三菱ケミカルグループの直近通期の営業利益は301億円だった。売上高は3兆7,040億円で信越化学工業の1.4倍あるのに、営業利益は6,352億円の21分の1にとどまる。同じ化学業種のなかで、稼ぐ場所が入れ替わっている。

イネオスが中国石油化工との天津南港エチレン事業から降りた。折半出資での合意が2022年12月、合弁会社の設立が2023年8月、生産開始が2024年11月で、撤退契約への署名は2026年6月である。稼働からは1年で撤退の意向が伝えられた。

この撤退は、日本の総合化学が置かれている位置を測る物差しになる。以下の日本企業の数値は、金融庁の電子開示システムに提出された有価証券報告書から取得した。売買の推奨や評価は示さない。

1億2,000万ドルは代金ではなく、降りるための支払いである

イネオスの天津合弁からの撤退までの時系列
イネオスの天津合弁からの撤退までの時系列

報道された1億2,000万ドルは、持分を売って受け取る代金ではない。イネオスが中国石油化工に対して支払う。2027年3月から24か月の均等分割で払われ、事業は中国石油化工の単独保有になる。

金額の性質を取り違えると、この案件の重さを読み違える。2025年12月31日時点でイネオスの貸借対照表には、持分法適用会社への投資と、それと同額の金融負債が5億7,570万ユーロずつ両建てで計上されていた。50%持分に相当する額である。降りることでこの両建てが消え、加えて1億2,000万ドルを払う。金を払って権利を手放す取引だった。

イネオスは中国の全事業から引いたわけではない。高機能樹脂の合弁は継続している。汎用のエチレンとその誘導品から降り、技術で差がつく品目だけを残す選別が行われた。この線引きが、日本の総合化学が直面している問題と同じ形をしている。

三菱ケミカルグループの営業利益は4年で3,032億円から301億円になった

総合化学3社と信越化学工業の営業利益率の推移
総合化学3社と信越化学工業の営業利益率の推移

三菱ケミカルグループの営業利益率は、FY2022の7.6%から直近通期の0.8%まで落ちた。営業利益の実額は3,032億円から301億円で、4年で10分の1である。売上高は3兆9,769億円から3兆7,040億円へ7%減にとどまっており、売上の減少では説明がつかない幅で利益が消えた。

住友化学はさらに急な曲線を描いた。FY2023に営業損失310億円、FY2024には営業損失4,888億円と純損失3,118億円を計上している。売上高2兆4,469億円に対する営業損失の比率は20.0%で、1期で売上の5分の1に相当する損失を出した。直近通期は営業利益1,517億円まで戻したが、利益率は6.5%である。

三井化学はFY2022の1,473億円(9.1%)から直近通期の738億円(4.4%)へ、4年でほぼ半分になった。3社に共通するのは、赤字か否かではなく、利益率が業種の中央値を下回り続けている点にある。

同じ業種のなかで、営業利益率は0.8%から33.5%まで開いた

化学業種40社の営業利益率の分布
化学業種40社の営業利益率の分布

有価証券報告書を収録した化学業種40社について直近通期の営業利益率を算出すると、中央値は8.7%だった。三菱ケミカルグループ(4188)は0.8%で40社中39位にあたる。日本最大の化学メーカーが、業種の下から2番目にいる。

上位を占めたのは半導体と電子材料に寄った会社である。デクセリアルズ(4980)が33.5%、信越化学工業(4063)が24.7%、太陽ホールディングス(4626)が23.6%、日産化学(4021)が22.7%、東京応化工業(4186)が20.0%と続く。首位と39位の差は41倍である。

研究開発費の売上比にも同じ傾斜が出る。三菱ケミカルグループは1.6%で、日産化学の7.6%、東京応化工業の6.6%とは4倍以上の開きがある。売上が大きいほど研究に多く投じられるわけではない。

半導体は9年で8割伸び、化学は動かなかった

米国の鉱工業生産指数は、この地形を別の角度から示す。半導体・その他電子部品の指数は2017年6月の100.5から2026年6月の181.9へ81%上がった。同じ2017年を100とする化学の指数は101.4から101.6で、9年かけてほぼ動いていない。

需要が消えたわけではない。米国の樹脂・プラスチック材料の生産者物価指数は2024年6月の321.2から2026年6月の368.8へ上がっている。安値の圧力は世界一様ではなく、中国からの供給が直接届くアジアの市場に集中している。日本の基礎化学品が苦しいのは、世界の化学が縮んだからではなく、輸出先で価格が成立しなくなったためである。

半導体の動きと連動する日本の素材株はどこにあるか

半導体の設備投資や稼働率に業績が連動する日本の上場企業は、化学業種の利益率上位とほぼ重なる。信越化学工業はシリコンウエハーとフォトレジスト材料、東京応化工業はフォトレジスト、日産化学は反射防止膜などの半導体材料を手がける。デクセリアルズは光学・接合材料、太陽ホールディングスはソルダーレジストを主力とする。

パッケージ基板のイビデン(4062)は電気機器に分類されるが、営業利益率14.9%、研究開発費の売上比7.2%で、素材側と同じ形をしている。日東電工(6988)は17.9%だった。

対照的に、レゾナック・ホールディングス(4004)は半導体後工程材料を成長分野に掲げながら、全社の営業利益率は3.5%にとどまる。石油化学事業を抱えたままの構造が、半導体材料の収益を薄めている。同社はFY2023に営業損失94億円を計上しており、事業の切り分けが済むまで数字の上では総合化学の側に位置し続ける。

減らしていないのは設備投資である

三菱ケミカルグループの設備投資額は、FY2023の2,822億円からFY2026の3,088億円へ増えている。営業利益が10分の1になった期間に、投資は減っていない。基礎石油化学からの撤収と、高付加価値領域への投下が同時に進んでいる形になる。

信越化学工業の設備投資はFY2023の3,180億円からFY2025の4,346億円まで積み上がり、直近通期は3,397億円だった。営業利益6,352億円に対する比率で見ると、三菱ケミカルグループは営業利益の10倍を投じており、信越化学工業は半分程度にとどまる。同じ「投資を続ける」でも、原資が手元の利益か否かで意味が変わる。

レアアースの要衝は採掘ではなく分離精製にある

素材の供給不安は石油化学だけの話ではない。中国は2026年1月6日、日本向けの両用品目の輸出管理強化を公表し即日実施した。磁石に使われるレアアースの対日輸出が影響を受けている。

この分野で見落とされやすいのは、中国の強みが鉱石の採掘ではなく分離精製の工程にある点である。レアアースは17元素が鉱石の中で混ざっており、これを個別の元素へ分離する溶媒抽出の設備と運転技術が要衝になる。鉱山を他国に確保しても、分離精製を中国に依存すれば供給の自由度は上がらない。

日本の調達先の分散は数字として進んでいる。中国への依存度は2010年の89.8%から2024年に62.9%まで下がり、ベトナムが32.2%、タイが4.8%を占めるに至った。豪州のライナスへの資本参加と、同社のマレーシアでの分離精製が、中国以外の経路を成立させている。

レアアースに関わる日本の上場企業

有価証券報告書を収録している企業のうち、レアアースおよび磁石の供給に関わる主な会社を並べる。数値は直近通期の実績で、事業内容の記載は各社の開示に基づく。

証券コード会社名関わり方営業利益率研究開発費の売上比
2768双日豪州ライナスへの出資。2025年10月から豪州産の日本向け輸入を開始未取得未取得
8015豊田通商レアアースの調達・供給網の構築4.7%未取得
5713住友金属鉱山フィリピン産原料による生産。2026年5月に増産計画を公表未取得0.5%
5714DOWAホールディングス使用済み製品からの回収・精錬4.6%1.1%
5471大同特殊鋼ネオジム磁石の製造7.3%1.1%
6762TDK磁石および磁性材料10.9%11.6%

双日はライナスとの長期契約で同社の生産量の最大75%を日本向けとする枠組みを持ち、2026年3月には豪州と東南アジアでの新鉱山開発の共同検討を公表した。TDKの研究開発費の売上比11.6%は、この6社のなかで突出している。営業利益率が「未取得」となっている3社は、営業利益に相当する科目の要素識別子が別系統で開示されており、機械抽出の対象から外れている。

コンビナートの集約が示す到達点

国内のエチレン製造拠点は統廃合が進み、生産能力の削減が続いている。イネオスが金を払って中国の汎用品から降りたのと、日本の総合化学が国内設備を絞るのは、同じ判断の別の現れ方になる。

三菱ケミカルグループの従業員は56,678人、住友化学は27,491人、三井化学は16,967人である。対して信越化学工業は27,342人で6,352億円の営業利益を上げている。1人あたりで見ると、稼ぐ力の差は事業構成の差として現れる。

数字の上で次に確かめられるのは、切り出した後の総合化学が中央値の8.7%に届くかどうかである。届かなければ、汎用品を外に出しても収益の構造は変わらなかったことになる。