人型ロボットとは — 体を9つの部位に分けて見る
人型ロボットは、同じ形の関節の部品を何十個も並べた機械です。頭脳・感覚・筋肉・関節・手・電源という体の部位ごとに分けると、どこが難しく、どこに価値があるのかが見えてきます。前提知識なしで読めるように、たとえと図から始めます。
入門は要点と図だけ、標準は仕組みまで、研究は式と論文の水準まで表示します。選んだ深さはこの端末に残ります。
人型ロボットは、人間のために作られた現場でそのまま働くために人の形をしている
- 階段・扉・棚・工具など、人間用の設備を作り替えずに使える
- 人の動きの記録を、そのまま学習の手本にできる
- 作るのは難しいが、置き換えられる仕事の範囲が広い
工場で働く産業用ロボットは、床に固定された1本の腕が、安全柵の中で同じ作業を高速に繰り返します。速く正確ですが、決まった場所で決まった仕事しかできません。人型ロボットは歩いて移動し、人間向けに作られた通路・棚・扉・工具を使って、複数の種類の作業をこなすことを目指します。
人の形にこだわる理由は2つあります。1つは、工場・倉庫・家庭の設備が人間の体に合わせて作られていることです。ロボットのために建物を作り替える費用がかかりません。もう1つは、人間の動きを撮った映像や、人が遠隔で操作した記録を、動きを学ばせる手本に使えることです。
産業用ロボットは、すでに大きな産業です。国際ロボット連盟によると、2024年に世界で新たに据え付けられた産業用ロボットは54万2,076台で、中国が54%、日本は4万4,453台 (8%) でした。製造業の従業員1万人あたりの台数 (ロボット密度) は、韓国の1,220台が最も多く、日本は446台で4位です。同連盟は、日本が世界のロボットの生産の38%を占める最大の生産国だとしています (データの年は示していません)。人型ロボットについては「現時点で大規模な利用はなく、量産の準備段階」と位置づけています。
ただし、人の形でなくてもよい仕事は多くあります。平らな倉庫で箱を運ぶだけなら、車輪で走るロボットの方が安く、電池も長く持ちます。人の形が生きるのは、段差・扉・手先の作業が混ざり、人間と同じ場所で働く現場です。
体を9つの部位に分けると、部品のつながりが見える
- 頭脳・感覚・その場の判断・筋肉・関節・手・組立・電源回路・電池と磁石の9つ
- 頭から足へ、情報の流れと電気の流れで順につながる
- 人間の体にたとえると、どこが何をしているかが分かる
| 部位 | 人でいうと | 中身 | 詳しくは |
|---|---|---|---|
| 1. 頭脳 | 大脳 | 計算機 (GPU・CPU) と基盤モデル | 頭脳と電源 |
| 2. 感覚 | 目・皮膚 | カメラ・LiDAR・触覚と力覚のセンサー | 手と感覚 |
| 3. その場の判断 | 脊髄の反射 | 機体の上で動く推論用の半導体 | 頭脳と電源 |
| 4. 筋肉 | 筋肉 | コアレスモーター・フレームレス・トルクモーター | 関節の仕組み |
| 5. 関節 | 関節と腱 | 波動歯車・遊星ローラーねじ | 減速機 |
| 6. 手 | 手と指 | 小型モーター・小型ねじ・触覚センサー | 手と感覚 |
| 7. 組立 | (体を組み上げる工程) | 4つの部品を組み上げたアクチュエーター | 関節の仕組み |
| 8. 電源回路 | 血管 | 窒化ガリウム・炭化ケイ素の電力用半導体 | 頭脳と電源 |
| 9. 電池と磁石 | 心臓と栄養 | リチウムイオン電池・ネオジム磁石 | 頭脳と電源 |
情報は、目や指先のセンサーから頭脳へ上がり、判断が指令になって関節へ下ります。電気は、腹の電池から電源回路を通って、関節ごとのモーターへ配られます。この2つの流れをたどると、9つの部位の関係が分かります。
関節アクチュエーターという「共通の積み木」を、腕と脚に約30個並べる
- 関節の部品 = モーター + 減速機 + センサー + 駆動回路の4つの部品
- 同じ種類の部品を、形と大きさを変えて体中に並べる
- 1体に入る数が多い部品ほど、普及したときの需要が大きい
人型ロボットの体をよく見ると、同じ仕組みの部品が何度も出てきます。肩にも肘にも膝にも入っている関節アクチュエーターです。アクチュエーターは「動かす装置」という意味で、モーター・減速機・センサー・駆動回路の4つの部品を1つにまとめたものです。
モーターは電気で回りますが、速く回るかわりに力が弱い。減速機がその回転を遅くして力を強めます。自動車の変速機と同じ役目です。センサーは関節がいま何度曲がり、どれだけの力を出しているかを測ります。駆動回路はセンサーの値を見ながら、モーターへ送る電流を細かく調整します。
この4つの部品を大きさと形を変えて腕・脚・胴に約30個並べ、骨格で支え、電池と頭脳を載せると人型ロボットになります。1体に同じ部品が数十個入るので、ロボットが1万体売れれば関節の部品は数十万個売れます。どの部品に価値が集まるかを考えるときの出発点は、この掛け算です。
研究関節の数は機種と数え方で変わります。電動で動かす関節 (能動関節) だけを数えるか、指の関節まで数えるか、ばねで受け身に動く関節を含めるかで数字が大きく違います。仕様表を比べるときは、何を1つと数えているかを必ず確かめてください。本誌の3Dモデルは、腕7×2・脚6×2・腰1・首1の計28個で、手の指は数えていません。テスラは2022年9月の説明会で、オプティマスの試作機は6種類 (回転3種・直動3種) のアクチュエーター28本で動き、手は6本のアクチュエーターで11の自由度を持つと説明しました。
関節は「回る」回転関節と「伸び縮みする」直動関節の2種類
- 回転関節は軸のまわりに回る。減速機は主に波動歯車
- 直動関節はまっすぐ押し引きする。回転をねじで直線に変える
- 膝や足首は、直動の部品で押し引きして曲げる設計もある
回転関節は、ドアの蝶番のように軸のまわりに回ります。モーターの回転をそのまま使えるので構造が単純で、肩・肘・股関節・腰・首に使われます。減速機には、小さく軽く大きな減速ができる波動歯車がよく使われます。
直動関節は、注射器のようにまっすぐ伸び縮みします。モーターの回転をねじで直線の動きに変え、棒を押し引きして関節を曲げます。人間の筋肉が骨を引いて関節を動かすのに近い使い方で、体重を支える膝や足首のように大きな力が要る場所に向きます。重い荷に耐えるねじとして遊星ローラーねじが使われます。
どちらをどこに使うかは設計の考え方で分かれ、機種によって違います。減速機とねじの仕組みは減速機の章で詳しく説明します。
部品の価値は「1体にいくつ入るか」と「作るのがどれだけ難しいか」で決まる
- 完成品メーカーは目立つが、利益は部品の側に残ることがある
- 繰り返し使われ、しかも作れる会社が少ない部品に値決めの力が集まる
- 頭脳と電池は他の用途と共通で、人型ロボットの本命ではない
人型ロボットの話題では、完成品を作る会社の名前が注目を集めます。しかし部品の供給網を分解すると、別の見方ができます。1体に何十個も入り、作れる会社が世界に少ない部品は、ロボットが売れるほど数量が増え、値決めでも強い立場に立てます。
この見方で部品を採点した証券会社の資料があります。首位は回転関節の減速機である波動歯車で、ロボットハンド、アクチュエーターの組立、遊星ローラーねじが続きます。頭脳の半導体と電池は、同じ製品が自動車やデータセンターにも使われるため、人型ロボットで新しく増える需要が小さいと評価されています。採点の中身と、日本企業がどこにいるかは部品の価値と供給網の章で扱います。
代表的な人型ロボットの大きさと中身 — 公表された仕様で比べる
- 身長は1.2〜1.9メートル、重さは30〜130キログラムまで幅がある
- 電池は1キロワット時に満たないものから2キロワット時余りまで
- 仕様の数え方は会社ごとに違い、そのまま並べて優劣は決められない
| 機種 (発表) | 大きさ・重さ | 関節・手 | 電池・稼働 | そのほか |
|---|---|---|---|---|
| ホンダ ASIMO (2000年) | 1,200ミリ・43キログラム | 26自由度 (手1×2) | ニッケル水素電池 38.4ボルト | 歩く速さ 時速0〜1.6キロ。関節は波動歯車の減速機 |
| テスラ オプティマス試作機 (2022年) | — | アクチュエーター28本 (6種類)・手11自由度 | 2.3キロワット時 | 回転は波動歯車、直動は遊星ローラーねじ。第2世代 (2023年) で10キロ軽く、歩く速さは30%向上 |
| ユニツリー G1 (2024年) | 1,320ミリ・約35キログラム | 23〜43自由度 | 約2時間 | 中国で8.5万元から・米国で1万3,500ドルから |
| ユニツリー H1 (2023年) | 約1,800ミリ・約47キログラム | 片脚5・片腕4自由度 | 0.864キロワット時 | 膝の最大トルク約360N・m |
| フィギュア 02 (2024年) | — | 手16自由度 | 2.25キロワット時 | カメラ6台 |
| フィギュア 03 (2025年) | 1,730ミリ・61キログラム | — | 2.3キロワット時・約5時間 (最大の性能で) | 運べる重さ20キログラム。足の裏から2キロワットで無線充電。指先で3グラムの力を感じる |
| ボストン・ダイナミクス アトラス製品版 (2026年) | 約1.9メートル・90キログラム | 56自由度 | 約4時間 (電池を自分で交換) | 持ち上げは最大50キログラム・続けて30キログラム |
| アジリティ Digit 5 (2026年) | 1.81メートル・129キログラム | — | 90分の稼働・9分の充電 | 運べる重さ22.7キログラム。脚は自社のサイクロイド減速のアクチュエーター |
| ワンエックス NEO (2025年) | 約1.68メートル・約30キログラム | 腕7×2・手22自由度×2 | 0.75キロワット時・約4時間 | 家庭向け。価格2万ドル、または月499ドル |
出所は各社の公式の製品ページ・発表・届出書類 (2026年9月24日に照合)。空欄は公表されていないもの。テスラは新しい世代 (Gen 3) の仕様表を公表していない。
人型ロボットの開発は、日本の大学と自動車メーカーから本格的に始まった
- 1973年の早稲田大学の人型ロボットが出発点とされる
- ホンダは1986年から歩行の研究を重ね、2000年に ASIMO を発表した
- 2020年代は電動化と学習で、米国と中国の企業が量産を競う
| 年 | 出来事 | 意味 |
|---|---|---|
| 1973年 | 早稲田大学が WABOT-1 を完成 | 手足と目と耳を持ち、2本の脚で歩いた。同大学は世界初の実物大の人型ロボットと位置づける |
| 1984年 | 早稲田大学の脚ロボット WL-10RD が動歩行に成功 | ZMP の考え方を実機で使い、歩幅40センチを約1.5秒で歩いた |
| 1986年 | ホンダが二足歩行の研究を始め、E0 を作る | 1歩ずつ止まりながら進む静歩行から出発し、動歩行の研究へ進んだ |
| 1996年 | ホンダが P2 を公開 (身長1,820ミリ・210キログラム) | 計算機と電池を胴に収め、自立して歩く人型ロボットを示した。2026年に米電気電子学会の記念すべき業績に認定 |
| 2000年 | ホンダが ASIMO を発表 (身長1,200ミリ・43キログラム・26自由度) | 床反力・目標 ZMP・着地位置の3つの制御を組み合わせて滑らかに歩いた。関節はサーボモーターと波動歯車の減速機で動いた |
| 2013年 | 米国防総省の災害対応ロボットの競技会で、油圧で動くアトラスが使われる | 瓦礫の上を歩き、扉を開け、道具を使う実用の課題に挑んだ |
| 2022年 | テスラがオプティマスの試作機を公開 | 自動車の量産の考え方で人型ロボットを作ると表明。以後、米中で参入が相次ぐ |
| 2024年 | ボストン・ダイナミクスが電動のアトラスを発表。ユニツリーが G1 を発売 | 油圧から電動へ。G1 は現在、中国で8.5万元からと、人型ロボットの価格が大きく下がり始めた |
| 2025年〜 | 画像と言葉から動きを出す VLA モデルが相次いで公開される | 学習で動きを身につける方法が広がり、量産の計画が具体化した。2026年1月には製品版のアトラスが発表された |
出所は章末。年は各社・各大学の公式の発表による。
この章の確認
人型ロボットが人の形をしている理由を2つ挙げてください。
1つは、工場・倉庫・家庭の設備が人間の体に合わせて作られていて、ロボットのために作り替えずに使えること。もう1つは、人の動きを撮った映像や遠隔操作の記録を、動きを学ばせる手本に使えること。
関節アクチュエーターの4つの部品を、電気が流れる順に並べてください。
駆動回路 → モーター → 減速機 → 関節。センサーは角度と力を測り、その値を駆動回路へ返す。
頭脳の半導体と電池が「人型ロボットの本命ではない」とされる理由は何ですか。
同じ製品が自動車やデータセンターにも大量に使われ、人型ロボットが増えても需要全体に占める割合が小さいから。部品の価値は、人型ロボットで需要が増え、作れる会社が少ない部品 (減速機や手) に集まりやすい。
次の章では、関節アクチュエーターの4つの部品を1つずつ取り出し、モーターの速い回転がどうやって関節の強い力に変わるのかを式で確かめます。
この章の出所
- 人型ロボットの部品への投資を論じた英語の投稿 (ゴールドマン・サックスの採点表と業界地図の画像を引用) (2026年9月)
- 早稲田大学 WABOT-1 (人型ロボットの研究の歴史) — 原典
- ホンダ ASIMO の開発の歴史 — 原典
- ボストン・ダイナミクス 電動アトラスの発表 (2024年4月17日) — 原典
一次資料との照合: 2026-09-24。企業の数字は各社の開示、技術の数字はメーカーの技術資料と論文から取りました。二次情報 (報道・証券会社の資料を引いた投稿) の値は、その旨を本文に書いています。
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