テスラのFSDは米当局が「部分的な運転自動化」と分類する運転支援で、運転者のいない走行は38万マイルにとどまる。同じ条件でウェイモは2億2,060万マイルを走った。完全自動運転という言葉は、この2つを同じ棚に並べてしまう。

自動運転の解説は、たいてい「人間がハンドルもブレーキも触らずに車が目的地まで走る技術」という定義から始まる。テスラが売る機能の名前は Full Self-Driving、直訳すれば完全自動運転である。ところが米運輸省道路交通安全局 (NHTSA) が2024年10月17日に開いた調査の資料は、この機能を「テスラが部分的な運転自動化システムと位置づけるシステム」と記している。名前と分類が食い違っている。本稿はこの食い違いを起点に、自動運転の会社を測る物差しを一次資料から組み立て直す。取得日はいずれも2026年9月13日である。

「完全自動運転」という言葉は、レベル2からレベル5までを一括りにしている

国土交通省が公表している自動運転のレベル分けは、官民ITS構想・ロードマップ2017を基にしたもので、レベル1が運転支援、レベル2が特定条件下での自動運転機能、レベル3が条件付自動運転、レベル4が特定条件下における完全自動運転、レベル5が完全自動運転である。この5段の間には、数字の大小より重要な1本の線が引かれている。レベル2までは運転者が監視し、レベル3からはシステムが監視する。レベル3の定義は「システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要」で、レベル4は決められた条件の中で運転者を要しない。

自動運転のレベル1〜5と、監視の主体・日本の法律・各社の現在地
自動運転のレベル1〜5と、監視の主体・日本の法律・各社の現在地

テスラの FSD はこの線の手前にある。NHTSA の欠陥調査局が2024年10月17日付の調査資料に書いた分類は「テスラが部分的な運転自動化システムと位置づけるシステム」で、レベル2に相当する。テスラ自身の年次報告書 (2025年12月期、2026年1月29日提出) も「現在も従来と同じく、運転者は運転操作に完全に関与し続ける責任を負う」と書き、製品名にも Supervised、つまり監視付きという語を添えている。運転者が監視し、何かあれば運転者が責任を負う。これはレベル2の定義そのものである。

この機能は金額としても大きい。2026年6月期の四半期報告書によれば、FSD (Supervised) の利用権やその保守などに関わる前受収益は、2025年12月末の38億7,000万ドルから2026年6月末に40億5,000万ドルへ増えた。2026年7月22日の株主向け資料では、FSD の有効な加入は148万件で前年比56%増、欧州でもリトアニア・エストニア・デンマーク・ベルギーで承認を得て、欧州の顧客の走行は5,000万km (3,100万マイル) を超えた。四半期の売上282億3,600万ドルの会社が今日売っているものの大半は、監視付きの運転支援である。

一方でテスラは、同じ年次報告書に「2025年6月にロボタクシーの営業を開始した」とも書いている。株主向け資料によれば、ロボタクシーは米国7つの都市圏で稼働し、オースティン・マイアミ・オーランド・タンパでは運転者のいない乗車を行う。ただしサンフランシスコ湾岸では、カリフォルニア州の許可 (TCP0046782-A) の下で FSD (Supervised) を使い、安全運転者が同乗している。同じ会社の中に、レベル2の製品と、限られた地域でのレベル4の営業が並んでいる。完全自動運転という1つの言葉では、この2つを区別できない。

2つの陣営の違いは、認知・判断・操作のうち「認知」の1段に集中している

自動運転は「認知」「判断」「操作」の3段階を車載のコンピューターが繰り返す仕組みである。認知はカメラ・レーダー・LiDAR (ライダー) などのセンサーで周囲を捉える段、判断は車載のAIが「減速して右に避ける」のような行動を0.1秒以下で決める段、操作はハンドル・アクセル・ブレーキをシステムが動かす段にあたる。カメラは信号の色や標識の文字、歩行者の動きを捉え、ミリ波レーダーは電波で霧や雨の中でも前方の車との距離と速度を測り、LiDAR はレーザー光を全方位に照射して周囲を精細な3次元の地図として把握する。

自動運転車に載るセンサーの配置と、認知・判断・操作の流れ
自動運転車に載るセンサーの配置と、認知・判断・操作の流れ

一般的な自動運転車には、GPS、屋根の上で回転する LiDAR、フロントガラス上部のカメラ、後方カメラ、側面の超音波センサー、車輪の回転から距離を出すオドメトリー、前バンパーのレーダー、車体内の中央コンピューターの8種が載る。判断と操作の段は各社とも大きく変わらない。違いは認知の段、つまりどのセンサーを載せるかに集中している。

テスラはこのうち LiDAR を載せない。それだけではなく、NHTSA が2026年3月18日付の調査資料に書いたところでは、テスラは2021年半ばにカメラとレーダーの併用から、Tesla Vision と呼ぶカメラだけの方式へ移った。同資料は FSD を「視覚ベースのカメラだけに頼る」運転支援システムと表現している。年次報告書も「視覚ベースの技術で自社のニューラルネットワークを学習させ、自社設計の推論用半導体で加速する」と記す。カメラの映像と計算能力だけで人間の目と脳を再現する、という路線である。

ウェイモや百度は逆に、LiDAR・レーダー・カメラを重ねて高精度の3次元地図と組み合わせる。そしてその中間に、自動車メーカーの裏方であるモービルアイがいる。同社の年次報告書 (2025年12月期) は、自社の方式を「単眼カメラの処理だけで正確に働き、冗長性のためにレーダーや LiDAR と組み合わせることもできる」と説明し、複数の LiDAR の代わりに自社の画像化レーダーを開発したと書く。カメラだけで動く設計を基本にしながら、上位の製品では別のセンサーを足す。2つの陣営は排他ではなく、「どの価格帯の製品にどこまで載せるか」の違いとして同じ会社の製品表の中に共存している。

規則の手書きから End-to-End へ移っても、視界を失ったときに黙る問題は残った

自動運転の判断の段は、この数年で作り方が根本から変わった。過去の方式はルールベースで、「赤信号なら止まる」「人がいたら避ける」といった規則を何百万行ものコードで手書きしていた。現実の道路は「雪で白線が見えない」「鳥が車の前に落ちてくる」のような想定外の連続で、規則の列挙では追いつかなかった。現在の方式は End-to-End (エンドツーエンド。センサーの入力からハンドルとペダルの出力までを1つのモデルで学習する方式) で、テスラの v12 以降がその例である。人間の運転映像を数百万時間分AIに学習させ、「こういう状況では人間はこうハンドルを切る」という感覚そのものを覚えさせる。コードを書かなくても、AIが経験から滑らかな運転を再現できるようになった。End-to-End の中身と、それを日本で展開しようとする英国 Wayve の動きは、Wayve の人事から読む E2E 自動運転で扱った。

ただし、方式が変わっても消えない問題が2つある。1つは学習データに無い稀な事象で、工事現場の誘導員が複雑な手信号を出している、道路に巨大な落下物がある、といった場面ではAIが止まったり誤作動したりする危険が残る。もう1つは視界の問題で、大雪・豪雨・濃霧でカメラやセンサーが物理的に塞がれると、システムは安全な判断ができない。

この2つ目は、規制当局の記録として既に形になっている。NHTSA は2024年10月17日、FSD を使用中の車が「まぶしい日差し、霧、舞い上がる砂ぼこり」で視界が落ちた場所に入った後に衝突した4件の報告を受けて予備評価 PE24031 を開いた。うち1件で歩行者が死亡し、別の1件で負傷者が出た。対象は2016〜2024年型の約241万台である。2026年3月18日には技術分析 EA26002 へ格上げされ、対象は約320万3,754台、事案は9件・負傷2件・死亡1件に増えた。調査の焦点は、視界が落ちたときにそれを検知して運転者に警告する「性能低下の検知」が働かなかったことにある。資料によれば、テスラは2023年11月28日の死亡事故の報告を提出した翌日の2024年6月28日にこの検知の更新に着手したが、更新が入っていれば影響した可能性があるのは9件のうち3件にとどまるとテスラ自身が分析している。

この調査は、「カメラだけの方式」の弱点を規制当局の言葉で記録したものになっている。霧や砂ぼこりで前が見えないときに距離を測り続けられるのはレーダーであり、テスラは2021年にそれを外した。End-to-End がどれだけ滑らかに走っても、入力のセンサーが見えていない場面では判断の段に渡す材料が無い。方式の転換は「判断」の段を変えたのであって、「認知」の段の物理的な限界は変えていない。

「完全自動運転」を運転者のいない走行距離で測ると、順位は名前と逆になる

自動運転の会社を比べるとき、最も頻繁に引かれる数字はテスラの累計走行距離である。同社の安全に関する自社サイトの掲載値によれば、FSD (Supervised) の累計走行は2026年5月時点で100億1,068万4,206マイルで、うち市街地が37億6,120万3,620マイルである。年ごとの走行は2021年の約600万マイルから、2022年8,000万、2023年6億7,000万、2024年22億5,000万、2025年42億5,000万マイルと増えた (原本の取得先が403のため、報道各社が転載した同じ数字で確認した)。世界中の市販車がデータを集める、という説明はこの数字で裏づけられる。

ただしこの100億マイルは、すべて運転者が監視し、責任を負いながら走った距離である。運転者のいない状態で走った距離は別に数える必要がある。2026年7月22日の決算説明会で、テスラは運転者のいないロボタクシーの累計を38万マイル超と述べた。監視ありの100億マイルに対して、監視なしは38万マイルで、比は約2万6,000倍になる。

運転者が監視した走行距離と、運転者のいない走行距離は別の物差しで数える
運転者が監視した走行距離と、運転者のいない走行距離は別の物差しで数える

同じ「運転者のいない走行」を、ウェイモは自社の安全データとして公表している。2026年3月までの累計は2億2,060万マイルで、フェニックス8,060万、サンフランシスコ湾岸6,710万、ロサンゼルス5,180万、オースティン1,580万、アトランタ540万マイルの5地域に分かれる。同じ地域の人の運転と比べて、負傷を伴う事故は82%、重傷以上の事故は94%、歩行者の負傷事故は93%少ないとしている。アルファベットの年次報告書 (2025年12月期、2026年2月5日提出) はウェイモを「複数の都市で顧客に完全自動運転の有料配車サービスを提供している」と記し、同社のサイトは米国14都市 (アトランタ、オースティン、ダラス、デンバー、ヒューストン、ロサンゼルス、マイアミ、ナッシュビル、オーランド、フェニックス、サンアントニオ、サンディエゴ、サンフランシスコ湾岸、タンパ) と累計乗車2,000万回超を挙げる。

百度のアポロ・ゴーも同じ物差しで数字を出している。2026年2月26日の決算発表によれば、2025年10〜12月期の完全無人の乗車は340万回、週の乗車は最大で30万回を超え、前年同期比で200%超増えた。2026年2月時点の累計乗車は2,000万回超、稼働都市は26、累計走行は3億km超のうち完全無人が1億9,000万km超 (約1億1,800万マイル) である。海外はロンドン、ザンクトガレン、アブダビ、ドバイ、ソウル、香港に広がった。

運転者のいない走行距離で並べると、ウェイモ2億2,060万マイル、アポロ・ゴー約1億1,800万マイル、テスラ38万マイルの順になる。名前に「完全自動運転」を掲げる会社が最も短く、LiDAR を積む2社が長い。対象の物差しを「監視ありの累計」から「運転者のいない累計」に替えるだけで、順位は逆になる。

この物差しには、もう1つの側面がある。運転者のいない営業は、まだ利益を出していない。アルファベットのその他の事業 (ウェイモを含む) は、2026年4〜6月期の売上が3億8,200万ドルに対し営業損失が17億9,900万ドルで、前年同期の3億7,300万ドル・12億4,600万ドルから損失が広がった。GM は2024年12月にクルーズのロボタクシー開発への資金提供をやめ、2024年10〜12月期に5億ドルの費用を計上した。クルーズの2024年の営業損失は約17億ドルで、2025年の見通しには費用減による5億ドルの効果を織り込んでいる。クルーズは2023年10月24日にカリフォルニア州車両管理局から商用運行の許可と無人試験の許可を即日停止されており、停止の根拠として同局は「車両が公衆の運行に安全でない」「安全に関する情報の虚偽表示」など4つの条項を挙げた。運転者のいない距離を伸ばすことと、それで稼ぐことは別の課題である。

裏方のモービルアイは、この構図の外で最も多くの車に載っている。年次報告書によれば、同社の半導体 EyeQ を載せた車は累計2億3,000万台超、搭載車種は約1,400、2025年の出荷は約3,570万台 (2024年は約2,900万台)、協業する自動車メーカーは50社超である。製品は「目を離さず手も添える」基本の運転支援から、「目を離し手も離し運転者不要」の Drive まで段階を分けて売る。2025年の売上は19億ドル、純損失は3億9,200万ドルだった。出荷台数の大半はレベル2以下の運転支援で、運転者のいない走行とは別の市場で数を積んでいる。運転支援用の半導体の勢力図は運転支援SoCの中国シェアで扱った。

会社認知の方式監視運転者のいない走行の実績 (一次資料)
テスラカメラだけ (2021年にレーダーを外す)FSD (Supervised) は運転者が監視。ロボタクシーは4都市圏で運転者なし、湾岸は安全運転者同乗38万マイル超 (2026年7月、決算説明会)
ウェイモ (アルファベット)LiDAR・レーダー・カメラ + 高精度地図運転者なし2億2,060万マイル (2026年3月まで、5地域)
百度 アポロ・ゴーLiDAR + 高精度地図運転者なし (中国本土の稼働都市すべて)1億9,000万km超 (2026年2月まで、26都市)
クルーズ (GM)LiDAR + 高精度地図2023年10月に無人許可を停止、2024年12月に開発資金を停止営業を終了
モービルアイ (インテル)単眼カメラを基本に、上位はレーダー・LiDAR を追加製品ごとに「目を離す/離さない」を区分出荷3,570万台の大半はレベル2以下

責任の所在は「世界的に未確立」ではなく、日本では法律が先に決めた

自動運転の3つ目の壁として、事故を起こしたときの責任が所有者にあるのかメーカーにあるのか、法的責任の所在が世界的に確立していない、という指摘がよくなされる。トロッコ問題として語られる倫理の問いも、この延長にある。ただし日本については、この指摘は事実と合わない。

警察庁の説明によれば、2019年改正の道路交通法 (2020年4月施行) は、レベル3にあたる自動運行装置について「運転者が自動運行装置から運転操作を直ちに確実に引き継ぐこと」を求めた。続く2022年改正 (2023年4月施行) は「運転者がいない状態での自動運転である特定自動運行」の許可制度を設け、都道府県公安委員会が許可する仕組みにした。レベル4では運転者が存在しないので、責任の主体を運転者に置く従来の枠組みが使えない。日本の法律はこれを、許可を受けた特定自動運行実施者という新しい主体を置くことで解いている。責任の所在が曖昧なまま無人の車を走らせているのではなく、法律が主体を先に定義してから走らせている。

実際に走った例もある。福井県永平寺町では、国土交通省が2023年3月30日にレベル4の車両を国内で初めて認可し、福井県公安委員会が2023年5月11日付で国内初の特定自動運行を許可、2023年5月21日から運行が始まった。7人乗りの電動カート4台 (経路上は3台と予備1台) が、町道「永平寺参ろーど」の荒谷停留所から志比停留所までの約2kmを運転者なしで走る。運行主体はまちづくり株式会社ZENコネクトである。約2kmの町道と、ウェイモが走る米国14都市の間には距離の差があるが、制度の上では同じレベル4であり、同じく運転者を置かない。

対象を海外に広げても、責任の所在は制度ごとに決まっている。カリフォルニア州がクルーズの許可を停止したのは州の規則の4つの条項に基づく行政処分であり、NHTSA がテスラの FSD を調べているのは連邦の欠陥調査の手続きである。責任の所在が世界で1つに決まっていないことと、各国で決まっていないことは別である。

自動運転の会社を測る物差しは、製品の名前ではない。運転者の監視が要るかどうかで製品はレベル2とレベル4に分かれ、運転者のいない状態で走った距離で会社の現在地が決まる。この2つで見ると、完全自動運転を名乗るテスラの FSD はレベル2の運転支援であり、運転者のいない車を最も長く走らせているのは LiDAR を積むウェイモである。

投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談はこちら