米政府が不正加入として取り消したオバマケアの加入について、国に戻る補助金22億ドルを負担するのは加入者ではなく、補助金を受け取っていた保険会社だ。取り消されるのは保険をほぼ使わない加入者が中心で、保険会社は主に保険料収入を失う。

バンス副大統領は9月22日、ホワイトハウスで記者会見し、医療保険制度改革法(オバマケア)に基づく約76万人分の加入を、不正加入として取り消したと発表した。政府は22億ドルの歳出削減につながると説明している。22億ドルは加入者が払った保険料ではない。国が加入者に代わって保険会社に支払っていた保険料の補助金で、返還するのは保険会社である。1人あたりに換算すると2,895ドルで、2026年の平均支給額の4.3か月分にあたる。投資家にとっては、加入者数よりも保険会社の保険料収入への影響が焦点になる。

76万人分の加入は8月31日に取り消し済みで、連邦の加入サイト経由の4.8%にあたる

記者会見には、オバマケアを所管する米メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)のメフメト・オズ長官と、米連邦取引委員会(FTC)のアンドリュー・ファーガソン委員長が同席した。バンス副大統領が率いるホワイトハウスの不正撲滅の作業部会は、保健福祉省やCMSと連携して取り締まりを進めており、対象者は不正に登録されていたと結論づけた。バンス副大統領は、不正加入の疑いがある約41万9,000人についても追加で資格を確認すると述べ、加入者を不正に登録させた一部の保険代理店の登録も停止するとした。

CMSが同日公表した資料によると、取り消しは発表に先立つ8月31日に実施されていた。対象は連邦政府が運営する医療保険取引所の約31万5,000件の契約で、加入者は76万人を超える。1件あたりの加入者は2.4人で、家族で加入する契約が多い。CMSと保険会社が調査し、本人の同意がない加入と確認したものを取り消した。2026年の加入期間に連邦政府の加入サイトを使う州で保険に加入したのは約1,577万人(CMSの州別統計)で、76万人はその4.8%にあたる。州が独自に運営する取引所を含めた全米の加入者は約2,313万人(CMSの発表では2,310万人)で、州の取引所の加入者は約736万人だった。

代理店への処分も段階的に進む。CMSは2026年1月以降、200を超える代理店に契約の解除を通知した。今夏には、社会保障番号などが抜けた申請を出した569の代理店に解除を予告し、回答期限を過ぎた最初の100のうち66の契約をすでに解除した。残る469にも期限後に通知する。2026年に初めて登録した代理店が仲介した加入は、それ以前から登録している代理店に比べ、所得の確認が済んでいない例が2.8倍、社会保障番号が抜けている例が2.7倍、市民権や在留資格の確認が済んでいない例が2.6倍多かった。確認を経ずに使える特別加入期間の利用は1.6倍、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)の申請を断られたとする申告と、メディケイドとの二重加入はそれぞれ1.4倍だった。

不正加入の推計は600万人前後から260万人まで開きがあり、今回の取り消しは76万人
不正加入の推計は600万人前後から260万人まで開きがあり、今回の取り消しは76万人

CMSはこれを受け、2026年に取引所との契約がない代理店について、2027年分の新規登録を一時停止する。既存の代理店には政府の本人確認サービスでの本人確認のやり直しを求め、代理店が関わる申請では新生児を除く全員の社会保障番号か在留書類の番号の記入を義務づける。代理店が手続きする前に、加入者本人の同意を電子的に得る仕組みも導入する。代理店の影響力は大きい。連邦政府の加入サイトを使う州では、2026年の加入者の77.9%にあたる約1,229万人が代理店を通じて加入した。

不正加入の推計は600万人前後から260万人まで開きがある

不正加入の規模の推計は、発表元によって大きく異なる。ある研究機関は今年初め、オバマケアの加入者のうち約600万人が不正加入だと推計した。本人が知らないうちに登録された人や、代理店が作り上げた架空の加入者を含む数字だ。同研究機関のブライアン・ブレイス氏はトランプ氏の1期目に経済担当の補佐官を務めた人物で、「代理店の資格停止と架空加入者の登録抹消を歓迎する。納税者の負担は毎年数十億ドル減る」と述べた。オズ長官はかねて、オバマケアの加入の3分の1程度が不適切だとの見方を示しており、6月の記者会見では「オバマケアを大切に思うなら、不正の排除を望むはずだ」と語った。

政府の推計はこれより少ない。保健福祉省の計画評価局が6月26日に公表した報告によると、不適切な加入、本人が知らない加入、不正加入の合計は2025年に560万人でピークに達した。政権の対策で約150万人への補助金の支給を止め、2026年2月までにさらに140万人の加入を取り消すか阻止し、計290万人を減らした。それでも260万人が残り、うち100万人超は社会保障番号の登録がないと推計する。これは2026年2月時点で保険料を払って加入していた1,920万人の13.2%にあたる。1年前の2025年2月の加入者は2,210万人だった。オズ長官の「3分の1」を1,920万人に当てはめると640万人となり、計画評価局の推計の2.5倍になる。今回の76万人は、計画評価局が残るとした260万人の29%にとどまる。CMSは2025年にも、補助金の対象外だった人や本人の同意がない加入など150万人近くについて、補助金の支給や保険の適用を打ち切っている。

推計の根拠の一つは、保険を一度も使わない加入者の多さだ。計画評価局によると、所得が貧困ラインの100〜150%で保険料の自己負担がゼロになる保険プランの加入者は、2024年に40%が1年間一度も保険を使わなかった。保険料を一部でも負担するプランでは、この割合はおおむね25%未満だった。保険料の請求書が届かなければ、本人は加入に気づかない。代理店は加入者1人あたり月5〜30ドルの手数料を受け取り、2024年には自動更新を除く加入手続きの78%を仲介した。2021年は55%だった。CMSは2025年にも、同意なく加入させられた25万人の保険を取り消し、無断でのプラン変更20万件を見つけている。

22億ドルは保険会社が国に返す補助金で、1人あたり平均支給額の4.3か月分

政府が削減できるとする22億ドルは、保険料の補助金(保険料の税額控除の前払い分)である。加入者の所得に応じて国が保険料の一部を肩代わりし、その分を毎月保険会社に直接支払う仕組みで、加入者は差額だけを負担する。加入が取り消されれば、保険会社は受け取った補助金を国に返還する。ケネディ保健福祉長官は「本人の同意がない加入を打ち切り、約22億ドルの補助金を納税者に返す」と述べた。CMSは今後も保険会社と連携して疑わしい加入を調べ、取り消した加入について過去に支給した補助金を回収するとしている。

1人あたり2,895ドルは、月平均支給額674ドルの4.3か月分にあたる
1人あたり2,895ドルは、月平均支給額674ドルの4.3か月分にあたる

22億ドルを76万人で割ると、1人あたり2,895ドルになる。2026年の加入期間に連邦政府の加入サイトを使う州で補助金を受けた約1,424万人の平均支給額は月674ドルで、2,895ドルはその4.3か月分、1年分(8,088ドル)の36%にあたる。補助金を差し引いた加入者の負担は月平均137ドルにとどまる。CMSは、どの月の補助金が返還されるのかを明らかにしていない。取り消した8月31日から年末までは4か月で、76万人に674ドルと4か月を掛けると約20億5,000万ドルとなり、22億ドルに近い。記者の見立てでは、22億ドルは年初にさかのぼった全額ではなく、年末までに支給する予定だった分に、過去の支給分の一部を加えた規模とみられる。さかのぼる期間によって、保険会社の返還額は変わる可能性がある。

政権は、支払った後に不正を見つけて回収する従来の方式をやめ、人工知能(AI)による分析で不正の手口を見つけ、支払う前に食い止める方式に切り替えたと説明する。保健福祉省幹部のクリス・クロンプ氏は記者会見で「不正の手口は常に変わっている」と述べた。支給前に止められれば、国は回収の手間を省ける。ただ、すでに支給した分については、保険会社が返還を求められる。その規模は保険会社の開示資料に表れている。

医療保険取引所の加入者は大手2社で4〜6割減り、加入者が増えたオスカーは返還見込み額が8倍に

返還の規模が最もはっきり分かるのは、医療保険取引所向けの保険を主力とするオスカー・ヘルスの開示だ。同社の2026年4〜6月期の四半期報告書によると、国への返還を見込む補助金は2025年12月末の1億3,810万ドルから、2026年6月末には11億ドルと8.0倍に増えた。同社は、保険料の未払いで加入者が脱退する見込みのときや、国の不正対策で加入がさかのぼって取り消される見込みのときに、返還額を計上している。同社の元受け保険料の90%は国からの補助金が占める。CMSが加入資格を定期的に照会し、その結果、加入が取り消されることがあるとも開示している。6月末の数字は8月31日の取り消しより前のものだ。

医療保険取引所の加入者は2社で大きく減り、オスカーは返還見込み額が8倍に
医療保険取引所の加入者は2社で大きく減り、オスカーは返還見込み額が8倍に

加入者の増減は3社で分かれた。取引所向けの最大手センティーンの加入者は、2025年6月末の約586万人から、12月末の約554万人を経て、2026年6月末には約349万人と40.4%減った。同社は、補助金の上乗せ措置の終了と規則の変更で、残る加入者に医療費のかかる人の割合が高まるとみて、2026年は加入者の95%が対象となる保険料の引き上げに踏み切り、これが加入者の減少につながったと説明する。モリーナ・ヘルスケアは69万人から12月末の65万5,000人を経て28万3,000人と59.0%減り、年末には約25万人に減る見込みだ。オスカーは約202万人から約296万人と46.9%増えた。2021年の米国救済計画法で拡充され、インフレ抑制法で延長された補助金の上乗せ措置は2025年末で期限切れとなり、保険料を負担できなくなった人の脱退が相次いだ。CMSによると、2026年の加入者の46%は世帯所得が貧困ラインの100〜150%で、大半が補助金を受けている。

記者の見立てでは、不正加入の取り消しは保険会社の保険料収入を減らすが、医療費はそれほど減らさない。取り消しの対象は本人が知らない加入が中心で、計画評価局の調べでは、自己負担がゼロのプランの加入者の40%が1年間一度も保険を使っていなかった。保険をほとんど使わない加入者が抜けるため、残る加入者に占める医療費のかかる人の割合はむしろ高まる。センティーンが保険料を引き上げた理由と同じ構図だ。国が取り戻す22億ドルは、補助金を受け取っていた保険会社の保険料収入から返還される。加入者を増やしたオスカーでは、返還見込み額がすでに半年で8倍に膨らんでいる。

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