米中は9月20日のニューヨーク協議で、AIを関税と切り離し、安全保障上の事案を互いに知らせる枠組みを話し合った。関税は衣類や家具と米国産の農産物・原油に絞り、中国側は対象の米国産品の輸入を2025年の6.5倍に増やす計算になる。
米中が詰めている関税の引き下げは、一方的な譲歩ではなく、双方が同じ金額分の品目の関税を下げ合う取引である。米通商代表部は2026年6月5日の連邦官報で、安全保障に関わらない品目について、両国が同じ金額分の輸入の関税を見直す仕組みを示した。その規模とされる300億ドルは、中国が2022〜2024年に米国から輸入していた大豆や原油など6品目の年平均289億5000万ドルとほぼ同じで、2025年の44億4000万ドルの6.5倍にあたる。AIと半導体はこの取引から外れ、AIについては安全保障上の事案を互いに通報する枠組みを協議した。
協議はJPモルガン・チェースの本社で始まり、習近平国家主席の訪米を3日後に控える
何立峰副首相が率いる中国代表団は9月20日、米銀大手JPモルガン・チェースのニューヨーク本社に入り、ベッセント米財務長官、グリア米通商代表と経済・貿易協議を始めた。新華社によると、協議は現地時間の午前に始まった。ベッセント氏は開始前、マンハッタンの同社本社で記者団に対し、AIも含めて何氏と「的を絞った、中身の濃い、建設的な協議」をしたいと期待を示した。
協議の後、中国の国際貿易交渉代表(閣僚級)の李成鋼氏は「協議は順調だった」と述べ、ベッセント氏は「非常に、非常に成功した」と応じた。双方ともAIが議題に含まれたことを認め、両国の交渉団は翌日も協議を続ける。新華社は同日、何氏とベッセント氏、グリア氏が両国首脳の合意を指針に、これまでの協議の合意の実行と貿易・投資の促進について率直で建設的な意見交換をし、AIの問題についても対話したと伝えた。
協議の日程は首脳会談と連動している。中国外交部は翌21日、習近平国家主席が9月23〜25日に国賓として米国を訪問すると発表した。ホワイトハウスは5月17日のファクトシートで、トランプ大統領がこの秋に習氏をワシントンに迎えると記していた。中国で出回っている米中の関税引き下げ品目の一覧表は、米国が9月24日前後に品目リストの一部を公表する予定だとしている。ニューヨークの協議は、首脳会談で打ち出す成果を閣僚級で詰める場との位置づけだ。
米国はAIを巡る安全保障上の事案の相互通報を提案し、半導体の輸出規制は議題にしなかった
ベッセント氏とグリア氏は、AIを巡る国家安全保障上の事案について、米中が互いに通報する枠組みを提案したと明らかにした。AIが原因となった事象のうち、国家安全保障に関わる水準に達したものを通報の対象とする。ベッセント氏は「国境をまたぐほかの活動と同じく、世界1位と2位のAI大国の間で、不透明な状態から透明性を高めていくことが非常に重要だ」と述べ、「共通の目標と脅威について認識を共有したい」と語った。AI開発の減速について問われると、米中が「米中AI対話」という枠組みについて協議し、再び会うことで合意したと答えた。
一方、グリア氏は、米国の半導体の輸出規制は議題にならなかったと述べた。中国で出回っている一覧表も、半導体やAI、先端の計算能力など国家安全保障に関わる分野は、関税引き下げの対象から明確に外すとしている。米国際貿易委員会の関税表(2026年第19版、9月21日に取得)を読むと、関税の上でも半導体はすでに別扱いになっている。7月24日から中国製品に課されている労働問題を理由とする301条関税12.5%は、866品目を対象外としており、そこには半導体、半導体製造装置、パソコン、スマートフォンが含まれる。半導体にはその代わりに、2024年の301条関税の見直しで2025年1月から50%が上乗せされている。消費財の関税を下げても、半導体への上乗せ関税は変わらない仕組みだ。
輸出規制には、期限が近づいている措置もある。ホワイトハウスの2025年11月1日のファクトシートによると、米国は規制対象企業の子会社などにも輸出規制を広げる規則の適用を、2025年11月10日から1年間停止した。停止期間は2026年11月10日に終わり、同じ文書で延長した301条関税の適用除外も同じ日に期限を迎える。習氏の訪米は、この期限の約7週間前にあたる。
300億ドルの品目リストは、5月に設けた米中貿易委員会の下で互いに同じ金額分の関税を最恵国税率まで下げる仕組みだ
発端は、2026年5月のトランプ大統領の北京訪問である。ホワイトハウスの5月17日のファクトシートは、両首脳が米中貿易委員会と米中投資委員会の設置で合意したとし、貿易委員会を、安全保障に関わらない品目の貿易を両政府が管理する場と位置づけた。
通商代表部は6月5日、この委員会の対象範囲と運営について意見を募った。連邦官報によると、双方が安全保障に関わらない品目を選び、相手国が最恵国税率に上乗せしている関税の一部を見直すことで合意する。最恵国税率とは、世界貿易機関の加盟国に等しく適用する基本の税率を指す。米中は双方で同じ金額分の輸入の関税を見直すことを検討し、取り決めがまとまれば、米国は決まった金額の貿易をもとに、両国間の貿易の動きを監視・評価できるとした。意見の提出期限は7月10日、反論は7月27日で、品目は8桁の関税分類番号で示し、2022〜2024年の年平均の対中輸入額を添えるよう求めた。同じ通知は、米国の対中のモノの貿易赤字が2025年に前年比約32%減の2,020億ドルと2004年以来の低水準になったこと、2026年3月は前年同月比46%減だったことを成果に挙げている。
一覧表の品目も、この枠組みに沿っている。米国が中国製品の関税を下げる分野は4つある。1つ目は繊維・衣類と靴(綿の衣類など)で、これまでの関税の合計は最高55%に達し、今回の引き下げの中心だとする。2つ目は家庭用品やおもちゃ、クリスマス用品、かばんなどの安価な消費財で、米国内の消費財の値上がりを和らげる重点分野とする。3つ目は家電や基礎化学品、基幹でない工業部品などの「戦略的でない製品」で、これまで上乗せしてきた301条関税の撤廃を検討している。4つ目は、安全保障に関わらない一部の医療用消耗品とエネルギー関連製品で、米国が対象に含めるかを検討している。
中国が米国製品の関税を下げる分野は2つで、大豆、トウモロコシ、豚肉、牛肉、小麦などの主要な農産物と、原油や医薬品の原料などである。農産物は明確に言及され、農産物の相互の貿易を増やすため、両国が目安となる目標を設けるという。背景には、2018年に301条に基づいて上乗せした追加関税(当初の税率は7.5%〜25%)の削減があり、対象品目は最恵国税率に戻る見通しだとしている。連邦官報が「最恵国税率を超える関税」を見直すと記したことと一致する。ただし、300億ドルが年額なのか、どの年の貿易額を基準にするのかは米中両政府の資料に記載がなく、当サイトは確認できていない(未取得)。
米国が関税を下げる品目には、今も最恵国税率に12.5〜37.5ポイントが上乗せされている
中国製品にかかる米国の関税は、2026年に構成が大きく変わった。2月20日の大統領令14389号は、国際緊急経済権限法に基づく追加関税、すなわち合成麻薬対策を理由とする対中関税と相互関税を廃止し、301条と232条の関税には影響しないと明記した。同じ日に布告した全輸入品への一時的な輸入課徴金10%は、7月23日で失効した。代わりに、労働問題でつくられた製品の輸入禁止を怠っているとして60の国・地域を対象に3月12日に始めた301条の調査に基づき、7月24日から中国と香港の製品に12.5%が上乗せされた。関税表の注は、この12.5%が2018年の301条関税に上乗せされると定めている。同じ措置で、日本からの輸入品は最恵国税率と合わせて12.5%が上限となった。
2018年の301条関税は、リスト1・2・3が25%、リスト4Aが7.5%で、リスト4B(15%)は発動が見送られている。今の中国製品の関税は、最恵国税率にこの2018年分、2024年の見直しによる上乗せ、労働問題を理由とする12.5%を足したものになる。当サイトは関税表の第99類の注から各リストの8桁の品目を抜き出し、一覧表が挙げる分野の品目とすべて突き合わせた。重量あたりで課税する品目は税率に換算できないため除いている。
| 分野 | 品目数 | 2018年の301条 | 中央値 | 最高 |
|---|---|---|---|---|
| 衣類 (61・62類) | 371件 | 294件が4A | 30.3% | 52.0% |
| 靴 (64類) | 91件 | 47件が4A | 27.5% | 68.0% |
| かばん (4202項) | 13件 | 全件がリスト3 | 55.1% | 57.5% |
| 家具 (94類) | 65件 | 49件がリスト3 | 37.5% | 45.5% |
| おもちゃ・飾り | 3件 | 対象外 | 12.5% | 12.5% |
| 家電 (4分類) | 16件 | 1・3・4A・対象外 | 30.6% | 41.2% |
最恵国税率への上乗せは、リスト4Aの衣類や靴で20ポイント、リスト3のかばんや家具、冷凍冷蔵庫で37.5ポイント、2018年のリストに入っていないおもちゃやクリスマス用品で12.5ポイントになる。綿のTシャツは最恵国税率16.5%に7.5%と12.5%が上乗せされて36.5%、甲が布製の運動靴は40.0%、表地が布製の旅行かばんは55.1%、木製家具と冷凍冷蔵庫は37.5%、おもちゃは12.5%だ。引き下げの対象になれば、この上乗せ分がなくなる。
一覧表は、衣類と靴の関税がこれまで最高55%に達したとする。今の関税表で数えると衣類の最高は52.0%で、合成麻薬対策の関税10%と相互関税10%が課されていた2025年11月10日〜2026年2月20日の税率で数え直すと、衣類の最高は59.5%、中央値は37.8%だった。55%という数字は、時期によって変わるこの間の衣類の最高税率の幅に収まる。医療用消耗品は品目による差が大きい。2024年の見直しは医療用のゴム手袋に2026年1月から100%を上乗せしており、合計は112.5%になる。同じ医療用消耗品でも、見直しで引き上げた品目と安全保障に関わらない品目とでは、下げ幅が大きく異なる。
米国の対中輸入のうち、衣類、靴、かばん、おもちゃ、クリスマス用品は、国連の貿易統計(米国の報告)で2022年610億6000万ドル、2023年460億ドル、2024年482億8000万ドル、2025年320億5000万ドルだった。家庭用繊維製品、家具、冷蔵庫、電熱機器、小型家電を加えると、2025年は596億ドルになる。米国側の300億ドルは、これらの品目の輸入の半分ほどを対象にすれば届く金額だ。一覧表は市場の試算として、税率が最恵国税率の水準に戻れば、重点品目の対米輸出は30%を超えて伸びる余地があるとする。2025年のこれら5分野の輸入は2024年より33.6%少なく、2024年の水準に戻れば50.7%増える。記者の見立てでは、30%超という試算は、この1年の落ち込みを取り戻す程度の規模で、過大な数字ではない。
中国側の300億ドルは、2025年に44億ドルまで落ち込んだ米国産の大豆や原油の輸入を2022〜2024年並みに戻す規模だ
米中のモノの貿易は、2025年に大きく縮小した。米国勢調査局によると、米国の対中輸出は2024年の1,432億7170万ドルから2025年に1,059億7780万ドルへ、対中輸入は4,403億1940万ドルから3,086億5190万ドルへと29.9%減った。対中赤字は2,970億4770万ドルから2,026億7410万ドルへ31.8%減り、通商代表部が挙げた「約32%減の2,020億ドル」と一致する。2026年3月の赤字も97億5610万ドルで、前年同月の180億130万ドルから45.8%減り、「46%減」と合う。国連の貿易統計による米国の対中輸入(2025年)は3,083億6000万ドルで、米国勢調査局との差は0.1%にとどまる。2026年1〜7月は、輸出が651億7250万ドルと前年同期の651億4830万ドルから横ばい、輸入は1,563億9020万ドルと前年同期の1,939億7500万ドルから19.4%減った。
中国側の一覧表に並ぶ米国産品は、落ち込みがさらに大きい。
| 米国の対中輸出 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|
| 大豆 | 178.7 | 151.6 | 127.6 | 30.8 |
| 原油 | 69.7 | 131.1 | 61.6 | 6.3 |
| トウモロコシ | 52.6 | 16.6 | 3.3 | 0.0 |
| 牛肉 | 19.7 | 15.0 | 15.0 | 4.7 |
| 豚肉 | 5.2 | 3.9 | 3.5 | 2.5 |
| 小麦 | 4.0 | 3.9 | 5.6 | 0.2 |
| 6品目の合計 | 329.9 | 322.0 | 216.6 | 44.4 |
単位は億ドル。国連の貿易統計(米国の報告、9月21日に取得)から当サイトが集計した。6品目の合計は2022〜2024年の平均で289億5000万ドルと、300億ドルとほぼ同じである。2025年はその6.5分の1にすぎない。医薬品の原料を含む有機化学品は2022〜2024年に38億〜42億ドルで横ばいが続き、2025年も34億5000万ドルあった。中国側が300億ドルの枠を満たせるかどうかは、医薬品の原料ではなく、大豆、原油、トウモロコシの輸入が戻るかどうかで決まる。
中国はすでに購入を約束している。ホワイトハウスの2025年11月1日のファクトシートによると、中国は2025年の最後の2か月に米国産大豆を1,200万トン以上、2026・2027・2028年にそれぞれ2,500万トン以上購入し、2025年3月4日以降に発表した報復関税(鶏肉、小麦、トウモロコシ、綿花、大豆、豚肉、牛肉などを含む)をすべて停止する。5月17日のファクトシートは、中国が2026年(年途中からの日割り)、2027年、2028年に年170億ドル以上の米国産農産物を、大豆の購入約束とは別に買うとした。中国が現在、米国製品に最恵国税率を超えてどのような関税を課しているかは、中国財政部の公告を当サイトが取得できず、確認できていない(未取得)。
ニューヨークの協議で詰めたのは、半導体とAIには手をつけず、消費財と農産物・原油について同じ金額分の関税を最恵国税率まで下げ合う取引である。米国側は衣類や家具に上乗せしている12.5〜37.5ポイントを外せば、2025年の輸入だけで300億ドルに届く。中国側は、2025年に44億4000万ドルまで落ち込んだ米国産の大豆や原油などの輸入を、2022〜2024年の平均289億5000万ドルの水準に戻さなければ釣り合わない。習氏の訪米で示される品目リストは、中国が農産物と原油の購入を300億ドルまで数字で積み上げられるかどうかが焦点になる。
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