中国企業は同業他社より21%安く売って市場に入った製品が、いまは62%高い値段で売れている。同じ手順を踏んだ欧州の自動車は15%安から19%安へ、差がむしろ開いた。6つの市場を分けたのは製品の高度さではなく、その製品を何年で買い替えるかだった。
ゴールドマン・サックスが中国企業の海外展開を6つの事例で分析した。postationはこれを4つの段階にまとめた。原価を下回る価格で売り、競合や現地企業より30〜50%安い値段を付け、店頭の棚を押さえてシェアを高め、主導権を握れるだけのシェアを取ったら値上げを続ける、という筋書きである。だが図の数値を1つずつ拾い直すと、この4段階が最後まで通ったのは6事例のうち2つで、しかも通った市場と通らなかった市場には共通の境目があった。本稿はその境目を特定し、境目の向こう側にどの企業が残っているかまでを追う。資料の取得日は2026年9月18日である。
参入時の価格差は9%から52%まで開き、「3〜5割引」に当てはまるのは2事例
ゴールドマンが取り上げた6事例と、その担い手は次の通りである。ロボット掃除機は中国企業がロボロックとエコバックスで、競合はアイロボットとシャークニンジャ。白物家電の冷蔵庫と洗濯機はハイアールと美的集団に対し、ワールプールとLG電子。欧州の自動車はBYDとリープモーターに対し、フォルクスワーゲンとステランティス。ロボタクシーは小馬智行とウィーライドに対し、ウェイモ。手術支援ロボットはマイクロポート・メドボットとエッジメドに対し、インテュイティブ・サージカル。変圧器は思源電気と特変電工に対し、シーメンス・エナジーと現代エレクトリックである。同社は前の3つを先行組、後の3つを後発組と分けた。
参入時の中国企業の価格を同業他社と比べた差は、ロボット掃除機が−21%、白物家電が−52%、自動車が−15%、ロボタクシーが−9%、手術支援ロボットが−40%、変圧器が−33%だった。投稿の言う「30〜50%」に当てはまるのは手術支援ロボットと変圧器で、白物家電の52%はそれを上回る。残る3事例は30%に届かず、最も小さいロボタクシーの9%は、投稿が挙げた下限の30%と比べても3分の1以下にとどまる。安値の深さは市場ごとにまるで違う。
参入の仕方も一様ではない。ゴールドマンは白物家電 (2000年ごろ)、ロボタクシー (2024年ごろ)、手術支援ロボット (2024年ごろ)、変圧器 (2010年ごろ) を破壊的イノベーションによる参入、ロボット掃除機 (2012年ごろ) と自動車 (2020年ごろ) を持続的イノベーションによる参入に区分した。低価格帯から攻めた分野と、既存の製品と同じ土俵で競った分野が混じっている。
同業他社を上回る価格まで戻せたのは、ロボット掃除機とロボタクシーだけ
4つ目の段階にあたる値上げは、確かに起きている。現在の価格差はロボット掃除機が+62%、ロボタクシーが+26%で、参入時からそれぞれ83ポイント、35ポイント上がった。ロボット掃除機については、2025年に参入年の同業他社の価格を約90%上回り、シェアは50%近くに達したとゴールドマンは注記する。ただし2026年の値は下がっており、上昇が続いているわけではない。
一方で残る4事例は、今も同業他社より安い。白物家電は−52%から−20%へ32ポイント戻したが、まだ2割安い。自動車は−15%から−19%へ、変圧器は−33%から−36%へ、手術支援ロボットは−40%から−59%へと、いずれも差が広がった。ゴールドマンは中国企業の値段の動きを、ロボット掃除機・白物家電・変圧器で上昇、自動車とロボタクシーで横ばい、手術支援ロボットで引き下げと分類している。変圧器は中国企業が値上げしているのに差が縮まらない分野で、同業他社の値上げ幅がそれを上回ったことになる。電力機器の需要が世界で逼迫していることの裏返しである。
ゴールドマンは同じ見方を12分野へ広げている。参入年の同業他社の価格を0%として値段の推移をたどると、最終的に0%を上回るのはロボット掃除機、エアコン、変圧器、宅配便の4分野にとどまる。世界のEVは−30%前後から始まり、シェアを40%前後まで伸ばす間に−35%前後へ下がった。欧州のネット通販とマウスピース矯正は−50%台のままシェア10%以下にとどまり、産業用ロボットは1〜2%のシェアで−35%前後から始まって、いったん下げてから上向いている。手術支援ロボットは−40%前後から始まり、シェア10%前後で−45%前後にとどまる。値上げに転じたのは12分野のうち4分野である。
分かれ目は買い替え周期だった
では、何が2つの事例を分けたのか。ゴールドマンは6事例に市場の成熟度、顧客、製品寿命、製品の作り方の4つの性質を割り当てている。この4つを価格差の変化と突き合わせると、答えが1つに絞れる。
表1 6事例の性質と価格差の変化
| 事例 | 買い替え | 市場 | 参入時 | 現在 | 変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| ロボット掃除機 | 短い | 成長期 | −21% | +62% | (+83ポイント) |
| ロボタクシー | 短い | 成長期 | −9% | +26% | (+35ポイント) |
| 白物家電 | 短い | 成熟期 | −52% | −20% | (+32ポイント) |
| 自動車 (欧州) | 長い | 成熟期 | −15% | −19% | (−4ポイント) |
| 変圧器 | 長い | 成長期 | −33% | −36% | (−3ポイント) |
| 手術支援ロボット | 長い | 成長期 | −40% | −59% | (−19ポイント) |
出所: ゴールドマン・サックスの6事例の一覧表。変化は参入時と現在の差から記者が計算
表の並びは偶然ではない。価格差が縮まった3事例は買い替えが短い製品、広がった3事例は長い製品で、例外がない。市場の成熟度では説明がつかない。成長期の市場にはロボット掃除機とロボタクシー (縮小) と変圧器と手術支援ロボット (拡大) が混ざり、成熟期には白物家電 (縮小) と自動車 (拡大) が混ざるからである。
顧客の区分でも作り方でも説明はつかない。ゴールドマンはロボット掃除機、白物家電、自動車、手術支援ロボットを消費者向け、ロボタクシーを企業向けと消費者向けの両方、変圧器を企業向けとした。製品の作り方は、ロボット掃除機、白物家電、自動車、手術支援ロボットをモジュール型、ロボタクシーと変圧器をすり合わせ型に分けている。どちらの区分も、価格差が縮まった組と広がった組をきれいに分けない。残るのは買い替え周期である。
なぜ周期が効くのか。記者の見立てでは、買い替えが早い製品では、値上げしても顧客が次の購入までに製品の良さを確かめる機会が繰り返し訪れる。2年で買い替えるロボット掃除機なら、安く買った1台目の使い勝手が2台目の値段を正当化する。逆に10年以上使う変圧器や、病院が数億円かけて導入する手術支援ロボットでは、その機会が来る前に発注元が過去の実績と保守体制で判断してしまう。安さで最初の1台を入れても、次の1台までの距離が遠すぎる。
市場の大きさも事例によって桁違いだ。
表2 6事例の市場規模と中国企業のシェア (ゴールドマンの予想)
| 事例 | 2026年の世界 | 2026年の中国以外 | 2035年の中国以外 |
|---|---|---|---|
| ロボット掃除機 | 94億ドル (71%) | 64億ドル (63%) | 130億ドル (82%) |
| 白物家電 | 1,700億ドル (42%) | 1,370億ドル (23%) | 2,080億ドル (32%) |
| 自動車 | 3兆480億ドル (36%) | 7,960億ドル (17%) | 7,990億ドル (23%) |
| ロボタクシー | 15億ドル (72%) | 13億ドル (21%) | 3,080億ドル (56%) |
| 手術支援ロボット | 129億ドル (12%) | 123億ドル (11%) | 393億ドル (29%) |
| 変圧器 | 325億ドル (36%) | 275億ドル (21%) | 482億ドル (25%) |
出所: ゴールドマン・サックスの6事例の一覧表。括弧内は中国企業のシェア。2035年は同社の平均値
中国企業のシェアは中国以外の市場でもロボット掃除機が63%と突出し、白物家電23%、ロボタクシー21%、変圧器21%、自動車17%、手術支援ロボット11%と続く。顧客が払う金額のうち中国企業が受け取る割合は、ロボット掃除機が73%に対し、ロボタクシーと手術支援ロボットは2%にとどまる。値上げが最も効いた分野は、すでに市場の大半を握っている分野でもある。
買い替えが10年単位の市場に、日本企業が残っている
買い替え周期が分かれ目だとすれば、投資する側にとっての含意ははっきりしている。周期の長い市場は価格で崩れにくい。実際、価格差が広がった3事例のうち2つは、日本企業が事業を持つ市場である。
変圧器を含む送配電の分野がその代表になる。日立製作所 (6501) の2026年3月期は連結売上収益10兆5,867億円で8.2%増えたが、伸びを引いたのはエナジーセグメントだった。外部顧客に対する売上収益は前期の2兆5,624億円から3兆2,008億円へ24.9%増え、セグメント損益は2,520億円から4,160億円へ65.1%増えている。富士電機 (6504) も連結売上高1兆2,276億円 (9.3%増)、営業利益1,366億円 (16.1%増) で過去最高を更新し、エネルギーセグメントは売上高3,543億円から3,942億円へ11.3%、営業利益は363億円から595億円へ63.9%伸びた。同社は伸びの要因として、蓄電システム案件の増加に加えて電力および産業向けの変電機器と電源機器の需要増を挙げている。
表3 買い替えが長い市場の日本企業 (2026年3月期・決算短信)
| 会社 (コード) | 区分 | 売上 | 前期比 | 利益 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日立製作所 (6501) | エナジー | 3兆2,008億円 | +24.9% | 4,160億円 | +65.1% |
| 富士電機 (6504) | エネルギー | 3,942億円 | +11.3% | 595億円 | +63.9% |
| シスメックス (6869) | 連結 | 5,000億円 | −1.7% | 518億円 | −40.8% |
出所: 各社の決算短信。日立のエナジーは外部顧客に対する売上収益とセグメント損益、富士電機は売上高と営業利益、シスメックスは連結の売上収益と営業利益
手術支援ロボットも、中国企業が価格差を−40%から−59%へ広げた市場である。日本勢では川崎重工業 (7012) とシスメックス (6869) が50%ずつ出資するメディカロイドが hinotori を展開し、2025年4月時点で国内累計71台、海外はシンガポール1台とマレーシア2台に届いている。ただし価格で崩れにくいことと、規模で追いつけることは別である。シスメックスの2026年3月期は連結売上収益5,000億円で1.7%減、営業利益は518億円で40.8%減った。周期の長さは安値攻勢に対する盾にはなるが、先行者との差を自動的に埋めてはくれない。
逆に周期の短い市場では、日本勢はすでに主戦場から外れている。ロボット掃除機で名前が挙がるのはアイロボットとシャークニンジャで、白物家電の冷蔵庫と洗濯機ではワールプールとLG電子である。人型ロボットの関節部品のように、中国企業が部品の側から原価を下げている分野の構造は関節部品の原価を分解した記事にまとめた。欧州の自動車で価格差が縮まらない背景にある合弁の構図は広汽と一汽トヨタの資本の動きを追った記事で検証している。
1年に取るシェアは5事例で鈍り、同じ市場でも企業ごとに明暗が分かれる
投稿の最後の問いは「次の10年も繰り返せるか」だった。ゴールドマン自身の見通しは、値段ではなくシェアの側から答えを出している。
1年に取るシェアは、過去の実績と今後の見通しでこう変わる。ロボタクシーが6.9%から3.9%、ロボット掃除機が5.7%から2.1%、手術支援ロボットが4.9%から2.1%、自動車が2.6%から0.7%、変圧器が1.2%から0.5%へ下がり、白物家電だけが0.8%から1.0%へ上がる。6事例の合計では年22.1%から10.3%へ、1事例あたりの平均では3.68%から1.72%へと半分以下になる。
鈍る理由の1つは、中国企業どうしの競争である。ゴールドマンは中国企業の数を自動車18社、変圧器10社、ロボット掃除機とロボタクシー7社、白物家電6社、手術支援ロボット5社と数え、自動車と変圧器には値下がりのリスクが大きいと注記した。売上高の年平均成長率の見通しも、自動車は中国企業が5%、中国以外が−1%で、ともにリスクが大きいとされる。ロボット掃除機は中国企業10%に対し中国以外が−1%、白物家電は9%と4%、変圧器は10%と6%、手術支援ロボットは36%と13%、ロボタクシーは106%と83%である。市場そのものの伸びを2035年予想と2026年予想で比べると、ロボタクシーが237倍、手術支援ロボットが3.2倍、ロボット掃除機が2.0倍、変圧器が1.8倍、白物家電が1.5倍で、自動車は1.0倍と横ばいにとどまる。同じ期間の中国企業の売上高は、ロボタクシーが672倍、手術支援ロボットが15.9倍、ロボット掃除機が2.4倍、変圧器が2.3倍、白物家電が2.2倍、自動車が1.5倍となる。ロボタクシーと手術支援ロボットの倍率が大きいのは、出発点の小ささを反映した数字で、ロボタクシーの2026年予想の市場は13億ドルしかない。
ゴールドマンは中国以外の企業を1つにまとめて売上高の倍率を出している。ロボット掃除機は2035年に2026年の0.9倍、自動車も0.9倍、白物家電は1.4倍、変圧器は1.6倍、手術支援ロボットは3.0倍、ロボタクシーは230倍である。ただし同じ区分に置かれた2社の実績は分かれる。ロボット掃除機で名前の挙がるアイロボットとシャークニンジャを米証券取引委員会への提出書類で確かめると、アイロボットの売上高は2021年12月期の15億6,499万ドルから2024年12月期の6億8,185万ドルへ0.44倍と56.4%減った。2025年1〜9月も3億7,496万ドルで、前年同期の5億981万ドルから26.5%減っている。一方のシャークニンジャは2021年12月期の37億2,699万ドルから2025年12月期の63億9,919万ドルへ1.72倍、71.7%増えた。同じ市場で、片方が半分以下に縮み、片方が1.7倍になっている。
手術支援ロボットのインテュイティブ・サージカルも、2021年12月期の57億1,010万ドルから2025年12月期の100億6,470万ドルへ1.76倍、76.3%増えた。2016年12月期の27億650万ドル以降、前年を下回ったのは2020年12月期だけである。ゴールドマンは手術支援ロボットの中国以外の企業を3.0倍と見込む。安値攻勢を受けながら売上高を伸ばした企業と、受けて縮んだ企業が同じ区分に並んでいる。参入障壁の高い中核市場の比率は、手術支援ロボットが70%、変圧器が58%と高く、ロボット掃除機は12%、白物家電は15%にとどまる。市場に占める米国の比率も手術支援ロボットが59%と最も高く、変圧器35%、ロボット掃除機34%、白物家電32%、自動車30%、ロボタクシー16%と続く。障壁の低い市場ほど値下げの効果が大きく、シェアを取りやすい。ロボット経済全体で各社がどの層を押さえているかは8層37銘柄を提出書類で検算した記事で扱った。
安く入ってシェアを取り、値上げに転じる。この手順が最後まで通るかどうかは、相手が誰かではなく、その製品を何年で買い替えるかで決まっていた。買い替えが早い市場では、安値で入られた側は価格でもシェアでも戻せない。買い替えが10年単位の市場では、安値は最初の1台には効いても2台目までの距離を埋められない。手元の銘柄がどちらの市場にいるかは、製品の買い替え周期を1つ調べれば見当がつく。
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