8月26日に87.77ドルだった北海ブレントは、9月15日に130.80ドルを付けた。3週間で1.49倍である。その頂から数えて3営業日の値下がりが、いま「インフレ懸念の後退」と呼ばれている。

9月18日の米国市場を伝える相場コメントは、原油安で米国のインフレへの懸念がやや和らぎ、株価指数先物がナスダック100先物を中心に小高く推移していると伝えた。原油先物は18日も下げて3日続落、米10年債利回りは今週2007年以来の高水準となる5%超えを付けた後に低下、前日は原油安と金利低下を背景に半導体とAI関連が買い戻された、という組み立てである。本稿はこの3つの前提を、セントルイス連邦準備銀行のデータベース、FRBの声明、日本銀行の公表資料で1つずつ確かめる。取得日は2026年9月19日である。

3日続落の前に、北海ブレントは3週間で49%上がっていた

まず原油の水準を確かめる。セントルイス連邦準備銀行が公表する日次の現物価格によれば、北海ブレントは8月26日の87.77ドルが直近の底で、そこから9月15日の130.80ドルまで49.0%上がった。WTIも同じ期間に83.46ドルから107.02ドルへ28.2%上がっている。9月10日に1日でブレントが120.98ドル、WTIが103.57ドルへ跳ねたのが上昇の中心にあたる。

表1 原油の現物価格 (単位はドル)

日付ブレントWTI
8月20日94.0089.754.25
8月26日87.7783.464.31
9月1日96.0291.484.54
9月10日120.98103.5717.41
9月15日130.80107.0223.78

出所: セントルイス連邦準備銀行の日次現物価格 (DCOILBRENTEU・DCOILWTICO)。差は記者が計算

北海ブレントとWTIの推移と、両者の差の拡大
北海ブレントとWTIの推移と、両者の差の拡大

同銀行が公表しているのは9月15日までで、16日から18日までの3日間の値は未取得である。したがって3日続落そのものは報道による。ただし続落が始まる直前の水準が130.80ドルだったことは確認できる。3日分の下げが49%の上昇をどこまで戻したかは、公表を待つほかない。

米国のエネルギー物価の側から見ても、懸念が和らいだと呼べる状態には遠い。消費者物価のエネルギーは前年比で2026年1月に−0.3%だったものが、3月に+12.6%、5月に+23.0%へ上がり、8月でも+16.0%である。原油が3日下げたところで、前年比16%の上昇が消えるわけではない。

ブレントとWTIの差は23.78ドル、2026年平均の3.05倍に開いた

原油高の中身を見ると、上げ方が2つの油種で対称でない。ブレントとWTIの差は9月1日に4.54ドルだったものが、9月15日には23.78ドルへ広がった。2026年の平均は7.79ドルなので、3.05倍の開きである。年内の最大は4月8日の25.94ドルで、9月15日はそれに迫る。

差が開くこと自体が中東の供給不安を示している。ブレントは北海産の油種だが、欧州とアジア向けの海上輸送される原油の値決めの基準として使われるため、中東からの出荷が滞る懸念が真っ先に乗る。WTIは米国内陸の油種で、パイプラインで内陸の精製所に届くため、海上輸送の遮断の影響を受けにくい。サウジアラビアとフーシ派による攻撃の応酬、そして湾岸産油国が別ルートで輸出できるとの期待は、どちらもブレント側にだけ強く効く材料である。

中国がイランに対してフーシ派を抑えるよう協力を求めたとの報道も、同じ構図に属する。海上輸送の安全が戻れば差は縮み、戻らなければ差は残る。3日続落が「懸念の後退」なのか「一時的な調整」なのかは、価格の水準より両者の差を見たほうが早い。9月15日時点で差は年平均の3倍のまま開いており、現物市場では需給の逼迫が続いているという報道とも整合する。

米10年債利回りの5%超えは、2007年7月19日以来19年2か月ぶりだった

次に金利を確かめる。米10年債利回りは9月15日に5.00%、16日に5.01%を付けた。1990年以降の9,183件の日次データをさかのぼると、5.00%以上だった最後の日は2007年7月19日の5.04%である。19年2か月ぶりにあたり、相場コメントの「2007年以来の高水準」という記述は正確だった。2000年以降で5.00%以上があったのは2000年、2001年、2002年、2006年、2007年の5年だけである。

米10年債利回りの2026年の推移と、19年ぶりに越えた5%の線
米10年債利回りの2026年の推移と、19年ぶりに越えた5%の線

2026年の動きも急である。最低は2月27日の3.97%で、9月16日の5.01%まで1.04ポイント上がった。直近は9月10日4.95%、11日4.96%、14日4.97%、15日5.00%、16日5.01%と、じりじり切り上がっている。参考までに2007年の最高は6月12日の5.26%だった。

長期金利の上昇が株価評価の高いハイテク株の重荷になりやすい、という見方は一般論として正しい。ただし19年ぶりの水準に達した直後の1、2日の低下を打ち止めと読むのは早い。金利を押し上げてきた原油が、まだ3週間前の49%高の位置にいるからである。

同じ週に日銀とFRBが利上げした。FRBは12対0、日銀は7対2で割れた

原油高は中央銀行の決定にすでに現れている。FRBは9月16日に誘導目標レンジを3.75〜4.00%へ0.25ポイント引き上げた。声明は「インフレは高止まりしている。本日の政策行動は2%目標への一段と早い回帰を支える」と述べ、採決は12対0で反対はいなかった。セントルイス連邦準備銀行のデータでも、誘導目標レンジは9月16日まで3.50〜3.75%、17日から3.75〜4.00%に切り替わっている。

その2日後の9月18日、日本銀行も無担保コールレート (オーバーナイト物) の誘導目標を1.0%程度から1.25%程度へ0.25ポイント引き上げた。適用は翌営業日の9月24日から、基準貸付利率は1.5%である。

表2 同じ週の2つの決定

区分FRB日銀
決定日9月16日9月18日
変更後3.75〜4.00%1.25%程度
引き上げ幅0.25ポイント0.25ポイント
採決12対0賛成7反対2
原油への言及声明になし利上げの背景として明記

出所: FRBの2026年9月16日の声明と、日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日)

同じ週の2つの利上げと、原油高の位置づけの違い
同じ週の2つの利上げと、原油高の位置づけの違い

同じ方向へ同じ幅だけ動きながら、2つの中央銀行は原油高の扱いと内部の一致度で分かれた。FRBの声明はインフレが高止まりしているとだけ述べ、エネルギー価格には触れていない。全員が賛成した。日本銀行は「中東情勢の影響を受けた春先以降の原油価格上昇が下押し要因となる」と景気の見通しに書き、物価については「原油高や為替円安に加え、AI関連需要拡大の影響から、国内企業物価は前年比で高い伸びが続いている」と明記した。そのうえで採決は賛成7、反対2に割れ、浅田統一郎委員と佐藤綾野委員が反対した。原油高を理由として前面に出した側のほうが、内部では割れている。

米国の誘導目標レンジの中央値3.875%と日本の1.25%の差は2.625ポイントになる。日米の金利差と円相場の関係は金利差を実額で検算した記事で扱った。FOMCの見通しが日本株の指数にどう伝わるかは9月会合の分布図を日経平均とTOPIXに当てた記事で検証している。

日本の輸入物価は円ベースで24.8%高、うち8.1ポイントは円安分

日本の読者にとって、原油高は為替と組み合わさって届く。日本銀行が9月11日に公表した企業物価指数の2026年8月速報によれば、輸入物価指数は円ベースで前年比24.8%高、契約通貨ベースで16.7%高だった。差の8.1ポイントが円安の寄与にあたる。輸入する原油そのものの値上がりに、払う円の目減りが上乗せされている。

表3 日本の物価 (2026年8月速報・前年比)

指数円ベース契約通貨ベース
輸入物価指数+24.8%+16.7%
輸出物価指数+17.9%
国内企業物価指数+7.6%

出所: 日本銀行調査統計局「企業物価指数 (2026年8月速報)」2026年9月11日公表。円ベースと契約通貨ベースの差8.1ポイントは記者が計算

推移を見ると、原油高が届くまでの時間差もはっきりする。輸入物価の前年比は3月に8.3%だったものが4月に21.7%、5月に26.4%、6月に30.6%へ上がり、7月29.3%、8月24.8%と高止まりしている。国内企業物価の前年比も2月の2.2%から4月5.5%、6月7.4%、7月7.7%、8月7.6%へ切り上がった。8月の前月比は国内企業物価が−0.2%、輸入物価が円ベースで−3.0%と一服したが、水準は前年比で7%台と24%台のままである。

日本銀行が9月18日に示した見通しでは、消費者物価 (除く生鮮食品) の前年比は足元の1%台後半から2026年度後半以降に2%をはっきりと上回る。その理由として挙げられたのは、これまでの原油価格上昇に加えて、AI関連需要の増加に伴う半導体価格などの上昇と最近の円安である。リスク要因にも中東情勢、AI関連需要の拡大、為替相場の変動が並ぶ。半導体の好況が国内の物価を通じて政策金利に効いてくる経路は対米投資の半導体工場を検算した記事でも扱った。

14日に半導体関連を動かしたのは金利ではなく、AI大手トップの呼びかけだった

相場コメントは17日の半導体とAI関連の買い戻しを、原油安と金利低下によるものと説明していた。ただし今週の値動きの起点をたどると、別の要因が先に立っている。

9月12日、アンソロピックのダリオ・アモデイ氏が「We Must Pace the Frontier」と題した文書を公表し、モデルの能力を上げる速度そのものを落とすべきだと主張した。同じ日にオープンAIのサム・アルトマン氏が同意を示し、xAIのイーロン・マスク氏とグーグル・ディープマインドのデミス・ハサビス氏も方向性に同調している。半導体関連が売られたのはその2営業日後の9月14日で、原油と金利の動きより先にこの呼びかけがあった。

つまり今週の半導体関連は、金利という外側の要因と、開発ペースという内側の要因の2つに挟まれている。17日の買い戻しを金利だけで説明すると、14日に下げた理由が説明できない。相場コメントが確認点として挙げた「米10年債利回りの動きと半導体株の戻りが続くか」は、この2つを分けて見ないと答えが出ない問いである。なお当日は四半期に一度の株価指数先物・オプションの同時満期にあたり、売買が膨らみやすい日でもあった。

原油の3日続落は、49%の上昇の頂から数えた3日分である。ブレントとWTIの差は年平均の3倍のまま開き、米国のエネルギー物価は前年比16%高、日本の輸入物価は円ベースで24.8%高にある。日銀とFRBはその原油高を挟んで同じ週に利上げし、米10年債利回りは19年2か月ぶりに5%を越えた。3日分の値下がりが変えたのは相場の気分であって、中央銀行が根拠に置いた数字ではない。

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