宇宙で太陽光を集めて電波で地上へ送る構想に、米国の防衛予算が新たに付いた。担い手の新興企業は、送電用のパネルをロボットアームでつなぎ、大型の設備に組み上げる。決め手は送電側の口径で、実用に足る大きさは1回の打ち上げでは運べない。
宇宙から地上へ電力を送るとき、届く量を決めるのは太陽電池の面積よりも送電アンテナの大きさである。高度500キロから10ギガヘルツの電波で送る場合、直径10メートルのアンテナでも、電波は地上で直径約3.7キロの円に広がる。直径100メートルの受電設備で受けても、その円の面積の0.075%にしかならない。米国防総省の基金が9月に選んだカタリスト・スペースの計画は、この壁を、送電用のパネルをロボットアームで軌道上につなぎ合わせて越えようとする試みである。
本稿は2026年9月23日、同社の発表、米海軍研究所の過去の実験の発表と論文、日本の実証衛星の資料を確かめ、電波の広がりと衛星が見える時間を計算した。宇宙太陽光発電は、宇宙で太陽光を受けて発電し、電力を電波に変えて地上へ送る仕組みである。
米国防総省の基金がカタリスト・スペースを選び、宇宙太陽光発電の送電パネルをロボット衛星で組み立てる
カタリスト・スペースは2026年9月21日、国防総省の基金の支援先に選ばれたと発表した。この基金は、戦地で使う電力や燃料の新しい技術の実用化に資金を出す。計画の名称はASGARDで、ロボットで組み立てて段階的に規模を広げる構想を表す英語の略称である。同社がロボット衛星をつくって打ち上げ、軌道上で大型の送電設備を組み立て、地上へ電力を送る。契約額と打ち上げ日は公表されていない。計画の初会合は9月2日、コロラド州ブルームフィールドの同社で開いた。
手順は次のとおりである。同社の多目的のロボット衛星「NEXUS」が、海軍研究所が同じ基金の資金で開発中のパネルを積んで低軌道へ上がる。自律制御のロボットアームがパネルをつなぎ合わせて大型の設備にし、パネルが太陽光を受けて発電し、その電気をマイクロ波に変えて地上へ送る。受ける側は、電波を直流の電気に戻す専用のアンテナ (レクテナ) である。同社はこれを、軌道上での組み立てと送電設備の運用の実証としては最大級の一つになるとしている。
カタリスト・スペースは2020年に創業した米国の防衛技術会社で、人工衛星に近づいてつかみ、修理や軌道の変更をするロボット衛星を手がける。2026年7月3日には、米航空宇宙局のスウィフト天文台を高い軌道へ押し上げるための機体「LINK」を、ノースロップ・グラマンのロケット「ペガサスXL」で打ち上げた。6月には1,200万ドルを調達し、NEXUSで静止軌道へ向かう最初の任務を2027年に予定している。最高経営責任者のゴンヒ・リー氏は今回の発表で、送電能力をキロワット級からメガワット級へ引き上げる構想を示した。宇宙産業の広がりと打ち上げ費用の低下は宇宙経済の記事で扱った。
宇宙太陽光発電で届く電力は送電アンテナの大きさで決まり、ロケット1機には収まらない
カタリスト・スペースは発表で、規模の大きな送電には、ロケット1機に積める容積を超える構造物が要ると説明した。部品を分けて打ち上げ、軌道上で組み立てれば、この制約を越えられる。設備は打ち上げの後も補給、拡張、更新ができるように設計するという。
アンテナの大きさが重要な理由は、電波の性質にある。電波は送電アンテナが小さいほど遠くで大きく広がり、その広がりはおおむね「2.44×波長×距離÷送電アンテナの直径」で表せる。ASGARDの高度は公表されていないため、本誌は低軌道の代表的な高度である500キロと仮定して計算した。10ギガヘルツ (波長3センチ) の電波の場合、真下の地上での電波の広がり (直径) は、アンテナが1メートルなら36.57キロ、10メートルなら3.66キロ、100メートルなら0.37キロになる。2.45ギガヘルツでは同じ順に149.28キロ、14.93キロ、1.49キロ、5.8ギガヘルツでは63.06キロ、6.31キロ、0.63キロである。
電波が地上で広がるほど、受電設備に届く割合は小さくなる。直径100メートルの受電設備は、直径3.66キロの円の面積の0.075%、直径0.37キロの円でも7.5%しか覆わない。実用的な量の電力を受け取るには、送電アンテナを数十メートルから100メートル級に広げる必要があり、1回の打ち上げでは運べない。ASGARDが組み立てを計画の中心に据えるのは、このためである。
低軌道には、もう1つの制約がある。高度500キロの衛星は約94.6分で地球を1周し、1か所の真上を通るときでも、仰角 (地上から見上げる角度) が30度を超えるのは約3.5分、10度を超える時間でも約7.4分にとどまる。軌道の向きによっては、1周のうち最長で約35.8分は地球の影に入り、太陽光を受けられない。海軍研究所の研究者は、宇宙からの送電は1日24時間、年間を通じて電力を届けられると説明しているが、同じ場所へ途切れなく送るには、地上から止まって見える静止軌道か、多数の衛星を並べる必要がある。記者の見立てでは、ASGARDは遠隔地の基地に電力を届ける事業というより、大きな送電アンテナを軌道上で組み上げる技術の試験である。
米国の報道は、この技術の規模が大きくなれば、攻撃を受けやすい送電網や燃料の輸送部隊に頼らずに、遠隔地の基地や無人機、敵の攻撃にさらされる地域へ電力を届けられる可能性があると伝えた。送電とロボットによる軌道上の建設を組み合わせることで、軍事作戦や衛星、宇宙での製造を支えるエネルギー供給の基盤になりうるとしている。
海軍研究所の実績は、30センチ角のパネルで太陽光の8%を電波に変えた段階にある
技術の蓄積はすでにある。海軍研究所は2020年5月17日、米空軍の無人宇宙往還機X-37Bに、太陽光を電波に変えるパネル「PRAM」を載せて打ち上げた。パネルは30.5センチ角で、太陽電池、電気を電波に変える回路、送電アンテナの3層を1枚に重ねる設計である。同研究所の論文 (2021年1月) によると、この試験では他の実験への電波の干渉を避けるためアンテナを外し、変換した電力を測定器で受けた。地上への送電はしていない。周波数は2.45ギガヘルツで、最大の電波出力は8.4ワット (太陽光が32度傾いて当たった状態)、パネル全体の変換効率は約8%だった。
本誌が検算すると、宇宙での太陽光の強さ (1平方メートル当たり1,361ワット) で30.5センチ角のパネルに32度の傾きで光が当たる場合、受ける光の量は107.4ワットになる。8.4ワットはその7.8%で、論文の約8%と合う。ASGARDのパネルはこの設計の流れをくむもので、カタリスト・スペースは、海軍研究所が直流をマイクロ波に変える画期的な技術を開発したと説明している。
地上では、より大きな電力を送った実績がある。海軍研究所は2022年4月20日、メリーランド州ブロッサムポイントの陸軍の試験場で、10ギガヘルツの電波を使って1.6キロワットを1キロメートル余り先へ送ったと発表した。実験の名称はSCOPE-Mで、ASGARDと同じ運用エネルギー能力向上基金の資金を受けていた。目標は1キロワットで、それを60%上回った。一部の報道はこれを「効率60%」と伝えたが、発表文に効率の記述はない。10ギガヘルツを選んだのは、強い雨でも電力の損失が5%未満に収まり、部品が安く手に入るためである。電波の強さは国際的な安全基準の範囲内に抑え、鳥や動物、人が近づいても安全だとしている。同研究所の技術者は、宇宙から地上への送電の国防上の利点を、攻撃を受けやすい燃料の補給への依存を減らせることだと説明した。
日本も同じ技術の実証を進めている。宇宙システム開発利用推進機構の講演資料 (2025年10月28日) によると、日本の実証衛星「OHISAMA」は重さ約180キロの小型衛星で、高度約450キロから5.8ギガヘルツの電波で地上へ送電する計画であり、2026年の打ち上げと運用を予定している。2024年には航空機から地上への長距離の送電を試した。同じ資料は、静止衛星から地上へ送る場合、1キロ先で3センチの精度で電波を向ける必要があると説明している。日米の実証はいずれも低軌道の小さな設備から始まり、ASGARDはこれに軌道上の組み立てを加える。
宇宙太陽光発電で地上に届く電力は、送電アンテナの大きさに左右され、大きなアンテナは1回の打ち上げでは運べない。カタリスト・スペースのASGARDは、ロボットアームでパネルを軌道上につなぎ合わせて、この制約を越えられるかを確かめる。海軍研究所の実績は30センチ角のパネルで8%、地上1キロで1.6キロワットの段階にあり、投資家や技術者がこの計画を評価する際の手がかりは、送電の量よりも、組み立てたアンテナの大きさと精度である。
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