富士通が11月に売り出す「国産次世代CPU」MONAKAは、2nmの演算部を台湾のTSMCが作る。回路まで国内で作るのはラピダスの1.4nmで2029年に作る後継品からで、富士通は委託に2026年中の量産の見通しを求めている。
富士通は2026年9月14日、144コアのCPU「FUJITSU-MONAKA」(以下MONAKA) を2026年11月からプロセッサ単体で世界に売り出すと発表した。「日本の2nm CPU」「144コア」「500W」「1.4nm」「ラピダス」という5つの言葉で語られるこの製品は、日本の半導体復活の象徴として受け止められやすい。だが一次資料を並べると、2nmの回路を作る工場は日本になく、ラピダスが関わるのは次の世代である。本稿は、富士通の発表文と講演資料、半導体学会Hot Chipsでの発表、ブロードコムの発表、経済産業省のラピダス関連資料 (いずれも2026年9月17日に取得) で、誰がどの工程を担い、ラピダスの受注がいつ、どんな条件で決まるのかを確かめる。
富士通は2nm CPU「MONAKA」を11月に売り出し、「国産」は設計とサーバーの製造を指す
富士通の2026年9月14日の発表によると、MONAKAは2026年11月から、クラウドやデータセンターの事業者、サーバーメーカーに向けてプロセッサ単体で販売される。単体での出荷は2026年度第4四半期からで、米国とアジア太平洋を含む世界に提供する。MONAKAを載せたサーバー「Fujitsu MONAKA Server」も同じ11月に日本と欧州で販売を始め、2026年度下期に金融・通信・製造の一部の顧客へ先行して提供したうえで、2027年4月以降に順次出荷する。販売先には防衛分野も含まれる。サーバーは2Uサイズ (CPU2個) と1Uサイズ (CPU1個または2個) で、大学や研究機関の計算向けに、1ノードにCPU2個を載せて計4ノードを収めた2Uの機種も出す。
発表文の見出しは「世界初の2nm3D積層CPUを開発・商用化」「AIサーバを日本国内で一貫開発・製造」である。ただし本文を読むと、「国産」の中身は製品によって違う。CPUについては「日本国内で設計・開発した国産次世代CPU」と書き、サーバーについては「国内で設計・開発するとともに国内の笠島工場で製造する」と書く。CPUのチップをどこの工場で作るかは、発表文のどこにも書かれていない (記者の確認)。MONAKAに使う新しい技術は、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の補助事業の成果である。
性能について富士通は、最大動作周波数3.8GHz、メモリの転送速度8800MT/sを示し、AI推論 (学習済みのAIモデルを動かす処理) で他社のCPUの2倍の処理量を出し、同じ量の処理に必要なサーバーの台数と消費電力を半分にするとした。比べた相手の製品名と測定条件は公表されていない。1Uのサーバーは、専用の冷却設備がなくても、空冷なら周囲の温度40度、水冷なら水温45度まで使え、冷却に使う電力を最大80%減らすという。
144コア・500Wの高性能型と350Wの省電力型は同じ回路で、2nmは面積の3割未満に絞った
MONAKAは英アーム (Arm) の命令体系Armv9-Aを使うサーバー向けCPUで、1個に144のコア (演算を担う単位) を持つ。富士通が2026年7月の国際会議HPCKPで示した資料によると、1台の計算機に2個載せて288コアで使い、メモリはDDR5を12チャネル、外部との接続はPCI Express 6.0 (CXL3.0) に対応する。AIの計算を速めるベクトル演算の拡張命令SVE2は、2026年の半導体学会Hot Chipsの発表を伝えたServeTheHomeによると、256ビット幅で実装した。
「500W」は、MONAKAの2つの品種のうち高い方の消費電力 (設計上の最大熱量) である。同じ144コアの回路を、動かす周波数と冷やし方で作り分ける。
表1 MONAKAの2つの品種 (Hot Chips 2026 の発表、財経新聞から作成)
| 品種 | 消費電力 | 基本周波数 | 冷却 | 性能 |
|---|---|---|---|---|
| 省電力型 | 350W | 2.1GHz | 空冷 | 基準 |
| 高性能型 | 500W | 2.9GHz | 水冷 | 約50%高い |
省電力の鍵は電圧にある。消費電力は電圧の2乗に比例するため、富士通は独自の超低電圧動作の技術で電圧を下げた。ServeTheHomeによると、電圧は同じ種類の設計より30%低い。回路の構成にも工夫がある。MONAKAは3つのダイ (チップの本体となるシリコン片) を縦に積む3D積層構造で、演算を担うコアのダイだけを2nmで作り、キャッシュ (演算部のすぐそばに置く高速の記憶領域) のSRAMと入出力のダイは5nmで作る。ダイ同士は、配線の銅を直接つなぐハイブリッド接合で重ねる。2nmの部分はシリコン面積全体の30%未満で、最も高価な最先端の工程を、性能に効く部分だけに使っている。富士通の発表文も「機能ごとに最適なプロセスを組み合わせることでコスト効率を高める」と説明する。
2nm CPUの演算部を作るのは台湾のTSMCで、積層は米ブロードコムが担った
Hot Chipsの発表によると、演算部のダイは台湾積体電路製造 (TSMC) の2nm工程「N2P」で、SRAMと入出力のダイは同じくTSMCの5nm工程「N5」で作られる。富士通の発表文が工場を書かなかった部分は、台湾の工場が担っている。
ダイを積み上げてCPUとして仕上げる工程には、米ブロードコムが関わる。ブロードコムは2026年2月26日、独自の積層技術「3.5D XDSiP」で設計した業界初の2nmのカスタム計算用チップの出荷を始め、最初の出荷先が富士通のMONAKAだと発表した。ダイの回路面同士を向かい合わせて積む「F2F」という方式で、他の顧客向けの設計は2026年後半に出荷する予定だとしている。経済産業省が2026年4月3日の次世代半導体等小委員会に出した資料も、この出荷を「最初の出荷先は日本の富士通」と記し、当初想定の2026年後半から前倒しされたと整理した。ブロードコムが設計を支える特注の半導体の広がりは、AIサーバーのカスタム半導体の比率を検証した記事で扱った。
TSMCに頼る構図は、今に始まったことではない。富士通がスーパーコンピューター「富岳」向けに2020年に出したCPU「A64FX」も、TSMCの7nm工程で作られた。同じ経産省の資料によると、TSMCは2025年末に2nmの量産を始め、既存の工場の2026年の生産能力は注文で埋まっているとも言われる。日本で設計した最先端のCPUを量産しようとすれば、現時点ではTSMCを使うほかない。記者の見立てでは、MONAKAが示したのは日本の設計力と、積層・電圧制御・サーバーの組み立てまでを束ねる力であり、日本の工場が2nmを作れることではない。
後継の「MONAKA-X」は1.4nmで2029年に出し、富岳NEXTの中核のCPUになる
「1.4nm」は、MONAKAの次の世代にあたる。富士通の講演資料の製品計画は、A64FX (7nm、2020年、富岳に採用)、MONAKA (2nm、2027年に出荷)、「FUJITSU-MONAKA-X」(1.4nm、2029年、富岳NEXTに採用) の順に並ぶ。MONAKA-Xは次世代の3Dメニーコア構造と1.4nmの工程を使い、行列演算の拡張命令Arm v9 SMEでNPU (AIの推論を専門に担う回路) を組み込む。富士通はサーバー向けのCPUでは世界初だとしている。米エヌビディアのGPUとは、同社の高速接続技術NVLink Fusionで結ぶ。日経クロステックの2025年12月の報道でも、富士通はMONAKA-Xを2029年に製品化する予定である。
MONAKA-Xが載る「富岳NEXT」は、理化学研究所・エヌビディア・富士通が共同で開発する次の国の旗艦スーパーコンピューターで、富士通がCPU、エヌビディアがGPUを受け持つ。講演資料の日程表では、2025年から基本設計を始め、製造と設置を経て2030年ごろに運用に入る。応用ソフトの性能は最大100倍を目指し、計算ノードの数は3,400以上と、富岳の158,976の約47分の1になる (記者の計算)。CPUだけで数を並べた富岳に対し、1つのノードにCPUとGPUを密に結ぶ設計へ移るためだ。
ラピダスへの委託は調整中で、2026年中に1.4nm量産の見通しが立つことが条件になっている
回路まで国内で作る話が出てくるのは、この1.4nmの世代からである。日経クロステックによると、富士通の副社長CTOのヴィヴェック・マハジャン氏は2025年12月、1.4nmのCPUの製造をラピダスへ委託することについて「既に調整を進めている」と述べ、「ラピダスが技術的に製造可能なチップはなるべくラピダスへ依頼する」との方針を示した。一方で同じ報道は、ラピダスの1.4nm世代の量産の見通しが2026年中に立たなければ、委託を見送る可能性があると伝えている。
委託の対象はCPUだけではない。日本経済新聞などの2026年4月の報道によると、富士通は1.4nmのNPUを開発して製造をラピダスに委託し、開発費は約580億円で、その約3分の2をNEDOの補助で賄う。英電子業界誌Electronics Weeklyによると、このNPUは2029年に生産し、MONAKAシリーズのCPUと同じパッケージに載せて富岳NEXTなどに使う。経産省の2026年7月の資料も、NEDOがキヤノン、IBM、富士通の最先端の半導体の設計事業を採択し、ラピダスの製造技術を使うことを想定していると記した。
ラピダス側の工程も、富士通の日程と重なる。経産省が公表したラピダスの実施計画の概要によると、同社は2027年度後半に2nm世代の量産を始め、その後2〜3年ごとに1.4nm、1.0nmの世代の量産に進む。2029年度ごろに営業キャッシュフローの黒字化、2031年度ごろに株式の上場を目指す。まずはAIデータセンター向けの特注の半導体を設計するファブレス企業 (工場を持たない半導体の設計会社) などからの受注を狙い、2030年度には2nmの世界の需要に対して供給が約10〜30%足りなくなるとみる。Electronics Weeklyによると、1.4nmを作る第2工場は2027年度にも着工する計画である。
国の支援は厚い。実施計画の概要によると、政府の委託費は2025年度までに約1.7兆円、2026年度に約6,300億円である。経産省の2026年7月の資料によると、同年4月の外部有識者の審査で開発が十分に進んでいると判断され、2026年度の計画と追加予算約6,315億円が承認された。出資では、2026年2月27日までに情報処理推進機構 (IPA) を通じた政府の1,000億円と民間32社の1,676億円、合わせて2,676億円が払い込まれ、政府の議決権は11.5%になった。民間の出資者には富士通、キヤノン、NTT、ソフトバンク、ソニーグループ、日本政策投資銀行が含まれる。IPAは2026年6月5日にさらに1,500億円を出資した。開発の段階では、顧客が回路設計に使う設計キット (PDK) の評価用版を2025年12月に公開し、2026年4月末の正社員は1,200人以上になった。量産に向けた性能と価格の協議は60社以上と続いているが、量産の顧客は公表されていない。国の補助金の全体像は日本の半導体補助金を整理した記事で扱った。
この工程を並べると、2026年が分かれ目になる。富士通が委託の条件とする1.4nm量産の見通しは2026年中に示される必要があり、ラピダスが最初の量産品となる2nmを出すのは2027年度後半で、1.4nmを作る工場の着工は2027年度の計画である。記者の見立てでは、11月に始まるMONAKAの販売はTSMCで作る製品の販売であり、ラピダスの売上にはつながらない。144コア・500Wの「日本の2nm CPU」は日本が最先端のCPUを設計できることを示したが、回路まで日本で作る「純国産」のCPUになるかどうかは、ラピダスが2026年のうちに1.4nmの量産の道筋を富士通に示せるかで決まる。
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