中国のIT大手が米エヌビディアに注文した画像処理半導体(GPU)約600万個のうち、4か月で届くのは約1%の見通しだと米ブルームバーグ通信が4日に報じた。テンセントへのAI半導体のリース契約を米オラクルが破棄したと英紙が伝えた。
ブルームバーグが関係者の話として伝えたところでは、注文したのはアリババ集団、騰訊控股(テンセント)、字節跳動(バイトダンス)などで、対象は「RTX PRO 5500」、総額は約700億ドルに上る。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は前日の3日にも、エヌビディアがクラウド事業者に対し、中国以外の企業への販売を過半(51%以上)にするよう求めていると報じていた。
エヌビディアのRTX PRO 5500、中国向けは注文の約1%の見通し
ブルームバーグによると、約1%は数にして数万個にあたる。エヌビディアは数量を明らかにしていない。
ロイター通信が10月20日に報じた時点では、バイトダンス、アリババ、テンセントの3社による注文は合わせて300万個超、金額で350億ドル超だった。定価は1個約1万1400ドル。エヌビディアは取引先に、需要の5〜10%しか供給できない可能性があると伝えたという。同じ報道によると、サンプル出荷は2026年12月に始まり、本格出荷は2027年1〜3月期の見通しだ。
ロイターの報道から約2週間で、伝えられた注文数は2倍に膨らんだが、単価はほぼ同じ水準だ。700億ドルを600万個で割ると1個約1万1700ドルとなり、ロイターが伝えた定価との差は3%以内だ。注文の1%は6万個、金額にして約7億ドルの計算になる。エヌビディアの2026年5〜7月期の売上高は962億ドル(米証券取引委員会に提出した四半期報告書)で、7億ドルはその1%にも満たない。
RTX PRO 5500は、設計や映像制作に使う業務用パソコン(ワークステーション)向けのGPUだ。エヌビディアの製品ページによると、「ブラックウェル」世代の製品で、画像処理向けの高速メモリー「GDDR7」を84GB搭載する。メモリーのデータ転送速度は毎秒1398GB、消費電力は最大600W。
データセンター向けの主力品は、メモリー半導体を積み重ねて高速にしたHBM(広帯域メモリー)を搭載する。先端品は中国への輸出が認められず、旧世代の「H200」も米政府の個別の許可が必要だ。中国の大手は、HBMを使わない業務用のRTX PRO 5500を大量に注文した。
報道によると、供給が少ないのは、エヌビディアと、同社の半導体の生産を受託する台湾積体電路製造(TSMC)が、次世代品「ルービン」に生産能力を振り向けているためだ。エヌビディアは利益率の高い先端品を重視し、米オープンAIや米アンソロピックなどへの供給を優先しているという。米ニュースサイトのウッチテックがブルームバーグ通信の報道を引用して伝えたところでは、出荷は段階的に増え、2027年末までに計70万個に達する可能性がある。台湾の調査会社トレンドフォースもロイター通信の報道を引用し、2027年の世界の生産量は最大約300万個で、中国企業の注文数はその2倍にあたると伝えた。
エヌビディアの広報担当者は出荷数量には触れず、米企業は「5年近く前に発売したゲーム向け製品まで対象にする時代遅れの米国の輸出規制と、中国による米国製品の輸入制限」に縛られ続けていると述べた。中国側では、工業情報化省がバイトダンス、アリババ、テンセントなどにRTX PRO 5500の購入計画を報告するよう求めたと報じられている。
エヌビディアの開示資料でも、中国向けの売上高は減っている。2026年1月期の年次報告書によると、中国(香港を含む)に本社を置く企業向けの売上高は196億7700万ドルで、全体の9.1%だった。前期の250億4800万ドルから2割強減った。2026年5〜7月期は78億8000万ドルで、全体の8.2%だった。
四半期報告書によると、米政府は旧世代のH200について中国への少量の輸出を認めたが、中国政府が購入を制限しているため、H200の販売は伸び悩んでいる。H200の売上高は、直近の四半期のデータセンター部門の売上高の1%未満にとどまった。同社は2026年2〜7月の半期に、H200の在庫などについて4億ドルの費用を計上した。中国への輸出には、米国の輸出許可制と中国の購入制限という二重の壁がある。
オラクル、テンセントへのAI半導体のリース契約を破棄(FT報道)
FTによると、テンセントは東南アジアにあるオラクルの複数のデータセンターで、最大で約10万個の先端AI半導体を5年間使えるようにする契約を結んでいた。契約額は約70億ドルで、このうち約3割を前払いする取り決めだった。FTは10月1日にこの契約を報じ、テンセントにとって海外で過去最大の契約だと伝えていた。
FTは4日、オラクルがこの契約を破棄したと報じた。関係者2人の話として、米政府当局者がオラクルに懸念を伝えたことが理由だという。中国側でも、テンセントが本社を置く広東省政府の幹部が同社を訪れ、国産半導体を使うよう求めたとFTは伝えた。ロイターは報道の内容を確認できていないとしており、オラクル、テンセント、米ホワイトハウスは取材に応じていない。
契約額を半導体1個の1時間あたりの料金に換算すると、約1.6ドルになる(編集部の試算)。最大の10万個を5年間(4万3800時間)使うとして計算した。前払いの3割は約21億ドルにあたる。どの世代のGPUを使うのか、データセンターがどの国にあるのかは、両社とも公表していない。
FTによると、海外のデータセンターで半導体を借りて使うことは今の規則でも禁じられておらず、今回の破棄は規制強化に伴うものではない。バイトダンスとアリババは米クラウド大手との大型契約を続けており、オラクルはマレーシアの複数のデータセンターでバイトダンスに計算能力を提供する主要な供給元になっている(マレーシアのデータセンター)。
オラクルはAI向けクラウドの増強のため借り入れを増やしており、最近も200億ドルを調達した。最も高い金利は8.65%だった。テンセントとの契約は5年に及ぶ大口契約で、破棄によって投資回収が遅れる可能性がある。
エヌビディア、クラウド事業者に中国企業との取引縮小を要請(FT報道)
FTは3日、エヌビディアがクラウド事業者に対し、中国以外の企業への販売を過半(51%以上)にするよう求めていると、関係者5人の話として報じた。エヌビディアは今夏にこの条件を設け、口頭で伝えたという。エヌビディアは報道を肯定も否定もしなかった。要求の中身と東南アジアのデータセンターへの影響は、エヌビディアがクラウド各社に中国以外への提供を求めた記事で詳しく伝えた。
中国企業がエヌビディア製品を使う方法ごとに、制約要因を並べると次のようになる。
| 調達の方法 | 報道の内容 | 制約要因 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 中国への輸入 | 約600万個を注文、4か月で届くのは約1%の見通し | 供給不足(先端品とH200は米国の輸出規制と中国の購入制限) | ブルームバーグ(11月4日) |
| 海外のデータセンターでリース | オラクルがテンセントとの約70億ドルのリース契約を破棄 | 米政府がオラクルに懸念を伝えた | FT(11月4日) |
| 海外のクラウドを使う | エヌビディアが中国以外の企業への販売を過半(51%以上)にするよう要求 | エヌビディアの取引条件 | FT(11月3日) |
法令で制限されているのは先端品とH200の輸入で、RTX PRO 5500で足かせになっているのは供給不足だ。海外のデータセンターを借りる方法とクラウドを使う方法は、法的には問題ないが、米政府の圧力やエヌビディアの取引条件で使いにくくなった。中国企業にとっては、次にどの方法が使えなくなるかが見通しにくい。
米国の輸出規制はクラウドの利用を対象外に、下院は1月に規制法案を可決
米国の輸出管理を担う商務省産業安全保障局(BIS)は、クラウドサービスの提供を輸出規制の対象外としている。米法律事務所レイサム・アンド・ワトキンスの解説によると、海外のデータセンターにある半導体を中国企業がインターネット経由で利用しても、現行の規則では許可は必要ない。
この抜け穴をふさぐ「リモートアクセス安全保障法案」(H.R.2683)は2026年1月12日、下院で賛成369、反対22で可決された。法案は輸出の定義を変えずに「リモートアクセス」という区分を新設し、商務省に規制する権限を与える。上院では2025年12月、共和党のマコーミック議員と民主党のワイデン議員が同様の法案(S.3519)を提出し、3月時点では銀行委員会で審議中だった。その後の審議の行方は確認できていない。同様の法案は2024年9月にも下院を通過したが、上院で廃案となった。
11月3日の中間選挙では、民主党が上下両院で過半数を確保する見通しとなった。米CBSニュースが4日に示した予測では、民主党は下院で251〜268議席、上院で少なくとも54議席を獲得する見通しだ。リモートアクセスの法案は超党派の議員が提出しており、議会の勢力図が変わっても審議が止まるとは限らない。ただ、今の議会の任期は2027年1月に終わり、それまでに成立しなければ、新しい議会で法案を再提出することになる。
選挙では、データセンターの建設そのものにも住民が歯止めをかけた。米CNBCによると、データセンター建設の制限などを問う住民投票は10州で41件行われ、このうち40件で建設に反対する住民の主張が通った。
中国企業の代替候補はファーウェイの昇騰、生産能力の不足はファーウェイ自身も認める
エヌビディア製品の有力な代替候補が、華為技術(ファーウェイ)のAI半導体「昇騰(Ascend)」だ。ファーウェイは2025年9月の自社イベントの講演で、2028年までの3年間で昇騰の「950」「960」「970」の3シリーズを順次投入すると発表した。推論のうち、入力された文章を処理する工程(プリフィル)と推薦システム(レコメンド)向けの「950PR」は2026年1〜3月期に、回答を生成する工程(デコード)と学習向けの「950DT」は10〜12月期に投入する計画とした。950DTを最大8192個接続するシステム「Atlas 950 SuperPoD」も同じ時期に投入するとした。
950PRは計画どおり2026年3月20日に発表され、カード型の「Atlas 350」に搭載された。トレンドフォースによると、ファーウェイが自社開発したHBMを112GB搭載し、データ転送速度は毎秒1.4TBで、講演で示した計画(128GB、毎秒1.6TB)を下回った。エヌビディアの製品ページとファーウェイの発表をもとに、RTX PRO 5500と主な仕様を比べた。
| 項目 | RTX PRO 5500(エヌビディア) | 昇騰950PR(ファーウェイ) | 昇騰950DT(ファーウェイ) |
|---|---|---|---|
| メモリー | GDDR7・84GB | 自社開発のHBM・112GB | 自社開発のHBM・144GB(計画) |
| データ転送速度(毎秒) | 1398GB | 1400GB | 4000GB(計画) |
| 投入時期 | 発売済み(中国向けのサンプル出荷は12月) | 2026年3月に発表 | 2026年10〜12月期(計画) |
メモリーの容量では昇騰が上回り、転送速度は950PRでほぼ同じ、950DTは計画では約3倍になる。それでも中国の大手がエヌビディア製品を求めるのは、AI向けのソフトウエアの多くがエヌビディアの開発環境「CUDA(クーダ)」を前提に作られているためとされる。ファーウェイは開発環境「CANN」のソースコードを2025年末までに公開すると表明していた。CUDAからの移行の負担を減らす狙いだ。
課題は供給力だ。ファーウェイは2026年9月の発表で、生産能力が国内の需要に追いつかないと認めた。一方で、次世代品「960DT」の投入は2027年1〜3月期に前倒しした。米ITニュースサイトのトムズハードウェアによると、ファーウェイが2026年7月に公開したAtlas 950 SuperPoDの実機は、AI半導体を載せたカード1024枚を組み込んだものだった。
半導体製造装置の東京エレクトロン、中国向けが売上高の36.4%
半導体製造装置大手の東京エレクトロンの決算説明会資料によると、2026年7〜9月期の中国向け売上高は3399億円で、売上高全体(9350億円)の36.4%を占めた。中国向けの比率は前四半期から6ポイント上がった。同社は「大手顧客の投資が活況であった」と説明している。
中国向けの比率は2026年1〜3月期に26.8%まで下がった後、2四半期で10ポイント近く戻した。ただ、2024年10〜12月期の42.7%には届いていない。同社は2027年3月期通期の中国向け比率を30%台前半と見込む。中国の顧客名や、AI半導体向けの投資がどれだけ含まれるかは開示しておらず、今回の調達難との関係は開示からは分からない。東京エレクトロンの業績と装置市場の見通しは、東京エレクトロンの決算の記事と銘柄ページにまとめた。
エヌビディア製品が手に入りにくくなれば、中国企業は国産半導体への依存度を高めるとみられる。ファーウェイの生産能力が足りなければ、中国国内では工場への投資が続く可能性がある。ただ、東京エレクトロンは通期の中国向け比率を30%台前半と見込んでおり、7〜9月期の36.4%からは下がる計算になる。調達難が装置の売上高をどこまで支えるかは、まだ見通せない。
RTX PRO 5500は12月にサンプル出荷が始まる予定で、実際の出荷量が分かるのはその後になる。上院の法案が成立すれば、商務省はクラウドを介した利用を規制できるようになる。ファーウェイは950DTを10〜12月期に投入する計画で、その量産規模が中国の半導体の国産化の行方を左右する。
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