2030年までに増える310億ドルのうち210億ドルは、生成AIの普及で建設が続くデータセンターの電源や冷却に使う機器が占める。太陽光発電向けは家庭用も大規模用も縮み、地域では北米が年17%で伸びる一方、中華圏は年1%にとどまる。
米コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは2026年9月10日、電力変換機器の世界市場が2030年に約950億ドルに達し、2024〜2030年に年平均7%で伸びるとの推計を公表した。主な用途には家庭・業務用のヒートポンプ、大規模太陽光発電、データセンター、高圧直流送電 (HVDC) の機器などを挙げる。同社は、世界のデータセンターに必要な電力容量が2025〜2030年に82ギガワット (GW) から約220GWへ約2.7倍になり、消費電力は2024〜2028年に年約40%、4倍に増えるとみる。そのうえで、データセンター向けの電力変換機器の市場は2024年の80億ドルから2030年に290億ドルへ、年23%で増えると見積もった。
全体の年7%という伸び率だけを見ると、電力変換機器は緩やかに伸びる市場に見える。しかし同社の用途別と地域別の数字を並べると、増加の約7割をデータセンター向けが、約6割を北米が生み、太陽光発電向けと中華圏では伸びが止まる。電力変換機器への投資を判断するには、全体の伸び率ではなく、用途と地域に分けて市場を見る必要がある。
電力変換機器は交流と直流を変換する4種類の装置で、世界市場は2024年の630億ドルから2030年に約940億ドルへ増える
電力変換機器は、電気を交流から直流へ、あるいは直流から交流へ変えたり、電圧や周波数を調整したりする装置である。マッキンゼーは4種類に分ける。太陽光パネルや蓄電池の直流を送電網で使う交流に変えるインバーター、工場や空調の交流モーターの回転数を制御する可変速装置、スマートフォンやEVの充電器のように交流を直流に変える整流器、直流の電圧を回路ごとに変えるDC-DCコンバーターである。扱う電力はキロワットからギガワットまで幅があり、出力の小さい機器はシリコン製の半導体を使い、出力が大きく高い効率が必要な用途では炭化ケイ素 (SiC) や窒化ガリウム (GaN) の半導体を使う。
同社の地域別の推計では、市場規模は2024年の630億ドルから2025年に710億ドル、2026年に780億ドル、2027年に820億ドル、2028年に860億ドル、2029年に910億ドルと増え、2030年に940億ドルになる。年平均の伸び率は7%で、公表された概数で計算すると6.9%になる (記者の計算)。
2030年の市場規模は、同社の記事の本文では約950億ドル、図表では約940億ドルとなっている。同社が本文で示す9つの用途の2030年の値を足すと約942億ドルになり (記者の計算)、図表の約940億ドルに近い。地域別の値を足した合計も2024年は620億ドル、2030年は950億ドルで、公表された合計と最大10億ドルずれる (記者の計算)。同社は端数処理のため合計が一致しない場合があると注記しており、本稿は図表の値を使う。推計には同社の「世界エネルギー展望2025」(2025年10月13日)、国際エネルギー機関 (IEA)、英調査会社ウッドマッケンジーのデータなどを使っている。
市場の増加分310億ドルのうち210億ドルはデータセンター向けで、太陽光発電向けは家庭用も大規模用も縮む
マッキンゼーは9つの用途を、電力を使う側、発電する側、送電事業者の3つに分ける。発電する側は過去数十年で市場が成熟して伸びが鈍り、太陽光発電向けは2024〜2030年に年2%減る。一方、データセンターやEVなど電力を使う側は、生成AIと電化の広がりで年10%以上伸びるという。2030年の市場規模が最も大きいのはデータセンター向けの290億ドルで、家庭・業務用のヒートポンプ向けの230億ドルが続く。
表1 用途別の電力変換機器の市場 (単位 億ドル、2024年は本誌が逆算)
| 用途 | 2024年 | 2030年 | 年平均成長率 | 増減 |
|---|---|---|---|---|
| データセンター | 80 | 290 | +23% | +210 |
| 蓄電システム | 約44 | 約120 | +18% | +76 |
| 家庭・業務用ヒートポンプ | 約204 | 約230 | +2% | +26 |
| EV充電設備 | 約15 | 41 | +18% | +26 |
| 高圧直流送電 | 約27 | 約39 | +6% | +12 |
| 産業用ヒートポンプ | 約3.7 | 約10 | +18% | +6 |
| 水電解装置 | 約1.5 | 約6 | +26% | +5 |
| 大規模太陽光 | 約86 | 約76 | −2% | −10 |
| 家庭・業務用太陽光 | 約166 | 約130 | −4% | −36 |
出所: マッキンゼー (2026年9月10日)。2030年の値と年平均成長率から2024年を逆算し、合計は約627億ドルで同社の630億ドルと合う。EV充電設備と高圧直流送電の2024年は同社の記載値。
表1の2024年の値は、同社が示す2030年の規模と年平均成長率から記者が逆算した。ヒートポンプ向けは約204億ドル、家庭・業務用の太陽光発電向けは約166億ドル、大規模太陽光発電向けは約86億ドル、蓄電システム向けは約44億ドルになる。9つの用途を足すと約627億ドルで、同社の2024年の630億ドルと合う (記者の計算)。増減を並べると、2030年までの増加分約315億ドルのうち、データセンター向けが210億ドル、蓄電システム向けが76億ドルで、この2つで約9割を占める (記者の計算)。データセンター向けが市場全体に占める比率は、2024年の12.7%から2030年に30.9%へ上がる (記者の計算)。反対に、家庭・業務用の太陽光発電向けは約166億ドルから約130億ドルへ36億ドル、大規模太陽光発電向けは約86億ドルから約76億ドルへ10億ドル減る。同社は、家庭・業務用が縮む理由に値下がりと欧州などでの普及の一巡を、大規模用が縮む理由に値下がりと競争の激化を挙げる。
ほかの用途について、同社は次のように見込む。ヒートポンプ向けは年約2%の伸びでヒートポンプ市場全体の10〜15%にあたり、家庭用が約80%を占め、欧州は年4〜6%で伸びる。EV充電設備向けは2024年の約15億ドルから2030年に41億ドルに増え、2030年までに設置される直流の急速充電器は130万基を超え、約70%が中国で設置される。産業用ヒートポンプ向けは2030年に約10億ドルで、北米が年約25%、欧州と中国が約16%伸びる。水電解装置向けの整流器は年約26%で2030年に約6億ドルになるが、計画の遅れや中止で見通しは下方修正が続いてきた。
高圧直流送電の変換装置は、2024年の約27億ドルから2030年に約39億ドルへ年6%で伸びる。送電市場全体は2025年の約1,650億ドルから年4%で増え、2030年に2,000億ドルを超える。洋上風力の送電や中国の800キロボルトを超える送電線の更新、電力の流れを細かく制御できる半導体「IGBT」を使った装置への切り替えが伸びを支える。蓄電システム向けは2030年までに3倍の約120億ドルになる。大規模太陽光発電向けの約76億ドルについて、同社は2025年春のスペインとポルトガルの大停電以降、送電網の安定に役立つ機能の重要性が増したと指摘する。
同社は、データセンター、高圧直流送電、蓄電システムのように製品が複雑な分野では、冷却や無停電電源装置まで一括して提供できる企業や、制御ソフトウエアを機器に組み込める企業が有利になるとみる。家庭用のヒートポンプや太陽光のように製品が単純な分野では、製品の差が小さくなって値下がりが進む。機器メーカーの多くは特定の用途に特化しており、電力変換だけを手がける専業の企業は少ないため、用途をまたいだ買収による統合は難しいとも指摘している。増加の9割が2つの用途に集まる以上、同じ電力変換機器の企業でも、どの用途に強いかで成長の見通しは大きく変わる (記者の見立て)。
データセンターの電力容量は82GWから約220GWに増え、電力変換機器の市場は80億ドルから290億ドルへ年23%で伸びる
データセンターは電力変換機器を3つの場面で使う。交流を直流に変えて停電に備える蓄電池を充電する場面、直流を無停電電源装置の安定した交流やサーバー部品に合った電圧に変える場面、冷却ファンやポンプのモーターの回転数を調整する場面である。マッキンゼーによると、クラウドやAI、端末の近くでデータを処理するエッジコンピューティング、デジタルサービスの需要がデータセンターの増設を促し、世界のデータセンターに必要な電力容量は2025年の82GWから2030年に約220GWへ約2.7倍になる。220を82で割ると2.68倍である (記者の計算)。消費電力は2024〜2028年に年約40%で伸び、4倍に増えるという。年40%の伸びが4年続くと3.84倍になり、同社のいう4倍とほぼ合う (記者の計算)。
82GWと約220GWの出所は、同社が2025年4月28日に公表したデータセンター投資の分析である。同社はデータセンターに必要な容量が2030年までにほぼ3倍になり、その約70%がAI向けになるとみる。2030年のAI向けの容量は156GWで、2025〜2030年に125GW増える。需要の伸びが速い場合は205GW、鈍い場合は78GWの増加になるという想定も示し、AI向けの設備投資は5兆2,000億ドル、データセンター全体では6兆7,000億ドルと見積もった。台湾の調査会社トレンドフォースは2025年の世界のデータセンターの電力需要を122.9GW、2030年を490.7GWとみており、マッキンゼーの数字の約1.5倍と約2.2倍にあたる (記者の計算)。両社は集計の範囲が異なるため、どの基準の数字かを確かめてから比べる必要がある。トレンドフォースの見通しはデータセンターの電力需要161GWを扱った記事で検証した。
データセンター向けの電力変換機器の市場は、2024年の80億ドルから2025年に130億ドル、2026年に170億ドル、2027年に210億ドル、2028年に250億ドル、2029年に270億ドル、2030年に290億ドルへ増える。年平均の伸び率は23%で、公表された概数で計算すると24.0%になる (記者の計算)。同社は伸びる理由として、サーバーを収める棚 (ラック) 1台あたりの消費電力の増加、効率が高く必要な台数だけ組み合わせられる無停電電源装置の普及、冷却設備や電源装置でのインバーターの採用拡大を挙げる。立地は、電力を得やすい米国の地方や、低炭素の電源が多く気温が低いため冷却の電力を抑えられる欧州の地域へ広がるという。
2025〜2030年の6年間の市場を合計すると1,320億ドルになる。これを同じ期間の容量の増加138GWで割ると、1GWあたり約9億6,000万ドルになる (記者の計算)。市場には既存の設備の更新も含まれるため、新設1GWあたりの金額としては高めに出る数字だが、データセンターを1GW増やすごとに、電力変換機器だけで10億ドル近い支出が生じるという規模はつかめる (記者の見立て)。給電機器の市場と主な企業の位置づけはデータセンター向け電源の上位25社を扱った記事で整理した。
地域では北米が年17%で伸びて2030年に中華圏と並び、中華圏はデータセンター以外の用途が縮む
地域別に見ると、伸びの偏りはさらに鮮明になる。北米は2024年の110億ドルから2030年に290億ドルへ年17%で伸び、欧州 (EU27カ国と英国) は100億ドルから160億ドル、その他の地域は130億ドルから200億ドルで、ともに年7%である。同社の区分で中華圏 (中国本土、香港、マカオ、台湾) は280億ドルから300億ドルで、年1%にとどまる。市場の増加分310億ドルのうち180億ドル、約58%を北米が占める (記者の計算)。
表2 地域別の電力変換機器の市場 (単位 億ドル、かっこ内は市場全体に占める比率)
| 地域 | 2024年 | 2030年 | 年平均成長率 | データセンター向け |
|---|---|---|---|---|
| 北米 | 110 (17.5%) | 290 (30.9%) | +17% | 40→110 |
| 欧州 | 100 (15.9%) | 160 (17.0%) | +7% | 10→50 |
| その他の地域 | 130 (20.6%) | 200 (21.3%) | +7% | 10→60 |
| 中華圏 | 280 (44.4%) | 300 (31.9%) | +1% | 20→80 |
出所: マッキンゼー (2026年9月10日)。比率は本誌の計算。データセンター向けの地域別の年平均成長率は北米19%、欧州25%、その他の地域34%、中華圏22%。
中華圏の比率は2024年の44.4%から2030年に31.9%に下がり、北米は17.5%から30.9%に上がる。2030年には北米の290億ドルが中華圏の300億ドルとほぼ並ぶ (記者の計算)。データセンター向けに限ると、北米は40億ドルから110億ドルへ年19%、欧州は10億ドルから50億ドルへ年25%、その他の地域は10億ドルから60億ドルへ年34%、中華圏は20億ドルから80億ドルへ年22%で伸びる。
中華圏では、データセンター向けが20億ドルから80億ドルに増えるのに、地域全体は280億ドルから300億ドルにしか増えない。差し引くと、データセンター以外の用途は260億ドルから220億ドルに減る計算になる (記者の計算)。家庭・業務用の太陽光発電向けでは2025年時点で中国が約40%を占めており、太陽光発電向けの縮小が中華圏に集中して表れているとみられる (記者の見立て)。北米はデータセンター以外の用途も70億ドルから180億ドルに増えており、データセンター向けだけに頼らずに市場が広がる (記者の計算)。
電力変換機器の市場は2030年に約940億ドルへ年7%で広がるが、その増加は北米とデータセンター向けに集まり、太陽光発電向けと中華圏では伸びが止まる。同じ電力変換機器の企業でも、データセンターや蓄電システム向けに強く北米で売り上げを伸ばせる企業と、太陽光発電向けや中華圏への依存度が高い企業とでは、2030年までの事業環境が大きく異なる。
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