頭脳と電源 — 計算機・基盤モデル・電池・電源回路・磁石
頭脳は人型ロボットに欠かせないが、同じ半導体は自動車にもデータセンターにも使われ、人型ロボットのための部品ではない。一方で、関節の数だけ必要な電源回路と磁石は、人型ロボットが増えるほど数が増えます。体の中の電気の流れを、電池から関節まで順にたどります。
入門は要点と図だけ、標準は仕組みまで、研究は式と論文の水準まで表示します。選んだ深さはこの端末に残ります。
頭脳は「理解する・計画する・指令を出す」の3段で、速い判断ほど体の近くで行う
- 頭脳の中身は、計算機 (GPU・CPU) と、その上で動く基盤モデル
- 遅い判断 (何をするか) は大きなモデル、速い判断 (どう動くか) は関節の近くの回路
- 同じ半導体は自動車やデータセンターにも使われ、人型ロボットのための部品ではない
人型ロボットの頭脳は、1つの計算で全部を決めているわけではありません。「机の上のコップを片付けて」という指示を理解して手順を決めるのは、胸の計算機で動く大きな基盤モデルの仕事です。手をどの道筋で伸ばすか、足をどこに置くかを決める段、全身の関節の力を配って転ばないようにする段、そして関節ごとに角度と力を合わせる段と、下へ行くほど速く、体の近くで計算します。
基盤モデルは近年、画像と言葉の指示を受け取って手足の動きを直接出す視覚・言語・行動モデル (VLA モデル) に進んでいます。業界地図の「基盤モデル」の列には、テスラ・エヌビディア・オープンAI・アルファベット・メタ・科大訊飛・ファーウェイが並びます。計算機では、エヌビディアがロボット用の計算機と基盤モデルの両方を提供し、クアルコムは消費電力の小さい産業向けの計算機で参入しています。仕組みの詳細は制御と学習の章で扱います。
その場の判断は機体の上で — 通信の往復を待てない計算を、小さな半導体で行う
- 「いま手を止める」判断は、遠くのサーバーとの往復を待てない
- 画像処理・センサーの統合・モーターの制御を、専用の小さな半導体で行う
- 証券会社の採点は、機体の上の推論用の半導体を独立した部品として扱っていない
人に手が触れそうになったら止める、つまずいたら足を踏み出す。こうした判断は、通信で遠くの計算機に問い合わせて答えを待つ時間がありません。機体の上に載せた推論用の半導体が、その場で計算します。投稿の筆者は、画像処理の半導体のアンバレラ、信号処理と推論の回路の設計を他社に提供するシーバ、センサーの統合とモーターの制御に使う小さなプログラム可能な半導体のラティス・セミコンダクターを挙げています。
この半導体は技術的には欠かせませんが、減速機のように作れる会社が限られる部品ではありません。投稿の筆者は、人型ロボットが予想より多くの計算を機体の上で行う設計になれば大きく伸びる可能性はあるものの、投資の中心ではないと位置づけています。
電池の容量は1キロワット時前後から2キロワット時余り、稼働は数時間 — 1日中働くには充電の回し方が要る
- 人型ロボットの電池は1キロワット時前後から2キロワット時余りで、電気自動車の1割にも満たない
- 稼働は数時間。1日中働かせるには、短い充電や電池の交換を組み合わせる
- 電気自動車と同じ電池で、人型ロボットの需要は小さい
人型ロボットの電池は胴の中に収まる大きさで、公表された容量はユニツリー H1 の0.864キロワット時からフィギュアの2.3キロワット時まで幅があります。電気自動車の電池 (数十キロワット時) の1割にも届きません。容量を稼働時間で割ると平均の消費電力が分かり、2.3キロワット時で5時間動くなら0.46キロワットです (フィギュアの5時間は最大の性能で動かしたときの値)。電池を重くすれば長く動けますが、その重さを関節が支えなければならず、動きが遅くなり、モーターの負担も増えます。
1日中働かせる方法は、主に2つあります。作業の合間に短時間で充電する方法と、空になった電池を交換する方法です。アジリティの Digit 5 は90分働いて9分充電する短い周期を繰り返し、ボストン・ダイナミクスのアトラスは電池を自分で交換します。どちらを選ぶかで、必要な電池の性能 (短時間で充電できるか、何回充電しても劣化しないか) が変わります。詳しくは本誌の人型ロボットの電池の2つの道の記事で扱いました。
電池の単セルは電気自動車と共通で、CATL・サムスンSDI・パナソニックが業界地図に並びます。投稿の筆者は、産業用の電池のエナシスも挙げました。投稿が引用した証券会社の採点では、電池は最下位の12点で、「部品表に占める金額」と「人型ロボット向けの上乗せ」はどちらも1でした。
電源回路は関節の数だけ要る — 損失の小さい半導体が稼働時間を延ばす
- 電池の電気を、関節ごとのモーターと頭脳が使う形に変える回路
- 窒化ガリウムと炭化ケイ素の半導体で損失を減らす
- 電圧を48ボルトに上げると、同じ電力で電流が減り、配線が細く軽くなる
電池から出た電気は、電圧を変える回路で頭脳やセンサー用の低い電圧に変えられ、関節ごとの駆動回路でモーターを回す電流に作り変えられます。関節が約30個あれば、駆動回路も約30個要ります。回路の中の電力用半導体は入り切りのたびにわずかな電力を熱として失うので、損失の小さい窒化ガリウム (GaN) や炭化ケイ素 (SiC) の半導体を使うほど、同じ電池で長く働けます。
電力 (ワット) は電圧と電流の掛け算なので、電池の電圧を上げると、同じ電力を小さな電流で送れます。電流が小さいと、配線での損失 (電流の2乗に比例) が減り、配線も細く軽くできます。TDK は、人型ロボットの電源を48ボルトに上げる流れを理由に、積層セラミックコンデンサーを人型ロボット向けに名指ししています。
投稿の筆者は、電源回路の分野で窒化ガリウムのナビタス・セミコンダクター (筆者自身が株を持つと明かしている)、モーター制御の半導体のテキサス・インスツルメンツ、車載の電力用半導体のルネサスエレクトロニクスとインフィニオン、炭化ケイ素の STマイクロエレクトロニクスとオンセミ、小型の電源回路のモノリシック・パワー・システムズを挙げました。証券会社の採点はこの層を独立した部品として扱っていませんが、関節が増えれば電源回路も増えるという点で、人型ロボットの数量に比例する部品です。
磁石は関節の数だけ要る — ネオジム磁石とレアアースの供給は中国に偏る
- 関節のモーターには、小さくても強いネオジム磁石が要る
- 熱に強くするため、少量の重いレアアース (ジスプロシウムなど) を加える
- 中国以外の供給は限られ、投稿の筆者は磁石を「本当の要所」の1つとみる
関節のモーターは、回転子にネオジム磁石を使います。ネオジムはレアアース (希土類) の1つで、鉄・ホウ素と組み合わせた磁石は、同じ大きさで最も強い力を出せます。モーターは熱くなると磁力が弱まるため、熱に強くする目的で、ジスプロシウムなどの重いレアアースを少量加えるのが一般的です。
ネオジム磁石は、1982年に住友特殊金属 (現プロテリアル) の佐川眞人氏らが発明しました。同じ1984年3月の学術誌には、米ゼネラルモーターズも別の製法の磁石を発表しています。熱に強くするために加えるジスプロシウムやテルビウムは産出が特に偏るため、日本では磁石の表面から粒の境目にだけしみ込ませて使用量を減らす方法が開発され、信越化学工業は2004年に開発し、2008年に量産を始めました。
関節が約30個あれば、磁石も約30組要ります。レアアースの採掘と精製、磁石の製造は中国に大きく偏っており、中国以外で安定して調達できる量は限られます。中国は2025年4月4日から、ジスプロシウム・テルビウムなど7種のレアアースと、それらを含むネオジム磁石の輸出を許可制にしました。同年11月に追加の規制の実施は2026年11月10日まで止められましたが、4月の規制は止める対象に入っていません。投稿の筆者は、電池を「汎用品」とする一方で、磁石を人型ロボットの本当の要所の1つとみて、米国の MPマテリアルズと USAレアアース、オーストラリアのライナス、米国のエナジー・フューエルズを挙げています。
この章の確認
容量2.3キロワット時の電池で5時間動くロボットの、平均の消費電力はいくつですか。
2.3 ÷ 5 = 0.46キロワット (460ワット)。容量を稼働時間で割ると平均の消費電力が出る。
電池の電圧を上げると配線を細くできるのはなぜですか。
電力は電圧と電流の掛け算なので、電圧を上げれば同じ電力を小さな電流で送れる。配線での損失は電流の2乗に比例するので、電流が小さいと損失が減り、細い配線で足りる。
頭脳の判断を階層に分けるのはなぜですか。
「何をするか」を決める大きなモデルの計算は遅く、転ばないための判断や関節の制御は1秒に何百回・何千回も必要だから。速い判断ほど体の近くの小さな回路で行い、遅い判断を大きなモデルに任せる。
この章の出所
- 人型ロボットの部品への投資を論じた英語の投稿 (ゴールドマン・サックスの採点表と業界地図の画像を引用) (2026年9月)
- フィギュア F.03 の電池の開発 — 原典
- フィギュア シリーズC の資金調達 (2025年9月16日) — 原典
- TDK 積層セラミックコンデンサーの新製品 (人型ロボットと48ボルト化) (2026年9月8日) — 原典
- パナソニック エナジー 門真の研究開発拠点の稼働 (2026年9月16日) — 原典
一次資料との照合: 2026-09-24。企業の数字は各社の開示、技術の数字はメーカーの技術資料と論文から取りました。二次情報 (報道・証券会社の資料を引いた投稿) の値は、その旨を本文に書いています。
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