テスラは9月23日、自動運転タクシー専用車の電費を量産EVで過去最高と説明した。同社の2024年の見通しどおりなら、米国の燃費データで最も電費の良い車より、同じ電力量で27%長く走れる。米当局の認定値はまだ公表されていない。
テスラのロボタクシー(自動運転タクシー)専用車「サイバーキャブ」の電費を根拠に、米ウェイモはもはや競争相手にならないとする見方がある。テスラは9月23日、技術者を募集する1分38秒の動画をX(旧ツイッター)に投稿し、サイバーキャブの電費は量産EVで過去最高だと説明した。駆動ユニットを10秒に1基のペースで生産していることも明らかにした。この動画を中国語で紹介した投稿は、サイバーキャブの電費はモデルYより4割近く良く、その差は自家用車の電気代の節約にとどまらず、ロボタクシー事業の成否を分けると主張した。本誌はテスラの開示資料と米環境保護局の燃費データで数字を確かめ、電費の差が電気代や電池の費用にどれだけ響くかを試算した。
サイバーキャブの電費、テスラの見通しでは米国で最も電費の良い車を27%上回る
中国語の投稿によると、モデルYの電費は米当局の認定値で1マイル(約1.6キロメートル)あたり約240ワット時で、1キロワット時で4マイル余り走れる。サイバーキャブの試験値は1マイルあたり165ワット時で、同じ電力量で走れる距離はモデルYより5割長いという。米環境保護局の燃費データでは、18インチのホイールを履く2026年型モデルYの標準の後輪駆動車は100マイルあたり24.35キロワット時だった。1マイルあたりに直すと243ワット時で、投稿の数字とほぼ同じだ。1キロワット時で走れる距離に換算すると、モデルYは6.61キロメートル、投稿が挙げたサイバーキャブの値では9.75キロメートルになる。同じ電力量で走れる距離は47.5%長く、同じ距離を走るのに必要な電力量は32.2%少ない。投稿の「4割近く」は、この2つの数字の間にある。
テスラ自身の見通しはこれより控えめだ。同社は2024年10月23日の決算説明資料で、サイバーキャブ向けの次世代車台に新しい駆動系を採用し、電費は1キロワット時あたり5.5マイル(8.85キロメートル)になるとの見通しを示した。同社はこれを「当社で最も効率の高い駆動系」と位置づけた。1マイルあたりに直すと182ワット時で、モデルYより消費電力量が25.3%少ない。同じ電力量で走れる距離は33.9%長い。投稿が挙げた165ワット時は、本誌が確認した範囲ではテスラの開示資料に見当たらない。
「量産EVで過去最高の電費」というテスラの説明は、公開データではまだ裏づけられない。米環境保護局の燃費データ(9月16日更新分)にも、燃費試験車両の一覧(2026年型、1月版)にも、サイバーキャブは載っていない。燃費データの掲載車で電費が最も良いのは、米ルーシッド・グループの「エア・ピュア」の後輪駆動車(19インチのホイール)で、100マイルあたり23.14キロワット時、1キロワット時で6.95キロメートル走れる。テスラの見通しどおりなら、同じ電力量で走れる距離はこれより27.3%長い。ただ、米環境保護局の公表値は充電時の損失を含むのに対し、テスラは見通しの算出条件を開示しておらず、厳密には比べられない。
図1 — 1キロワット時の電力量で走れる距離。米環境保護局の公表値、テスラの見通し、投稿が挙げた値を色で分けた
駆動ユニット「10秒に1基」は単純計算で年315万基、実際の生産量は明らかでない
中国語の投稿は、電費が良くなった理由に、車体前部を流線形にして空気抵抗を減らしたことと、ハンドルとペダルをなくして100キログラム以上軽くしたことを挙げる。そのうえで、最大の要因は床下の駆動ユニットだという。駆動ユニットは、モーターと、電池の直流を交流に変えてモーターに送るインバーターなどを一体化した部品だ。
投稿によると、テスラの技術者は動画の中で、世界で毎日走る1,000万台のテスラ車から、加速や減速、段差の乗り越えといった走行データが個人を特定できない形で集まると説明したという。そのデータを物理モデルのシミュレーションに取り込み、試作品を作る前に、回転子や磁石の配置を変えながら路上での性能をコンピューター上で計算したという。テスラの決算説明資料によると、累計の納車台数は2026年6月末で970万台だ。1,000万台は累計の納車台数に近い数字で、そのすべてが今も走っているわけではない。
投稿は従来の自動車メーカーとの違いも挙げる。従来のメーカーは独ボッシュ、カナダのマグナ・インターナショナル、独コンチネンタルといった部品大手から、インバーターやモーター、電池を個別に調達する。部品会社はそれぞれ設計に余裕を持たせ、ケースを厚くし、汎用の接続端子を採用するため、個々の部品は基準を満たしても部分最適の寄せ集めになり、車全体では最適にならないという。これに対しテスラは、電池セル、平角線のコイルを使うモーター、回転子の磁石、炭化ケイ素のパワー半導体を搭載するインバーター、制御ソフトまで自社で開発する。モーターの設計者は開発の初期段階から生産技術の担当者と組み、効率と組み立てやすさを同時に詰めたという。
投稿によれば、駆動ユニットは従来品より体積が18%小さく、重さが25%軽くなったうえ、レアアース(希土類)も使っていない。これらの数字やレアアース不使用は、テスラが2023年以降に米証券取引委員会へ提出した決算説明資料や年次・四半期報告書には記載がなく、本誌は確認できなかった。
投稿によると、生産ラインは全自動で、10秒ごとに駆動ユニットが1基完成し、多くの自動車メーカーはドア1枚を組み付けるのにも10秒以上かかるという。24時間365日休まず動かせば年315万基になり、1基積む車なら315万台分、前後に2基積む四輪駆動車なら158万台分にあたる(本誌試算)。テスラが2026年4〜6月期の決算説明資料で示した車両の年間生産能力は次のとおりで、合計は237万5,000台超だ。
| 工場 | 車種 | 年間生産能力 |
|---|---|---|
| カリフォルニア工場 | モデル3・モデルY | 55万台超 |
| 上海工場 | モデル3・モデルY | 95万台超 |
| ベルリン工場 | モデルY | 37万5,000台超 |
| テキサス工場 | モデルY | 25万台超 |
| テキサス工場 | サイバートラック | 12万5,000台超 |
| テキサス工場 | サイバーキャブ | 12万5,000台超 |
もっとも、10秒はラインから1基が出てくる間隔にすぎず、稼働時間やラインの数が分からなければ年間の生産量は割り出せない。テスラは、この駆動ユニットがサイバーキャブ向けかどうかも明らかにしていない。
テスラは2026年4〜6月期にテキサス工場でサイバーキャブの生産を開始し、公道試験にも乗り出した。7月には工場の敷地内で社員を乗せた試乗を始めた。決算説明資料の生産能力の一覧では、サイバーキャブの段階が2025年10〜12月期の「設備導入」、2026年1〜3月期の「試験生産」を経て、4〜6月期に「生産」となった。年12万5,000台は、24時間操業なら約4.2分に1台の計算になる。
電費の改善で電池の容量は25〜32%減るが、半分にはならない
中国語の投稿は、電費の改善で車両全体の費用が大きく下がる仕組みを、重量増の悪循環から説明する。投稿によると、EVで最も高価な部品は床下の電池で、車両価格の3〜4割を占める。モデルYで300マイル(約483キロメートル)走るには少なくとも75キロワット時の電池が必要で、電池の重さだけで400〜500キログラムになる。電池が重いと車体の骨格を太くし、足回りを強化し、ブレーキを大きくし、モーターの出力も上げなければならない。車が重くなるほど電力を多く使い、さらに大きな電池が必要になるという。
投稿によれば、サイバーキャブは1マイルあたりの消費電力量を165ワット時まで減らしたことで、この悪循環を好循環に変えた。同じ距離を48キロワット時未満の電池で走れるため、容量はほぼ半分になり、電池だけで200キログラム以上軽くなる。車体や足回り、ブレーキ、モーターも小さくなって電費がさらに良くなり、製造費が大きく下がるという。
同じ距離を走るのに必要な電池の容量は、1マイルあたりの消費電力量に比例する。300マイル走るには、米環境保護局のモデルYの値で73.0キロワット時、テスラの見通しで54.5キロワット時、投稿の値で49.5キロワット時が必要になる(本誌試算)。必要な容量は25〜32%減るものの、半分には届かない。投稿が挙げた75キロワット時から48キロワット時への縮小も36%で、「ほぼ半分」とは言いにくい。テスラは電池や車体の重さを開示しておらず、200キログラム以上の軽量化は確認できない。
それでも、電池の容量が3割近く減る効果は大きい。電池が車両価格の3〜4割を占めるという投稿の前提に立つと、電池の縮小で減る費用は車両価格の約8〜13%にあたる(本誌試算)。電費改善の恩恵が最も大きいのは、この電池の費用だ。
図2 — 投稿が描く、電費から電池・車体・費用へ波及する流れと、各段階を一次資料で検証した結果
電費はウェイモのアイペイスの2.4倍でも、電気代の差は1マイルあたり5セント
中国語の投稿は、ロボタクシーの優劣を最後に決めるのは1マイルあたりの運行費だと主張する。ソフトウエアの完成度や、カメラだけにするかライダー(レーザー光で周囲の物体までの距離を測るセンサー)も併用するかといったセンサーの選び方は二の次だという。屋根に数万ドルのライダーを載せ、重い電池を積んだ車は、減価償却費も電気代も下がらないとする。
ウェイモの主力車両は、英ジャガー・ランドローバーのEV「アイペイス」だ。ウェイモによると、車両にはカメラ29台のほか、ライダーとレーダーを搭載している。米環境保護局の公表値では、2020〜21年型のアイペイスは100マイルあたり44.31キロワット時で、1キロワット時で3.63キロメートルしか走れない。同じ電力量で走れる距離は、テスラの見通しに基づくサイバーキャブでアイペイスの2.44倍、投稿の値なら2.69倍になる。ウェイモの車両はセンサーやコンピューターの電力を使い、屋根の機器が空気抵抗も増やすため、実際の電費は公表値より悪くなる。ただ、ウェイモは実際の値を明らかにしていない。
米労働統計局によると、全米都市部の平均電気料金は2026年8月に1キロワット時あたり19.6セントだった。この料金をもとに1マイルあたりの電気代を試算すると、次のようになる。
| 車両 | 1マイルあたりの消費電力量 | 1マイルあたりの電気代 |
|---|---|---|
| ジャガー「アイペイス」 | 443ワット時 | 8.7セント |
| テスラ「モデルY」 | 243ワット時 | 4.8セント |
| サイバーキャブ(見通し) | 182ワット時 | 3.6セント |
| サイバーキャブ(投稿の値) | 165ワット時 | 3.2セント |
消費電力量は米環境保護局の公表値、テスラの見通し、投稿が挙げた値による。電気代は、米労働統計局による2026年8月の全米都市部の平均料金をもとに本誌が試算した。
アイペイスと、テスラの見通しに基づくサイバーキャブの電気代の差は1マイルあたり5.1セントで、欧米の配車サービスの運賃(投稿によると1マイルあたり2〜3ドル)の2%前後にとどまる。自家用車として年1万マイル(約1万6,000キロメートル)走る場合、サイバーキャブとモデルYの電気代の差は年120〜150ドルだ(本誌試算)。投稿は、中国の自家用車なら節約は年200〜300元(約4,700〜7,100円)にすぎないと指摘する。電気料金も走る距離も違うが、自家用車では電費の差で浮く電気代がわずかだという点は同じだ。一方、投稿が掲げる1マイルあたり20セントの運行費を前提にすると、テスラの見通しに基づく電気代でも運行費の18%にあたり、アイペイスなら電気代だけで4割を超える。電費の差は、運行費を大幅に下げようとするときに初めて大きな意味を持つ。
規模ではウェイモが先行している。親会社アルファベットは2026年1〜3月期の決算発表で、ウェイモの無人運転による乗車が週50万回を超えたと明らかにした。ウェイモは2月に160億ドルを調達し、資金の大半はアルファベットが拠出した。テスラは2025年12月期の年次報告書の時点で、ロボタクシーにモデルYを使っていた。テキサス州のオースティン、ダラス、ヒューストンとフロリダ州のマイアミ、オーランド、タンパで無人運行を広げているが、7月の決算説明資料でもサイバーキャブの投入は準備段階にとどまる。
運行費1マイルあたり20セント、製造費2万ドル台はテスラの開示資料に見当たらない
中国語の投稿は、電池容量の半減と2万ドル台の製造費に、駆動ユニットを10秒に1基つくる量産体制が加わり、サイバーキャブの運行費は1マイルあたり20セントまで下がると結論づける。多くの都市の路線バスの運賃より安いという。
テスラは2024年10月の決算説明資料で、1マイルあたりの費用を配車サービスや自家用車、公共交通より低くする長期目標を掲げたが、金額は示していない。2024年10月以降の決算説明資料や年次・四半期報告書にも、サイバーキャブの車両価格や製造原価、1マイルあたりの費用の数字はない。目安として、同じ2024年7〜9月期の決算説明資料では、テスラ全車種の1台あたり売上原価が過去最低の約3万5,100ドルだった。2万ドル台の製造費は、これより15〜43%安い水準になる。
投稿は、テスラの強みは1,000万台の走行データで磨いたシミュレーション、駆動ユニットを10秒に1基つくる量産の速さ、消費電力を極限まで抑えた設計にあるとみる。そのうえで、他社がまねできない低コストと速さで同じ車を大量に供給できることこそが最大の参入障壁だと締めくくる。
サイバーキャブの電費は、テスラ自身の控えめな見通しでもウェイモのアイペイスの2.4倍に達する。ただ、電気代に換算すると差は1マイルあたり5セント程度にすぎない。むしろ効果が大きいのは、同じ距離を走るのに必要な電池の容量を25〜32%減らせ、車両価格を下げられる点だ。サイバーキャブがウェイモを脅かすかどうかは、テスラがまだ明らかにしていない車両価格と運行費の水準、そして年12万5,000台超の生産能力をどこまで生かせるかにかかっている。国内で販売されているEVの電費はEV電費ランキングで比べられる。モーターの磁石に使うレアアースの供給網はレアアース30銘柄の解説で取り上げている。
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