米スペースXの2026年7〜9月期決算で、衛星通信「スターリンク」を手がける通信部門が全社の営業利益のうち84.8%を稼いだ。売上高はAI部門が5割超だが、利益の柱は通信部門だ。国内では携帯大手3社がスターリンクの衛星を使う。
6月に米ナスダックに上場したスペースXは、7〜9月期に上場後初めて最終黒字となった。上場直後に発表した4〜6月期は最終赤字だった。同社が10月20日に米証券取引委員会 (SEC) に提出した決算資料によると、7〜9月期の売上高は前年同期の2.6倍の145億7500万ドルだった。本業のもうけを示す営業利益は27億9100万ドルだった。最終損益は44億400万ドルの黒字で、前年同期は10億5400万ドルの赤字だった。営業外収益10億2500万ドルや、法人税関連の利益3億9000万ドルも最終利益を押し上げた。調整後EBITDA (利払い・税引き・償却前利益) は88億900万ドルと、前年同期の約4倍になった。
AI部門が売上高の5割超に、営業利益の8割超はスターリンクの通信部門
スペースXは業績を3部門に分けて開示している。AI事業の「スーパーインテリジェンス」部門 (旧AI部門。以下AI部門)、スターリンクを運営する通信部門、ロケットの打ち上げなどを手がける宇宙部門だ。7〜9月期の売上高はAI部門が前年同期の約9.3倍の75億6000万ドルとなり、全体の51.9%を占め、部門別で初めて首位になった。通信部門は69%増の52億4800万ドル、宇宙部門は6%増の17億6700万ドルだった。
営業利益で見ると、部門の構図は大きく変わる。部門別の営業損益は、通信部門が前年同期の約2倍の23億6700万ドルの黒字で、全体 (27億9100万ドル) の84.8%を占めた。AI部門は4億3100万ドルの黒字、宇宙部門は700万ドルの赤字だった。AI部門は、AI企業の買収に伴う株式報酬費用12億1700万ドルを計上した。この費用を除くとAI部門の営業利益は16億4800万ドルになるが、それでも通信部門を下回る。
通信部門の売上高のうち、個人向けは31億2100万ドル、法人・政府向けは21億2700万ドルだった。スターリンクの個人向けの契約数は9月末で1360万件と、6月末から160万件増えた。法人・政府向けの契約は含まない。個人向け1契約あたりの月平均収入は69ドルだった。
スペースXは10月8日、米国の800メガヘルツ帯の周波数免許 (最大14メガヘルツ幅) を取得すると発表した。スマートフォン (スマホ) と衛星を直接つなぐサービスに使う。取引の完了は2027年前半の見通しだ。
スターリンク、日本で携帯大手3社のスマホ向け衛星通信を支える
日本では、スターリンクと契約しなくても、手持ちのスマホのまま、その衛星につながる人が増えている。KDDIが2025年4月にスマホと衛星を直接つなぐサービスを始め、ソフトバンクとNTTドコモも26年4月に続いた。KDDIは、「au Starlink Direct」の利用者数 (重複を除く) が26年4月時点で400万人を超えたと、26年3月期の決算説明資料で明らかにした。auの人口カバー率は99.9%超だが、面積カバー率は約60%にとどまり、KDDIは残る約4割を衛星で補うと説明している。8月末には、海外で使える国を米国・カナダに加えてフィリピンとニュージーランドに広げた。
KDDIは、災害時に使う可搬型・車載型・船舶型の基地局では、通信網につなぐ回線にスターリンクを使う。こうした基地局を3月末までに全国で約330台配備した。
NTTドコモは4月27日に「docomo Starlink Direct」を始め、開始から約2か月で利用者が500万人を超えたと7月に発表した。すべての料金プランで、追加料金なしに使える。KDDIとドコモの数字は時点と数え方が異なり、単純には比べられない。ソフトバンクは4月10日に「SoftBank Starlink Direct」を始めた。対応機種は82機種で、利用者数は開示していない。楽天モバイルはスターリンクではなく米ASTスペースモバイルの衛星を使い、26年10〜12月期の商用サービス開始を目指す。
KDDIは8月7日に発表した4〜6月期の決算資料で、スターリンク関連の数字を示さなかった。11月6日には4〜9月期決算を発表する。利用者数や法人向けの契約数が示されれば、衛星通信がKDDIの事業でどこまで育ったかを見る手がかりになる。スペースXの上場や携帯各社との提携の経緯は上場時の記事で詳しく伝えた。
AI部門の設備投資は7〜9月期に164億ドル、10〜12月期は全社で350億〜400億ドルの見通し
稼ぎ頭は通信部門だが、設備投資の大半はAI部門に向かう。7〜9月期の設備投資は195億9300万ドルで、このうちAI部門が164億4400万ドルと83.9%を占めた。宇宙部門は16億600万ドル、通信部門は15億4300万ドルだった。ブレット・ジョンセン最高財務責任者 (CFO) は決算説明会で、10〜12月期の全社の設備投資が350億〜400億ドルになるとの見通しを示した。会社は説明会の発言録をまだ公開しておらず、発言内容は米投資情報サイトのモトリーフールが公開した発言録で確かめた。
ジョンセン氏は、今の利用料金が続けば、新たに導入したAIサーバーは1年足らずで投資額を回収できるとの試算を示した。イーロン・マスク最高経営責任者 (CEO) は、27年には半年で回収できる可能性もあると述べた。いずれも会社側の試算で、実績として開示された数字ではない。
AI向けデータセンターの電力容量は、9月末時点で170万キロワット (6月末は140万キロワット) だった。ジョンセン氏は10月末に約220万キロワット、年末に250万〜300万キロワットになるとした。マスク氏は、27年中に1000万キロワットを積み増し、年末に1300万キロワットに達するとの自信を示した。計画が最もうまく進んだ場合は、27年中に2000万キロワットを積み増し、年末に約2300万キロワットに届く可能性もあるという。同氏は、データセンターを増やすうえでの壁は、半導体の調達から電力の確保や冷却、建屋の建設に移ったとみている。AI向けデータセンターの採算は利用料金から試算した記事で詳しく分析した。
マスク氏は、米テネシー州メンフィスにあるAI向けスーパーコンピューター「コロッサス2」の立ち上げのため、週に4日ほど現地に足を運んでいると語った。米エヌビディアのAI半導体「GB300」を月に約20万個のペースで増やしている。27年も同じ程度のペースで導入を続けるが、主力は次世代品「ベラ・ルービン」に移るという。27年6月末までに、ベラ・ルービン44万個をつないだAI学習用のスーパーコンピューターを稼働させる計画だ。
自社のAIサービスでは、8月に始めたAIエージェント (人に代わって作業をこなすAI)「グロック・ボット」は、週に1回以上使う有料の利用者が1か月で2倍超に増え、10月上旬に80万人に達した。マスク氏は「これほど速く伸びた製品は見たことがない」と述べ、数週間以内に企業向けの提供も本格的に始めるとした。
マスク氏は、こうした計画が進めば、27年末には、月間売上高を12倍した年換算の売上高が5000億〜1兆ドルに達するとの見方を示した。会社の業績予想ではない。会社は26年12月の売上高を年換算で1000億ドルにする目標を掲げ、27年1〜3月期の売上高は330億〜370億ドルと見込む。マスク氏の数字は、会社が掲げる26年12月の目標の5〜10倍にあたる。
テスラとの合併検討で両社が特別委員会を設置、共同で建てる半導体工場は28年に量産へ
マスク氏は説明会で、スペースXと米テスラが株主の要請を受け、独立社外取締役でつくる特別委員会をそれぞれ設けたと明らかにした。両社のトップを兼ねるマスク氏は利益相反の立場にあるため、審議に加わらない。同氏は合併に前向きだが決まったわけではないと述べ、テスラ側は株主総会で発行済み株式の過半数の賛成が必要になると説明した。合併比率や両社の企業価値の評価、時期はまだ決まっていない。テスラは10月21日時点で、特別委員会の設置をSECへの届け出で開示していない。合併を巡る市場の見方は予測市場の取引から分析した記事で扱った。
両社が共同で建てる半導体工場「テラファブ」について、マスク氏は、27年5〜6月ごろに米テキサス州オースティンの研究開発拠点で試作品が完成し、量産工場での生産開始は2028年7〜9月期を目指すと述べた。同氏も、かなり野心的な日程だと認めた。テキサス州のアボット知事は8月、スペースXがテラファブの第1期工事として同州グライムズ郡に168億ドル超を投じ、3000人を雇用すると発表した。米ブルームバーグ通信は4月、マスク氏側が半導体製造装置メーカーに見積もりや納期の提示を求め、東京エレクトロンにも打診したと報じた。東京エレクトロンはこの報道についてコメントしていない。新工場を巡る半導体各社の動きはテラファブの記事で報じた。
スターシップが初めて軌道に到達、11月の次回は1段目と2段目の回収に挑む
宇宙事業では、大型ロケット「スターシップ」が9月下旬の14回目の飛行試験で初めて軌道に到達し、次世代のスターリンク衛星「V3」26基を軌道に投入した。スターシップによる実用衛星の打ち上げも今回が最初だ。マスク氏によると、この1回の打ち上げで、スターリンクの通信容量は毎秒26テラビット増えた。主力ロケット「ファルコン9」の打ち上げ10回分にあたる。積んだ衛星の重さは、打ち上げ能力の半分ほどだったという。
11月に予定する15回目の飛行試験では、1段目のブースターと2段目の宇宙船の両方を、発射塔のアームでつかんで回収する試験に臨む。マスク氏は、成功すれば、軌道に達したロケットの機体をすべて回収する世界初の例になると述べた。今回の回収は成功する公算が大きいとしつつ、最初の数回は失敗する可能性もあると述べた。旅客機のように、回収した機体を大がかりな整備なしにすぐ打ち上げられるようにする考えだ。
同氏は説明会で、スターシップの打ち上げを27年前半に週1回、同年末までに週2回以上に増やすと述べた。8月4日に開いた4〜6月期の決算説明会では「1年後には少なくとも1日1回打ち上げる」としていた。今回の目標はこれより後退したが、同社は計画の下方修正とは説明していない。
打ち上げが増えれば、スターリンクの通信容量も大きく伸びる見通しだ。同氏は、3年以内にスターリンク全体の通信容量を現在の約100倍にする考えを示した。1基あたりの通信容量が現行の衛星の10倍以上の衛星を、10万基規模で打ち上げるという。AIエージェント1つあたりの通信量は人間を大きく上回り、その数もいずれ人間の数を超えるとみる。このため3〜5年後には、通信需要が現在の約1000倍に膨らむと予想する。
スペースXは米ルイジアナ州に新設する発射場で年間数千回の打ち上げを想定している。公表している初打ち上げの目標は2029年だが、マスク氏は社内では28年を目標にしていると述べた。
1〜9月の設備投資は営業キャッシュフローの3.7倍、不足分はIPOで得た資金で賄う
最終損益は黒字に転じたが、事業で稼いだ現金を設備投資が大きく上回る。決算資料のキャッシュフロー計算書によると、26年1〜9月の営業キャッシュフローが130億9700万ドルだったのに対し、設備投資 (有形固定資産の取得) はその3.7倍の480億6900万ドルに達した。同社はフリーキャッシュフロー (純現金収支) を開示していないが、営業キャッシュフローから設備投資を差し引くと約350億ドルのマイナスになる。
不足分は6月の新規株式公開 (IPO) で得た資金で補った。目論見書によると、公開価格は135ドルで、オーバーアロットメント (需要に応じた追加売り出し) 分を含め、6億3888万8888株を発行した。調達総額は約862億5000万ドル、手数料などを差し引いた手取り額は856億7500万ドルだった。9月末の現金・現金同等物は512億9400万ドル、短期有価証券は385億6100万ドルで、手元資金は合計898億5500万ドルとなった。ジョンセン氏が示した10〜12月期の設備投資350億〜400億ドルは、9月末の手元資金の4割前後に当たる。
7〜9月期は、AI部門に巨額を投じる一方、営業利益の大半をスターリンクの通信部門が稼いだ。スマホと衛星を直接つなぐサービスの利用者は、KDDIが400万人超 (4月時点)、ドコモが500万人超 (7月発表) と公表している。KDDIが11月6日に発表する4〜9月期決算でスターリンク関連の数字を示すかどうかと、スペースXが27年初めに発表する見通しの10〜12月期決算の設備投資額が、次の焦点となる。
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