本番で動くAIは9つの仕組みでできているが、他社と共通の公開規格があるのは道具のつなぎ方と記録の取り方だけだった。しかも記録側は確定版に至らず、残りは書いた会社の中に閉じたまま2026年を迎えている。

英語圏で広く読まれている一覧投稿が、2026年に本番で動くAIを作るために理解すべき概念を9つ挙げた。ループ、道具をつなぐ共通規格 (MCP)、補助役のエージェント、窓口をまとめる中継層、推論の費用、評価、入口と出口の検査、記録と計測、そしてアプリ側が持つ実行基盤である。投稿は最後に、技術者の関心は「どのモデルを使うか」から「モデルの周りに信頼できる仕組みをどう作るか」へ移った、と結んでいる。本稿は9つを覚え書きとして並べ直すのではなく、それぞれが今どこまで外部の公式文書 (仕様書・価格表・規格) で確かめられる形になっているかを仕分ける。ループの組み立て方はエージェントの群れの手引き、接続や委譲の実装の細部は開発支援ソフトの6概念の記事、一時保存が効く原理は一時保存の仕組みの手引きで扱った。9つの層それぞれの仕様と数字を仕様書まで降りて解剖した教科書の章は、AIエージェントの9層に置いた。

表1 9つの概念と、いま確かめられる公式文書 (2026年9月16日時点)

概念公式文書他社と共通の規格
01 ループアンソロピックの設計文書なし (実装の指針)
02 道具の接続仕様 2026年7月28日版あり
03 補助役のエージェントアンソロピックの実測報告なし
04 中継層クラウドフレアの製品文書なし
05 推論の費用3社の価格表価格表で確認できる
06 評価オープンAIの評価の文書なし
07 入口と出口の検査国際団体の脅威の一覧なし (脅威の一覧のみ)
08 記録と計測生成AI向けの計測の規格あり (策定中)
09 実行基盤アンソロピックの開発用文書なし

出所: 各項目の公式文書 (本文と出典欄に記載)。仕分けは記者による

9つの仕組みを1本の要求の道筋に置く
9つの仕組みを1本の要求の道筋に置く

ループは絵ではなく、止め方を決めるところから始まる

投稿の1番目は、計画・実行・観察・反省を回して改善するループである。図では記憶と反応を戻し、終わるまで繰り返す形で描かれる。この形自体はアンソロピックが2024年末に公開した設計文書とほぼ同じで、同社は決められた手順とエージェントを分けている。決められた手順は、モデルと道具をあらかじめ書いた筋道の上で動かす仕組み。エージェントは、モデル自身が進め方と道具の使い方を決める仕組みである。

同じ文書が、図には描かれない2つの条件を置いている。1つは、各段階で外の世界から確かな事実を得ること。道具を動かした結果を見て、自分がどこまで進んだかを測る。もう1つは停止の条件で、繰り返しの上限などを決めて制御を保つ。作業は完了で終わるのが普通だが、終わらない場合に備えて上限を置く。節目や行き詰まりで人の判断を求めて止まる設計も、同じ文書が勧めている。

ループの絵は誰でも描けるが、運用で問題になるのは「いつ止めるか」と「何をもって進んだと見なすか」の2点である。ここに公開された規格はなく、各社の設計文書が指針を示すにとどまる。

共通規格になったのは接続だけ、最新版は2026年7月28日

投稿の2番目に挙がる道具の接続は、9つの中で唯一、複数の会社が同じ文書を見て実装している部分である。仕様の最新版は2026年7月28日版で、1つ前は2025年11月25日版だった。やり取りは決まった書式の要求と応答で行い、要求ごとに使える機能を擦り合わせる。要求は前の状態を引きずらず、それだけで完結する。

役割は3つに分かれる。接続を始める側の本体 (モデルを使うアプリ)、その中の接続部、そして文脈と機能を差し出す側である。差し出せるものは3種類に限られている。資料、定型の指示、そして道具である。逆に本体の側が差し出す機能には、利用者への問い合わせなどがある。投稿の図がメール・コード管理・データベース・閲覧ソフト・対話・ファイルの6つを並べているのは、この「相手側を足せばつながる」構造を指している。

規格が1つあるということは、道具側の作り込みが1回で済むという意味である。9つのうち、乗り換えの手間を最も下げるのがこの部分になる。

分担すると成績は上がるが、トークンは15倍になる

投稿の3番目は、司令塔の下に、調査・コードの作成・査読・データの集計を受け持つエージェントを置き、それぞれに自分の文脈と道具を持たせる形である。アンソロピックは自社の調査の仕組みで実測を公開している。司令塔に上位のモデル、補助役に下位のモデルを置いた構成は、単体の上位モデルを社内の調査の試験で90.2%上回った。

同時に、代償も数字で示されている。エージェントは対話の利用に比べておよそ4倍、分担型はおよそ15倍のトークン (文章を細かく区切った単位) を使う。同社は、分担型が成り立つのは作業の価値が増えた費用を払えるほど高い場合に限られる、と書いている。さらに情報を探す力を測る試験では、成績のばらつきの95%が3つの要因で説明でき、そのうちトークンの使用量だけで80%を占めた。残りは道具を呼んだ回数とモデルの選択である。

表2 分担型の効果と代償 (アンソロピックの公開値)

項目数値
単体に対する成績の差+90.2%
エージェントのトークン量 (対話=1)4倍
分担型のトークン量 (対話=1)15倍
成績のばらつきをトークン量で説明できる割合80%

出所: アンソロピックの調査の仕組みに関する技術報告

分担が効くのは、頭がよくなるからというより、1つの作業により多くのトークンを使えるからである。全員が同じ文脈を共有しなければならない領域や、前の工程の結果に強く縛られる作業には向かない、という但し書きも同じ報告に付いている。

窓口を1つにまとめると、値段の差がそのまま見える

投稿の4番目の中継層と5番目の推論の費用は、実務では同じ場所の話になる。クラウドフレアの製品文書を見ると、1つの窓口が担うのは利用状況の分析、記録、一時保存 (キャッシュ)、回数の上限、やり直しと切り替えで、試験中の機能として請求の一本化、支出の上限、行き先の自動振り分け、情報漏洩の防止、入口と出口の検査、鍵の保管が並ぶ。つなぎ先にはオープンAIアンソロピック、グーグルの法人向け基盤をはじめ、9社以上を登録できる。記録は計測の共通規格の形式で外に出せる。

窓口を1つにすると、どのモデルにいくら払っているかが1か所に集まる。そこで効くのが一時保存である。アンソロピックの価格表では、保存した文章を読み出す料金は基本の入力料金の0.1倍、5分保持の書き込みは1.25倍、1時間保持の書き込みは2倍と決まっている。最上位の2モデルでは読み出しが0.025倍とさらに低い。投稿の図が「再利用できれば費用は約10%」と書いているのは、この0.1倍と一致する。

表3 一時保存の条件 (各社の公式文書、2026年9月16日時点)

提供元既定で有効最小の入力量読み出しの料金
アンソロピック指定が必要モデルにより異なる基本の0.1倍 (一部0.025倍)
オープンAI有効1,024トークン最大90%引き
グーグル (2.5世代)有効2,048トークン再利用分を自動で割引
グーグル (3世代)有効4,096トークン再利用分を自動で割引

出所: アンソロピック・オープンAI・グーグルの各公式文書

同じ入力を10回処理させる場合で計算すると、毎回そのまま送れば基本料金の10倍かかる。1回書いてから9回読めば、1.25に0.1の9回分を足して2.15倍に収まる。2回目の時点で既に1.35倍と、送り直しの2倍を下回る。分担型が15倍のトークンを使うとしても、その大半が読み出しで済むなら、対話1回あたりの1.5倍まで下がる計算になる。逆に、短い指示文は最小の入力量に届かず、保存されないまま全額で処理される。オープンAIの文書は、保存した内容が会社をまたいで共有されず、処理する地域をまたいでも再利用できないと明記している。

同じ文を10回送ると10倍、一時保存を使えば2.15倍
同じ文を10回送ると10倍、一時保存を使えば2.15倍

評価と防御に共通規格はなく、組み立て方と脅威の一覧だけがある

投稿の6番目の評価は、組み立て方まで公開されている。オープンAIの文書では、評価は2つの要素でできている。試験データの形式の決め方と、出力の正否を判定する採点の仕組みである。手順は、やらせたい仕事を書き出す、試験を作る、動かして結果を見る、指示文を直す、の繰り返しになる。先に望む振る舞いを決めてから作る流れだと、同社は説明する。投稿の図が試験項目・モデルの出力・判定役・合否・指標と並べる形は、この組み立て方と一致する。

7番目の入口と出口の検査には、利用者の入力とモデルの出力の2か所に関所を置く形が描かれる。入口では個人情報と指示文への攻撃、出口では制限の回避・有害な表現・利用規約に反する内容を止める。この分け方の裏付けになるのが、ウェブの安全を扱う国際団体がまとめた大規模言語モデル向けの脅威の一覧で、2025年版の1位が指示文への攻撃である。2位が機密情報の漏洩、5位が出力の扱いの不備、6位が過剰な権限、7位が内部の指示文の流出と続く。入口の検査は1位に、出口の検査は2位と5位に、道具に与える権限の設計は6位と7位に対応する。

ただし、どちらも会社をまたぐ規格ではない。評価は各社が用意した仕組みの形であり、防御は脅威の一覧である。クラウドフレアの中継層も検査と情報漏洩の防止を試験中の機能として持つが、仕様として公開された共通の型はない。この2つは、自社の業務に合わせて自分で書く部分として残っている。

評価は2つの要素、防御は入口と出口
評価は2つの要素、防御は入口と出口

計測の項目名はそろい始めた、ただし規格はまだ策定中

投稿の8番目の記録と計測は、2026年に状況が変わった部分である。計測の共通規格 (オープンテレメトリー) のうち生成AI向けの部分は、用語をそろえる本体の規格 (1.44.0版) から切り離され、別の公開場所に移った。状態は策定中で、確定版ではない。それでも中身は具体的である。

操作の名前には、対話や文章の数値化に加えて、道具の実行、エージェントの起動、エージェントの作成がある。使用量の項目には、一時保存の読み出しと書き込みのトークン数が別々に用意されている。道具の接続の規格に合わせた項目と指標もあり、呼んだ手続きの名前、規格の版、やり取りの識別子、呼ぶ側と受ける側それぞれの処理時間が並ぶ。誤りの種類など本体から引き継いだ項目は確定版である。

項目名がそろうということは、どの会社の道具で測っても同じ見出しで集計できるという意味になる。9つのうち、費用と品質を後から機械的に検算できる形が整いつつあるのは、道具の接続とこの計測だけである。規格がまだ策定中である以上、項目名が変わる可能性は残る。

実行基盤は各社の作り込みで、乗り換えの費用が最も重い

投稿の9番目は、モデルを出すのは提供する側だが、その周りのループを持つのはアプリ側だという主張である。実行基盤の中身として、計画・記憶・道具・状態・検査・評価の6つが挙がっている。

この部分に一番近い公式文書は、アンソロピックが公開する開発用の道具一式の説明である。同社はエージェントを「自分で手順を決め、ファイルを読む・命令を実行する・コードを直すといった道具を呼んで作業を終える応用」と定義し、この道具一式が同社の開発支援製品と同じ道具、同じループ、同じ文脈の管理を提供すると書いている。説明の項目には、ループの仕組み、やり取りの保存と外部への持ち出し、承認と利用者の入力の扱い、形式をそろえた出力、そして多数の補助役を状況に応じて束ねる実行基盤の設計が並ぶ。

つまり実行基盤は、各社が自社の製品として作り込んでいる部分であり、規格ではない。乗り換えの費用が最も高くつく場所でもある。企業の側から見た実行基盤・隔離環境・身元管理の3つの層はAI活用例5,201件の記事で扱った。

9つを公式文書で仕分けると、投稿の主張は次のように具体化できる。道具の接続と計測の2つは他社と共通の文書があるため、作れば持ち運べる。推論の費用は価格表があるため、設計の良し悪しが0.1倍と10倍という数字で即座に表れる。残る6つ、つまりループ・補助役のエージェント・中継層・評価・入口と出口の検査・実行基盤は、公開の規格がないまま各社の実装に閉じており、書いた分だけ自社に残り、乗り換えの費用として跳ね返る。モデルの選択が1行の書き換えで済むようになった一方で、この6つは今も自分で書く領域として残っている。

投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談はこちら。データ・調査のご相談