米中は9月24日の首脳会談で、超知能をめぐる対話の創設と、AIの緊急連絡体制の整備で合意した。日本はどちらにも加わっていない。日本のAI企業が2025年に調達した資金は11億1,000万ドルで、米国の企業が集めた額に遠く及ばない。

日本の資金がAIに向かっていないわけではない。ソフトバンクグループは2025年、米オープンAIへの追加出資として計300億ドルを払い込んだ。日本に本社を置くAI企業が同じ年に民間から調達した資金の約27倍にあたる。ただ、米スタンフォード大学の報告書「AIインデックス2026」は、国別の投資額を出資先の企業の所在国で集計しているとみられる。その場合、この300億ドルは日本ではなく米国の投資額に数えられる。報告書の数字は日本の企業が集めた資金の規模を示すもので、日本から海外への投資は含まない。

米中、超知能めぐる対話の創設とAIの緊急連絡体制の整備で合意

トランプ米大統領は9月24日、国賓として訪米した中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とホワイトハウスで会談した。ホワイトハウスが25日に公表したファクトシート(成果をまとめた文書)によると、両首脳は、協議の対象とする新しい技術を「人工知能」ではなく「超知能(スーパーインテリジェンス)」と呼ぶことで合意した。超知能は一般に、人間の知能を大きく上回るAIを指すが、ファクトシートは定義も対象の技術も示していない。両国は「米中超知能対話」を設け、超知能の恩恵とリスクについて意見交換する。次回の対話は11月までに開く。

両国は、超知能をめぐる問題が起きた際の2国間の連絡体制を整えることでも合意した。香港のニュースサイト、アジア・タイムズは会談前の9月22日、米中が国家安全保障上の脅威となり得るAIの問題を互いに通報し合い、直通の連絡回線(ホットライン)を開設すると報じていた。ファクトシートは、どの機関が担当し、どのような場合に使い、いつ運用を始めるかを明らかにしていない。

米中の首脳はこれまでもAIを議題にしてきた。中国外務省によると、2023年11月にサンフランシスコで会談したバイデン大統領(当時)と習氏の合意に基づき、両国政府は2024年5月14日、スイスのジュネーブでAIをめぐる初の政府間対話を開いた。同省の報道官は当日、AIのリスクと国際的なルールづくりについて意見交換する場だと説明した。両首脳は同年11月16日にペルーのリマで再び会談し、核兵器の使用に関する決定は人間が管理すべきだとの認識で一致した。2026年5月14日に北京で開かれたトランプ氏と習氏の会談を伝える両国の発表は、いずれもAIに触れていない。今回新たに加わったのは、「超知能」という呼称と緊急連絡体制の2つだ。

AIをめぐる米中首脳・政府間協議の経緯と、2026年9月の合意に関するホワイトハウスと中国外務省の発表の違い
AIをめぐる米中首脳・政府間協議の経緯と、2026年9月の合意に関するホワイトハウスと中国外務省の発表の違い

中国側の発表、「超知能」にも連絡体制にも触れず

中国外務省が公表した9月の会談の記録によると、習氏は「米中はともにAI大国だ。競争はあっても、協力の余地のほうが大きい」と述べた。そのうえで「両国はAIをめぐる対話を続け、その恩恵とリスクについて意見交換し、協力して悪用を防げる」とし、「AIは常に人間が制御できるようにしなければならない」と強調した。同省によると、トランプ氏は「AIは人類の将来に関わる問題だ。米中はAIをめぐる対話を続け、協力を深めるべきだ」と応じた。

ただし、合意の中身をめぐる両国の説明は食い違っている。恩恵とリスクについて意見交換する点は共通しているが、違いが3つある。中国側の記録には「超知能」の語が出てこない。緊急連絡体制についての記述もない。さらに中国側は、習氏の発言として「AIをめぐる対話を続ける」と記しており、2024年に始めた政府間対話の延長と位置づけているとみられる。協議の場はできたが、何を話し合い、どこまで決めるのかが分かるのは、11月までに開く次回の対話以降になる。その内容が公表されるかどうかも不明だ。

日本は多国間のAIルールづくりに参加、米中の協議には加わらず

日本は、AIの安全性をめぐる国際的な枠組みから距離を置いてきたわけではない。スタンフォード大学の報告書は、2019〜2025年にAIのルールづくりをめぐって打ち出された主な国際的な取り組みを取り上げている。そのすべてに賛同したのは、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本の5カ国だけだった。同じ報告書は、政府系のAI安全研究所(AIのリスクを技術的に評価する機関)が本格的に稼働している国として、英国、米国、日本、シンガポール、イスラエルを挙げる。日本ではAIセーフティ・インスティテュート(AISI)がこれにあたる。日本政府は、主要7カ国(G7)で始めたAIの国際的なルールづくり「広島AIプロセス」を主導してきたとしている。

これに対し、9月の米中合意は国賓訪問の成果として2国間で決めたものだ。両国の発表には、第三国の参加や、多国間の枠組みとの関係についての記述はない。

日本のAI企業への投資は米国の約260分の1、経済規模の小さい国にも及ばず

報告書が示すAIへの民間投資の額は、米調査会社クイッドの集計による。クイッドは、ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティ(未公開株投資ファンド)などによる私募での資金調達を集計しており、2013年以降に150万ドルを超える資金を集めたAI企業を対象とする。大企業の研究開発費や政府の資金は含まない。2025年の投資額は、米国が2,858億8,000万ドル、中国が124億1,000万ドル、英国が59億ドルだった。日本は11億1,000万ドルで、米国の約260分の1にとどまる(2,858億8,000万ドル÷11億1,000万ドル=257.5)。

経済規模で日本を下回る国にも、日本は及ばなかった。イスラエルは35億8,000万ドル、シンガポールは18億2,000万ドル、韓国は17億8,000万ドル、ベルギーは12億ドルで、日本は報告書の図に載った15の国・地域のうち下から2番目だった。同じ年に新たに資金を調達したAI企業は、米国が1,953社、英国が172社、中国が161社で、日本は56社と米国の約35分の1にとどまる(1,953÷56=34.9)。

主要なAIモデルの数をみても、日本の存在感は乏しい。報告書が研究機関エポックAIの集計をもとに一部の国・地域について示した図によると、2025年に発表された主要なAIモデルは米国が59、中国が35、韓国が8で、日本は載っていない。

2013年から2025年までの累計では、米国が7,572億7,000万ドル、中国が1,318億3,000万ドルで、日本は70億ドルと、米国の約110分の1だった(7,572億7,000万ドル÷70億ドル=108.2)。政府の人工知能基本計画(2025年12月23日閣議決定)も、日本はAI関連の開発と投資で「主要国はもちろん経済規模が小さい国にも後塵を拝するようになり、出遅れが年々顕著になっている」と記している。

AI企業が2025年に民間から調達した資金(国・地域別、報告書の図に載った全15の国・地域)と、ソフトバンクグループのオープンAIへの出資額
AI企業が2025年に民間から調達した資金(国・地域別、報告書の図に載った全15の国・地域)と、ソフトバンクグループのオープンAIへの出資額

ソフトバンクGの300億ドル、米国の投資額に算入か

ソフトバンクグループは2025年3月31日、オープンAIと最大400億ドルの追加出資で合意した。このうち100億ドルは外部の投資家が引き受ける予定で、同社の実質的な出資額は最大300億ドルになるとした。発表によると、同社は4月に75億ドル、12月26日(米国時間)に225億ドルを払い込み、外部の投資家の110億ドルと合わせて総額410億ドルの出資を終えた。同社の出資比率は約11%になった。

オープンAIへの出資金額時期
2025年3月までの出資22億ドル2024年9月〜2025年3月(実行済み)
2025年の追加出資の1回目75億ドル2025年4月(実行済み)
2025年の追加出資の2回目225億ドル2025年12月26日(米国時間、実行済み)
2026年の追加出資の1回目100億ドル2026年4月1日(実行済み)
2026年の追加出資の2回目100億ドル2026年7月1日(実行済み)
2026年の追加出資の3回目100億ドル2026年10月1日(実行済み)

(出所: ソフトバンクグループの2025年4月1日・12月31日、2026年2月27日・4月1日・7月1日・10月1日の発表。2026年の日付は日本時間)

2025年に払い込んだ75億ドルと225億ドルを合わせると300億ドルになり、米国の2,858億8,000万ドルの約10.5%に相当する。報告書はオープンAIの400億ドルを2025年の大型調達として挙げている。このため、ソフトバンクグループの払い込みは米国の投資額に含まれているとみられる。仮にこの300億ドルを米国の額から除いても、日本は米国の約230分の1にとどまる(2,558億8,000万ドル÷11億1,000万ドル=230.5)。

同社は2026年2月27日、オープンAIにさらに300億ドルを出資する契約を結んだ。オープンAIの出資前の企業価値を7,300億ドルと評価し、3回に分けて100億ドルずつ払い込む内容だ。同社は4月1日と7月1日の払い込みの資金を、いずれもつなぎ融資で手当てした。3回目は10月1日に払い込み、9月に発行した外貨建て社債で調達した資金を充てた。これで追加出資は完了し、累計の出資額は646億ドル、出資比率は約13%になった。同社は2月の発表で、2024年9月以降のオープンAIへの投資額を合計346億ドルとした。同社の発表にある金額は、2025年3月までの22億ドルと、その後に払い込んだ75億ドル、225億ドルで、合わせて322億ドルになる。346億ドルには24億ドル足りない。差額の内訳は発表からは確認できない。

同社はオープンAIの株式を四半期ごとに公正価値で評価し、その変動を「投資損益」として連結損益計算書に計上するとしている。オープンAIの企業価値の変動は、そのまま同社の損益に反映される。同社の企業情報はソフトバンクグループの企業ページと銘柄ページに、出資先の情報はオープンAIの企業ページにまとめている。

政府、AIセーフティ・インスティテュートの人員倍増へ

日本のAI政策の土台は、2025年に成立したAI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)だ。首相を本部長とし全閣僚で構成する人工知能戦略本部が基本計画をまとめ、政府が2025年12月23日に閣議決定した。計画は「投資規模では出遅れた」と認めている。そのうえで、業界や業務に特化したアプリなど具体的な付加価値の創出が「AIの基盤モデルに対する投資規模以上に」市場で評価されるようになったと指摘する。計画は、幅広い産業の基盤を持つ日本にとって、「信頼できるAI」で勝ち筋を見いだす好機だとしている。

安全性の面では、AIセーフティ・インスティテュートの人員を「直ちに現行の2倍程度に拡充する」とした。手本とするのは英国のAIセキュリティー研究所だ。計画によると、同研究所の人員は2025年9月時点で200人以上、初期予算は1億ポンド(約200億円)だった。国際的には、広島AIプロセスや、各国のAI安全研究所の国際ネットワークを通じてルールづくりを主導するとした。計画がまとまったのは米中合意の9カ月前で、米国や中国を名指しした記述はない。

AI関連の銘柄を事業の構造から分析するなら、AIの体系解説の「AI経済」の章が参考になる。米国の上場企業50社を、米証券取引委員会(SEC)への開示資料をもとに分類している。

米中は対立しながらも、超知能をめぐる対話と緊急連絡体制を2国間で設けたが、日本はその枠の外にいる。日本には1年で300億ドルを米国のAI企業に投じた企業がある一方、日本で資金を集めるAI企業は少なく、集まる額も米国の約260分の1にとどまる。

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