中国の運転支援用SoCで「中国産が半分以上」という見立てが出回っている。高工と蓋世の2つの集計は首位がホライズンとエヌビディアで食い違う。数えている車と単位の差を解き、稼ぎ手を提出書類で確かめた。
運転支援の半導体をめぐる議論は、占有率の数字が独り歩きしやすい。同じ「中国市場」でも、中国系ブランドだけを数えるか、テスラを含めるか、供給元で数えるか、品番で数えるかで首位が入れ替わる。高工と蓋世の2つの集計はその典型で、片方は高工智能汽車研究院の2026年1〜6月の集計、もう片方は蓋世汽車研究院の2026年1〜7月の集計である。まず図を原図の数値どおりに再現し、それぞれが何を数えているかを固定する。
図1が数えているもの ― 中国系ブランドの車、供給元の単位
1枚目は高工智能汽車研究院の集計で、母集団は中国系ブランドが中国で販売した乗用車、単位はSoCの供給元である。ホライズン (地平線) が31.94%、エヌビディアが29.38%、モービルアイが9.17%、ファーウェイが8.74%、その他が20.77%で、合計は100.00%になる。テスラは中国系ブランドではないので母集団に入らない。
同じ集計の本文によれば、この期間にナビ連動の運転支援 (NOA) を出荷時に標準装備して納車された車は290万8,200台で、前年同期比51.23%増だった。市場全体の納車は2割近く減っており、運転支援を標準装備する車だけが伸びている。ホライズンの首位は、BYDの「天神之眼C」と吉利の「千里浩瀚H3」が同社のJourney 6 (征程6) を採用したことで支えられている。市街地向けの高性能帯ではエヌビディア・ホライズン・ファーウェイの3社で約8割を占め、勢力図は「1強2強」から「2強」へ寄った、というのが集計側の見立てである。
ここで「中国産が半分以上か」を検算する。図1で中国勢と確定できるのはホライズンとファーウェイの合計40.68%である。米国勢のエヌビディアとモービルアイの合計は38.55%。残る20.77%の内訳は公表されておらず、黒芝麻 (Black Sesame) や自動車メーカーの自社設計品といった中国勢と、クアルコムやテキサス・インスツルメンツなど米国勢が混在する。したがって中国勢の占有率は図1からは40.68%から61.45%の範囲としか言えない。半分を超えている可能性はあるが、図1だけでは断定できない。
図2が数えているもの ― テスラを含む全ブランド、品番の単位
2枚目は蓋世汽車研究院の集計で、統合制御ユニット (ドメインコントローラー) に載る半導体を品番の単位で数え、テスラの自社設計品を含む。エヌビディアのDrive Orin-Xが36.6%、テスラのFSDが26.7%、ファーウェイのアセンド610 (昇騰610) が10.7%、モービルアイのEyeQ5Hが5.5%、ホライズンのJourney 5 (征程5) が5.4%、その他が15.1%で、合計は100.0%である。
図2で中国勢の品番と確定できるのはアセンド610とJourney 5の合計16.1%にとどまる。図1でホライズンが首位だったのに図2で5.4%しかないのは、図2が品番単位であり、ホライズンの主力であるJourney 6が「その他」15.1%の側に入っているためである。同じ理由でエヌビディアの次世代品Thorも「その他」に含まれる。テスラを母集団に入れた瞬間、自社設計のFSDが26.7%を取り、中国勢の見かけの比率は一気に下がる。
蓋世の別の集計は、この動きを時系列で示している。統合制御ユニット向けの半導体でエヌビディアの占有率は2023年の33.5%から2025年に52.1%へ上がり、2026年上半期は45.0%へ下がった。ファーウェイのアセンド610は2023年の1.9%から2025年に10.9%へ、ホライズンは2024年の8.2%から2025年に9.7%へ伸びている。図2のOrin-X 36.6%と全体の45.0%の差は、Orin-XとThor、Orin-Nなど同社の複数品番を合算するかどうかの差だと記者は読んでいる。蓋世の1〜7月の原資料そのものは取得できておらず、この解釈は記者の観察として明示しておく。
2つの図を並べて言えることは明確である。中国系ブランドの車に限れば、中国勢のSoCは4割強から6割の間にあり、首位はホライズンである。テスラを含めた市場を品番で数えると、米国勢の品番が7割近くを占め、中国勢の品番は2割弱にとどまる。「中国産が半分以上」は前者の上限側の読み方であり、後者では成り立たない。
演算の帯で市場は3つに割れている
高工智能汽車研究院はもう1つの切り口を公表している。2026年に100 TOPS (毎秒兆回の演算) 超の半導体を載せた車は440万台で、統合制御ユニット方式の中で64%超を占めた。さらに300 TOPS超の車は200万台超で約3割にあたり、市街地の運転支援や一気通貫型のモデルを動かす土台になっている。
この300 TOPS超の帯では、テスラ・NIO・小鵬の自社設計品が合計35%超を占める。統合制御ユニット全体ではエヌビディア・ホライズン・ファーウェイ・テスラの4社で8割超、上位8社で97%超と、供給側の寡占が進む。一方で前方カメラ一体型ユニットの市場ではモービルアイが約44%で首位を保ち、中国製の一体型ユニットは2024年比で約25%減った。車室向けのAI半導体はクアルコムが74%を握る。
つまり市場は、高速道路向けの前方カメラ一体型 (モービルアイが強い)、統合制御ユニットの中級帯 (ホライズンとエヌビディアが競う)、300 TOPS超の高性能帯 (エヌビディアと自社設計品) の3つに割れている。占有率の議論は、どの帯の話かを決めてからでないと噛み合わない。
SoCの中で何が計算されているか
なぜ市街地の運転支援で必要な演算が跳ね上がるのかは、SoCの内部を追うと分かる。運転支援用SoCは、カメラの信号を整える画像信号処理 (ISP)、行列の掛け算に特化したNPU、逐次処理を担うCPU、そして異常を監視して安全側に倒す独立した回路 (安全島) を1つのシリコンに載せている。処理は毎秒数十回まわり、各段で働く回路が違う。
認識の段では、7〜12個のカメラから取った特徴を1つの鳥瞰図 (BEV) の格子に写し、トランスフォーマーと呼ばれる変換器型モデルで物体、車線、空間の占有を推定する。トランスフォーマーの中核である注意機構は、格子同士の関係をすべて照合するため、格子の数をnとすると計算量はnの2乗に比例して増える。高速道路では対象が前後の車と車線に限られ、カメラ1〜3個と100 TOPS未満で足りる。市街地では交差点、歩行者、二輪、信号、遮蔽物を全周で扱うため、解像度と視野を上げるほど演算が2乗で膨らみ、300 TOPS超が入場券になる。
判断の段では、規則で書いた判断木から、認識と判断を1つのモデルで学ぶ一気通貫型へ移りつつある。さらに、状況を言葉で説明しながら操作を決める視覚言語行動 (VLA) 型が高性能帯の次の主戦場になっている。テスラのFSD、NIOと小鵬の自社設計品がこの帯に集中しているのは、モデルの構造と半導体の設計を同じ会社で決められるからである。
性能を決める数字はTOPSだけではない。第1に記憶帯域である。トランスフォーマーは重みと特徴を絶えず読み書きするため、帯域が細いとNPUが待たされ、公称のTOPSが余る。車載は低電力DRAM (LPDDR5) が主流で、データセンター向けの広帯域メモリー (HBM) は使えない。第2に電力と熱で、数十ワットで動かし、車室の温度と15年の寿命に耐える必要がある。ワットあたりのTOPSは製造プロセスで決まり、ホライズンが2026年4月に発表したStarry 6Pは5ナノメートル世代で650 TOPSを掲げる。第3に認証で、車載品質 (AEC-Q100) と機能安全 (ISO 26262) の取得が新規参入の壁になっている。公称TOPSは密な行列を仮定した上限で、実効性能はその半分以下になることが多い。
首位のホライズンは赤字で、稼ぎの重心は許諾に移っている
占有率と稼ぎは一致しない。ホライズンの2026年1〜6月の売上高は20.55億元で前年同期比32.9%増、粗利率は66%だった。内訳は製品 (SoCなど) が9.26億元で14.8%増、許諾・サービスが11.29億元で52.7%増である。許諾の粗利率は90.4%、製品は48.1%で、売上高の55%を占める許諾が利益の大半を生む。上半期の出荷は約220万個で12.1%増、通年では500万個超を見込み、Journey 6Bの生涯受注は2,000万個を超えた。
それでも研究開発費は27億元で売上高を上回り、調整後の純損失は16.7億元だった。会計上は37.84億元の純利益を計上しているが、これはフォルクスワーゲンとの合弁に絡む転換社債の公正価値変動益によるもので、事業の黒字ではない。黒字化の目標は2028年ごろとされ、株価は年初から半減した。占有率で首位に立った会社が、まだ稼げていない。これが図1の裏側である。
事業の質は数字の中に出ている。製品売上高の伸び14.8%に対して許諾売上高が52.7%伸びたことは、ホライズンが「半導体を売る会社」から「認識ソフトを許諾する会社」へ重心を移していることを示す。半導体の占有率を追うだけでは、この転換は見えない。
モービルアイは38億ドルを減損し、中国では安い側で勝っている
モービルアイの2025年12月期は売上高18億9,400万ドル、営業損失4億4,000万ドルだった。2026年1〜3月期は売上高が5億5,800万ドルで27%増えたが、38億ドルののれん減損を計上し、営業損失38億9,600万ドル、純損失38億1,800万ドルとなった。会社は減損の理由として、時価総額の35%下落と、中東の地政学リスクおよび競争環境の変化に伴う割引率の上昇を挙げている。2026年4〜6月期の売上高は5億800万ドルで前年同期並み、営業損失は3,000万ドルにとどまった。
中国での位置は二面的である。統合制御ユニットの高性能帯では図1の9.17%、図2の5.5%と後退したが、前方カメラ一体型ユニットでは約44%で首位を保つ。会社自身が、中国メーカー向けの台数は1台あたりの売上高と利益率が西側向けより低く、下半期の台数は見通しが立たないと説明している。安い側で台数を取り、高い側で負ける。減損はその構図を会計が確認した形である。
エヌビディアは車載の区分開示をやめた
エヌビディアは2027会計年度の第1四半期から、売上高の区分をデータセンターとエッジ計算の2つに改め、車載を単独では開示しなくなった。2026年5〜7月期の売上高962億ドルのうちデータセンターが890億ドル、エッジ計算が72億ドル (前年比27%増) で、車載はエッジ計算の中に溶けている。最後に単独で開示された車載売上高は2025年5〜7月期の5億8,600万ドル (69%増) で、全社売上高の1%に満たない。
この開示変更の意味は小さくない。蓋世の集計でエヌビディアの中国占有率が52.1%から45.0%へ下がった時期と、区分開示の廃止が重なっている。中国で自社設計品とホライズンに押される様子は、同社の決算からは読み取れなくなった。次世代品のThorは2026年に中国メーカーで量産採用が始まっており、Orin-XからThorへの世代交代が占有率の下げ止まりにつながるかどうかは、蓋世と高工の次の集計で確かめるしかない。
ファーウェイとテスラ、上場していない2つの勢力
ファーウェイは非上場で、アセンド610の売上高を公表しない。蓋世の集計で品番別10.7%、供給元別8.74%という数字が、同社の車載半導体の規模を測る唯一の公開指標である。同社は米商務省の輸出規制対象リスト (エンティティー・リスト) に載っており、先端プロセスの調達は制約を受ける。制裁データベースで指定の経緯を追える。
テスラのFSDは自社設計で、外販しない。図2の26.7%は、テスラが中国で売った車の台数そのものを映している。300 TOPS超の帯で自社設計品が35%超を占めるという高工の集計は、この帯の主導権が半導体会社から自動車会社へ移りつつあることを示す。半導体の占有率表に「その他」として現れる自社設計品は、今後の集計で最も伸びる区分になる。
日本勢は占有率表に名前がない
中国の運転支援用SoCの占有率表に、日本企業の名前は出てこない。ルネサスエレクトロニクスの車載SoC「R-Car」は中国の統合制御ユニット市場で計数対象に上がらず、同社の2025年12月期は売上収益1兆3,212億円で2.0%減、営業利益2,012億円に対し、親会社の所有者に帰属する当期損失は517億6,300万円だった。研究開発費2,403億円を投じながら、前期の2,190億円の利益から赤字へ転じている。
デンソーの2026年3月期は売上収益7兆5,400億円で5.3%増、営業利益5,525億円、純利益4,438億円と好調だが、同社は運転支援SoCの供給元ではなく統合制御ユニットの組み立て側にいる。そしてトヨタは2026年上半期、広汽トヨタの入門車でホライズン製SoCの量産を始めた。トヨタとスズキがホライズンのJourney 6を採る経緯は以前の検証で追っている。日本の車載半導体は、この領域で供給する側から買う側へ回った。
確かめられなかったこと
高工と蓋世の集計は、いずれも研究機関が保険登録や納車の数から推計した値で、監査を受けた開示ではない。図1の「その他」20.77%と図2の「その他」15.1%の内訳は公表されておらず、中国勢の正確な合計は出せない。蓋世の2026年1〜7月の原資料は入手できず、本稿の図2の数値は原図の表示をそのまま用いた。米セントルイス連邦準備銀行の統計 (FRED) は本稿の執筆時点で応答がなく、半導体の生産者物価などの参照を省いた。日本の政府統計 (e-Stat) には車載半導体の該当系列がない。
追いかけるなら、数字の定義を先に決める
投資家が確かめられる点は4つある。第1に、占有率を見るときは母集団 (中国系ブランドのみか、テスラを含むか) と単位 (供給元か品番か) を先に確認する。同じ市場で首位が入れ替わるのは定義の差であって、事実の食い違いではない。第2に、ホライズンは製品売上高と許諾売上高を分けて見る。許諾の伸びが止まれば、粗利率66%の構造が崩れる。第3に、モービルアイは中国向けの1台あたり売上高を追う。台数が増えても利益が付いてこない構図は、減損後も変わっていない。第4に、エヌビディアの車載は決算では見えなくなったので、蓋世と高工の集計を代替指標として使う。
半導体の占有率は、その半導体で何を計算しているかを知って初めて意味を持つ。市街地の運転支援が演算を2乗で膨らませ、300 TOPS超の帯が自社設計品に流れ、稼ぎの重心が半導体の販売から認識ソフトの許諾へ移る。この3つの動きを押さえれば、次に出てくる円グラフを読み違えることはない。個別の銘柄は銘柄レーダーから辿れる。
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