弾薬の保管庫を急いで増やす防衛省が、建物の設計を共通にする。着工を遅らせてきたのは1棟ずつの設計だった。予算は4年で6倍を超え、京都府や大分県では準大手の建設会社が1件数十億円の工事を請け負う。
自衛隊の火薬庫の整備費は、2024年度の222億円から2027年度の概算要求では1,401億円へと、4年で6.3倍に増えた。防衛省は2027年度以降、およそ65棟以上の火薬庫の新設に着手し、個別に設計していた構造を標準の形にそろえる。日本経済新聞が報じた。狙いは設計の期間を縮めて早く使い始めることで、防衛省自身が、設計の遅れで工事の着工がずれ込み、費用が膨らんでいると認めている。京都府の祝園分屯地や大分分屯地では、戸田建設、五洋建設、前田建設工業、フジタ、西松建設が、1件あたり十数億〜数十億円の土木工事を受注している。
本稿は2026年9月23日、防衛省の予算資料、九州防衛局の説明資料、火薬類取締法施行規則、防衛局の入札結果を確かめた。火薬庫は、弾薬や火薬を安全に保管するための施設である。
防衛省は火薬庫65棟以上に標準の構造を使い、整備費は4年で6.3倍に増えた
日経によると、自衛隊は全国に約1,400棟の火薬庫を持ち、2032年度までにおよそ130棟増やす計画がある。このうち65棟は建設場所が決まり、設計や工事が進んでいる。2026年8月までに完成したのは3棟である。防衛省は2027年度以降の新設で、標準モデルの構造を導入して設計の期間を短縮し、早期の運用開始をめざす。有事に戦いを続ける能力 (継戦能力) を高めるため、弾薬の補充の態勢を急いで整える。
計画の数字は防衛省の資料とも合う。九州防衛局の説明資料 (2024年2月時点) は、2027年度までに約70棟程度を措置し、おおむね10年後までにさらに約60棟程度を整備する目標を示していた。当時、建設場所が確定していたのは大湊総監部 (青森県)、祝園分屯地 (京都府)、大分分屯地、えびの駐屯地 (宮崎県)、瀬戸内分屯地 (鹿児島県)、沖縄訓練場の6施設である。2024年12月には全国12施設の57棟に広がり、今回の日経の報道では65棟になった。
予算は、弾薬の取得に合わせて急増している。防衛省の各年度の予算資料では、「火薬庫の整備」は次のとおりである。
| 年度 | 火薬庫の整備 (億円) | 前年度比 |
|---|---|---|
| 2024年度 | 222 | ― |
| 2025年度 | 336 | 1.51倍 |
| 2026年度 | 672 | 2.00倍 |
| 2027年度 (概算要求) | 1,401 | 2.08倍 |
2027年度の要求は2024年度の6.31倍で、4年の合計は2,631億円になる。2027年度はこのほかに、金額を示さない要求も付いている。
火薬庫の置き場所を縛るのは保安距離で、貯蔵量の立方根にほぼ比例して長くなる
火薬庫の設計が個別になりやすいのは、法律が置き場所と構造を細かく決めているためである。九州防衛局の説明資料によると、貯蔵量の多い一級火薬庫には、地上式、地上覆土式、地中式、地下式の4種類がある。壁は鉄筋コンクリートで、周囲に覆土や土堤を設ける。自衛隊の火薬庫も火薬類取締法に従い、設置には経済産業大臣の承認が要る。防衛省は、自衛隊の火薬庫で爆発事故が起きたことはないとしている。
中でも重いのが保安距離である。保安距離は、万一の爆発に備えて、火薬庫の外壁から周りの建物などまで空けておく法定の距離をいう。火薬類取締法施行規則は、守る対象を4つに分ける。第一種は学校、病院、保育所、市街地の家屋など、第二種は村落の家屋と公園、第三種はそれ以外の家屋、鉄道、発電所、工場など、第四種は国道、都道府県道、高圧電線などである。一級火薬庫の場合、同規則第23条の表は、爆薬の貯蔵量ごとに必要な距離を次のように定める。
| 爆薬の貯蔵量 | 第四種 | 第三種 | 第二種 | 第一種 |
|---|---|---|---|---|
| 40トン | 170 | 270 | 480 | 550 |
| 20トン | 140 | 220 | 380 | 440 |
| 10トン | 110 | 170 | 300 | 340 |
| 5トン | 85 | 140 | 240 | 280 |
| 1トン | 50 | 80 | 140 | 160 |
単位はメートルである。九州防衛局の資料も、貯蔵量40トンなら病院まで550メートル以上が要ると例示している。半径550メートルの円の面積は0.95平方キロで、学校や病院をこの範囲から外せる土地は限られる。
本誌が検算すると、表の距離は貯蔵量の立方根にほぼ比例している。40トンの550メートルを立方根で縮めると、20トンで437メートル、1トンで161メートルになり、表の440メートル、160メートルと合う。同規則も、最大貯蔵量を超える場合の距離は貯蔵量の立方根に比例させて計算すると定めている。爆発の影響が届く距離は、爆薬の量の立方根に比例して延びるためである。貯蔵量を半分にしても距離は2割ほどしか縮まない。
土堤にも効果がある。土堤を屋根の高さの4分の5以上にすると、第二〜四種への距離は短くなる。40トンなら第二種は480メートルから340メートルへ、第三種は270メートルから170メートルへ、第四種は170メートルから140メートルへ縮む。第二種で約29%の短縮になる。ただし第一種への距離は短くならない。記者の見立てでは、火薬庫の種類と貯蔵量を決めれば、必要な距離と土堤の高さはほぼ決まる。構造を標準にそろえやすいのはこのためで、建設場所ごとに変わるのは、主に周囲の地形と建物との位置関係になる。
設計の遅れが工事を止めていたことは、防衛省の発注方式の見直しに表れている
防衛省は近年、施設の工事を急ぐため、設計が終わる前に工事を発注してきた。防衛省施設整備課の2025年12月26日の文書によると、標準図等活用方式は、別に発注した設計業務が終わる前に、概略の図面と数量で工事を発注し、設計の完成後に受発注者の協議を経て契約を変更し、着工する方式である。2024年度からは、早く効果を出す必要がある事案について、調査・設計・工事の予算を同じ年度に計上している。
同じ文書で防衛省は、2023年度以降、この方式で多くの工事を発注する中で、設計業務の遅れによる工期の延長や費用の増加、現場を管理する技術者 (監理技術者) の交代について、懸念の声が寄せられていると認めた。設計の遅れで増えた費用は工事費に計上し、工事の一時中止や工期の延長にも協議で応じるよう地方防衛局に通知し、相談窓口を設けたうえで、この方式に代わる発注方式を検討するとしている。
記者の見立てでは、火薬庫の構造の標準化は、この問題に直接答えるものである。部隊ごとに保管する弾薬が違うため、火薬庫はこれまで1棟ずつ設計されてきた。構造を標準にそろえれば、棟ごとの設計の量が減り、設計の遅れで工事が止まる期間が短くなる。
火薬庫の土木工事は、準大手の建設会社が1件十数億〜数十億円で受注している
防衛局の入札結果から、火薬庫の新設に関わる主な土木工事を拾うと、上場する建設会社の名前が並ぶ。
| 工事 | 受注者 | 落札額 (億円) |
|---|---|---|
| 祝園 (その3) | フジタ・久本組の共同企業体 | 48.39 |
| 大分 (その1) | 五洋建設・梅林建設の共同企業体 | 39.93 |
| 祝園 (その2) | 戸田建設・吉村建設工業の共同企業体 | 35.56 |
| 祝園 (土木) | 前田建設・公成建設・イチグミ建設の共同企業体 | 28.64 |
| 祝園 (その1) | 戸田建設・吉村建設工業の共同企業体 | 21.86 |
| 大分 (その2) | 西松建設 | 18.09 |
| 鹿屋 | 戸田建設・森建設の共同企業体 | 13.64 |
| 崎辺 | フジタ | 13.05 |
| 竹松 | 梅村組 | 6.86 |
いずれも一般競争入札で、2025年から2026年にかけて契約され、工事が始まった。祝園は近畿中部防衛局、大分・崎辺・竹松は九州防衛局、鹿屋は熊本防衛支局の発注である。9件の合計は226億200万円で、うち祝園分屯地の4件が134億4,500万円を占める。予定価格に対する落札額の割合 (落札率) は92.0〜94.6%だった。上場会社は戸田建設 (1860)、五洋建設 (1893)、西松建設 (1820) と、前田建設工業を傘下に持つインフロニア・ホールディングス (5076)、フジタを傘下に持つ大和ハウス工業 (1925) である。
設計の業務も棟ごとに発注されている。祝園の土木設計は協和コンサルタンツと日本工営などの共同体が、大分の土木設計はオリエンタルコンサルタンツが、小倉ほかの土木設計はオオバが受注した。自衛隊関連の上場企業は本誌の自衛隊関連銘柄の一覧にまとめている。
記者の見立てでは、投資家にとっての意味は受注額の大きさよりも時間にある。構造の標準化で設計の遅れが減れば、建設会社にとっては受注から着工、売上の計上までの期間が縮まる。一方で、1棟ごとの設計の量は減る。火薬庫の整備費は2027年度に1,401億円を要求しており、2032年度までの130棟の計画が続く限り、発注は数年にわたって続く。
自衛隊の火薬庫は、2027年度以降の新設から構造が標準にそろう。保安距離と土堤の基準が法律で細かく決まっているため、種類と貯蔵量を決めれば構造の大半は共通にでき、個別の設計で工事が止まってきた問題を減らせる。整備費が4年で6倍を超えて増えるなか、祝園や大分の土木工事を担う戸田建設、五洋建設、前田建設工業、フジタ、西松建設にとって、標準化は受注した工事を早く着工できるかどうかに直結する。
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