800ギガビット級の光部品は、信号処理の頭脳を載せた従来型で16ワット前後、チップのすぐ隣まで寄せた一体型なら4〜5ワットまで下がる。データセンター1棟に数十万個が載る部品の話であり、この電力差が2026年の設備投資の行き先を決めつつある。

CPO、NPO、LPO。AIデータセンターの記事に頻出するこの3つの略語は、初めて見る人には暗号にしか見えない。だが仕組みは、家庭の通信環境の進化とそっくりである。電話線の信号を光回線に替えた瞬間、家のネットは桁違いに速くなった。同じことをデータセンターの内部、それもGPUのすぐ隣でやろうというのが「光電融合」であり、3つの略語の違いは、光に変換する装置をチップへどこまで「寄せるか」という距離の違いにすぎない。この1本の物差しさえ持てば、エヌビディアの新型スイッチも、NTTのIOWN構想も、同じ地図の上に置いて読める。

最初に、4つの言葉を「とは」の形で並べておく。本文は、この表に肉付けしていく作りである。

用語正式名とは何か (一言で)
光電融合とは機器の中の電気配線を光に置き換え、電気と光を変換する装置を演算チップのそばへ寄せていく技術の総称。NTTはこれをIOWN構想の中核に置く
CPOとはコ・パッケージド・オプティクス光に変える装置(光エンジン)を、演算チップと同じパッケージの中へ一体化する方式。電力は最小になるが、壊れると基板ごとの交換になる
NPOとはニア・パッケージド・オプティクス光エンジンをパッケージの外、すぐ近くの基板上に置く中間の方式。ソケットで部品交換の余地を残す
LPOとはリニア・プラガブル・オプティクス置き場所は従来のまま動かさず、波形を直す回路(DSP)だけを抜いて電力と費用を下げる方式

このほか本文では、機器の前面パネルに抜き差しする従来型の光部品を「プラガブル(着脱式)」、長い電気配線で崩れた波形を計算で復元する半導体を「DSP(デジタル信号処理回路)」と呼ぶ。従来型の光部品では、電力の過半をこのDSPが消費している。

この記事は3段で進む。まず4つの方式を1つの物差しに並べ、消費電力の実数で比べる。次に、2026年に量産へ動く3陣営、エヌビディア、TSMC、NTT連合の計画を数字で確かめる。最後に、この転換で利益がどの企業へ移動するのかを、外資と日本株の両方で追う。かつてDRAMで世界の8割を握りながら砦を失った日本の半導体史を、今度の光の陣取りにどう重ねるかまでが本稿の射程である。

電気の配線が先に悲鳴を上げた ― 光電融合が必要になる物理

出発点は、GPUそのものではなく配線の物理にある。チップ間を銅の配線で結ぶ電気信号は、速度を上げるほど減衰と波形の崩れが激しくなる。1本あたり毎秒200ギガビットという現行世代の伝送速度では、銅線で運べる距離は1メートル前後まで縮み、崩れた波形を復元する信号処理回路(DSP)への依存が重くなる。AIデータセンターの計算能力は演算チップの数で決まるが、その数万個を結ぶ網の目の1本1本が、電気のままでは電力と距離の壁に当たる。

壁の高さは電力の内訳に表れる。従来方式のデータセンター網では、スイッチ間を結ぶ着脱式の光部品(プラガブル)が1個あたり16ワット前後を消費し、その電力の過半は光や電気の変換ではなく、崩れた波形を直す信号処理回路が食っている。つまり「電気で長く運ぶから、直す回路が要り、直す回路が電気を食う」という循環である。光をチップの近くまで引き込み、電気で運ぶ距離を数センチまで縮めれば、この循環ごと消せる。これが光電融合の物理的な動機であり、国内データセンターの新設が相次ぐ日本でも、電力制約が最初の設計条件になっている。

寄せ具合の3段階 ― プラガブル・NPO・CPOは同じ軸の上にある

3方式の違いを、光に変換する装置(光エンジン)の置き場所で並べる。

方式光エンジンの位置信号処理回路電気で運ぶ距離保守800G級の電力
従来プラガブル前面パネルあり(波形を復元)長い抜き差しで最も容易16ワット前後
NPOチップの載る基板のすぐ近く実質不要に短いソケットで部分交換可中間
CPOチップと同じパッケージに一体化不要ほぼ消滅基板単位で交換困難約4〜5ワット
従来プラガブル・NPO・CPOの違いは光エンジンをチップへ寄せる距離で決まる
従来プラガブル・NPO・CPOの違いは光エンジンをチップへ寄せる距離で決まる

CPO(コ・パッケージド・オプティクス)は、光エンジンを演算チップと同じパッケージに封じ込める最終形で、電気配線がほぼ消えるため電力は最小になる。代償は保守である。光エンジンが壊れたら部品だけ抜き替えることができず、高価な基板ごとの交換になる。NPO(ニア・パッケージド・オプティクス)はその手前で止める中間解で、光エンジンをパッケージの外、基板上のすぐ近くに置き、ソケットで交換の余地を残す。電力の節約幅はCPOに譲るが、運用の現場で壊れた部品を差し替えられる。この「電力と保守の交換条件」こそ、3方式が併存する理由である。

第4の道がLPO(リニア・プラガブル・オプティクス)で、これだけは軸が違う。配置は前面パネルのまま一切動かさず、代わりに信号処理回路だけを抜く。波形を直す回路が消えるため、800ギガビット級で消費電力は7〜8.5ワットと従来型のほぼ半分に落ち、価格も下がる。ただし波形を直す保険がなくなるので、元の信号品質への依存が強く、長い距離は苦手になる。NPOとCPOが「配置を動かす道」、LPOが「処理を抜く道」。軸が直交しているから、この4つを1列に並べて優劣を語ると必ず混乱する。対象の整理をこの2軸で持ち直すことが、以降の投資判断の土台になる。

2026年、3つの陣営が同時に量産へ入る

方式の議論が急に現実味を帯びたのは、2026年に主要各社の量産計画が重なったからである。

先頭はエヌビディアだ。同社は光電融合を組み込んだ通信網スイッチを2系統発表しており、InfiniBand系のQuantum-X Photonicsは毎秒800ギガビットのポートを144個備え、液冷で冷やしながら、従来比3.5倍の電力効率と4分の1のレーザー数をうたう。イーサネット系のSpectrum-X Photonicsは2026年に投入され、最大構成では800ギガビット512ポート、総容量毎秒400テラビットに達する(公式発表)。同社の狙いは、エヌビディアのGPUを数百万個規模で結ぶ「AI工場」の電力を、演算以外の部分から絞り出すことにある。

土台を握るのは製造側である。TSMCはシリコンフォトニクス基盤COUPEを3段構えで進める。第1段が毎秒1.6テラビットの光エンジンを従来型の着脱部品に載せる形、第2段が2026年の、自社の実装技術CoWoSへ光エンジンを組み込むCPO、第3段はプロセッサのパッケージ内部に毎秒12.8テラビットの光を引き込む構想で、電力効率5〜10倍、遅延10分の1以下を掲げる。CoWoSがGPUの実装を独占したのと同じ構図が、光でも繰り返されようとしている。

日本からはNTT(9432)連合が同じ土俵に上がった。NTTは2026年2月5日、光電融合スイッチを2026年度中に商用提供すると発表した。総容量は毎秒102.4テラビット、消費電力は従来比50%減、そして注目すべきは修理と交換を考えた「ソケット型」、すなわち上の物差しで言うNPOの位置を選んだことである。連合には米ブロードコム、基板の新光電気工業、台湾の機器製造アクトンが名を連ねる。IOWN構想の行程表では、これは第2段階(基板間の光化)に当たり、2028年度にチップ間、2032年度以降にチップ内部の光化へ進み、最終的に電力効率100倍を目標に置く。

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2026年に量産へ動く3陣営 ― エヌビディア・TSMC・NTT連合の計画と数字

保守という金の問題 ― 抜き差しできる部品が死なない理由

技術の優劣だけならCPOで決まりだが、市場はそう単純に動かない。理由は運用の現場にある。光部品は消耗品であり、数十万個を積むデータセンターでは毎週どこかで故障する。前面パネルの着脱式なら、作業員が数分で抜き替えて終わる。CPOでは光エンジンがパッケージと運命共同体になるため、故障の単位が「部品1個」から「基板1枚」へ跳ね上がる。データセンターの運用者が長年プラガブルを手放さなかったのは怠慢ではなく、故障率と交換費用を織り込んだ経済合理性である。

だからこそ、2026年の各社の選択は方式の分担として読める。エヌビディアはまずスイッチ側、つまり自社が性能責任を負う箱の中でCPOを使い、GPUとの接続には既存の着脱式も残す。NTT連合は保守性を優先してソケット型のNPOから入る。LPOは、既存の設備と互換のまま電力だけ半分にしたい事業者の現実解として、その隙間を埋める。着脱式の光部品市場はAI投資の波で当面伸び続け、その内側でDSPの載らないLPOと、パッケージに吸い込まれるCPOが少しずつ面積を広げる。利益の移動先は、モジュール組立の企業から、光エンジンを作れるファウンドリと、精密な基板・部材を供給できる企業へ向かう。

日本の持ち場は砦の部材にある ― 5つの銘柄の位置

この利益移動の地図で、日本企業の持ち場は明確に「部品・材料・接続」に集中している。光ファイバと高密度接続部品のフジクラ(5803)はAIデータセンター投資の直接の受け手として業績を伸ばし、同業の古河電工(5801)、住友電工(5802)とともに、光配線が建物内へ深く入るほど出荷が積み上がる立場にある。半導体パッケージ基板のイビデン(4062)は、光エンジンがパッケージへ寄るほど基板の配線密度と熱設計の難度が上がる、その難しさ自体を売る会社である。そしてNTT(9432)は、通信事業者でありながらIOWNで光電融合デバイスの供給側に回るという、世界でも例の少ない賭けに出ている。

この構図で見落とされがちな1社が、非公開化した新光電気工業である。同社は2025年に産業革新投資機構系の買収で上場廃止となり、株式市場からは見えなくなったが、NTT連合の光電融合スイッチの基板供給者として中核にいる。「日本の光電融合」は、上場株だけを眺めていると主役の1人が視界から消える。この非対称は、公開市場の投資家がIOWN関連を評価する際、NTTとイビデン、フジクラといった見える企業に期待が集中しやすいことを意味する。

DRAMで8割を握った国の、次の砦

最後に、この光の陣取りを日本の半導体史に重ねる。1980年代末、日本勢はDRAMで世界シェアの8割前後を握っていた。その地位は1990年代に米韓勢へ移り、事業は次々と撤退・統合で消えた。焼け野原のあとに日本が世界へ残した数少ない砦の1つが、東芝が1987年に発明したNAND型フラッシュメモリであり、2007年に同社が世界へ先駆けて示した立体積層(3D NAND)の系譜、すなわち現在のキオクシア(285A、2024年12月上場)である。単体の製品としてNANDを眺めると価格変動の激しい市況品にしか見えないが、DRAMの8割から転げ落ちる過程を現場で見た世代にとって、それは「守り切れた最後の砦」の重みを持つ。

光電融合は、その歴史の反復を試す次の盤面である。日本は光部品・基板・材料という川上で今も厚いシェアを持ち、NTTはシステムの標準そのものを取りにいく。DRAMの時代、日本は部品と装置で勝ちながら、事業の構造転換で敗れた。今度の盤面で違うのは、砦を「製品」ではなく「方式の標準」に築こうとしている点である。IOWNの行程表が示す2032年、チップ内部まで光が届いたとき、その基板と部材の納入者一覧に日本企業がどれだけ残っているか。8割の記憶を持つ国にとって、これは技術の話であると同時に、同じ失敗を二度しないための検算である。