部品の価値と供給網 — 採点表・地図・日本企業の位置
部品の価値は「1体にいくつ入るか」と「作るのがどれだけ難しいか」で決まります。証券会社の採点表と業界地図を一次資料で照合し、どの部品に誰がいて、日本企業はどこにいるのかを整理します。数字の出所と、確かめられなかった主張も明記します。
入門は要点と図だけ、標準は仕組みまで、研究は式と論文の水準まで表示します。選んだ深さはこの端末に残ります。
部品の価値を測る6つの基準 — 金額・確かさ・技術の壁・製造の壁・融通・上乗せ
- 証券会社が10の部品を6つの基準で1〜3点に採点した (投稿が引用、二次情報)
- 点が高いほど「人型ロボットが普及したときに利益を得やすい」
- 頭脳と電池は、他の用途と共通なので人型ロボットでの上乗せが小さい
1. 部品表に占める金額
1体の部品代のうち、その部品が占める割合。大きいほど伸びしろが大きい2. 技術の選択の確かさ
どの方式が使われ続けるかの見通し。確かなほど、供給先が入れ替わるリスクが小さい3. 技術の壁
作れるようになるまでの技術の難しさ。高いほど競争相手が入りにくい4. 製造の壁
量産の難しさ (精度・歩留まり・設備)。高いほど競争相手が入りにくい5. 生産能力の融通
他の用途の生産設備を回せるか。融通が利くほど、需要が増えたときに数量を伸ばせる6. 人型ロボット向けの上乗せ
需要のうち人型ロボットで新しく増える分の大きさ。大きいほど人型ロボットの普及がそのまま効く10の部品の採点
| 部品 | 部品表に占める金額 | 技術の選択の確かさ | 技術の壁 | 製造の壁 | 生産能力の融通 | 人型ロボット向けの上乗せ | 合計 | 主な銘柄 (投稿の画像) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 波動歯車 (回転関節の減速機) | 3 | 2 | 3 | 3 | 2 | 3 | 16 | ハーモニック・ドライブ・システムズ、緑的諧波 |
| ロボットハンド | 3 | 1 | 3 | 3 | 2 | 3 | 15 | 兆威機電、匯川技術 |
| アクチュエーターの組立 | 3 | 3 | 1 | 2 | 3 | 2 | 14 | 三花智控、拓普集団 |
| 遊星ローラーねじ (直動関節) | 3 | 2 | 2 | 3 | 1 | 3 | 14 | シェフラー、恒立液圧、三花智控、緑的諧波 |
| センサー (位置・トルク・6軸力覚・触覚) | 2 | 2 | 3 | 2 | 2 | 2 | 13 | ノバンタ (ATI)、ビシェイ・プレシジョン |
| GPU・CPU (頭脳) | 2 | 3 | 3 | 3 | 1 | 1 | 13 | エヌビディア、インテル |
| コアレスモーター | 2 | 1 | 2 | 2 | 3 | 3 | 13 | 鳴志電器、兆威機電、雷賽智能、江蘇雷利、偉創電気 |
| フレームレス・トルクモーター | 2 | 2 | 1 | 2 | 3 | 3 | 13 | 歩科、昊志機電、偉創電気 |
| 電池 | 1 | 3 | 2 | 2 | 3 | 1 | 12 | CATL、サムスンSDI、パナソニック |
| カメラ・LiDAR | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 2 | 12 | インテル、奥比中光、速騰聚創、禾賽、舜宇光学 |
出所: ゴールドマン・サックスの資料 (人型ロボットの供給網で2030年までに注目すべき基準の採点) を引用した投稿の画像。同社の公開資料では報告書名と日付を確かめられないため、二次情報として扱う。各基準は1 (低い)・2 (中)・3 (高い) の3段階で、合計の満点は18。 公開の報道で確かめられるのは、同社のアナリストが2026年5月に中国の部品会社を訪ね、波動歯車の技術の壁が最も高く、アクチュエーターの組立は採用の確実性が高いと評価したことまで (報道は2026年5月28日)。
表を横に読むと、部品ごとの性格が分かります。波動歯車は6つのうち4つが満点で、弱いのは「技術の選択の確かさ」と「生産能力の融通」だけです。ロボットハンドは「技術の選択の確かさ」が最低の1で、指の動かし方がまだ定まっていないことを示します。組立は逆に「技術の選択の確かさ」が満点で「技術の壁」が1です。GPU・CPU は技術と製造の壁が高く点は13ありますが、「生産能力の融通」と「人型ロボット向けの上乗せ」がどちらも1で、人型ロボットが増えても需要全体への影響は小さいという評価です。
投稿の筆者は部品を4つに区分し、関節の減速機を最上位に置いた
- 区分1は「要所」の波動歯車と遊星ローラーねじ
- 区分4は頭脳・電池・カメラで、欠かせないが人型ロボットの本命ではない
- ここに書くのは投稿の筆者の見方で、本誌の推奨ではない
区分1 要所
波動歯車 (16点) と遊星ローラーねじ (14点)。金額が大きく、技術と製造の壁が高く、すべての関節に入る。投稿が挙げた銘柄: ハーモニック・ドライブ・システムズ、THK、シェフラー、オールライエント区分2 複雑で数量が多い
ロボットハンド (15点) とアクチュエーターの組立 (14点)。手は内製化のリスクを抱え、組立は採用が最も確実。投稿が挙げた銘柄: 兆威機電、匯川技術、三花智控、拓普集団区分3 人型ロボットで数量が増える
コアレスモーターとフレームレス・トルクモーター (13点)、関節の中のトルクと触覚のセンサー。会社が多く分散している。投稿が挙げた銘柄: ニデック、アレグロ・マイクロシステムズ、オールライエント区分4 欠かせないが本命ではない
GPU・CPU (13点だが人型の上乗せは1)、電池 (12点)、カメラと LiDAR (12点)。他の用途と共通の汎用品。投稿の筆者は、頭脳は AI の銘柄で既に持っているので、ロボットのために二重に払う必要はないとする投稿の筆者は、この見方を自分の経験から説明しています。AI の銘柄として誰もが画像処理半導体 (GPU) の会社を買った年に、筆者が成果を上げたのは、その一段下にある記憶用半導体の会社 (大企業の中に長く埋もれていた専業のサンディスク) だった、という話です。人型ロボットでも、胸に社名の入った完成品の会社ではなく、その一段下で繰り返し使われる部品を見るべきだと説きます。
投稿の筆者の主張は1行にまとまります。利益は供給網の両端 (頭脳と電池) ではなく、その間にある機械と電気の部品にあり、1体に数十回繰り返し入り、作るのが最も難しい部品に集まる、というものです。筆者は、人型ロボットの減速機・モーター・ねじ・手の量産の中心が中国の長江デルタにあり、欧米の市場で買える要所の銘柄は少ないとも指摘しています。筆者は、買いにくいこと自体が参入の壁になり、欧米の市場で買える数少ない要所の銘柄はその分だけ高く評価されうると書いています。
業界地図の完成品メーカー40社のうち29社が中国、日本は0社
- 地図の左は完成品を作る40社、右は技術を供給する9区分の企業
- 中国29社・米国5社で、日本のメーカーは載っていない
- 供給の側では、日本企業は回転アクチュエーター・センサー・電池に入る
地図を読むときの注意: 投稿で広まった地図の画像は、20行目以降の国の帯がすべて中国の赤で塗られ、米国のテスラ、ドイツのニューラ、カナダのサンクチュアリAI、イスラエルのメンティー、英国のヒューマノイド社まで中国に見える (本誌が画素を機械で読んで確認)。凡例には8か国が並ぶので、画像を作り直す過程で色が落ちたとみられる。そのため国は画像の色ではなく本社の所在地で付けた。また、同じゴールドマン・サックスの地図でも版によって中身が違い、本誌が2026年9月20日に扱った版には完成品44社・供給側76件が載っていた。
| 地図の区分 | 件数 | 日本企業 |
|---|---|---|
| 基盤モデル | 7 | なし |
| GPU・CPU | 2 | なし |
| アクチュエーターの組立 | 2 | なし |
| 回転アクチュエーター | 9 | ハーモニック・ドライブ・システムズ |
| センサー | 5 | 村田製作所、TDK |
| 直動アクチュエーター | 11 | なし |
| ロボットハンド | 12 | なし |
| 視覚 (カメラ・LiDAR など) | 9 | なし |
| 電池 | 3 | パナソニック |
延べ60件のうち日本企業は4件 (6.7%)。地図は右の列を非上場の会社だけ灰色にしているが、灰色は5社 (新剣伝動・来福諧波・ピセア・モーション・坤維科技・DJI) にとどまり、非上場のオープンAI とファーウェイは黒のままになっている。
完成品メーカー40社の一覧を見る
ワンエックス (ノルウェー)、アドバーブ (リライアンス) (インド)、智元機器人 (アジボット) (中国)、アジリティ・ロボティクス (米国)、アプトロニック (米国)、アートロボット (中国)、アストリボット (中国)、北京身体性知能ロボット革新センター (中国)、ボストン・ダイナミクス (現代自動車) (米国)、BYD (中国)、キャスボット (中国)、CATL (中国)、クラウドマインズ (達闥) (中国)、コドロイド (埃斯頓) (中国)、ディープ・ロボティクス (中国)、エンジンAI (中国)、フィギュアAI (米国)、傅利葉 (フーリエ) (中国)、広州汽車集団 (中国)、ギャルボット (中国)、ファーウェイ (中国)、ヒューマノイド社 (英国)、ジャカ (中国)、ケプラー (中国)、楽聚ロボット (中国)、リムエックス・ダイナミクス (中国)、メンティー (イスラエル)、ニューラ (ドイツ)、帕西尼 (パシーニ) (中国)、ロボットエラ (中国)、サンクチュアリAI (カナダ)、上海身体性知能革新センター (中国)、テスラ (米国)、Ti5ロボット (中国)、優必選 (ユービーテック) (中国)、宇樹科技 (ユニツリー) (中国)、ユニエックスAI (中国)、シャオミ (中国)、小鵬 (シャオペン) (中国)、浙江人型ロボット革新センター (中国)
日本企業は、減速機・ねじ・モーター・センサー・電子部品・電池の供給側にいる
- 完成品では目立たないが、関節と感覚の部品に強い会社が多い
- 産業用ロボットで培った減速機と直動案内機器の技術が土台
- 京都では部品会社が集まり、国産の人型ロボットの開発を始めた
| 会社 | 担当分野 | 人型ロボットとの関わり (公表された事実) |
|---|---|---|
| ハーモニック・ドライブ・システムズ (6324) | 減速機 (波動歯車) | 波動歯車を1970年代から実用化。ミネベアミツミと指の駆動部品を共同開発し、2026年1月の CES で公開した。業界地図の回転アクチュエーターの列に載る唯一の日本企業。 |
| THK (6481) | ねじ・直動案内機器 | 直動案内とねじの大手。人型ロボットの関節は研究の段階と説明している。業界地図には載っていない。 |
| 日本精工 (6471) | ねじ・軸受け・関節の部品 | 人型ロボットの関節の部品を2028年に発売する計画を公表。関節の電気の部分は台湾のデルタ電子と組む。 |
| ニデック (6594) | モーター・アクチュエーター | 減速機 (FLEXWAVE) とアキシャル・フラックス・モーターを組み合わせた厚さ約40ミリの薄い関節の部品を発表。投稿は世界最大のモーター会社として挙げた。 |
| ミネベアミツミ (6479) | 小型モーター・指の駆動部品 | ハーモニック・ドライブ・システムズと指の駆動部品を共同開発 (13×19.4×60.4ミリ・指1本で5キログラム)。 |
| 村田製作所 (6981) | センサー・電子部品 | 京都の部品会社が国産の人型ロボットを開発する京都ヒューマノイドアソシエーション (KyoHA) の設立4者の1社。業界地図のセンサーの列に載る。 |
| TDK (6762) | コンデンサー・センサー | 人型ロボットを名指しした製品は積層セラミックコンデンサー。電源を48ボルトに上げて電力の損失と配線の重さを減らす流れを理由に挙げた。業界地図はセンサーの列に置く。 |
| パナソニック (6752) | 電池 | 2026年9月16日に発表した門真の新拠点で、電池の用途を広げる先に人型ロボットを名指しした。業界地図の電池の列に載る。 |
| ナブテスコ (6268) | 減速機 (RV 減速機) | 1985年に前身の帝人製機が開発した RV 減速機の大手。中大型の産業用ロボットの関節用の精密減速機で世界の約6割と同社は推計する (基準の年は示していない)。 |
| 安川電機 (6506) | 産業用ロボット・人型の開発 | 2025年7月、早稲田大学発で人型ロボットを開発する東京ロボティクスを完全子会社にした。 |
| ファナック (6954) | 産業用ロボット | 2025年12月、エヌビディアとの協業を発表し、同社のシミュレーターと計算機に対応した。発表の中に人型ロボットの語は無い。 |
| 信越化学工業 (4063) | 磁石 (レアアース) | モーターに使うネオジム磁石を作る。関節の数だけモーターが要るので、磁石の需要も関節の数に比例する。 |
出所は章末。業界地図の右の列に載るのは、ハーモニック・ドライブ・システムズ・村田製作所・TDK・パナソニックの4社。
完成品メーカーの上場の例 — アジリティ・ロボティクスは特別買収目的会社と合併する
- 上場済みの空の会社と合併して上場する方式を取る (2026年中の完了を見込む)
- 倉庫の荷物運びに絞り、稼働は6万5,000時間を超えた
- シェフラーは部品の供給者であり、顧客であり、出資者でもある
投稿の筆者が「部品より完成品」の唯一の例外として挙げたのが、米国のアジリティ・ロボティクスです。上場の方法は、先に上場しておいた空の会社 (特別買収目的会社) と合併するものです。相手はチャーチル・キャピタルの11号で、合併後の会社はナスダックに上場する予定です。
| 項目 | 届出書類で確認できた内容 |
|---|---|
| 上場の方法 | 特別買収目的会社チャーチル・キャピタル11号と合併。合併後はナスダックに銘柄コード AGLT で上場する予定。2026年中の完了を見込み、契約の期限は2026年12月31日。 |
| 企業の評価 | 合併前の株式の価値を25億ドルとした。信託口座の4.2億ドルと第三者割当 (PIPE) を合わせた調達額は6.2億ドル超。 |
| 第三者割当 | 2,010万2,500株 × 1株10ドル = 約2.01億ドル。フォックスコンが主導 (合併の発表資料)。既存の株主からは合計約6,000万ドルの拘束力の無い意向表明があった。 |
| 条件 | 完了時に使える現金が2億ドル以上あること。スポンサーの株は合併前の発行済み株式の25.7%だが、合併後は5.1% (償還なし)〜6.1% (最大の償還)。 |
| 売却の制限 | 合併後180日は主な株主が株を売れない。完了後180日以内に株価が一定の水準を15取引日上回れば、早めに解ける条件がある。 |
| 実績 | Digit の稼働は2026年5月時点で6万5,000時間超。導入済みか導入を約束済みの拠点は9か所。 |
| 受注 | 次の機種 Digit v5 の複数年の受注は3億ドル超。契約上の節目・機能・仕様を満たすことが条件で、初出荷は2026年後半の予定。 |
| 顧客 | GXO、シェフラー、トヨタのカナダ工場、メルカドリブレ、アマゾン (2024年に5台分の手付金を支払った顧客)。 |
| 原価 | 現行の Digit v4 で1台12.5万ドルを達成。v5 は発売時15万ドル → 年1,000台で7.5万ドル → 年1万台で3万ドルが目標。自社の組立工場の能力は最大で年1万台。 |
| 出資者 | DCVC、エヌビディア、アマゾン、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2、フォックスコン、シェフラー、プレイグラウンド・グローバルなど。エヌビディアは2026年、Digit v5 をロボットの安全の仕組みの最初の人型ロボットの協業先に選んだ。 |
投稿は「原価を12.5万ドルから3万ドルへ」と書くが、12.5万ドルは現行の v4 の実績、3万ドルは次の v5 を年1万台作ったときの目標で、別の機種の数字。投稿の「アマゾンは試験中」も、届出書類ではアマゾンは顧客に入っている。比較のため、非上場のフィギュアAI は2025年9月16日の資金調達で調達後の評価を390億ドルとしたと発表している。投稿は、アジリティが倉庫の荷物運びという稼げる1つの仕事に絞り、フィギュアは何でもこなす汎用機を目指すと対比した。投稿は Digit がオースターの LiDAR を使うとも書くが、届出書類とオースターの開示では確認できない (2019年の Digit v2 はベロダイン製の LiDAR を載せていた。ベロダインは2023年にオースターと合併)。
欧州のロボット産業 — 大手の親会社は中国・米国へ、ABB のロボット事業は日本企業が買収手続き中
- EU の産業用ロボットの新規設置は2025年に6万500台で、前年より11%減った
- クーカは中国の美的集団、ユニバーサルロボットは米テラダインの傘下。ABB のロボット事業はソフトバンクグループが買収の手続き中
- シェフラーとボッシュは、競い合う2つの人型ロボット会社の両方に出資している
SNS で公開された「欧州のロボット産業2026」の一覧は、大手10社と新興10社、ミュンヘン・シュツットガルト・チューリッヒ・オーデンセ・パリの5つの集積地を挙げた。一覧は並べた順の基準を示していないので、順位としては読まない。ここでは、一覧に載る会社の資本と部品の流れを、各社の開示と国際ロボット連盟の統計で確かめる。
国際ロボット連盟の統計 (2025年の新規設置)
| 国・地域 | 新規設置台数 | 前年比 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 世界 | 60万台超 | +11% | 稼働台数は500万台に達した |
| 中国 | 35万4,000台 | +20% | 世界の59%。中国メーカーの国内シェアは55% (2024年は57%) |
| 米国 | 約3万8,500台 | +12% | 日本を抜いて2位 |
| 日本 | 3万6,219台 | -19% | 3位に下がり、過去10年で最少 |
| ドイツ | 2万4,800台 | -8% | EU の41%。ドイツ国内のロボットの生産台数は2万3,700台 (24%減) |
| イタリア | 約7,800台 | -11% | EU の13% |
| フランス | 約4,500台 | -8% | EU の7% |
| EU (27か国) | 6万500台 | -11% | 自動車向けは1万4,900台で25%減 |
出所は国際ロボット連盟の2026年9月24日の発表。世界の台数は「60万台超」とだけ示されている。同じ日の資料でも、世界の概要と国別の資料で丸め方が違う (米国は約3万8,500台と3万8,400台、ドイツは2万5,000台弱と2万4,800台)。人の背丈に近い人型ロボット (身長140センチ超) の販売は2025年に世界で約7,000台、メーカーは174社で半数超が中国企業。従業員1万人あたりの台数 (2024年) はドイツが449台で世界3位、日本は446台で4位。
大手の資本 — 誰の傘下にあるか
| 会社 | 本社 | 親会社・主な株主 | 日本とのつながり |
|---|---|---|---|
| ABB (ロボット事業) | スイス・チューリッヒ | ABB (スイス上場)。ソフトバンクグループが53億7,500万ドルで買収する手続き中。欧州委員会は2026年3月11日に承認。機械の自動化を担う B&R は売却の対象外 | ソフトバンクグループが買い手。ナブテスコは同事業を精密減速機の主要顧客に挙げる |
| クーカ | ドイツ・アウクスブルク | 中国・美的集団の完全子会社 (2016年に傘下)。上場は廃止 | ナブテスコが精密減速機の主要顧客に挙げる |
| ユニバーサルロボット | デンマーク・オーデンセ | 米テラダインが2015年に3億1,770万ドルで買収 | 日本に事務所を置く (資本提携・業務提携の公式発表は見当たらない) |
| モバイル・インダストリアル・ロボッツ | デンマーク・オーデンセ | 米テラダインの傘下。2024年からユニバーサルロボットと共同本社 | 公式発表は見当たらない |
| コマウ | イタリア・トリノ | 米投資ファンドのワン・エクイティ・パートナーズが50.1%、ステランティスが49.9% (2024年12月) | 公式発表は見当たらない |
| ストーブリ | スイス・プフェフィコン (ロボットの開発・生産はフランス・ファヴェルジュ) | 非上場の同族系 | 日本法人ストーブリ株式会社 |
| シーメンス | ドイツ・ミュンヘン | フランクフルト上場。ロボットの本体ではなく制御と工場のソフトウエアを供給 | (ロボット分野の資本提携・業務提携の公式発表は見当たらない) |
| ボッシュ・レックスロス | ドイツ・ローア・アム・マイン | ロバート・ボッシュの子会社。ボッシュの資本の約94%は公益財団が持つ | 公式発表は見当たらない |
| シェフラー | ドイツ・ヘルツォーゲンアウラッハ | フランクフルト上場。創業家の持ち株会社が普通株の約79% | 減速機を自社で作り、人型ロボット向けではハーモニック・ドライブ・システムズやナブテスコと競う |
| オートストア | ノルウェー・ネードレ・ヴァッツ | オスロ上場 | ソフトバンクグループが2021年に40%を取得。日本ではオカムラが2014年から販売 |
| ジック | ドイツ・ヴァルトキルヒ | 非上場。創業家が95%超 | 日本法人ジック株式会社 |
新興10社 — 分野と直近の資金調達
| 会社 | 本社 | 分野・主力 | 直近の資金調達と主な出資者 |
|---|---|---|---|
| ニューラ・ロボティクス | ドイツ・メッツィンゲン | 協働ロボット MAiRA、人型ロボット | 2026年6月に最大14億ドル。テザー、クアルコム、アマゾン、エヌビディア、ボッシュ、シェフラー、欧州投資銀行ほか |
| アジャイル・ロボッツ | ドイツ・ミュンヘン | ロボットアーム、人型ロボット Agile ONE。傘下にフランカ・ロボティクス | 2021年のシリーズCはソフトバンク・ビジョン・ファンド2が主導 |
| ヒューマノイド | 英国・ロンドン | 人型ロボット HMND 01 | 2026年7月に1億5,200万ドル、調達後の企業価値13億5,000万ドル。プライム・ムーバーズ・ラボが主導し、シェフラーとボッシュが参加 |
| ワンダークラフト | フランス・パリ | 自立歩行型の外骨格、人型ロボット Calvin-40 | 2025年6月に7,500万ドル。ルノーが参加 |
| セリアクト | ドイツ・シュツットガルト | 物をつかむ動作の AI、倉庫の仕分け | 2026年4月に1億1,000万ドル (ヘッドラインが主導)。7月にザランドが追加で出資 |
| エニーボティクス | スイス・チューリッヒ | 点検用の四脚ロボット ANYmal | 2024年12月に6,000万ドル。クアルコム・ベンチャーズなどが主導し、TDK ベンチャーズが参加 |
| ノマジック | ポーランド・ワルシャワ | 倉庫のピッキング・梱包 | 2025年2月に4,400万ドル (欧州復興開発銀行が主導)。2026年1月に1,000万ドルを追加し、累計8,400万ドル超 |
| マイクロAGI | ドイツ・ミュンヘン (研究開発はチューリッヒ) | 工場にロボットを入れるためのソフトウエア基盤 | 2026年7月のシードで5,500万ドル (ハミングバードが主導) |
| パル・ロボティクス | スペイン・バルセロナ | 研究向けの人型ロボット TALOS・移動ロボット TIAGo | 資金調達の公式発表は見当たらない |
| ワンエックス | 米国・パロアルト (2014年にノルウェーで創業) | 家庭用の人型ロボット NEO | 2024年1月に1億ドル (EQT ベンチャーズが主導、サムスン NEXT などが参加) |
開示を突き合わせて見えるつながり
一覧だけを見ても分からないのは、会社と会社をつなぐ資本と部品の流れだ。各社の発表と決算資料を突き合わせると、日本企業は買い手・部品の供給者・提携相手として、一覧のうち6社とつながっている (ABB のロボット事業・クーカ・オートストア・アジャイル・ロボッツ・ニューラ・ロボティクス・エニーボティクス)。欧州の側から見ると、中国企業との協力も2026年に入って増えた。
| 主体 | 相手 | 関係 | 時期 |
|---|---|---|---|
| ソフトバンクグループ | ABB のロボット事業 | 53億7,500万ドルで買収する手続き中。完了は2026年下半期の見込み (ABB) | 2025年10月に合意 |
| ソフトバンクグループ | オートストア | 株式の40%を取得 | 2021年4月 |
| ソフトバンク・ビジョン・ファンド2 | アジャイル・ロボッツ | シリーズCの資金調達を主導 | 2021年9月 |
| ナブテスコ | クーカ・ABB のロボット事業 | 精密減速機の主要顧客として社名を公表 | 2025年12月期の決算資料 |
| ハーモニック・ドライブ・システムズ | 独ハーモニック・ドライブ SE | 2017年に子会社化し、2021年に完全子会社に。欧州の売上高は167億7,600万円で全体の約28% | 2026年3月期 |
| 川崎重工業 | ニューラ・ロボティクス | ニューラの技術で協働ロボット CL シリーズを開発 | 2023年4月 |
| オムロン | ニューラ・ロボティクス | 戦略提携を結び、協働ロボットを共同で展開 | 2024年4月 |
| TDK ベンチャーズ | エニーボティクス | 資金調達に参加 | 2024年12月 |
| 横河電機 | エニーボティクス | 点検ロボットの管理ソフトと四脚ロボットをつなぐ提携 (石油・ガス、電力、金属) | 2026年2月 |
| オカムラ | オートストア | 日本での販売 | 2014年〜 |
| 美的集団 (中国) | クーカ | 完全子会社 | 2016年に傘下 |
| テラダイン (米国) | ユニバーサルロボット・モバイル・インダストリアル・ロボッツ | 2社を傘下に置き、オーデンセに共同本社 | 2015年〜 |
| シェフラー | ヒューマノイド | 出資、関節の駆動装置の供給、自社工場への導入の3つを兼ねる | 2026年 |
| シェフラー | ニューラ・ロボティクス | 資金調達に参加し、人型ロボット2機種の購入契約も結んだ | 2025〜2026年 |
| ボッシュ | ニューラ・ロボティクス・ヒューマノイド | 両社の資金調達に参加。ヒューマノイドの欧州向けの機体はボッシュが受託生産する契約 (2026年5月) | 2026年 |
| シーメンス (ソフトウエア部門) | ユービーテック (中国) | 人型ロボットを年1万台つくるための生産のデジタル化で合意 | 2026年3月 |
| シェフラー | 楽聚機器人 (中国) | 人型ロボットの部品で協力 (シェフラーにとって初の中国企業との協力) | 2026年3月 |
| クアルコム | ニューラ・ロボティクス・エニーボティクス | 両社の資金調達に参加 (エニーボティクスは主導) | 2024〜2026年 |
| シーメンス | ヒューマノイド | エアランゲン工場で人型ロボットを試験導入 (1時間に60回の運搬) | 2026年4月 |
| グーグル・ディープマインド | アジャイル・ロボッツ | 研究提携 | 2026年3月 |
欧州大手の親会社は域外に移った
一覧の大手のうち、クーカは中国、ユニバーサルロボットとモバイル・インダストリアル・ロボッツは米国の企業の傘下にある。ABB のロボット事業も、売却が完了すればソフトバンクグループの傘下に入る。コマウも過半を米国の投資ファンドが持つ。ソフトバンクグループは3つの分野に出資
産業用ロボット (ABB のロボット事業・手続き中)、倉庫の自動化 (オートストアの40%)、次の世代のロボット (アジャイル・ロボッツ) と、欧州のロボット企業の3つの分野に資本を入れている。孫正義会長兼社長は「次のフロンティアは『フィジカルAI』」と述べた。同じ出資者が競合する2社の両方に出資する
シェフラーとボッシュは、人型ロボットで競うニューラ・ロボティクスとヒューマノイドの両方に出資している。ボッシュはヒューマノイドの欧州向けの機体の受託生産も引き受けた。シェフラーは出資者であると同時に関節の駆動装置の供給者で、自社工場で使う顧客でもある。米アジリティ・ロボティクスにも同じ3つの形で関わる。関節の減速機では日欧が競う
ナブテスコはクーカと ABB を主要顧客に挙げ、中大型の産業用ロボットの関節用で世界シェアの約6割を握ると推計する。一方、シェフラーは波動歯車式・遊星歯車式・サイクロイド式の3方式を自社で手がけ、人型ロボットの新興企業に供給する。新しい人型ロボットの関節では、日本の減速機メーカーの競争相手になる。報道だけで伝えられた話 (ニューラやワンエックスの評価額、アジャイル・ロボッツの新しい資金調達への出資の協議、コマウの残りの株式の売却) は入れていない。ソフトバンクグループによる ABB のロボット事業の買収は、2026年9月28日時点で両社とも完了を発表していない。中国と米国の当局の承認の状況も公表されていない。
見通しの不確かさ — 生産の規模・顧客の偏り・原価の目標・価格競争
- 完成品メーカーの生産計画は、公式の資料では台数まで示されていない
- 部品会社は少数の完成品メーカーへの依存が大きい
- 原価を下げる競争は、部品会社の利益を削る方向に働く
生産の規模
投稿はテスラの2026年のオプティマスの生産見通しを5万〜15万台としたが、テスラの決算資料に2026年の台数は無い。資料は、フリーモント工場に年100万体を想定した生産ラインを据え付けていること、テキサス工場に長期で年1,000万体のラインを構想していることを書き、生産は2026年の後半に始まる見込みとしている。新しい世代の仕様表は公表していない。顧客の偏り
投稿は拓普集団の売上の約40%がテスラ向けとしたが、年報は顧客の名前も1社ごとの割合も開示していない。分かるのは2025年に上位5社で売上高の65.79%を占め、1社で50%を超える顧客は無いことまで。原価の目標
アジリティは次の機種の原価を年1万台の生産で3万ドルにする目標を示した。目標を価格競争なしで達成できるかが、部品会社の利益を左右する。価格競争
波動歯車の本家のハーモニック・ドライブ・システムズは、2年続けて営業利益がほぼゼロになった。中国の部品会社は値下げと、互いの領域への参入を進めている。買える場所
投稿の筆者が挙げた部品会社の多くは上海・深圳の人民元建ての株で、海外の証券口座からは売買しにくい。筆者自身も「地図の半分は観察の対象で、買う対象ではない」と書いている。投稿の筆者は最後に、ロボットは本物だが立ち上がりの速さは不確かで、見るべきは報道ではなく部品会社の粗利率だと結んでいます。部品の価値は「1体にいくつ入るか」と「作るのがどれだけ難しいか」で決まるという見方は、生産台数がどちらに振れても使える基準です。
この章の確認
採点表で GPU・CPU が13点もあるのに「人型ロボットの本命ではない」とされるのはなぜですか。
技術と製造の壁は高いが、「生産能力の融通」と「人型ロボット向けの上乗せ」がどちらも1だから。同じ半導体が自動車やデータセンターにも大量に使われ、人型ロボットが増えても需要全体に占める割合が小さい。
業界地図の完成品メーカー40社の国別の内訳で、最も多い国と、日本の社数を答えてください。
最も多いのは中国の29社。日本のメーカーは0社。日本企業は供給の側 (回転アクチュエーター・センサー・電池) に4件入る。
欧州の大手ロボット会社のうち、中国・米国・日本の企業の傘下にある (または入る予定の) 会社を1つずつ挙げてください。
中国はクーカ (美的集団の完全子会社)。米国はユニバーサルロボットかモバイル・インダストリアル・ロボッツ (テラダインの傘下)。日本は ABB のロボット事業で、ソフトバンクグループが買収の手続きを進めている (2026年9月28日時点で完了は発表されていない)。
シェフラーがヒューマノイドに対して持つ3つの立場は何ですか。
出資者 (2026年のシリーズAに参加)、関節の駆動装置の供給者、自社工場で人型ロボットを使う顧客の3つ。同じ会社が資金・部品・需要を同時に握るので、1社の判断が新興企業の成長を大きく左右する。
「部品表の原価を12.5万ドルから3万ドルへ」という書き方の問題は何ですか。
12.5万ドルは現行の Digit v4 で達成した原価、3万ドルは次の機種 v5 を年1万台作ったときの目標で、別の機種の数字をつないでいる。原価を比べるときは、同じ機種・同じ生産量どうしで比べる必要がある。
企業ごとの詳しい情報は、AI企業データベースのロボット区分と、日本関連銘柄レーダーで確かめられます。
この章の出所
- 人型ロボットの部品への投資を論じた英語の投稿 (ゴールドマン・サックスの採点表と業界地図の画像を引用) (2026年9月)
- チャーチル・キャピタル11号 S-4 (アジリティ・ロボティクスとの合併の登録届出書) (2026年9月4日) — 原典
- チャーチル・キャピタル11号 8-K 付属資料の合併の発表資料 (2026年6月24日) — 原典
- チャーチル・キャピタル11号 10-Q (2026年8月13日) — 原典
- テスラ 8-K 付属資料の決算資料 (2026年1〜3月期) — 原典
- テスラ 8-K 付属資料の決算資料 (2026年4〜6月期) — 原典
- 緑的諧波 上場時の説明書 (招股説明書) (2020年8月25日) — 原典
- 緑的諧波 2025年年報 (更正後) (2026年7月10日) — 原典
- 拓普集団 2025年年報 (2026年3月24日) — 原典
- 鳴志電器 2025年年報 (2026年4月25日) — 原典
- ハーモニック・ドライブ・システムズ 決算資料・有価証券報告書 — 原典
- 日本精工 ロボット用アクチュエーターの発表 (2025年) — 原典
- THK 人型ロボットと直動案内機器についての解説記事 — 原典
- ニデック 超扁平アクチュエーターの発売 (2023年4月12日) — 原典
- ミネベアミツミ CES 2026 への出展 (ハーモニックと共同開発の指の駆動部品) (2025年12月16日) — 原典
- テムザック 京都ヒューマノイドアソシエーションの設立 (2025年6月30日) — 原典
- TDK 積層セラミックコンデンサーの新製品 (人型ロボットと48ボルト化) (2026年9月8日) — 原典
- パナソニック エナジー 門真の研究開発拠点の稼働 (2026年9月16日) — 原典
- フィギュア シリーズC の資金調達 (2025年9月16日) — 原典
- 国際ロボット連盟 World Robotics 2026 の発表 (世界) (2026年9月24日) — 原典
- 国際ロボット連盟 World Robotics 2026 の発表 (EU) (2026年9月24日) — 原典
- 国際ロボット連盟 記者会見の資料 (人型ロボット・サービスロボット) (2026年9月24日) — 原典
- 国際ロボット連盟 ロボット密度 (2024年) (2026年4月8日) — 原典
- ソフトバンクグループ ABB のロボティクス事業の買収に関するお知らせ (2025年10月8日) — 原典
- ABB 2026年4〜6月期決算 (売却の完了見込み) (2026年7月16日) — 原典
- 欧州委員会 M.12248 の承認決定 (2026年3月11日) — 原典
- ナブテスコ 2025年12月期 決算説明資料 (精密減速機の主要顧客とシェア) — 原典
- ハーモニック・ドライブ・システムズ 2026年3月期 決算短信 (欧州セグメント) (2026年5月13日) — 原典
- 美的集団 クーカの紹介 — 原典
- ユニバーサルロボットと MiR の共同本社の開設 (2024年5月14日) — 原典
- コマウ ワン・エクイティ・パートナーズによる出資の完了 (2024年12月30日) — 原典
- オートストア ソフトバンクによる40%の取得 (2021年4月5日) — 原典
- シェフラー 人型ロボットへの取り組み — 原典
- シェフラー 投資家向け資料 Humanoids at Schaeffler (2025年12月) — 原典
- ニューラ・ロボティクス シリーズC (2026年6月10日) — 原典
- ニューラ・ロボティクス 川崎重工業の CL シリーズ (2023年4月3日) — 原典
- ニューラ・ロボティクス オムロンとの戦略提携 (2024年4月2日) — 原典
- ヒューマノイド シリーズA (2026年7月21日) — 原典
- シーメンス ヒューマノイドの試験導入 (2026年4月16日) — 原典
- アジャイル・ロボッツ シリーズC (ソフトバンク・ビジョン・ファンド2 主導) (2021年9月10日) — 原典
- エニーボティクス 6,000万ドルの追加調達 (2024年12月12日) — 原典
- セリアクト シリーズB (2026年4月27日) — 原典
- ヒューマノイド ボッシュとの受託生産の契約 (2026年5月21日) — 原典
- 横河電機 エニーボティクスとの提携 (2026年2月10日) — 原典
- ノマジック シリーズB 4,400万ドル (2025年2月26日) — 原典
- ノマジック 1,000万ドルの追加調達 (2026年1月28日) — 原典
一次資料との照合: 2026-09-24。企業の数字は各社の開示、技術の数字はメーカーの技術資料と論文から取りました。二次情報 (報道・証券会社の資料を引いた投稿) の値は、その旨を本文に書いています。
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