130〜190億ドルを託される会社が、2025年に自力で固定資産へ投じた額は7億2,200万ドルだった。差は18倍から26倍に開く。日本の装置メーカーへの波及を試算すると2,500億〜5,250億円で、業界の年商の1割に届かない。

日米両政府が、日本の資金で米国に半導体工場を建て、グローバルファウンドリーズが運営する案を協議していることが2026年9月17日に伝えられた。金額は2〜3兆円、米ドルでおよそ130〜190億ドルで、作るのは演算処理などに使うロジック半導体とされる。これまで発電関連に向かっていた投資枠が、ハイテク製造業に移る形になる。ただし現時点では協議の段階で、受注が確定したわけではない。本稿は、この協議で動く金額が日本の半導体関連企業にどう届くのかを、日本銀行・日本半導体製造装置協会・米証券取引委員会への提出書類・各社の決算短信で検算する。資料の取得日は2026年9月18日である。

対米投資の枠は、これまで発電と資源に向かっていた

日米は2025年7月、関税の引き下げと引き換えに日本が5,500億ドルの対米投融資を行うことで合意した。実際の案件はそこから小分けに決まってきた。

2026年2月に発表された第1陣は3件で、ジョージア州の人工ダイヤモンド製造、オハイオ州のAI向け大型ガス火力発電、テキサス州とメキシコ湾岸の原油積み出し港湾施設だった。総額は360億ドル規模である。続く第2陣は2026年3月19日に発表され、テネシー州とアラバマ州でGEベルノバ日立が建てる小型モジュール炉が最大400億ドル、ペンシルベニア州の天然ガス発電が最大170億ドル、テキサス州の天然ガス発電が最大160億ドルだった。ジェトロによれば、第2陣の選定理由は小型モジュール炉の商用化が安定電源をもたらすことと、天然ガスの拡張が増える電力需要に応えることで、その電力の行き先はデータセンターである。

対米投資枠5,500億ドルの投資先と、半導体工場の位置
対米投資枠5,500億ドルの投資先と、半導体工場の位置

第1陣と第2陣を合わせると最大約1,090億ドルで、枠5,500億ドルの19.8%にあたる。6件のうち5件が発電か資源の輸送で、製造業は人工ダイヤモンドの1件だけだった。今回の130〜190億ドルは枠の2.4〜3.5%にすぎないが、投資先の性格を発電から製造装置を大量に使う産業へ振り替えるという意味では、これまでの5件と違う。協議の対象にはソフトバンクグループが関わる大規模データセンターの建設も挙がっている。

受け皿のグローバルファウンドリーズは、設備投資を年7億ドル台まで絞っていた

金額の当否を測るには、受け皿になる会社が普段どれだけ投じているかを見るのが早い。米証券取引委員会への提出書類で確かめると、グローバルファウンドリーズの有形固定資産の取得額は2021年17億6,700万ドル、2022年30億5,900万ドル、2023年18億0,400万ドル、2024年6億2,500万ドル、2025年7億2,200万ドルと推移した。2022年を山に、直近2年は4分の1以下まで絞られている。

表1 グローバルファウンドリーズの売上高と設備投資 (米証券取引委員会への提出書類)

売上高設備投資売上高比
2021年65億8,500万ドル17億6,700万ドル26.8%
2022年81億0,800万ドル30億5,900万ドル37.7%
2023年73億9,200万ドル18億0,400万ドル24.4%
2024年67億5,000万ドル6億2,500万ドル9.3%
2025年67億9,100万ドル7億2,200万ドル10.6%

出所: 米証券取引委員会に提出された XBRL データ (CIK 1709048)。売上高比は記者が計算

同社は2025年6月4日に、ニューヨーク州とバーモント州で総額160億ドル、日本円で約2兆4,000億円を投じると発表している。うち130億ドル超は既に公表していた工場拡張分で、新たに積んだのは研究開発の30億ドルだった。その30億ドルの対象は先端パッケージング、シリコンフォトニクス、次世代のGaNである。協業先としてアップルスペースXAMDクアルコム、NXP、ゼネラルモーターズの名が挙がったが、装置メーカーの名前は出ていない。

ここに食い違いがある。160億ドルを発表した2025年に、同社が実際に固定資産へ支出したのは7億2,200万ドルだった。発表と支出の差は、計画が複数年に割れることを考えても大きい。今回の130〜190億ドルは、2025年の設備投資の18.0〜26.3倍、売上高67億9,100万ドルの1.9〜2.8倍にあたる。自力では年7億ドル台しか投じていない会社に、日本の資金でその20倍前後を投じる構図になる。逆に言えば、資金の出し手が現れなければこの規模の投資は起きなかったということでもある。

対象になるマルタ工場 (Fab 8) は300mmウエハーを年間40万枚処理する規模で、FD-SOI、FinFET、RF-SOI、シリコンフォトニクスに対応する。量産している最先端は14nmと12nmのFinFETである。同社は2018年に7nmの開発を中止しており、理由は月4万〜5万枚の能力を立ち上げるのに20億〜40億ドルかかる一方で、7nmを必要とする顧客が十分でなかったことだった。最先端の回路を焼き付けるEUV露光装置は少なくとも1台をマルタに搬入済みだが、計画は無期限で保留されている。つまりこの工場は、AI向けGPUを作る最先端の工場ではない。日本の装置メーカーにとっては、成熟した世代の装置が中心になる案件である。

工場が日本企業に回すのは、建設時の装置と稼働後の材料で時期が違う

工場を建てるときに必要なものは、工程の順に並べると見通しがよい。前工程ウエハーに回路を作る段階で、成膜、エッチング、塗布・現像、洗浄と進む。後工程は切断・研削と検査である。そして工場が動き出した後に、シリコンウエハーと各種材料が毎年入り続ける。

工程ごとの担い手と、受注が発生する時期
工程ごとの担い手と、受注が発生する時期

この工程に日本企業を当てはめると、前工程の成膜・エッチング・塗布現像・洗浄は東京エレクトロンが本命で、ウエハー洗浄ではSCREENホールディングスが続く。後工程の切断・研削はディスコ、検査はアドバンテストだが、この2社は工場の製品構成や後工程まで含むかどうかで扱いが変わる。稼働後の材料はSUMCOのシリコンウエハーと、信越化学工業のウエハーおよび半導体材料である。

6社は同じ表に並べられることが多いが、金額の届き方は同じではない。装置4社の受注は工場の建設と立ち上げの時期に集中し、一度きりである。材料2社の需要は工場が動いている限り毎年続くが、1年あたりの金額は建設時の装置より小さい。前者は数年の山、後者は長い平地で、投資の発表から売上高に載るまでの時間も違う。

表2 6社の直近の実績 (決算短信)

会社決算期売上高営業利益
信越化学工業2026年3月期2兆5,740億円 (+0.5%)6,352億円 (−14.4%)
東京エレクトロン2026年3月期2兆4,435億円 (+0.5%)6,249億円 (−10.4%)
アドバンテスト2026年3月期1兆1,286億円 (+44.7%)4,991億円 (+118.8%)
SCREEN2026年3月期6,057億円 (−3.1%)1,225億円 (−9.7%)
ディスコ2026年3月期4,369億円 (+11.1%)1,850億円 (+10.9%)
SUMCO2025年12月期4,097億円 (+3.3%)13億円 (−96.4%)

出所: 各社の決算短信。括弧内は前期比。SUMCO は最終損益が117億円の赤字

同じ「恩恵を受ける企業」の列に並んでいても、足元の業績は割れている。アドバンテストは売上高が44.7%増え、営業利益は2.2倍になった。一方でSUMCOは増収ながら営業利益が96.4%減り、最終損益は117億円の赤字だった。東京エレクトロンと信越化学工業は売上高がほぼ横ばいで、営業利益は1割以上減っている。AIの恩恵は、半導体の中でも工程と製品によってまったく違う形で現れている。

なお、グローバルファウンドリーズは2014年のサプライヤー表彰で東京エレクトロンとSUMCOを表彰している。過去に取引があったことを示す材料ではあるが、今回の採用を保証するものではない。

2,500億〜5,250億円は、日本製装置の年間販売高の3.8〜8.0%にあたる

では、いくら日本に回るのか。総投資2.5兆円を前提に、そのうち製造装置に使う割合を50%・60%・70%、さらにそのうち日本メーカーが取る割合を20%・25%・30%と置くと、日本の装置メーカー全体の受注額は次のようになる。これは規模感を見るための仮定であって、実際の発注額も日本勢の取り分も時期も公表されていない。

表3 感応度試算 (総投資2.5兆円のケース、単位は億円)

装置に使う割合日本勢20%日本勢25%日本勢30%
50%2,5003,1253,750
60%3,0003,7504,500
70%3,5004,3755,250

出所: 総投資2.5兆円に各割合を掛けて記者が計算。割合の置き方は報道で示された3通りを9通りに広げた

幅は2,500億円から5,250億円で、中央に寄せた組み合わせでは3,125億円や4,375億円になる。この金額を日本の装置産業の規模と比べる。日本半導体製造装置協会が2026年7月2日に公表した需要予測によれば、日本製半導体製造装置の販売高は2025年度の5兆1,986億円から2026年度は26%増の6兆5,502億円、2027年度は13%増の7兆4,017億円、2028年度は5%増の7兆7,718億円となる見通しである。国内向けに限った日本市場販売高も2025年度の1兆4,395億円から2026年度1兆5,835億円、2027年度1兆8,210億円、2028年度2兆2,763億円へ伸びる見込みで、装置各社は米国の案件を待たずに手元の需要を抱えている。

受注額の試算と、日本製装置の年間販売高との比較
受注額の試算と、日本製装置の年間販売高との比較

2,500億円は2026年度の販売高6兆5,502億円の3.8%、3,750億円は5.7%、5,250億円は8.0%にあたる。工場の装置搬入は複数年に分かれるので、2026〜2028年度の3年合計21兆7,237億円と比べる見方もできる。その場合は1.2%・1.7%・2.4%まで下がる。装置4社の売上高合計4兆6,146億円と比べると5.4%・8.1%・11.4%である。

この案件が日本の装置産業にとって小さくない金額であることは確かだが、業界全体の伸びを左右する規模ではない。同じ需要予測で2026年度の販売高が26%増える理由として挙げられているのは、AIサーバー向け先端ロジックの旺盛な投資と、HBMを中心としたDRAM投資の大幅増加である。1年で1兆3,516億円増える市場に、数年かけて2,500億〜5,250億円が加わる計算になる。

市場の背景も押さえておきたい。同じ資料が引用する世界半導体市場統計の2026年6月時点の見通しでは、2026年の世界半導体販売高は前年比89.9%増の1兆5,112億ドルに達する。メモリーが249.5%増、ロジックが37.3%増という内訳で、1兆ドル超えは2030年頃という見方が主流だったところ、到達時期は4年前倒しになった。日本半導体製造装置協会は、米国の大手IT企業を中心としたAIデータセンター投資について、主要各社の設備投資額が年率70%程度の伸びを示しているとみている。日本国内のデータセンターと電力の制約については日本のAI基盤の5層を実測した記事で扱った。国内の先端ロジックの取り組みは富士通のMONAKAとラピダスを一次資料で追った記事にまとめている。

同じ日、日銀は半導体価格の上昇を理由に金利を1.25%へ上げた

協議が伝えられた翌日の2026年9月18日、日本銀行は金融市場調節方針を変更した。無担保コールレート (オーバーナイト物) の誘導目標を1.0%程度から1.25%程度へ、0.25ポイント引き上げる決定である。賛成7、反対2で、浅田統一郎委員は消費者物価の上昇率が2%を下回るなか経済も強いとはいえないとして据え置きを主張し、佐藤綾野委員はこのタイミングでの利上げは適切ではないとした。補完当座預金制度の適用利率は1.25%、基準貸付利率は1.5%となり、いずれも翌営業日の9月24日から適用される。会合は9月17日の午後と18日の午前に開かれ、公表は18日11時54分だった。

この決定文には、半導体が2度出てくる。1つは景気の判断で、グローバルなAI関連需要の増加が経済を下支えするという文脈である。もう1つが物価の見通しで、消費者物価 (除く生鮮食品) の前年比が足元の1%台後半から2026年度後半以降に2%をはっきりと上回る水準まで高まる理由として、これまでの原油価格上昇に加えて「グローバルなAI関連需要の増加に伴う半導体価格等の上昇」と最近の円安が耐久財などの価格を押し上げることを挙げている。

記者の見立てでは、ここに今回の2つの出来事の関係がある。対米投資枠の半導体工場は、協議段階で、金額も新規かどうかも確定していない。日本企業への発注条件があるかも公表されていない。これに対して日銀が示した経路は、半導体の値上がりが国内の物価を押し上げ、それが政策金利を動かすというもので、すでに決定として現れている。半導体の好況が日本経済に届く経路として、受注という細い道より先に、金利という太い道が動いた形になる。政策金利と為替の関係は日米の金利差を実額で検算した記事で扱っている。

日銀は、今後も経済・物価・金融情勢に応じて政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく方針を示した。実質金利は短中期を中心になお低い水準にあるとしており、緩和的な環境は維持されるという立場である。気候変動対応オペについては、貸付金利を変動金利に改め、貸付総額などに上限を設けることを全員一致で決めた。

対米投資の次の投資先が半導体工場になるという話は、日本の装置メーカーにとって年間販売高の数%に届きうる案件である。だがその金額は仮定を3つ重ねた先にあり、受け皿の会社は自力では年7億ドル台しか投じておらず、協議は始まったばかりで、日本製装置を使う条件があるのかも公表されていない。確かめられるのは、日本の装置産業がこの案件なしでも2026年度に26%伸びる見通しであることと、その好況が半導体価格を通じてすでに政策金利を動かしたことである。

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