フードデリバリーで1件あたりの代金が最も大きいのは客単価34.10ドルの米国だが、利益率が最も高いのは7.20ドルの中国だった。日本は18.40ドルの注文を運びながら1件54セントを失っている。単価の高さと利益は連動しない。

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検索者が知りたいこと: ①なぜ料理宅配は赤字なのか ②単価が高い国ほど儲かるのか ③日本の市場は伸びるのか
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料理を運ぶ事業の採算は、いくらの注文を運ぶかでは決まらない。誰の注文を、誰に運ばせるかで決まる。この構造を最も鮮明に示したのが、2026年9月10日付でバーンスタイン (ソシエテ・ジェネラル・グループ) が出したインドの出前市場についての分析である。同社はインドの2強であるEternal (旧Zomato) とSwiggyに新規参入の圧力がかかっている状況を、2025年から2026年にかけて中国で起きた出来事と並べた。JDとアリババがメイトゥアンの首位を崩そうとして投じた額は約300億ドルにのぼる。その結末が、インドで同じことが起きるかどうかの手がかりになるという見立てである。

本稿はその見立てを日本の家計統計と有価証券報告書、米国の四半期報告書で検算し、バーンスタインが置いていない日本と米国を同じ軸の上に並べ直した。

フードデリバリーの客単価18.4ドルの日本が赤字で、7.2ドルの中国が黒字

1件あたりの数字を4つの市場で並べると、単価と利益が逆を向いていることがすぐ分かる。

1件あたりの客単価と利益
1件あたりの客単価と利益

メイトゥアンの2024年4月から6月にかけての四半期は、出前の市場シェアが約70%で、稼ぐ力が最も強かった時期にあたる。この期の客単価は約7.20ドルで、1件あたり約0.30ドルの営業利益を得ている。率にすると4.2%である。インドのEternalは2027年3月期の第1四半期、つまり2026年4月から6月にかけて、客単価約5.20ドルで1件あたり約0.20ドルの調整後EBITDAを稼いだ。規模はメイトゥアンの29分の1でありながら、利益率は3.8%とほぼ並ぶ。Swiggyもシェアと規模が下でありながら同水準の1件あたり利益を出している。

年間で見ても同じ向きになる。バーンスタインはシェアが約75%に達した時期のメイトゥアンの営業利益率を3.9%、Eternalを4.6%と算定した。市場規模が22分の1の側が、上回っている。

日本と米国を同じ表に加えると、差はさらに開く。出前館の2025年8月期は流通取引総額1,672億円を注文数6,074万件で運んだ。1件あたり2,753円、1ドル149.63円で換算して18.40ドルになる。同期の営業損益は49億円の損失だから、1件ごとに81円、0.54ドルを失っている計算になる。ドアダッシュの2026年4月から6月にかけての四半期は、注文9億7,000万件に対し取扱高330億7,800万ドル、1件あたり34.10ドルである。調整後EBITDAは9億1,400万ドルで、1件あたり0.94ドル、取扱高に対して2.8%だった。

市場客単価1件あたり利益対客単価期間
日本 (出前館)18.40ドル−0.54ドル−2.9%2025年8月期
米国 (ドアダッシュ)34.10ドル+0.94ドル2.8%2026年4-6月期
インド (Eternal)5.20ドル+0.20ドル3.8%2027年3月期1Q
中国 (メイトゥアン)7.20ドル+0.30ドル4.2%2024年4-6月期

単価が最も低い2つの市場が、利益率では上位2つを占めている。

絶対額では話が逆になる。メイトゥアンの出前の流通総額は2026年3月期の第1四半期を年率に直して約1,640億ドル、Eternalの注文総額は2027年3月期の第1四半期を年率に直して約60億ドルで、29倍の開きがある。利益も、メイトゥアンの2024年3月期の営業利益49億ドルに対しEternalの2026年3月期の調整後EBITDAは2億ドルで、23倍である。利益率では並び、稼ぐ総額では2桁違う。この形が、インドの市場で何が起こりうるかを決めている。

1注文が平均所得の何日分かで、物差しをそろえる

バーンスタインはこの逆転を、1人あたり所得で割った客単価で説明している。インドの客単価5ドルに対して1人あたり国内総生産は2,500ドル、中国は7ドルに対して1万4,000ドルという対比である。世界銀行の2025年の値で確かめると、インド2,702ドル、中国1万3,862ドル、日本3万5,951ドル、米国9万27ドルであり、前提としている水準はおおむね合っている。

この比率を日数に直すと意味が取りやすい。1件の注文が、その国の平均的な人の何日分の所得にあたるかである。

1注文は平均所得の何日分か
1注文は平均所得の何日分か

インドだけが0.70日と突出している。中国と日本はどちらも0.19日で、ほぼ同じ位置に立つ。米国は0.14日と最も低い。

この数字が測っているのは、その市場の料理宅配が所得階層のどのあたりに客を持っているかである。インドの2社は、国全体の平均から見て約4分の3日分の食事を売っている。これは平均的なインドの人が日常的に使う価格ではない。一方で配達にかかる費用は国全体の賃金水準で決まる。受け取る手数料は上位層の所得に連動し、費用は全体の平均に連動する。この開きが大きいほど利益率は構造的に高くなる、というのがバーンスタインの主張の核心であり、数字はそれを支持している。

裏を返せば、インドの2社の高い利益率は市場に厚みがあることの証明ではない。層の薄い市場で、上澄みだけをすくっている状態を表している。低単価の需要を取りに行けば、利益率は下がる。バーンスタインもその先を「絶対額の利益は増えるが、利益率は構造的に下がる」と書いている。

8年分の推移が示す、伸び方の違い

市場の厚みは1年の断面では見えない。バーンスタインが集計した8年分を並べる。金額は10億ドル単位である。

年度中国 外食市場1人あたり出前市場外食に占める比率インド 外食市場1人あたり出前市場外食に占める比率
1年目636453ドル6610%3928ドル1.23%
2年目695494ドル8312%4532ドル3.37%
3年目588417ドル9316%4532ドル7.216%
4年目698494ドル12818%2115ドル4.320%
5年目654463ドル14722%5035ドル5.912%
6年目787558ドル16922%5639ドル6.712%
7年目829588ドル18023%6042ドル7.713%
8年目863613ドル23027%6444ドル8.914%
9年目7047ドル10.415%

中国は暦年、インドは3月期で、1年目はそれぞれ2018年と2018年3月期にあたる。中国の外食市場の年平均成長率は4.5%で、同じ期間の小売消費の伸び約4%をわずかに上回る程度である。インドは7.5%と速いが、民間最終消費支出の伸び10.6%には届いていない。外食が消費全体より遅く伸びている、という形になる。

1人あたり国内総生産に占める外食支出も対照的で、中国は約4.5%で上昇が続き、インドは2%未満のまま配分が動いていない。インドの4年目の落ち込みと出前比率20%はコロナ禍による外食の縮小で、分母が21に縮んだ結果である。

家計調査が映す外食17.5% ― 所得ではなく習慣が市場の厚みを決める

では所得が上がれば市場は厚くなるのか。日本を置くと、その仮説が崩れる。

総務省の家計調査で二人以上の世帯の2025年の支出を見ると、食料は1世帯あたり年間113万8,736円、そのうち外食は19万8,759円だった。食費に占める外食の比率は17.5%である。世帯人員2.87人で割って1人あたりに直すと、食費39万6,772円、外食6万9,254円になる。1ドル149.63円では食費2,652ドル、外食463ドルである。

バーンスタインが示した中国の1人あたりは食費1,283ドル、外食613ドルで、外食の比率は47.8%。インドは食費330ドル、外食47ドルで14.2%である。

食費のうち外で食べる分
食費のうち外で食べる分

日本は中国の2.6倍の所得を持ちながら、食費に占める外食の比率は3分の1近くしかない。金額で見ても、1人あたりの外食支出は463ドルで中国の613ドルを下回る。円安の影響を除いても比率は変わらないから、この差は為替ではなく行動の差である。

家計調査の8年分を追うと、外食比率は2018年18.0%、2019年18.3%まで上がったあと2021年に13.2%まで落ち、2025年になっても17.5%で、コロナ禍前の水準に戻っていない。所得が増えた分は食費全体に向かい、外で食べる側には戻っていない。

バーンスタインはインドと中国の13倍の差を「約4倍の所得差と約3倍の行動差の掛け算」と分解した。日本を加えると、この2つの軸のうち行動の側が効いていることがはっきりする。所得だけで決まるなら、日本は中国より厚みのある市場になっていなければならない。実際には逆である。

縮むフードデリバリー市場 ― 出前館は3つの指標が同時に減った

行動が変わらない市場で料理宅配がどうなるかは、日本に実例がある。

出前館は3つの指標が同時に縮んだ
出前館は3つの指標が同時に縮んだ

出前館の2025年8月期は、流通取引総額が前期の1,905億円から1,672億円へ12.2%減り、注文数は7,032万件から6,074万件へ13.6%減り、1年以内に1回以上注文した利用者は542万人から455万人へ16.1%減った。取扱高だけでなく、注文の回数も、注文する人の数も、同時に減っている。売上高は397億円で、期初計画の530億円に届かなかった。売上総利益率は23%から11.5%へ半減し、営業損益は49億円の損失である。

直近5期の経常損失を足すと787億円になる。同社は2021年9月に約830億円を調達しており、その大半が5年で取り崩された計算になる。従業員は392人、臨時雇用者は年間平均238人で、これは1,672億円の取扱高を扱う組織としては極めて小さい。配達の大半を外部に委託しているからである。

市場そのものも縮んでいる。同社の有価証券報告書は、日本のフードデリバリー市場が2019年の4,183億円から2023年の8,622億円へ急拡大したあと、2024年は前年比7.6%減の7,967億円になると記している。出所はCircana (サカーナ・ジャパン) である。

同じ報告書には、市場の厚みについて同社自身の見立ても書かれている。日本の浸透率は10%にも達しておらず、中国や韓国では30%前後だという記述である。バーンスタインが中国について示した27%という数字と、日本の企業が自社の開示で書いた30%前後という水準は、別々の経路から同じ水準を示している。

もう1つ、この期には短い実験の記録が残っている。2024年8月にLINEヤフーと共同で始めた生鮮食品や日用品を最短30分で届ける取り組みは、2025年8月に終了した。開始から1年である。中国で出前とクイックコマースとネット通販が融合したのと同じ動きを日本でも試したが、定着しなかった。

30分で届ける機能が、どのサービスにも付くようになった

中国で300億ドルが動いた理由と結末は、事業の構造から追える。

ネット通販の成長が鈍ると、既存の通販事業者は次の成長分野を探す。注文の頻度が最も高い消費行動は食事であり、そこに毎日接しているのがメイトゥアンだった。JDとアリババが狙ったのは料理そのものではなく、料理を通じて得られる利用頻度の高い接点である。同じ配達網は日用品にも医薬品にも使える。だから出前の争奪は、そのまま即時配送の争奪になった。

結末は勝敗の入れ替わりではなかった。バーンスタインの整理では、メイトゥアンは高単価側の首位を守り切った。一方で30分で物が届くという機能は複数のサービスで当たり前になり、低単価帯はネット通販が客を集めるための入り口に変わった。出前とクイックコマースとネット通販の境目は元に戻らない、というのが同社の見方である。

参戦した側の開示にも痕跡がある。アリババが米国証券取引委員会に出した2026年6月までの四半期の資料では、営業利益が151億6,100万元 (22億3,400万ドル) と前年同期比57%減、調整後EBITAは273億2,900万元 (40億2,800万ドル) と30%減だった。JDは2026年4月から6月の四半期について、出前事業の投資規模が前年同期比で大幅に縮小したと自ら記している。攻勢をかけた側が支出を絞り始めたことの表れである。なお300億ドルという総額はバーンスタインの推計であり、両社の開示から累計額を直接確認することはできなかった。

300億ドルという金額は、崩そうとした参入障壁の高さの裏返しでもある。バーンスタインはこれを「事前の参入障壁が低かったことではなく、高かったことの証明」と書いた。

挑戦者が越えられない3つの壁

バーンスタインは、インドで安い価格帯を開いて需要の裾野を広げようとする挑戦者が、3つの問題を同時に解く必要があると整理している。

1つ目は需要そのものの薄さである。インドの1人あたりの外食支出は年間50ドルから60ドルにとどまる。食文化と所得の水準の両方が理由であり、業界の努力で短期間に動く性質のものではない。家庭での食事が中心のままである。

2つ目は立地である。低単価の需要は大都市に偏在している。客を獲得する費用と、注文を届ける費用に下限ができる。単価を下げても、下げた分だけ費用が下がるわけではない。

3つ目は費用構造である。飲食店から取る手数料率を下げるだけでは代替にならない。費用構造そのものを変える必要があり、そちらのほうがはるかに難しい。

バーンスタインはこの3点に説得力のある答えが現時点で見当たらないとしている。インドの低単価帯の客単価は150ルピーから175ルピー未満、同社がドル換算に使った1ドル95ルピーで2ドルを下回る水準である。この価格で運んで利益を出す仕組みは、まだ誰も示していない。

インドの挑戦者に不足しているのは意志ではなく原資である。中国の争いは、ネット通販という別の利益源を持つ2社が資金を注いで成立した。インドの挑戦者にはその利益源がない。だから既存の2社にとっては、中国で起きたようなシェアが一気に崩れる展開ではなく、緩やかな競争の激化になる、というのがバーンスタインの結論である。

日本の投資家が見る指標

この記事の出来事が効く企業と、見るべき指標を並べる。数字はいずれも一次資料から取った実績値である。

企業この出来事が効く指標直近の実績
出前館 (2484)注文数と1年以内に注文した人の数6,074万件・455万人。いずれも2桁減 (2025年8月期)
すかいらーくホールディングス (3197)自社宅配網と外部委託の比率営業利益299億5,700万円・当期利益167億4,800万円 (2025年12月期)
日本マクドナルドホールディングス (2702)外部委託先の撤退リスク売上高4,166億200万円・経常利益520億5,100万円。既存店は41四半期連続増 (2025年12月期)
ソフトバンクグループ (9984)インド向け投資に関する記載の量売上高7兆7,986億5,000万円・税引前利益6兆1,349億500万円 (2026年3月期)
ドアダッシュ (DASH)取扱高に対する調整後EBITDA率2.8%。売上高は2023年86億3,500万ドルから2025年137億1,700万ドルへ
アリババ (BABA)即時配送への投資が利益を押し下げる幅営業利益が前年同期比57%減 (2026年6月までの四半期)

外食側の2社の開示は、料理宅配を成長の源ではなく供給元として扱っている点で共通している。すかいらーくは自社宅配網と第三者の配達サービスの両方を使い、品質と価格の競争力を保つ仕組みを導入したと記している。日本マクドナルドホールディングスは、複数の外部業者に配達業務を委託しており、業者の撤退や法令の整備でサービスの仕組みが大きく変わると財政状態と業績に影響しうる、とリスク要因の欄に記している。宅配を担う側の採算が悪化すれば、委託する側にも影響が及ぶ。

ソフトバンクグループの2026年3月期の有価証券報告書には「インド」が2回しか現れない。同社がインドの出前市場を投資家に説明すべき重要な論点として扱っていないことを示している。

この先の注目点

日付が決まっているものを3つ挙げる。

出前館の2026年8月期は、会社自身が営業損益40億円の損失を見込んでいる。損失幅は縮むが黒字化の計画ではない。決算の発表は例年10月であり、注文数と利用者数が減り続けるかどうかが最初の見どころになる。

ドアダッシュの2026年7月から9月の四半期は、取扱高に対する調整後EBITDA率が2.8%からどう動くかが焦点である。同社は2025年に通期で営業黒字7億2,300万ドルへ転じており、単価34ドルの市場で薄い利益率を積み上げる収益構造が続くかを測れる。

アリババとJDの次の四半期開示では、JDが述べた投資規模の縮小が続くかどうかが分かる。縮小が続けば、300億ドルの争いは費用の回収局面に入ったことになる。

よくある質問

フードデリバリーはなぜ赤字になりやすいのですか。
注文1件ごとに人が動く事業なので、注文が増えても1件あたりの費用がほとんど下がらないためです。出前館の2025年8月期は売上総利益率が23%から11.5%へ半減し、1件あたり81円の営業損失が出ました。規模を追うほど損失が増える構造になりやすく、利益はシェアではなく1件あたりの利益率で決まります。

客単価が高い日本のほうが有利ではないのですか。
逆でした。日本の客単価18.40ドルに対し中国は7.20ドルですが、利益率は中国が4.2%で日本は−2.9%です。単価は料理の値段で決まり、費用は配達にかかる人件費で決まります。両者の開きが利益を作るので、単価そのものの高さは有利さを意味しません。

インドの出前市場はこれから伸びますか。
市場の比率は年100ベーシスポイントから150ベーシスポイントずつ上がっており、2026年3月期で外食の約15%に達しています。ただし外食そのものが食費の14.2%しかないため、伸びる速さは所得と食習慣の変化に縛られます。バーンスタインは、ネット利用への移行ではなく外で食べる習慣の薄さが制約だとしています。

300億ドルの争いは日本でも起きますか。
起きにくい条件がそろっています。日本の市場規模は2024年に7,967億円で前年比7.6%減、出前館の取扱高も2桁減です。縮む市場に大規模な販促費を投じる理由は乏しく、LINEヤフーと出前館が2024年8月に始めたクイックコマースの取り組みも1年で終了しました。

外食企業の株にはどう影響しますか。
配達を外部に委託している企業では、委託先の採算悪化が手数料の引き上げや撤退につながります。日本マクドナルドホールディングスは業者の撤退をリスク要因として明記し、すかいらーくホールディングスは自社宅配網と第三者の併用で分散させています。委託比率と自社配達の有無が、影響の受け方を分けます。

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