米ホワイトハウスが9月27日に公表した「30-for-30」は、米中がそれぞれ300億ドル分の品目について関税の引き下げを検討する枠組みで、下げ幅も時期も未定である。対象は農産物や玩具などが中心で、半導体材料は入っていない。

米ホワイトハウスは2026年9月25日、習近平国家主席の訪米の成果をまとめたファクトシートを発表し、27日に米中貿易委員会の運営手続き、30-for-30の枠組みの要領、両国の品目リストを公表した。当サイトは10月1日の当初の記事で、米中が関税の引き下げで合意し、半導体や電気自動車は除外されたと書いた。しかし、文書に書かれているのは合意や除外の手前の段階にとどまる。公表された文書を読み直し、品目リストを関税分類ごとに数えた。

公表されたのは関税引き下げを検討する品目リストで、下げ幅と時期は決まっていない

米中貿易委員会は、2026年5月の北京での首脳会談で設置が決まった政府間の協議の場である。ファクトシートは今回の成果を、米中がそれぞれ300億ドル分の、安全保障上の機微でない品目 (non-sensitive goods) について、関税の優遇を勧告することで一致したと表現した。27日の発表文は、米中が2つの品目リストについて、相互の関税引き下げを視野に、それぞれの国内法と手続きに沿って検討するとしている。

30-for-30の枠組みの要領 (Terms of Reference) は1ページの文書である。両国の代表がほぼ同じ金額の2つのリストを承認し、金額は2024年の米中間の貿易額を基準にすると記す。そのうえで、リストに載った品目の関税引き下げは、今後それぞれの国内の法的手続きに従って決め、実施すると定めている。何%下げるのか、いつから下げるのかは書かれていない。要領によると、代表の代理 (実務を担う担当者) が対象品目の貿易を監視し、リストの調整や品目の追加を代表に提案できる。調整は年1回までを想定するという。

運営手続きによると、貿易委員会の代表は米国がベッセント財務長官とグリア米通商代表、中国が何立峰副首相である。実務は代表の代理が担い、四半期に1回以上会合を開く。会合の頻度は必要に応じて増減できる。協議の段階の論点は米中協議と関税表を扱った記事で報じた。

中国が関税引き下げを検討する米国産品は1,619品目で、約4分の3が農水産物と食品だ

中国が輸入する米国産品のリストは38ページあり、中国の8桁の関税分類番号で1,619品目が並ぶ。当サイトが分類ごとに数えると、次のようになった。

区分 (関税分類)品目数主な品目
農水産物・食品 (1〜24類)1,227牛肉、豚肉、鶏肉、水産物、小麦、トウモロコシ
木材 (44類)146丸太、製材
医療機器など (90類)43画像診断装置、人工関節
化粧品と精油 (33類)41口紅、香水、シャンプー
石炭と褐炭 (27類)7無煙炭、原料炭
その他155原皮、生糸、ポンプ、弁

農水産物と食品が1,227品目で、全体の約4分の3を占める。水産物 (3類) だけで106品目ある。穀物では小麦、トウモロコシ、コーリャンが入り、綿花も載った。大豆そのものは種子用の1品目だけで、搾油や飼料に使う大豆は載っていない。大豆油と大豆かすは載っている。エネルギーでは石炭と褐炭の7品目が入り、原油と液化天然ガスは入っていない。ファクトシートはこれとは別に、中国が2027年と2028年にそれぞれ少なくとも1,000万トンの米国産石炭を輸入するとしている。農業分野の市場参入の障壁を扱う作業部会を設けたことも成果に挙げた。

医療機器などは43品目で、磁気共鳴画像装置 (MRI)、X線CT、超音波診断装置、手術ロボット、人工関節、心臓ペースメーカーなどが並ぶ。

米国が関税引き下げを検討する中国産品は77品目で、玩具と小型家電、寝具が中心だ

米国が輸入する中国産品のリストは4ページ、77品目である。中国のリストの1,619品目に比べて品目数は20分の1に満たないが、要領によれば2つのリストの金額はほぼ同じである。

区分 (関税分類)品目数主な品目
玩具・運動用具 (95類)25玩具、トランプ、クリスマスの装飾品、ボール
繊維製品 (63類)17毛布、シーツ、テーブルクロス
小型家電と電球 (85類)14電子レンジ、コーヒーメーカー、電気かみそり
家具・寝具など (94類)9チャイルドシート、ベビーサークル、寝袋
その他12花火、プラスチックの食器、魔法瓶

玩具は関税分類の1品目にまとめて載り、三輪車、人形、パズルなどを含む。ただし無線やWi-Fi、イーサネット、ブルートゥースによる通信機能を持つものは除くと注記がある。ほかにコイン式の業務用ゲーム機、釣り針、テニスボール、野球ボールなどが入った。

これらの品目に米国が現在課している上乗せ関税は、品目によって違う。当サイトが9月に米国の関税表を集計したところ、玩具とクリスマス用品には、2018年に始まった通商法301条の追加関税がかかっておらず、上乗せは2026年7月24日からの12.5%だけだった。家具は、集計した65品目のうち49品目が2018年からの追加関税の対象だった。ただ、今回の77品目だけを取り出した集計はしていない。

日本企業では、タカラトミーが米国の関税の影響を開示している。同社は2026年3月期に、米子会社トミー・インターナショナルに関するのれんの減損損失48億6,200万円を特別損失に計上した。決算短信は、相互関税の発動やインフレで、同子会社の主力であるベビー用品の販売が減ったと説明している。リストには子ども用の椅子やチャイルドシートが入っている。ただし、同社の製品がリストの品目にあたるか、どの関税が下がるかは、公表された文書と同社の開示からは確認できない。米州事業全体では、売上高は304億4,600万円で前の期の311億800万円から減り、営業損益は1億5,500万円の赤字から5億7,600万円の黒字に転じた。

半導体や電気自動車を除外する条文はなく、リストに載っていないだけだ

半導体、電気自動車、車載用電池の3分野が枠組みから除外された、という説明は文書の記述と合わない。ファクトシートにも、要領にも、運営手続きにも、この3分野への言及はない。対象の基準を示す表現は、ファクトシートにある「機微でない品目」だけである。

リストを数えると、中国のリストの1,619品目に半導体、乗用車、蓄電池、レアアースの化合物は1品目もない。電気機器 (85類) に入るのは信号発生器の1品目だけである。米国のリストの77品目にもこれらは入っていない。除外を定めた条文はなく、最初のリストに載っていないだけだ。その理由は文書に書かれていない。要領は品目の追加を協議できるとしており、将来の扱いは決まっていない。

レアアースについてファクトシートは、レアアースなど重要鉱物の供給不足を巡る米国の懸念について、出荷量を適切な水準に戻すことを目標に、両国が引き続き取り組むと書くにとどまる。数量も期日も示していない。同じファクトシートには、両首脳が「人工知能」に代えて「超知能」の語を使うことで一致し、米中の「超知能対話」を設けて、次回の対話を2026年11月までに開くとの記述もある。この対話の中身は米中の超知能対話を扱った記事で報じた。

日本の部材メーカーへの追い風は文書から読み取れず、信越化学は中国の対日措置の対象だ

米中の文書は二国間の取り決めで、日本企業への言及はない。当初の記事は、米中の間で半導体とレアアースの規制が続くことを日本の部材メーカーへの追い風と書いた。しかし、今回の文書からその根拠は読み取れない。規制は今回の公表の前から続いており、文書はそれを変えていないからだ。

信越化学工業には、中国の対日措置が及んでいる。中国商務省は日本産のジクロロシランに対する反ダンピング (不当廉売) 調査で2026年9月7日に仮決定を出し、9月8日から輸入者に保証金を求めている。ジクロロシランは半導体の成膜に使うガスで、信越化学工業の製品に適用される保証金の比率は99.2%だ。この措置は日中間の措置で、米中の30-for-30の対象ではない。経緯は米中の休戦と中国の対日措置を扱った記事にまとめた。

今後は、米中の国内手続きで引き下げ幅と時期が示されるかどうかが焦点になる

公表された文書で決まったのは、検討する品目と、検討を進める体制である。関税が実際に下がるには、米国と中国がそれぞれの国内手続きで引き下げを決める必要がある。次の節目は、両国が国内手続きに入る時期と、そこで示される税率である。

日本企業にとっての注目点は2つある。1つは、リストに追加される品目に半導体材料や電子部品が入るかどうかである。もう1つは、レアアースの出荷について数量や期日を伴う取り決めが出るかどうかである。どちらも今回の文書には書かれていない。

【訂正】10月1日公開の当初の記事で、題に「信越化学に追い風」とあるのは誤りでした。ホワイトハウスの文書に日本企業への言及はなく、信越化学の製品の輸入者は、中国の反ダンピング調査の仮決定で99.2%の保証金を求められています。同社がフォトレジストで世界首位だとした記述は、裏付けが確認できなかったため削除しました。「関税の削減で合意した」「関税率を半減または撤廃する」「農産物などの90%以上が最恵国税率に復帰する」とした記述も誤りで、文書は関税の引き下げを視野に品目リストを検討するとしており、下げ幅と時期は決まっていません。半導体、電気自動車、車載用電池の3分野が文書で完全に排除されたとした記述は、文書に3分野への言及がないため改めました。「AI対話メカニズム」の次回会合を11月に開くとしたのは、「超知能対話」の次回の対話を11月までに開く、の誤りでした。石炭の購入を「合意文書に明記した」としたのは誤りで、記述があるのは米国のファクトシートでした。関税引き下げの効果が出るのは2027年以降とした分析は、出所を確認できなかったため削除しました。10月1日に全文を書き直しました。おわびして訂正します。

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