) | 最低保証の契約が融資の前提に |
| ドイツ | 稼働3.6GW。接続申請573.5GW (2025年) | 調整力と卸の市場連動。容量市場は2026年に初回入札の予定 | 申請の承諾率は配電8%・送電10% | 日本と同じ「申請の山」と接続の選別 |
| イタリア | 初回入札で10GWhを落札 (2028年運転開始) | 蓄電量 (MWh) に15年の固定対価を払う入札 | 加重平均12,959ユーロ/MWh・年 (上限37,000ユーロ) | 応札は募集の4倍超。価格は上限の3分の1 |
| フランス | 約1.5GW (2025年末)。平均1.1時間 | 調整力中心から、容量の集中入札 (最長15年) へ改革 | 需要応答と蓄電に4.7GWの専用枠 | 配電網につなぐ1MW級の分散設備が主力 |
| カナダ | 約1GW (2025年末)。オネイダ250MW・1,000MWhが運転開始 | オンタリオ州の機関が容量の対価を長期の固定価格で払う | 蓄電池1,784MWを落札、次の調達は8時間型640MWに20年契約 | 完全な固定収入型。テキサスと対照 |
英国 — 周波数応答の比率は87%から33%へ、最低保証の契約が広がった
英国の系統用蓄電池は2025年末に7.5GWで、2030年の目標は23〜27GWです。収益に占める周波数応答の比率は2020〜22年の87%から33%へ下がり、卸とバランシング機構が約6割、容量市場が約1割になりました。2026年3月の容量市場 (2029/30年受渡) の落札価格は1kWあたり年27.10ポンドで、直近3回の60ポンド超から半値以下です。容量の評価は持続時間で決まり、直近では4時間型が44%、8時間型が92%と評価されます。グレシャム・ハウスの蓄電ファンドは、1,072MWのうち789MW (74%) に最低保証の契約を付け、年3,500万ポンドの最低収益を確保しました。引き受け手には保険会社が入っています。8時間以上の長時間蓄電には、収入の上限と下限を制度が与える仕組み (キャップ・アンド・フロア) が始まり、2026年6月に16件・約7.65GWが暫定選定されました。
ドイツ — 接続申請は573GW、稼働は3.6GW
連邦ネットワーク庁によると、2025年の蓄電池の系統接続申請は18,158件・573.5GWで、承諾の累計は54.2GW、稼働中は3.6GWです。申請に対する承諾率は配電で8%、送電で10%でした。接続の割当ては先着順から、準備の整った案件を優先する審査へ移っています。連邦最高裁は2025年7月、蓄電池に系統接続時の建設費負担金を課すことを原則として認めました。収益は二次調整力の比率が1年で91%から52%へ下がっており、英国と同じ道をたどっています。
イタリアとカナダ — 蓄電量や出力に、15〜20年の固定対価を払う
イタリアの送電会社テルナは2025年9月30日、蓄電容量を長期で調達する初回の入札で10GWhを落札しました。加重平均の価格は1MWhあたり年12,959ユーロで、上限37,000ユーロの3分の1です。応札は募集量の4倍を超え、契約は15年、設備はすべてリチウムイオンで2028年に運転を始めます。第2回は2026年11月24日、目標は16GWhです。カナダのオンタリオ州は2024年5月の長期調達で蓄電池1,784MW (10件) を落札し、次の調達では8時間型640MWに20年の契約を与えました。州の機関が容量の対価を固定で払う型で、テキサスの完全な市場連動と対照をなします。
出所: 英国の系統運用機関と Ofgem の発表 (2026年6月26日)、グレシャム・ハウスの開示、連邦ネットワーク庁 SMARD (2026年8月20日)、連邦最高裁の決定 (2025年7月15日)、テルナの発表 (2025年10月1日)、オンタリオ州 IESO の発表 (2024年5月9日)、モード・エナジー。
電池の値段は3年で2割下がり、定置用が最も安い区分になった
ブルームバーグNEFの年次調査では、リチウムイオン電池パックの平均価格は2023年の1kWhあたり139ドルから2025年に108ドルへ下がりました。2025年は定置用が70ドルで、初めて電気自動車用 (99ドル) より安くなっています。系統用の一括納入価格は4時間型が110ドル、2時間型が124ドルで、長い設備のほうが1kWhあたりで安くなりました。世界の蓄電池の追加は2025年に112GW・307GWhで、中国が54%、米国が16%です。年間追加の9割超をリン酸鉄リチウム (LFP) が占めます。
出所: ブルームバーグNEF 電池価格調査 (2025年12月) と蓄電市場の見通し、国際エネルギー機関「Batteries and Secure Energy Transitions」(2024年4月)。
先行する市場が日本の事業者に教える5つのこと
1. 調整力の収入は長く続かない
調整力は必要量が小さく、蓄電池が数GW入ると単価が崩れる。20年の収支の柱に置かず、初期の上乗せとして扱う。英国の周波数応答の比率 87%→33%。テキサスの予備力の単価 76.77→9.62ドル2. 裁定の値幅も、蓄電池自身が縮める
同じ地域に蓄電池が増えるほど昼の安値が上がり、夕方の高値が下がる。値差の前提は、その地域の蓄電池の導入見通しと一緒に置く。カリフォルニアで日中の充電が5割増え、4時間の値幅が22%縮んだ3. 収入の下限を固めた案件に融資が付く
固定料金の契約、最低保証、長期の容量対価のどれかで返済の原資を示す。市場連動だけの融資は実例が出始めた段階にある。英国の最低保証74%、イタリア15年、オンタリオ州20年、日本の長期オークション20年4. 持続時間は制度が決める
容量の評価が4時間や6時間を基準にすると、短い設備は評価を割り引かれる。建てる前に、収入源の制度が求める時間を確かめる。英国は4時間型を44%、8時間型を92%と評価。日本の長期オークションは第3回から6時間以上5. 調達先は税と安全保障で縛られる
米国は税控除の条件で、日本は長期オークションの要件で、電池セルの製造国に上限を設けた。安さだけで選んだ調達は制度の対象から外れる。米国は禁止外国事業体以外の比率を55〜75%に。日本は第3回から1か国30%未満🏭 系統用蓄電所 設備台帳
稼働中・建設中の設備を所在地・出力・容量・電池メーカー・運用者で絞り込む。🏆 上場企業ランキング
稼働中の蓄電容量を上場企業ごとに合算した順位表 (証券コード付き)。⚡ 長期脱炭素電源オークションの落札
落札案件・補助金の交付決定と、関連する上場銘柄。🤝 アグリゲーター一覧
特定卸供給事業者の届出一覧と、蓄電企業データベースとの対応。本章は制度と市場の説明で、特定の事業や銘柄への投資を勧めるものではありません。制度は改正されます。事業の判断の前に、各節に示した一次資料の最新版をご確認ください。
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